4話
次の日。家の庭にてサラと魔術勉強が始まる。
「さぁラグナ。今日から私と遊びましょう」
「うん、あそぼー」
と、サラが銀のコップに入った水を二つ用意して。目の前に置く。
コップに懐から出した薬瓶の液体をたらし、ゆっくりとかき混ぜる。
そして、地面に生えていた葉っぱをちぎってさっと乗せる。
サラがコップを手に取り、一呼吸整え。
「このコップをもって、魔力を流すとね…」
すると、まわりの空気が変わり。
水流が発生し水に浮かんだ葉っぱがぐるぐるとかき混ぜられる。
「こうやって自分の得意な魔術が分かるのよ。私は風ね」
フフン、と鼻をならしに得意げそうに言うサラ。
おぉ、魔術だッ!
「すっごーい!なんでなんで!?」
銀のコップを置き、再び懐から薬瓶を取り出し見せる。
「人はそれぞれ得意な魔術の系統があるの。この薬液を使うとわかりやすいのよ」
「薬をつかうとながれやすくなるんだねー」
一瞬驚いた表情をし、すぐ冷静さを取り戻すサラ。
「そうよ。ラグナあなたはすごいわね!」
ん、なんでだ?普通じゃ無いだろうか?
「すごいでしょー」
「さぁ、今度はあなたの番よ。最初はできないかもしれないけど気にせずやってみてね」
「はーい!」
よし、集中だ集中。銀のコップを手に取り、見つめる。
身体中を駆け巡る魔力に意識を移し、動け、動け、と念じる。
コップの中の水が乱雑に動き始め、だんだんとボコボコと表面が揺れる。
サラが近づく
「これは…」
そして俺が持っていた銀のコップを触るサラ
「熱くないわね。ということは…ラグナ。あなたはバランスが取れているわ」
「バランス?」
ん?バランスがとれている?
「もう止めて大丈夫よ」
と、言われ魔力への意識をそらし。コップを置く。
「多くの場合、人には何かしら得意な属性があるの。私の場合風みたいにね」
「逆に私の場合土の属性は苦手。できないことは無いけれどどうしても風に比べると使い勝手が悪いの」
そう言いながら、サラはすこし集中して魔術を行使する。足下の土がボコッと盛り上げる。
「これくらいなら簡単だけど、風を動かすのに比べて集中力が必要なの」
「今のあなたの場合属性のバランスが取れている。ということは自分の選んだ属性を伸ばす事ができるわ」
ほほー、ってことはなんでもやれるのか!
「ラグナすごいんだねー」
「そうよ、精霊の力を仰ぐことができたのはそういう理由もひとつね」
「風を意識してもう一度やってみてご覧なさい」
風かー。爽やかな心地よい気持ちかな?
「やってみる」
再びコップを手に取り、意識を集中する。
すると、サラよりゆっくりとした回転を描いた。
「できた!」
「そうよ、上手じゃない。各属性の感覚は身体で覚えるしか無いのだけど、これからが楽しみでしょう?」
「うん!」
「それじゃあ、コップで遊ぶのはおしまいね」
まだまだやれるのに。
「えー、もうおしまい?」
「魔術の道は長いのよ。さ、次はかけっこしましょう」
「かけっこー!」
「私を捕まえてごらんなさい」
という間に走り出すサラ。
「わーい」
庭の木をうまく使って駆け抜けるサラ。髪の毛の香りがふわっと香る。
もちろん手加減してくれてはいるんだけど、あるときは素早くダッシュし、あるときはぴょんぴょん跳ねて逃げ回る。
「息をちゃんとすうのよ!」
「うん!すーはー」
「そう!そうして世界にある魔力を意識しながら一緒に吸い込みなさい」
そんなこと言われましてもサラさん。
「どうやるの!?」
「身体で覚えるのよ。ほらっ」
やさしい風の魔術を使ってそよ風を起こすサラ
「よく感じて。魔術を使うと魔力の香りがのこるでしょう」
確かに。なんかさわやかな感じがある
「うん、なんとなくわかる!」
「それじゃあちょっと休憩ね。息を整えて」
そうしてかけっこを続けた。
× × × ×
サラの教え方は身体を動かしながら魔術を覚え込ます方法だった。きっとこれはホビット族のやり方なんだろう。
ふつう今の俺みたいな年齢だったら至極全うな教え方だ、身体を動かしながら魔術の基礎を積み重ねる。
魔力の使い方を身体で覚えながら、時には応用を見せてくれる。
俺もやりたい!って思って、どんどんのめり込む。
そうして三ヶ月が過ぎる頃には座学の比率が上がっていった。
俺の得意な魔術は自然と風系統の術が多くなっていった。師が風術得意なんだからそりゃそうだろう。
もちろん、火の属性や水の属性それに土の属性も扱えるようになった。雷もちょこっとなら扱えるようになった。
風に比べるといまいち使い慣れないが、それもきっと修練の差の問題だろう。
きっと今なら魔物と出会ってもある程度やり過ごせる、そんな実感が湧き始めた冬だった。
父が久しぶりに帰ってきた。