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8、同郷

「仲間を忘れてたってのは、どぉーいうこった」

 何か企んでんな? とラウジが眼光鋭く問う。

 口元だけわざと弧を描けば、どちらが企んでいるのかと言いたくなる人相の出来上がりだ。


 そんなラウジに問われ、男達ーー茶色の髪のゼナと黒髪のハッセは思わず身を寄せあい、ブンブンと首を振った。


「何も企んでねえって!」

「信じてくれよ、アニキ!」

「誰がアニキだ!!」


 縋る目で訴えた二人に、ラウジがガッと吠える。

 瞬間、プーッと吹き出す声が聞こえ、ラウジはゆっくりと振り返った。


「ミーナ……」

「はぁい。3杯ね」

「カナン……」

「わっ…私は吹き出してない! 堪えたし!」

「…………」


 ここにレンドルがいれば有無を言わさずカナンの口を押さえたはずだ。だが、残念ながら彼はいない。

 目を細め、無言で凝視し続けるラウジの様子から、カナンが自分の失言に気付き、そぉ~っと視線を反らす。


「いい度胸だ。……覚えとけよ」


 目だけ笑っていない笑みで言われ、カナンは取り敢えず聞こえないフリをした。

 下手に言い訳をすると、更に余計なことを言いそうなので。

 自慢にならないが、墓穴はさんざん掘ってきた。間違いなくやらかす。


 聞こえません、とシラを切るつもりのカナンを一睨みし、ラウジはゼナとハッセに視線を戻した。

 眼光が一段と鋭いのは単なる八つ当たりだ。


「ーーんで? 忘れられてた可哀想なお仲間ってのは何なんだ?」


 嘘偽りなく吐け。


 そんな言葉がありありと伝わってくる。

 ゼナとハッセは、嘘なんかつきません! と口を揃えた。両手を振る仕草もシンクロしている。


 だったら早く言え、と無言の圧力が強まり、クーリを殴ろうとした方であるゼナが先に口を開いた。


「じ…実は俺達『一世一代』っていう4人組のCランクパーティでして」

「ほう」

「普段は討伐依頼とか受けてたんすけど、ちょっと前に運悪くマネーフナと遭遇して、そん時にリーダーが腕に種をくらっちまって……」

「あー……あれか」


 歩く雑食植物マネーフナ。

 巨大な磯巾着の様な見た目で火に弱く、倒すだけなら難しくないのだが、素材ーー良質な灯油を採取するならば、当然燃やすことはできず、難易度が上がる相手である。

 しかもこちらが火を使ってこないと解ると、途端に種を噴射してくる、嫌な程度の知能を持つ魔樹・魔草の一種だ。ちなみに色や大きさはその土地土地で多少の違いがあり、アマノ周辺では深緑で子供ほどのものが多い。


「取り敢えずめり込んだ種を取り除いて、急いで町まで戻って治療院に行ったんすけど」

「取りきれてなかった種がもう一個あってーー」


 既に発芽し、筋肉に根を伸ばしていたのだった。


「あー、そりゃまた、なんつーか……」


 少し前のジークの様な感想をラウジが漏らす。

 マネーフナの種が厄介なのは、1日足らずで発芽するところだ。

 血液を養分に成長し、中を食い尽くし、まるで脱皮をするよう皮膚を破って外へ出る。

 もっともそうなる前に、宿主となった者は死んでしまうので、外に出てくる前に焼かれるのだが。


「……で、そのリーダーは?」


 どんな状態なんだ、とラウジに問われ、再びゼナが口を開く。


「すぐに根枯らしの薬を飲ませたから大丈夫っす」

「ほー。お前ら結構羽振りいいんだな」


 根枯らしの薬はそれなりに値が張る品物だ。

 治癒や浄化に特化した白魔法による治療と比べれば安いのだが、それでも懐事情が寂しい者なら手が出しづらい薬である。

 そのため切除可能部位であるなら、根を張った部分を切り取り、回復ポーションを飲むか振り掛けるという荒業で対処することもあるのだが、その場合元通りに治せるかどうかはポーションのランク次第となる。


 根枯らしの薬も高ランクのポーションも白魔法による治癒も、どれを選んでもそれなりの出費になるのは間違いない。

 ハッセとゼナが身に付けている物から判断するに、それほど潤沢な資金を持っているようには見えないのだが、と思った矢先。


「いやぁ、当然借金す」


 ハッセが頭を掻きながら、けれど後悔を微塵も感じさせない表情でそう告げたのだった。

 そのハッセと一度顔を見合わせ、ゼナは苦笑しながら鼻の頭を搔いた。


「モーリス……あ、リーダーっすけど、それとダナンと俺達、全員幼馴染みで……」

「だから、まあーー」


 できるだけ痛い思いをさせずに、完全に治せる方法を選んだ。モーリス以外、借金をすることに躊躇いもなかった。


「そんなわけで、どうしても金を稼ぎたかったんす……」


 借金返済のために稼ぎたいが、実入りのいい討伐依頼をダナンと自分達の3人で受けるのは危険が大きく、安全を考えると大した額が稼げない。

 そんな時、たまたま知り合いに声をかけられ、手伝ったのが人材斡旋の仕事だった。


 今まで魔物の討伐や護衛の仕事ばかり受けていたため、全く違う内容にかなり手間取ったし、胡散臭いだとか信用できないだとか色々言われた。

 けれど、何とか上手くいった時に、無事に転職した者から感謝されたのだ。

 なかなか辞めさせてくれない雇い主に脅しをかけるという、少々強引な方法だったけれど、次のところでもそれで上手くいった。

 いってしまった。

 

