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1、日々の積み重ね

 はじめまして。

 思いつきと勢いだけで書き始めました!

 書きたいものを詰め込んで、行けるとこまで行きたい--書きたいと思っているので、暖かく見守って頂ければ幸いです。





 その涙のわけを、知りたいと思ってしまった--。




◆◆◆


「カナン! そっち行った!」

「任せて!」


 仲間の間をすり抜けた蜂の魔物--子供ほどの大きさのマッドビーに、カナンと呼ばれた赤茶色の髪の女剣士が剣を振り下ろす。

 危なげなく真っ二つに裂き、カナンは直ぐ様視線を仲間に戻した。

 髪と同じ色の瞳に、最後の二匹が倒される瞬間が映る。


「これで終わりっとぉ!」


 軽口を叩くような口調で、先程カナンに声を飛ばした痩身の男が二本同時にナイフを投げる。

 別方向に投げたそれは、左右から襲いかかってきたマッドビーの額に突き刺さり、蜂は男の手前で地に落ちた。


「さっすがラウジ!」


 カナンが剣を鞘に納めながら、男--ラウジのもとへ軽く走り寄る。

 転がっているマッドビーが脚を痙攣させているが、死ぬのは時間の問題なので、特に注意は払わない。

 もっともそれは、彼が危険を残したまま警戒を解くことはあり得ない、と知っているからなのだが。

 ラウジは無条件で信じられる兄貴分だ。

 だからこそ何の警戒も気負いもなく言葉と笑顔を向けたのだが--。


「いっ……!」


 返ってきたのは、ズビシッと音が響くほどの手刀だった。


「何す……!」

「何じゃねぇ! このバカが!」


 間近で怒鳴られ、叩かれた額を押さえたカナンが一瞬ビクリと肩を竦める。

 ラウジはそんなカナンに構うことなく指を突きつけ、そのまま視線を誘導するように、指先を足元で動かなくなったマッドビーへ向けた。


「これが俺が倒したヤツ」

「うん」

「あっちがお前が倒したヤツ」

「うん。--あ」


 交互に指差され、カナンがハッとする。

 自分が倒したマッドビーは真っ二つで、これでは買取対象である素材--毒袋も駄目になっているのは一目瞭然だった。


 今回、冒険者である自分達のパーティー『大家族』が受けたのは、川沿いの小さな村からの魔物退治である。


 冒険者ギルドへ持ち込まれる依頼は大小様々であり、内容も難易度も様々だ。

 報酬はその依頼に見合う額を依頼主が出すのだが、中には十分な額が用意できない場合もある。

 今回のように、小さな村からの魔物の駆逐や討伐は特にそうだ。

 その場合、不足分を倒した魔物から取れる素材で補うのは当たり前で、少しでも良い値が付くよう、素材は出来る限り無傷で手に入れなければならないのだ。


 なのに。

 自分のしたことは……。


 先日個人の冒険者ランクが一つ上がり、普段通りにしていたつもりだったのだが、やはりどこか浮かれていたのだろう。

 もう一度自分とラウジが倒したマッドビーに目を向ける。


「………」


 剣で倒したものと、剣より攻撃力の劣るナイフで難なく倒したもの。

 DランクとBランクの力量の差。

 そして、それ以前の問題が如実に現れた状態を見て、カナンは肩を落とさずにはいられなかった。


「……………ごめん……」


 任せて、などと自信満々に一丁前の口を叩いた直後の真っ二つだ。

 調子に乗った恥ずかしさとばつの悪さから急激に居たたまれなくなり、カナンは足下に小さな声を落とした。

 その様子に、ラウジがあからさまに不服を浮かべ、あーん? と語尾を上げる。


「おいコラ、お前ぇはまともに謝ることもできねぇのか?」

「……っ! ごめんなさい! 次からはちゃんと気を付ける! 調子にも乗らない!」


 指摘され、カナンが焦った様子で顔をあげる。

 あたふたとはしたが、しっかりと視線を合わせて謝罪したカナンに、ラウジは数秒間無言を返し--。


「よし!」


 ニッと笑って、短くそう告げた。

 笑いかけられたことで、カナンの顔にも笑みが浮かぶ。

 ほっとしたのが目に見えて解った。


 良くも悪くもカナンは素直だ。

 この『大家族』の最年少のメンバーであり--わざわざ口に出すことはしないが--ラウジにとっても大事な妹分である。

 反省したのならば、これ以上言うことは何もない。

 正直なところ、初めから毒袋を傷つけずにマッドビーを倒せるとは思っていなかったのだから。

 むしろ、手こずるだろうと思っていたくらいだ。

 だからこそ、自分がカナンのフォローについていたのだが--。


「………」


 そうとは気付かれない程度に、ラウジがチラリとカナンが倒したマッドビーに視線を向ける。


(こうも見事に真っ二つにするとはなぁ……)


 相手にしたのが一匹だったとは言え、マッドビーはDランクの冒険者には少々厄介な相手である。


(困ったことに素質はあるんだよなぁ……)


 このご時世、女が冒険者になることは珍しくない。だが、主に近接戦闘となる剣士を選ぶことは希である。

 理由は至極簡単なことで、体格や体力、筋力など、性差でどうしようもない部分で男に劣るからだ。

 それを補う何かがあれば別な話となってくるのだが--。


(まったく、なぁ……)


 また後衛と比べると、前衛は怪我を負いやすい。

 冒険者である以上、危険と隣り合わせであることは当たり前である。

 それは解っている。

 解っているけれど。

 それこそ子供の頃から見てきた自分--否、カナンを除いた仲間全員としては、今も複雑な気持ちなのは間違いなかった。


「ラウジ?」


 ついこぼしてしまった溜め息に、カナンが小さく首を傾げる。

 ラウジは、何でもない、と軽く手を挙げて返した。


「んじゃ毒袋取り出すぞ。手順は解ってんな?」

「うん。裂いて、針持って、ぺり、でしょ?」

「………ジークに教わったのか………」


 雑な返答にラウジがげんなりとする。

 教えたのは誰だと思うより先に、『大家族』のナンバー2であり、カナンに剣の指南をしている男が脳裏に浮かんだ。

 それに対しカナンが緩く首を振る。


「ううん。兄さんだけじゃなくてミーナ姉さんからも」

「あー………………………………なるほど」


 たっぷり間を置いてから、ラウジは静かに納得した。

 なるほど。

 確かに。

 あの二人か。


(あのアホどもが……!)


