ゆりかご
20年前の夜、私たちは、車で祖母の入院先へと急いでいた。
マンションの角を曲がって国道から一本入ると、辺りに人通りはない。ヘッドライトが行く先を灰色に照らし、車は夜の底を進むように走った。線路を渡ると、バックミラーから提げた交通安全のお守りが、振り子のように揺れた。
運転席の父、助手席の母、後部座席の私と弟。妙な現実感と非現実感、そして沈黙。私はたえかねて、
「病院はいやだ。……人が死ぬところだ」
と口を開いた。涙声でも、それは、色々な人やものごとをはねのけて傷つける言葉だった。
その数秒後、弟が言ったのだった。
「……人が生まれるところでもあるよ」
*
弟の言葉は、あつい涙を、いくぶんあたたかくしてくれた。
この春、弟は父親になった。