「だからーー」

「それでいいって思っちまって……」


 今回も同じことをしてしまった。

 ただ今回は、薬師を欲しがっている依頼人から提示された額が思っていた以上に良かったことと、ルドという青年が雇われることを全く望んでおらず、依頼の期日が迫っていたことから自分達の中に色々と焦りが生まれてしまった。

 だから、まだリハビリ中のモーリスの世話をしていたダナンに手紙を出し、自分達とは別口からのスカウトだと思わせて薬師の青年と接触することにしたのだ。


 目的の青年が日中ほとんど薬草を栽培している洞窟近くにいることは手紙で知らせた。

 二、三日中には着く、と短い返信を着けた鳥が帰ってきたのが3日前なので、何か問題が起きていなければ、ダナンも既にこのアマノにいるはずだ。


 昨日はまだ青年と接触した様子も連絡もなかったから……もしかしたら今頃、洞窟へ行っているのではないかと思ったのだ。


「ーーと言うわけでして……」

「騙すとかそんなんじゃねえっす」

「なるほどな」


 事情は解った。

 二人が嘘を付いている感じはない。

 確かに嫌がらせのような勧誘の仕方は誉められたものではないし、クーリに手をあげたことは問題だ。

 けれど。

 二人が仲間を大事にしていることはよく解った。


「ちなみに道具屋で居座ったのはなんでだ?」

「あー、別口も受けてて、これは期限とかなかったんで……」


 ついでに上手くいけばって感じっす、とハッセがへらりと笑って告げる。

 その瞬間、ラウジがタンッと軽く足を慣らした。


「笑える立場か?」

「すっ…すんません!」


 完全に舎弟……。

 そんな言葉が皆の頭の中を過ったが、幸運なことに今回は誰も余計なことは言い出さなかった。


「ーーで、どうすんだ? 隊長さん」


 腰に手を当て、ラウジが無造作に振り返る。

 急に自分に話を振られ、思わず目を瞬いてしまった隊長に、ラウジは呆れた様子で眉を寄せた。


「おいおい、誰がこの場を預かるんだって話だろうが。こいつらに縄をかけるにしろ、お仲間を止めに行くにしろ、決めんのはあんた達だろ」


 俺に丸投げする気か? と眉間の皺を深くする。

 物凄く不満げな視線を向けられ、隊長は、すまんすまん、と軽く手を挙げた。


「キミが事情を聴き出すとこまでやってくれたんで、手間が省けたよ」

「……おい」

「いやぁ、本当に助かった」


 存外肝が据わっているのか図太いのか、隊長は軽く笑った後、ハッセ達へ向き直った。


「ダナンという仲間の特徴は?」

「え? ……ああ、あいつなら、俺よりもっと濃い色の……焦げ茶の髪と目でーー」


 そこまで答え、ハッセが何かに気付き、言葉を止める。

 ハッセと同じ方向を向いたゼナも同じ人物に目を止め、横道から走ってきたと思われるその男に向かって手を挙げた。


「おーい! ダナン、こっちだ!」


 何やら焦っている様子の彼を不審に思った直後。

 呼び声に気付いたダナンが血相を変え、取り乱した様相でこちらへ駆け寄って来たのだった。


「ゼナ! ハッセ! 逃げろ!!」


 明らかにおかしかった。

 今まで危険に見舞われたことは何度もあったが、その時に感じたものとは違う強い怯え、恐怖を顔に張り付け、ダナンはそう叫んでいた。


「なっ…?!」

「どうしたんだよ?!」

「いいからっ!!」


 早く!!

 一刻も早く!!

 ここから逃げなければ!!


 ダナンの尋常ではない様子に仲間の二人が困惑する。

 何事かと野次馬が増え、ざわめき始める。


「お、おい! ダナン!」

「何があった?!」

「バカやろう!! 逃げんだよ! いいから!! 早く!!」


 全速力で駆けてきたダナンがハッセとゼナを掴み、そのまま逃げようとするが、訳の解らない二人の反応が鈍い。

 ダナンのあまりの剣幕に気圧された感じだ。


 このままでは騒ぎが大きくなる。


 それは避けたい、と隊長が動いた矢先ーー。


「魔族だ!!」


 ダナンの口から出た単語は。

 その場に驚愕をもたらしたのだった。

みんなが優しい世界の話が書きたいんです

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