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その7☆ 乙女は森の中でご飯を作るのです。

 天野のぞみは、かつてはウェブサイトの『異世界』が舞台の小説をそれなりに読んでいた。そして今、まさに正統な異世界にいる、彼女は思いをはせる、


 ああ、あんな甘っちょろい事はないのね、無いのね……。


 ☆★☆★☆☆


 器に粉を入れる、これは甘くないホットケーキミックスみたいなの。水を入れて練り練り、混ぜてるともっちりとした塊になる、バナナの葉っぱみたいなパルムの葉っぱの上にのせて、プチュの実を二つ。


「二つものせるんかいな、甘いの好っきゃねえ」


 赤い実と黄色の実を少し埋め込む様に置く私に、辛党のアンがサトの実をのせながら話してくる。私達は今、晩御飯の仕込みの真っ最中。


「いいの!甘いの好きなんだもん」


 くるくると葉で団子を包みながらアンに話す。プチュの実は色んな色があるの、赤に黄色に茶色に緑に、そしてそれぞれ味が違う、共通しているのはどの色も甘いって事。


 私がここに来てから食べたのは、イチゴ、みかん、れもんキャンディー、バナナ、そしてそしてのチョコレート!他にも色々あるらしいけれど、今のところ知っているのはそれだけ。前も食べてるって、エル言われるけど覚えて無いのよね。


「私は今日はサトの実にしよっと」


 エルがネズミ色のサトの実をのせている。塩味だったっけ?サトの実はプチュの実と違って辛い系統、唐辛子とかお塩とかお醤油な感じとか、匂いがカレー!みたいなのもあったっけ、これも色によって違う。


 ちまきみたいになったのを、パチパチと爆ぜる焚き火の近くに置く、途中それを回したりひっくり返したりして、葉っぱがどこもかもが、真っ黒になれば出来上がり。


「……、元の身体に戻りたい」


 革の手袋をはめると、熱々の黒焦げの葉っぱをめくっていきながらつい口に出てしまう。それを聞いたアンがまたかいなと笑いながら呪文を唱えて、エルの分と二つの葉っぱの熱をさましている。


「だって!だって!唐揚げとか、ハンバーガーとか!焼き肉とか!照り焼きとか!食べれないんだものぉぉ、なんで?どうして?アレルギーなんてあるの?異世界だよ!」


「アハハハ、そういや街を出るとき酷い目にあったな、だからやめとけばって、教えてあげたのに、言う事聞かなかったから、肉はね、自分で狩らなきゃいけないの、その辺の露天なんて何が売ってるかわかんないの、そもそもヘンな肉なんて食べたら『邪』なるモノがよって来るじゃない、それに私は不殺の一族だし、あー、ノゾミもそうなるかなと教えたよ、でやっぱり食べたらゲロゲロだ、アハハハ」


 う。思い出したらムカムカしてくる、そう、街を出るときに、市場を抜けて行ったのよ、買うものはドムスの方で用意してくれていた物で十分らしく、あちこち覗いて歩くだけだったけど……、へんてこなものばっかりだったけど、アンが言うには


「ノゾミの世界から来たお人や、向こう帰りのお人は、別の区域に住んでんねん、そっちの市場だとノゾミの欲しいもんとかありそうやな」


 えー!そっちに行きたかったと言うと、荷物が増えるからアカンだって。アンが優秀な魔法使いでも、異世界あるある便利な『収納魔法』 四次元ポケットみたいなアイテムなんてないのよ、荷物は自分で持ちましょう、なんだから。


「ふう、ホントに変なモノだったけど、あれ何、あ、言わなくていい!その辺に落ちてたの焼いたとかだと、私この先何にも食べれなくなっちゃう」


 あれか?あれは、と教えてくれそうな二人に慌てて返事を断る、そう、変なモノ食べたのよ、あと少しで市場から出る場所に、ピザみたいなのが売ってたの、食べたいなと言うと、


「市場の外れの露天、やめてた方がええで、美味しそうやけどな、何が入ってるのかわからんで」


「うん、ノゾミ?覚えてないんだ。食べたらゲロゲロ間違いない、絶対にゲロになる、だってマールもゲロってたもの、だからやめてた方がいいって」


 ヒソヒソと耳素で囁かれたけど、見た目も匂いも美味しそうだったし、前の事なんか覚えてないし、こっちのご飯食べても平気だったし、それに買って食べてる人も周りに沢山いるし、私はアレルギーなんてなかったし ……、


