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サブタイトルもまだない

そこには何もない。存在はあるが、夢なのだろうか。

音が反響しあってよく聞こえない。だけど心地よい気はする。


何だったっけ。よく思い出せない。確か何かを作る仕事をしていたと思ったのだけれど。

この先に向かえば何か思い出せるのかな。ここにいても何も変わらないし、行ってみよう。


――痛い、苦しい。


なんだってこんなつらい目に合うんだ。夢なんだからもっと自覚すればきっと自由に動けるはずだ。

これは夢に違いない。だからもっと俺は自由に動けるハズ。

困難な道でも突き進もう。きっともう少しだ。


――この痛みは、夢じゃない!?


息がうまく吸えない。

そしてそこには真っ白の世界が広がった。


「会いたかったわ、私のかわいい坊や」


……あぁ、これって転生ってヤツか


こうして俺は新しい生を得たのだった。


× × × ×


心地よい風が頬を撫でる。この世界に来てからもう5年が経った。

転生だといってもなんてことはない。ステータスオープンなんてものはない世界だった。

身体なんてまだまだ小さいし、うまく考えを口にすることはできない。

他の5歳児に比べれば、それは確かに抜きん出てはいるが所詮は5歳だ。たいしたことはできない。


「あら、また魔術の本を読んでいたの?」

「うん、かーさま。この本はね、おもしろいの」

「文字ばっかりで難しいのに、ラグナはすごいわぁ」

「絵がすっごいんだ!」

「そうね、いつかあなたも魔術が使えるようになるわ」

「ラグナ楽しみ!」

「こんな風にね」


そうすると母の手の平の上に、光り輝く光球が浮かんだ。


「わー、かーさますごい!もっともっと」


そう、この世界にはご多分に漏れず魔術がある。元の世界にはなかったのだけれど――いや科学という魔術はあったか。

自分の身体に流れる魔力を感じることはできるが、身体もまだろくに使いこなせないのでふんわりとしか魔力は動かすことができない。


「ふふふ、私は仕事をするから続きはメリッサにしてもらいなさい」


母の後ろに控えていたメイド服の少女が一礼をして前に出る。


「かしこまりました。それではラグナ様、続きはこのメリッサと遊びましょう」

「かーさま、お仕事イヤ!メリッサと遊んで」

「それでは西のエルフが誇る魔術工芸の素晴らしい積み木で遊びましょう」

「キャッキャッ!」


どうも思考が身体に引っ張られる。いや、楽しいから良いのだけれども。

そうしてメリッサと積み木を遊ぶ俺――ラグナス。

冒険者の父と母の間に産まれた長男で、下には2歳の妹がいる。

メリッサは所謂住み込みメイドで多忙な親の代わりに俺と妹の事を面倒見てくれている。


積み木でひとしきり遊んだ後、やっぱり魔法が見たくてメリッサにねだる。


「ねー、メリッサ。今日も水玉であそぼ!」

「しょうがないですねー。それではラグナ様。今日もまた水球で遊んでみましょうか」


すこしひんやりとした空気が一瞬流れ、メリッサの手の平の上に小さな水球が浮かぶ。

その不定形に動くまんまる状の水をすかさず掴み!


パチャン――


水球が崩れ木の床に水滴がこぼれ落ちる


「キャッキャッ!」


床を拭きながら暖かなまなざしで言うメリッサ。

「どうです?面白いでしょう」


「どうやったら?ラグナもできる」

「身体に流れる魔力を水の色に染め上げて、水玉よ出てきてって願うんですよ」

「どうやって染めるの?」

「う~ん。言葉で言うのは難しいんですが冷たくて、じわっとした感じです」

「ひんやり?」

「そうです。あれは水の魔力の残滓です」

「う~ん。わかんなーい」

「ラグナも作りたい!」

「もうちょっとしたらラグナ様もできるようになると思いますよ」

「実はこの積み木は魔力が通りやすい仕掛けがあって、遊んでると自然に覚えられるようになるんです」

「わかった、遊ぶ!」


× × × ×


この世界では魔術というモノが発展していた。自分が元いた世界にはなかったものだ。

今の生活にも不自由はないんだけれど、せっかく魔術があるのだから今までにない発想のもので世界をあっといわせたい。


日がな魔力を思った通りに動かせるように念じる。

未だに魔法として事象を顕現させるにはいたらないけれど、もう少しでなにかができそうだという実感はある。

そうしているうちに眠りこけてしまった。


「あら、眠っちゃったみたいね」

「はい。奥様。ラグナ様は魔術に興味津々ですね」

「そうねぇ、私たちの息子、だからかしら。嬉しいけどこの年齢であれだけ魔力を動かせるのは末恐ろしいわ」

「魔力なんて10歳過ぎてからようやく使えはじめるのが普通ですからね」

「ちょっと早いけれど、アトスに相談して家庭教師でも探してみようかしら」

「アトス様ならよき師となる方をご存じかと」

「ふふ、そうね」

「それでは私はラグナ様を寝室にお連れいたします」

「いつもありがとう。メリッサ。ラグナを連れて行ったらあなたも自由にしていいわよ」

「ありがとうございます。それでは失礼いたします」


メリッサがラグナを抱きかかえ、部屋を後にする。


母が紅茶を一口飲み一息入れる。


「……うちの子は天才ね。楽しみだわ。仕事を片付けてはやくアトスと話さなきゃ」


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