3話
ラグナを背負い自宅に戻ったメリッサ
「あら、おかえりなさいメリッサ…どうしたの?」
「奥様、クレナの実を取る最中にオオイノシシと遭遇しまして」
「ッ!!怪我は無い?――ラグナは無事なの!?」
「怪我はありません。魔力の消費しすぎで眠っています」
「魔力…!」
母は一瞬驚き、戸惑いながら、冷静さを取り戻す
「あなた達が無事で良かったわ。さ、ラグナを寝室に連れて行きましょう」
「はい、奥様。私が側についておりながら申し訳ありません」
「二人が無事ならいいのよ、私が子供の頃なんてもっとやんちゃしてたんだから」
グッと奥歯を噛みしめながら、自分のふがいなさを申し訳なく思うメリッサ。
「……奥様」
× × × ×
リビングルームでメリッサを座らせ、台所でお茶を入れる母
「はい、これでも飲みなさい。暖かくて落ち着くわよ」
「ありがとうございます…」
「――そう、そんな事があったの」
「ええ、ラグナ様が私の後ろから魔力を解放してオオイノシシを倒しました」
「魔法という形では無く、強力な力の本流を感じました」
「精霊ね。5歳で精霊と力を通わせるなんて、運命的ね」
「運命的…ですか」
どこか遠くを見つめる母。
「あの人も若い頃に精霊と心を通わせたんですって」
「アトス様がですか」
お茶を手に取り、飲み干す
「そうよ。アトスにお願いしていた師事の件、急いでもらわなくっちゃね」
× × × ×
俺がオオイノシシを討伐してから3週間。あれからちょっとだけ魔力の動かし方のコツが分かったみたいだ。
今日は俺の魔法の家庭教師が来る日だ。
トントン、と家の扉をたたく音がした。
母とメリッサの後ろについて行きながら、彼女が扉を開ける――
とそこには俺よりちょっと背の高い、可憐な少女のようにみえる人が立っていた。
大きな荷物と、長い魔術杖を持っている。
「こんにちは、私サラと言います。アトス様に申しつけられ家庭教師となるべく参りました」
「遠い所ようこそ。私がアトスの妻のリリーナよ」
「――リリーナ様!お噂は兼々…」
「ふふ、いいのよ。この子が家事手伝いをしているメリッサ」
一礼をするメリッサ
「そして隣にいるのがラグナよ」
紹介されて思わずメリッサの後ろに隠れる。
この人が先生になるんだ!なんだかちょっとこっぱずかしい
「ほら。隠れてないでラグナ。あなたも挨拶するのよ」
「……こんにちわ。ラグナです」
太陽のようににっこりと微笑むサラ。
「はじめまして、ラグナ。貴方のことはアトス様から聞いていますよ」
「父上…!もっと父上のおはなしして!」
「ラグナ。サラが困ってしまうでしょう。まずは家に入りましょう。メリッサ。お茶の用意してもらえるかしら」
「はい、かしこまりました」
× × × ×
母とサラは話がある、ということでメリッサと二人で買い出しに出かける。
街中をブラブラあるきつつ、気になったことを訪ねる
「先生ってラグナたちとちがったね?」
「そうですね、彼女はホビット族なのでしょう」
「この国には私たちのようなヒューム族が多く暮らしていますが、この国では珍しいですね」
「ホビットってどんなひとたちなの?」
「大人になっても背丈は小さいのですが、魔術の扱いに優れている人が多いですね」
「そうなんだー。魔術の勉強たのしみ!」
「楽しみですね!サラ様のおもてなしにフルーツを選びましょう」
「わーい。なにがいいかなー」
露天の果実屋に近づきメリッサがつぶやく
「そうですねぇ……あそこのお店のアプルの実なんてどうです?」
「おいしいよねー!」
「そこのお嬢ちゃん、坊ちゃん。このアプル実はどうだい!北の町から来たばっかりの品でうまいよ!」
と、店主が気さくに声をかけてくる
「ふむふむ、そうですねぇ…ひとつ300ゴールドですか」
「おうよっ。ちょっと割高だけど味は保証するぜ!」
「じゃあ10個おねがいします!」
「毎度ありぃ!そいじゃ小さなコレは一個おまけにしとくよ」
「ありがとうございます!」
支払いを済ませ、手持ちのかごにリンゴを詰めるメリッサ。
「アプルの実ー♪アプルの実ー♪」
「帰ったらアプルパイでも作りましょうか。きっとサラさまも喜びますよ」
「やったー。メリッサのアプルパイ好きー」
「ふふ、ラグナ様にそう言われると腕が鳴りますね」
たまに作ってくれるメリッサのフルーツは絶品だ。
いや、本当に元の世界にいた頃に比べたら甘味少ないから楽しみなのよ。