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当たり前、でも大切なもの

作者: vicious

バシンッ!!



そんな音で俺の快適な睡眠は遮られた。



「む〜ん。うぅぅ………すぅ」



季節はまだ春だから惰眠を貪っていたい。


その欲望に打ち勝てる道理などなく、眠気に身をまかせた。



「って、再び寝るな!」


「……う〜ん。もっと寝かせてくれよ」


「もう朝なの!まったく……遅刻するわよ?」


「へーへー、わぁったよ」



ダルくてしょうがないが体を起してベットから出る。


変な体勢で寝てたせいなのか、体がバキバキだ。


軽く体を動かしてから着替えようと上の服を脱ごうとする。



「ってバカッ!あたしが出てってから着替えろ!」


「別に良いだろ?どうせ上半身ぐらいなら、夏にプール行けば目に入ってくるじゃん」


「それとこれとは別!」


「じゃあさっさと出てけよ!」


「ふんっだ!卓也(たくや)のアホ!!」



バタンッ!!!



あ〜あ。怒らせちまった。


ったく女ってのは面倒くせえな。


急いで着替えを済ませると1階のリビングへと足を運ぶ。


ドアを開けると母と不機嫌な女が朝食を食べていた。



「あんた、また(なぎさ)ちゃんを怒らせたの?」


「いえ、別にあたしは怒ってませんから」


「そう?さっきから機嫌悪いじゃない」


「母さん、そんなことより飯は?」


「はいはい。そこに座ってなさい」



俺と渚は小さい頃からの腐れ縁、つまり幼馴染ってやつだ。


あいつは両親を亡くしていて、飯は俺の家で食べている。


作ってもらってばかりでは申し訳ないと母さんと交代で飯を作ってくれる。


それに毎朝俺を起してくれたり、洗濯もしてくれたりと。


俺もあいつに助けてもらっているという気持ちがある。


だが、俺はあいつに感謝しようにも照れくさくて素直になれない。


言わなきゃいけないとは思っているんだがな。


どうにも長い付き合いだから今更言うのは恥ずかしい。


そもそも俺はそんなことを言える性格でもないし。



「ん?何よ人の顔じろじろ見て?」


「いや、別に」



まあ、外見もそれなりに可愛い。


そんなワケでよく男子に告白されているが全て断っているらしい。


何で彼氏を作らないのか尋ねてみても、プイっとそっぽ向かれる。



「はい、卓也。朝ご飯できたわよ」



そう言ってトーストとベーコンエッグが出てきた。


いつも朝飯は喉の通りが悪く、俺は苦しみながら食べている。


かと言って朝飯を抜くと授業中に腹が減って仕方がない。



「さっさと食いなさいよ」


「分かってるよ」



急いで朝飯を胃に流し込んで家を出た。



「良い天気だ」



空は快晴とまではいかないが、きれいな青空だった。


春の暖かな陽気が俺を一層眠くする。



「ふぁああ」


「ところで卓也、今日は何の日だっけ?」



随分とニコやかな顔で尋ねてきた。


美人だから良い笑顔ではあるが、性格を考慮するとなんか不気味だ。



「今日って何かあったか?」


「…………」


「渚?」


「ううん。なんでもない」



なんだか様子がおかしい気がする。


まあ、特に重要なことでもないだろ。









かったるい授業が終わってようやく放課後。


渚の奴は終わるなりさっさと帰っていった。


特にすることもないし、俺も帰るとしますか。



「おっす卓也」


「ああ、秋人(あきと)か。どうした?」



こいつとは時々ゲーセンとかラーメン屋に行ったりする。


まあ、普段は渚がいるから学校で話すぐらいだが。



「いや、渚ちゃんと帰らないなら、たまには一緒に帰ろうと思ってよ」


「おう。久々にゲーセン行こうぜ」


「まあいいけど、大丈夫なのか?」


「大丈夫って何が?」


「今日は渚ちゃんの誕生日って以前にお前言ってなかった?」


「……あっ!」


「はあ?まさかお前、忘れてたのか?そりゃ怒って帰るわな」


「なんてこった……。悪い!俺、今から買いに行ってくるわ」


「おう、じゃーな」



俺はプレゼントを買いに走る。


にしても、よりによってあいつの誕生日を忘れちまうなんて……。


そうか、だからあの時あんなこと聞いてきたのか。



『ところで卓也、今日は何の日だっけ?』



やっぱ、あいつ怒ってるだろうなぁ。


くそっ、何であの時に気付かなかったんだ!


まあ、今からなら間に合うか。



…………

………

……



「ありがとうございましたぁ」



はぁ。今月のバイト代ほとんど使っちまった。


まあ、そこそこの指輪だしこれで許してもらえないかな?


