二話だがまだない
翌日。今日も頬を撫でる風が心地よい。
「おはようございます。ラグナ様」
「ふわぁ~。おはよー、メリッサ」
「今日は町の外で木の実を取りに行く約束でしたね」
「うん!」
週に一度、メリッサと二人で町の外の木の実を取りに行っている。
自然とふれあいつつ運動もできるから気分転換になる。この時間は好きだ。
町の外は魔獣がいるが、近場であればそこまで危険ではない。
冒険者の母のお墨付きのメリッサがいるので大丈夫だろう。
「町の外で取れる木の実はクレナの実と言います」
「うん、しってるよ!」
「流石ですねラクナ様。クレナの実は何に使うのでしたっけ」
「おいしいご飯!」
「はい。その通りです。新鮮なクレナの実を使った料理、ラグナ様は大好きですね」
「あれおいしいのー」
「ふふふ、それでは探しに行きましょう」
クレナの実は栄養豊富で甘くておいしい
町の門で衛兵さんに挨拶をする
「衛兵さん、こんにちはー」
「ラグ坊、メリッサさんこんにちは。身の丈以上の棒に荷車ってことは…今週も町の外でクレナの実取りかい」
「はい、ラグナ様が好きなので」
「最近森の動物が少ないって話なんだ。大丈夫だとは思うが気をつけてな」
「あら、そうなんですね…。気をつけます。ありがとうございます」
「いってくるねー!」
町から20分ほど歩く。子供の足で20分だからそこまで遠くないが舗装されてるとは言いがたい街道だ。
いつも行きは一緒に歩いて、帰りは台車に乗せてもらって帰っている。
楽しいんだけど。結構つかれるんだ、これが。
「ええと、クレナの実は……ここらへんですね」
「衛兵さんも言ってたことですし、今日は街道の近くで取りましょう」
「うん!」
クレナの実はトゲトゲのまるっこい実だ。元の世界では栗と呼ばれていたものに近い。
甘味が少ないこの世界では貴重な植物だ。
地面を見るに、今日はやけに殻だけのものが多いが…
「あったあった。こうやって棒で落として…実だけを取って」
「ラグナ様、危ないですからトゲには触らないでくださいね!」
「わかった!」
順調にクレナの実を収穫する。
いやー、今日は沢山のクレナの実が集まった。
辺りを見回すとそこには魔獣がいたッ!!
4足のおおきな体躯に下顎から生える凶暴な牙。オオイノシシだ!
「あ…」
「ラグナ様ッ!」
メリッサが割って入る。
「魔獣ですか…。ラグナ様。このままゆっくり後退します」
オオイノシシに気づかれてしまった。
たてがみを逆立てシューシュと威嚇をしてくる。
メリッサが棒を捨て、護身用のナイフを構える。
でもそんなのじゃどうにもならない。
どうすればいい!このままじゃジリ貧だ。俺がいるから防戦一方になってしまう。
そしたらメリッサが大怪我をしてしまうッ!
考えるんだ。何かできることはないか。元の世界では大人だったろう!
「カッカッカッ」
けたたましく威嚇音を鳴らすオオイノシシ。
(くっ。この距離では魔術を練る時間が無い)
ジリジリと後退するメリッサと俺。
メリッサのスカートの裾をギュッと掴む。
あんなのに突進されたら一撃でお仕舞いだ。下手によけることもできない。
凄惨な光景が脳裏をよぎる。
「ギャッギャッギャッ」
オオイノシシの歯ぎしりの大きな音!走り出すッ!!
30メートル
20メートル
10メートル
鼓動が高まり視野が狭くなる。
――ウフフ、何を怖がっているの
アレは悪いヤツ。私たちが力を貸してあげるわ
協力してほしければ右手をアイツに向けて、魔力を集めて
声に導かれ、右手を前に出し、アイツをやっつけて!と強く願う。
「だめーっ!」
荒れ狂う暴風が右手から吹き荒れる。ただ暴力的な風の塊がオオイノシシを叩き潰すッ!
数瞬遅れてパァーンッと大きな音が鳴り響く。
魔獣は即死だ。
――ウフフ、貴方やっぱりすごいわ
こんなに小さいのに、私たち以上の魔力
持ってるわね
倒したのを見届けると目の前が真っ暗になり、そのままメリッサに倒れかかる
「ラグナ…さま…?ラグナ様ッ!」
すぅー、すぅー
「良かった。魔力の行使で疲れて眠ってしまったのね」
「ありがとうございます。ラグナ様。不甲斐ないメリッサをお許しください」
ラグナ様は台車で休んでいただいて、オオイノシシは…外傷はないから。
魔物が集まることもなさそうね。水の魔術で冷やしておいて荷車で運びますか。
この距離ならなんとか強化魔術で行けるわ。
× × × ×
昼下がり、街の門。
「おいぃ、メリッサさん。なんだソレ」
「あはは…ラグナ様が倒しちゃいました…」
「うぇええええええ、オオイノシシを!?ラグ坊が!?」
「いやオオイノシシ出たの!?倒しちゃったの!?ウソだろおい」
「いやー、さすがラグナ様ですね」
「マジかー…。こいつは大変だろうに。こっちで解体屋に回して後で届けるからラグ坊つれて早く帰りな!」
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただいて」
「おうよ!任せときなー」
荷車を衛兵に任せ、ラグナスを大事そうに抱え家に帰るメリッサだった。