 それにこの街のお金を使ってみたかった、だから小さめの一枚を買って……、あー、食べるんじゃなかった。小さい銅貨2枚無駄にしちゃったわ。


 黒焦げの下には、数枚重ねて巻いた葉っぱで蒸されて大きく膨らんだパンが出てくる。甘い香りがするのはプチュの実が潰れてジャムみたいに広がっているせい、イチゴジャムと!初めてだわ!黄色いのカスタードクリームなのかな?それ系の匂いがする。当たりだ!テンション上がるぅ!


「美味しそう、いた、あ違う。えと天と地と水と風に感謝を、あれ?エルの、塩ラーメンの匂いが!アンのは………え!なんで?フライドチキンみたいな匂いがするー!何色なの?教えて!」


 食前の言の葉(ことのは)を言ってからちぎって食べようとした時、ふわりと懐かしい匂いがした。二人はニッコリ笑って教えてくれる。


「分かるかなぁ?ビミョーな色なんやで、間違えれば、洗っていない足の匂いみたいなのになるんや、色か?今日の空の色を最初に移した池の中色した実」


「んふふふ、私のは時告げ鳥が二度目に鳴いた時、葉っぱを揺らした風の色、間違えれば、床拭いた布の切れっ端みたいなのになる」


 美味しそうなそれの香りに、次は是非とも食べてみようと聞いたら怖い事を言ってくる。プチュの実も色々あるけどハズレは無いって教えてくれたけど、サトの実は奥が深そう ……。それに色が絶対に見分けがつかない様な気がする。何、そのカラー名は?わけわかんない。


「……、えと、きっとハズレを当てそうだから、出来れば採った実を分けてほしいな ……、いや、やっぱいいっなんかやな予感する」


 えー、ええでぇクヒヒヒ、とアンが笑う、フヒヒヒ、うん、最高の一粒探してあげるねーとエルはちぎってそれを頬ばりながら応えてくれる。その様子を見て、私はやめとこうと思った。絶対変なの渡してくるに違いない。


「一度失敗したら、覚えるで、クククク、さっ茶碗出して、お茶っ葉入れたげるから」


 もっちりとしたそれを食べながら、アンが葉っぱを千切っている、火の側には荷物にぶら下げている小さな持ち運び用の鍋に、お湯が沸いていた。うう、お茶っ葉ってその辺に生えてる草よね、いや!モノは考えようよ!


 ハーブ、ハーブだと思えばいいの、紫色した葉っぱだけど、葉脈てのが毒々しい蛍光イエローでも、これは異世界ハーブ!オシャレなハーブティー、ううう、なんかますます危ない気がする。


 さっき使った器に水袋から少し入れると、ゆすいで洗う、それを手渡す。アンと、エル、私のそれに千切った葉っぱを入れるとお湯を注いで、器の上で手をかざして回すアン。魔法なのよね、それだけでは飲めないらしいもの。


 魔法をかけなきゃ飲めないのって何!何回も飲んでるけど、飲んでるけど、ホントに大丈夫なの?


「ふ、あーん!こんなんじゃなくて、変なハーブティーじゃなくてー、ジュースが飲みたぁぁーい!お家に帰りたいよぉぉ!唐揚げ食べたい ……スン」



 ☆★☆★☆☆


 またそれ、と出された器には、入れたはずの紫色からかけ離れた緑茶で満たされていた。


 香気な湯気立つそれを受け取り、ふうふうとしたのぞみは、こくんと一口飲んだ。甘いそれをむしって食べる。はぁぁとため息をつきながら、彼女の夜は過ぎていく。















































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― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらず桜子さんはご飯の描写がお上手ですね! 私は苦手なので、羨ましいですw
[良い点] 異世界でまさかの肉アレルギー!www でも言われたら、ありそうですよね。 場所も身体も食材も変わってるのに……、って考えると、むしろあって当然かも!? のぞみちゃん可哀想に……
[一言] 何か初めての海外旅行でダウンタウンに行きのような。天野さんは帰れると決まっている訳じゃないから大変だけど。 相変わらず周りの人たち優しいですね。
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