プレゼントカードなんてものも貰ったし、何か書いてやろう。


やっぱ感謝の気持ちか?


でも、紙として残るから恥ずかしいな。



チャラララ〜チャラララ〜♪♪



考え事の最中にケータイが鳴りだして少々驚いた。


誰だよ、人が珍しく真剣に悩んでるのに……。


ディスプレイを見ると公衆電話からだった。



「もしもし」


「も、もしもしお母さんだけど、卓也よね!?」


「俺のケータイだから俺に決まってんだろ。どうしたのさ、そんな慌てて」


「渚ちゃんが事故に遭ったの!今すぐ病院に来て!」


「な!?わ、わかった。すぐに行く!」



何だよそれ!?


渚が事故に遭っただって?


俺はまだお前に言わなきゃいけないことがあるのに。


お前に渡さなきゃいけないものがあるのに。


やっと伝えようと思ったのに。


絶対に死ぬんじゃねえぞ!











「渚はっ!?」


「あ、卓也……。今、手術中なの」


「そうか……」


「子どもが道路に飛び出して車が迫ってきたから、その子を庇って……」


「怪我は酷いのか?」


「頭に傷を負ってたらしいわ」



それってかなりやばいじゃないか。


冗談じゃねえぞ。



「すいませんが、藤堂(とうどう)渚さんの保護者の方ですか?」



医者が尋ねてきた。


あいつには両親も親戚もいないから母さんが引き取った。


まあ、別の家で暮らしているが。



「ええ」


「手術が終わりました」


「それで渚は?」


「命に別状はありませんが、記憶に異常をきたしているようです」


「記憶に!?」


「はい。長期記憶を保持する部分がダメージを負ってしまってるんです」


「それで渚は一体どうなるんですか?」


「……いずれ全てのことを忘れてくかもしれません」


「そ、そんな……」



母さんは泣き崩れてしまった。


俺はと言うとあまりのショックで愕然としていた。


忘れてしまう?俺のことも?


それじゃあ、あいつと今まで一緒にいた日々は何だった?


