その4☆乙女はミミズ文字が読めたのです。
こちらの手のものによって、還された天野 のぞみ、ピチピチ乙女は、現在色々と問題が怒涛の如く押し寄せてきていた………。
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…………大丈夫、腐って死ぬことはない、龍の鱗は『不老不死』の力があるから、そう言うアンの言葉に驚いた。
「はああ?ちょっと待って、不老不死って?風の国に行かないと、この状態のままで不老不死!うきゃぁぁ!そんなのイヤァ!さっ!朝ごはんも何もいらない!とっとと向かいましょう!」
「あー。とっとと行きたいところなんやけど、一応出立の儀式があるんやで………、なので出るのはそれが終わってからやな、とりあえずエルが待ってるから行こう」
あ、忘れてた。エル待ってるよね………。話も聞きたいし私は上着代わりのポンチョだわ、どー見ても、それを着込むと、アンと共にお隣の施設に向かった。
「遅ーい!お腹減っちゃったー!何しとったんよ!もう、子供を待たすの悪い大人だよぉ」
石張りの床、使い込まれた木のテーブルが並んている。朝食の時間はとうに過ぎていた、ここから依頼の物を採取する為『森林』に向かう採取者達の朝は早い、時告げ鳥の一声で門を出るのが決まり。
ガランとした食堂では、ここの経営家族と従業員が朝食を取るために集まっている。あー、知ってる様な?うん、記憶が出てきた。
「おぅ!久しぶりだな、マール、無事に目覚めて良かった」
そう声をかけてくれたのは、すっかり白髪になったハンスさんだっけ?ここの経営者だったかな?他のみんなもニコニコと手を振ってくれる………、ど!どうしようっ!お、おっさんみたいに喋るの?ムリ!なのでコクンと頷いた。
「もう!またそれ?長い間寝たから少しは挨拶なりお返事なり、普通に出来る様になったかと思ったけど、無口は変わらないか、さあ、スープをどうぞ」
待ちくたびれていたエルがいるテーブルにつく、上着を脱ぎ、椅子の背に掛けていると、え、とマリアさんだっけ?ハンスさんの奥さんだったかな?が朝食を運んでくれた。
スープ皿の様な木の器の中は、お芋とか、薬草とか豆やら穀物の粉を練ったお団子とかが煮込んであるお料理、それは前と変わらない香りがしている。ここではお肉は出ないのよね。朝ごはんは、これに角切りにして蜜に漬けた果物、それに大きな葉っぱに包んで蒸しているパンみたいなの、それと花の香りがするお茶。
「さぁ、食べよう、天と地と水と風に感謝を」
ハンスさんが食前の言の葉を言った。そうだ、ここでは『頂きます』じゃない、誰かが先にこう言って、後に『感謝を』って答えて…………食べるんだ。ちくんと胸に痛みが走った。
ここは異世界なんだなって、私はここでの記憶があるけれど、ここの人間じゃないんだって思った。泣きそうになったから、答えた後、慌ててスプーンですくって食べた。大きめのお団子を噛むと、ねっとりと熱くてじわっと涙が出てきた。
「ねぇ、何話してたの?遅かったやんか」
葉っぱをめくりながらエルが話してくる。蜜につけた果物の皿を引き寄せて、甘いそれをとろりとパンにかける、ポコポコと穴があいてるところに染み込んでいくのを見て、美味しそうだな、私も真似をした。
「あー、色々、まぁこれから話す時間たくさんあるし、ぼちぼち聞いたらええやん」
食事に出てくる蒸しパンは甘みは少ない、アンはスープにつけパンしながら食べている。甘いそれを食べる。うん美味しい、少し温かいパンに染み込んた甘酸っぱい蜜、そうだお茶に果物入れよう、何だか物凄くお腹が空いてたし、甘い物が欲しかったし、二人が話しているのをろくに聞かずに、私はひたすらご飯を食べた。
「たくさん食べて、おかわりいる?」
マリアさんがどう?と聞いてくれたので、素直に頂きますと答えた。まぁ、お返事できたわね、とクスクスと笑いながらよそってくれた。
ふう、美味しい…………美味しいのが分かるんだ。なら大丈夫かな?前に凄く辛いとき、学び舎だったな、その時は何食べても味なんかしなかったもの、変な記憶が出てくる。
「ノゾミ?お茶淹れようか」
食事をすませたアンが飲み干したそれに、満たしてくれる。食べてる物はあっちと全然違うのだけど………、知ってる味なのだけど、今までとは全然違う香りと味で、やっぱり食べてるのは、別の世界の食べ物なんだなって思った。
だけどお腹がいっぱいになると………、冷えきった何もかもがぬくもる、そしてなんとかならなくても、どうにかなるかも、って思えたりする、香りの良いお茶を飲みながらそんな事を考えた。
「ねぇ儀式って、前の時あったよね、また討伐に行けとか言われるんでしょう?イヤなんだけど………、どうでもな事なのかな?出たくないんだけど」
食事が終わり、片付けにかかる人達、ガランとする食堂。私は誰もいないことを確認すると、小声でアンとエルに聞いた。小さい声じゃないとね、おっさんみたいに話せないもの。
「ん?ああ、それね、アハ………ムダ!って聴こえた。天啓がおりたから、出んでもええんやで、アン、魔法紙出して書くから」
「え、何?そんな事できるの?」
差し出された黄ばんたそれを手に取るエル、ふふふんと笑いながら聞いていた。
「えとぉ、ノゾミは覚えてるかな?清らの一族の役目とは、ハイ答える」
「はい、え…………とぉ、魂に宿る力を使い、風歌を唄い邪気を払う、霊を鎮めて、天地の時の流れを読んで神のお声を聞く、のだったかな?」
あったりー!そうそう、神のお声がおりてきた事を『天啓』という、と話しながら、指先でスラスラとそれに何かを書いている。
「指先で書けるの?」
「まぁ見てて………。天地神明に誓い、嘘偽りは御座いません、と。出来た!ウフフ、ノゾミ達が来る前に、ウトウトしてたら報せが来た、ふぅ………」
息をそれに吹きかけた。薄青色の文字が浮かび上がる。
「ハイ、これで『予言の書』が出来上がり、これをここに置いてたら、儀式には出なくてもいい、ふう、疲れたぁ………お茶淹れてぇ、アン、ノゾミもいる?」
う、うん、と答えてそれを見せてもらう、ミミズがダンスしている様なコチラの文字が、つらつら書いてある。
〜 二度目のテルマールの空の下、風が降り立つ花の月、ルルーシュの土地、鳥鳴く朝にその時に、旅立ちの時、人々に見送られる事、災厄を国に呼ぶ 〜
「ミミズ、読めた………うん、読めた、うわぁ、読めた………あ、ありがとうアン、え?蜜入れるのか? 入れるいれる! たくさん入れて」
差し出された甘いお茶を飲む。エルは飲んだら準備して行こうと、アンと話している。災厄って書いてあったけど、何かな?それにしても、ミミズ文字を読めたのには、読めて当たり前とはわかっていても驚いちゃった。
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こうして彼女は旅に出ることになる。もちろんこの異世界はファンタジー、予言は信じられ魔法が存在し、そして旅は歩きなのである。
何故歩きなのか、それは面倒をみるのは自分のみでいいからだ、馬なり乗獣なり利用すると、餌と水がいるからである。なのでてくてくと、ひたすらてくてく歩くのだ。