 つい、心の中で毒づく。


 冷静沈着でありながら、常に先頭に立って皆を率いる黒髪黒目の剣士と、傷だけでなく心まで癒すと評される、まるで聖女のようなヒーラー。

 どちらもよく引き抜きの声がかかる優秀な冒険者で--絵に描いたような美男美女であり、仲の良さでも有名な恋人同士でもある。


 ある意味、完璧。


 世間ではそう思われている二人だが、ラウジからすれば『大雑把で後始末を仲間に任せるバカップル』だった。


 はぁ~~~、と大変長い溜め息をつき、ラウジが眉間を揉む。

 どうしたの? と、カナンが不思議そうに首を傾げたのを感じ、ラウジは静かに顔を上げた。


「よし。ちゃんと教えてやるから、いきなり裂いて、針持って、ぺりとかすなよ?」

「え? あ~……うん、解った」


 なるほど。

 解った。

 いつものパターンね、とカナンが困ったような笑みを浮かべる。


 ジークとミーナは優秀なのだが、それ故に説明を簡略化してしまうことが多い。

 その簡略化された内容を皆に解りやすく説明するのがラウジ、というのがこの『大家族』では定番である。

 もっともラウジだけがその扱いに納得できず、いつも二人と言い合いになるのだが--それもまた、彼を除いた仲間内では定番なのだった。


「いいか? 裂くときは--」


 ラウジがマッドビーの額に刺さっているナイフを抜き、手際良く手本を見せていく。そのつど入れる解説は解りやすく聞きやすい。

 カナンは彼の手元を覗き込こみ、真剣に解説に耳を傾けた。

 好んで見たいと思う光景ではないが、できることを一つでも多く増やしたいのだ。

 自分が未熟なのは痛感している。先程のように、ついやらかしてしまうことがあるのも、自覚している。


 けれど。

 だからこそ。


(早くみんなに追い付きたい)


 肩を並べて戦いたい。

 足手まといになりたくない。


 ここは--『大家族』は自分の居場所だから。

 二度と失いたくない家族だから。


 それは決意。

 今の自分を支える強い気持ち。


 変わらず胸の中にあるそれを感じながら、カナンは真剣に見詰め続けた。 

 ほどなくしてラウジがナイフを横に置く。その手をラウジは仕上げとばかりにマッドビーの針へと伸ばした。


「んで、最後はこの針を持って手前に引くようにすると--ほらな、綺麗に毒袋だけ剥がれる」


 思わず、おおー、と言ってしまうほど、取れた毒袋は損傷のない綺麗な状態だった。


「……ラウジってホントに器用だよねぇ」

「褒めても何も出ねえぞ。俺はわざわざ買取価格を下げる意味が解んねえだけだ」


 マッドビーの毒はそれほど珍しくないため、買取価格も当然それなりだ。

 だからこそ、出来る限り高い値が付くように、良い状態で手に入れたいのだ。


「カナン。小遣い稼ぎがしたかったら、間違っても--」

「サクッとぺりっとするなって?」

「そーゆうこった。……ってことで、やってみな」


 言いながら、ラウジはもう一匹のマッドビーの額からナイフを抜き、それをそのままカナンに軽く投げ渡した。

 難なく受け取ったカナンが、よしっ! と気合いを入れる。


「街に帰ったら、姉さんとケーキ食べに行くんだから!」

「……ケーキなんざ甘いだけじゃねーか」


 わざわざ金を払って食べに行くヤツの気が知れねぇ、などと呆れと小馬鹿にするラウジにカナンがムッと唇を尖らせる。


「そういうこと言うから、ラウジはモテないの」

「あ? てめーイイ度胸だな? こら」


 目付きの悪い痩身の男。

 十中八九そう言われるラウジが、口元だけの笑みを浮かべて、目を細める。

 普通一般の者ならば思わず怯んでしまうだろう。

 けれど、身内がそれで動じるわけがなかった。


「さ、練習練習~」

「おい」

「小遣い稼ぎ、小遣い稼ぎ~」

「こら」

「ケーキ、ケーキ」

「人の話を聞け! ミーナか! お前ぇは!」

「似てる?! ホント?! 嬉しい!」

「誉めてねぇ!」

「嘘なの?!」

「そうじゃねぇ!」


 テンポの良いボケとツッコミが繰り広げられるが、幸か不幸か観客はいなかった。


「あぁああー! 面倒臭え!!」


 叫んだラウジが頭をガシガシと乱暴に掻く。


「さっさと取り出せ! 戻るぞ!」

「ん! 了解!」


 確かに、ここでいつまでもこんなことをしている場合ではない。

 まだまだ未熟な自分はともかく、あの兄達がマッドビーの駆除に手こずるとは思えないが、何があるか解らないのが冒険者稼業だ。

 ラウジに、くい、と戻る方向を親指で示され、カナンはナイフを握り直し、それをマッドビーへ向けたのだった。

『大家族』なのに登場人物が二人しか出せなかった……。

ま、まあ……少しずつ成長すればいいじゃないか! カナンも私も、まだまだ未熟!

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