彼女の記憶から無くなるなら全く無意味ってことか。


何だよそれ?そんなことってあるかよ……。











しばらくは茫然自失だった。


心ここにあらずというか、魂ここにあらずというか。


俺の中に残ったものは後悔だけだ。


俺があいつの誕生日を覚えてたら、こんなことは起こらなかっただろうか。


俺がもっとあいつに感謝してたら、こんなバチは当たらなかっただろうか。


何であいつが事故に遭うんだよ……。


あいつは何も悪くないんだ。


そう、悪いのはあいつに甘えてばかりの俺だったんだ。


それなのに何であいつが……。



「卓也、あんた大丈夫?」


「えっ!?」



あいつがよく口にする言葉だった。


僅かな期待を胸に顔を上げたが、落胆しただけだった。


目に映ったのはあいつではなく、母さんだった。



「大丈夫……だよ。母さんこそ」


「そうね」


「母さんならどうする?自分の……好きな人に忘れられるとしたら」


「…………」



母さんは深くは追究しなかった。


ただ、うつむいていた。



「そうね。私なら、それでも側にいるわ」


「どうして?忘れられるんだよ?怖くないの?」


「怖いわ。でも近くに居たいと思うの。その人を愛してるなら」


「…………」



そっか……。


たとえ忘れられるとしても……。


その人を愛してるなら……。









コンコン



「どうぞ」



俺は病院の一室のドアを開けた。


それは渚が入院している部屋だ。


ベッドの上で半身を起してこちらを見ていた。


頭にはグルグルと包帯が巻かれている。



「渚……」


「卓也……。どうして来たの?」


「見舞いに来た」


「聞いたんでしょ?私はいずれ全てのことを忘れてしまうのよ?会ったって意味が無い」


「…………」


「卓也だって、あたしの誕生日を忘れてたし、ちょうどいいじゃない」


「…………」


「あんたもあたしを忘れて、あたしもあんたを忘れる。お互いに傷つかない」


「…………」



渚は痛々しいくらいに自嘲していた。



「なのに何で会いに来たのよ?」


「俺はまだお前に伝えなきゃいけないことがあるんだ」


「あっそ。分かったわ。それを言ったら出てって」


「お前が好きだ」


「えっ?………何なのよそれ?そんな冗談を言いに来たの!?」


「そんなんじゃねぇよ!」


「じゃあ同情しに来たの!?やめてよそんなの」


「俺はいつかお前に礼を言わなきゃって思ってた。でも、なんだか照れくさくて素直になれなくてな」


「やめてよ。あたしはもう……」


「いつも一緒にいたからかな。でも、事故に遭ったって聞いて怖かった。お前を失うのが怖かったんだよ」


「…………」


「俺のこと、忘れたっていい!俺はお前を失うのだけは嫌なんだよ!!」


「あたしがあんたを忘れたらどうしようもないじゃない……」


「それなら忘れても何度だって俺を好きにさせてやる!」


「理解してよ!あんたの為に、あたしはあんたを突き放してるの!」



渚の目からは涙が溢れていた。


胸が痛かった。


でも、絶対にあきらめない。



「それでもお前と一緒に居たいから……」


「っ!!」


「傷ついてでも、お前と一緒に居たいから……」


「…………」


「渚、手を貸せ」



俺は渚の左手を掴んで引き寄せた。



「…………」



俺は先日買った渚への誕生日プレゼントを取り出し、彼女の薬指にそっとはめた。


渚はキョトンとした目で指輪を見つめる。



「ちょっと渡すの遅れたけど、誕生日おめでとう」


「何でよりによって左手の薬指に……」


「それが俺の気持ちだ。愛してるよ渚」


「何よ、それ………。うぅ……」



涙の数は多くなっていた。


せき止めていたものが、崩壊したのだろう。



「うぅ………うぁ……うあぁぁぁん!!!」



俺はそっと渚を抱きしめた。



「何でぇ……何でもっと早くに言ってくれなかったのよぉ!!」


「うん」


「馬鹿馬鹿馬鹿ぁ!!!」


「うん」


「忘れたくないよぉ!やっと好きって、愛してるって言ってもらえたのにぃ!!」


「うん」


「それなのに、酷いよぉ!!あんまりだよぉ!!!」



互いに泣きながら抱きしめ合っていた。


悲しみを紛らわしたくて、互いに愛しくて。



「あたしだって、ずっと好きだったんだからぁ!!」


「うん」


「それなのに、それなのにぃ!!」


「うん」


「卓也の馬鹿ぁ!馬鹿ぁ!!!」


「うん」



素直になれなかったのは俺だけじゃなかったんだな。


やっと聞けた。


お前の気持ちを。



「大好きだよ……卓也。愛してる」


「渚、俺もお前を愛してる……」



やっと想いを伝えることができたよ。











「ちょっと卓也!大丈夫なの!?目を覚まして!」


「……んぅ?あ、あれ?渚?」


「かなりうなされてたよ。ってすごい寝汗じゃない!熱でもあるの?」



おでこにひんやりした手を当てられた。


いや、そんなことより……。


俺と渚は病院に居たはずじゃなかったか?


まさかあれは全部夢?



「ちょっと卓也?あんた大丈夫なの?」



心配そうに顔を覗きこんでくる渚。


俺はそのまま彼女を抱き寄せた。



「ちょ、ちょっと卓也?」


「良かった、無事で。ホントに……」



涙が溢れてきた。


ようやくお前の大切さに気付くなんてな。



「ど、どうしたのよ急に。悪い夢でも見たの?」


「うん。お前が事故に遭って、俺のことを忘れていくって言われて。俺ホントどうしようかと」


「そんな変な夢見てたの?」


「でも、良かった。ホントに良かったよぉ」


「心配してくれたんだ?ありがと」


「なあ、渚」


「ん?」


「お前は、俺の知ってるお前だよな?ちゃんと俺のことわかるよな?」


「大丈夫よ、絶対に忘れたりしないから」


「なあ、渚」


「うん?なぁに?」


「俺、お前のことが好きだ」


「……え?ええっ!?」



今度こそ、ちゃんと想いを伝えることができたよ。


初めて短編を書いてみましたが難しいですね。

そんなわけで感想、評価が気になるので書いてください。

まあ1人につき1つまでですけど。

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― 新着の感想 ―
[一言] 文章としては基本的には自然で特にすいすいと読む事が出来ましたが、何点か間違いと思われる部分と、私としては引っかかった部分がありました。 まず、間違いと思われる部分と、ちょっと不自然に感じた…
[一言] まさかの夢オチ(笑) 最後どうなるのかな、なんて推理しながら読んでいたのですが、この展開は読めませんでした。 ともあれハッピーエンドで良かったです。 私は暗いお話が苦手な性質のようですの…
[一言]  確かに、最後オチを入れたのはいいですが、途中はちょっとありきたりすぎな感じがします。なのでそこの部分にもひねりを入れたほうが、読者としては読みがいがでてきていいです。  といいつつ、感想を…
2009/08/10 21:35 運動ダメ男
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