冷めた珈琲
この前の任務がきっかけとなり、男は注意を受けることになった。男の任務への気持ちが今までとは違うということに周りも薄々気づいているみたいだ。
少し肌寒くなってきたな。
今日僕は上司に怒られに行く。なぜって、殺し損ねたからだよ。僕が悪いから仕方がないのは分かっているが、上司は僕を心底信頼していたから期待を裏切ってしまったようで気まづい。
冷めた珈琲を飲み干して、椅子から離れた。
いつもより重たい戸を4回ノックし開けた。
「失礼します。樋口誠司です。」
ずっしりとした空気に抵抗を感じるものの、早く終われと思い早々と上司の前に座った。
「あんなにも簡単な任務をこなせないとはどういうことかね。私も暇じゃないんでね。君が失敗することで私も上から文句を言われなくちゃならない。私は君を下げることだってできる。」
「確かに簡単な任務でした。しかし思いもよらぬことに彼女がどんな人物がしりたくなったのです。しかと任務を達成します。なので……」
「下げて欲しくないと?」
「はい。」
「昔君にされたことを覚えてるが、その時の借りをここでかえそうか。」
気持ちの悪い笑みを浮かべて借りを返すと言っている。めんどくさい上司をもったものだ。
その時扉が開いた。新庄のおやっさんだ。
新庄のおやっさんは僕がこの組織に入ったキッカケとも言える人で、この人のおかげで僕は大人になれたと言っても過言ではない。その割に見た目は赤色のスーツを纏い、整えられていない髭を蓄えたヤクザのような人。見た目だけはね。
「よぉ。久我ちゃん。また、誠司ちゃんを虐めとるんか?悪趣味やなぁ。笑ってまうわ。」
久我というのは今文句垂らしてる上司のことだ。
新庄のおやっさんの顔はどこか闇を感じさせる笑顔をしていた。もちろん上司は新庄のおやっさんの下っ端だから逆らうことができない。
「いっいやぁ……少し注意していただけですよ。この前の簡単な任務をこなせなかったんでね。」
その顔は慌てふためいて、見てて極楽だ。
「んじゃあ、その件については俺が怒っといたるわ。なぁ誠司ちゃん?」
悔しそうな顔のまま上司は出ていった。怒るといいつつ僕を庇ってくれたのは昔からそうだ。
「誠司ちゃん、大丈夫やったか?まぁ久我ちゃんも最近大変らしいんや。許してやってくれや。」
「はい。ありがとうございます。」
「けど、ミス無しの誠司ちゃんが殺さんってどうしたんや?まさか……」
「いや、なんでもないです。」
「はははっそうかそうか。なんでもないんか。」
部屋中響き渡る笑い声とともに新庄のおやっさんも出ていった。
静寂の中、安堵感とともにねむりについてしまった。
下げられなくてよかったよ。この任務は僕がしたい。次こそは殺さなくてはいけないのか。
なのに僕はあなたを生かす方法ばかり考えていたんだ。