その3☆ 乙女は問題を解決したら増えてしまった。
人間、異世界といえどもついてまわるものがある。それは、異世界といえどもこちら側といえども同じ事。天野 のぞみは鳥の囀りよりも早くに起き、用意されていた服に着替えて、事を成し得た後あるショックをうけ、ぼぉぉと硬いベッドに座っていた。
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身体が覚えているって、あるのね。そうよね、そうなのよね。夏に泳いで、翌年に練習しなくても泳げるものね………、ここに前の時来たことあるのよね、トイレの場所、寝起きでボーとしていてもたどり着けたし………。
異世界あれこれ読んだけど、トイレね、この世界は、汲み取りだったことを思い出したわ、そしてそれを集める職業の人もいたって、集めて農村に運んで売るのよね…………、そんな事はどうでもいいの、そうよ、元の身体なんだもの、ちっとも変じゃないのよ!しっかりするの私!
「ふ………あ、ははは、まさか『立ちション』できるとは、トイレに行った時悩んだのよ、あ、どうしようって、だけど自然に身体が、身体がぁぁ!ウワァァーん」
だめよ、泣いたら朝から泣くなんて、いけない!こら、涙こぼれるな、ふぐ。しっかりしなく………、そうよ、そうなのよ、よかったのよ、これで一瞬どうしようかと思ったトイレ問題は解消したと、前向きにかんがえなくちゃ…………、ふええーん。
「おはよう、朝ご飯やねんけど………、どうしたんや?朝っぱらから」
「あ、アン、何でもない、えぐえぐ、ト、トイレぇぇぇー」
「あー、行けなかったんか?ここは泊まりは、女人禁制だし………、うちらは隣に部屋取ったから、よー入らんと、その辺で済ませたんか?」
「そ!その辺!そんな事しないもん!ちゃんと、トイレに行ったの、行ったんだから、出来たんだから、はうぅ」
あーははは!それは良かったねえと、笑い飛ばされて終了、隣に?えっと、私は気を晴らそうと、記憶を探り出す。ここに隣接しているのは『ドムス』って呼ばれる宿泊施設ね。依頼のやり取りや、素材の買取、それを浄化した後の売り渡し、施療場所でもあったっけ………。
「エルはあっちで待ってるさかいに、さぁ行こう」
「うん………、外に出るのかぁ、おかしくない?なんか変な感じがするんだけど…………」
私は手を眺める、大きいわぁ、慣れない、それもあるけどなんかおかしいのよね、皮膚?変に柔らかいっていうか、寝て起きてから、おかしな気持ち悪さがある。あ!それと腕に変なのもやっぱりあるし………。
「ん?おかしいってなんや?」
「あのね、なんか気持ち悪いのよ、ヌルヌルっていうか。よくわかんないけど気持ち悪くて、それに腕に変なのがあるけど、前はなかったわよね………、寝てる間になんかしたの?」
近づいてきたアンに、私は左腕の袖をたくりあげて、それを見せた。ん?どれどれと手をとったアン。
「や!マールがええか、ノゾミがええか、どっちで呼ぼ?」
手を取り腕をするりと触った瞬間、はっとして聞いてきた。私はもちろんノゾミでて言うと、重々しく頷き話してきた。
「ノゾミ、ええか気をしっかり持つんや、大丈夫やその腕の龍紋のおかげで、それ以上の『お腐れ』はないから」
「…………はひ?お腐れって?龍紋って?え、え?お腐れ…
……」
私の頭の中には、かの有名アニメ映画の神様が出てきたわ、お腐れ様よ、お腐れ…………、い!いやぁぁぁん!
「ええええ!なに?いやぁぁぁ、ここから出る!幽霊になっていいから身体から出してぇ!ぞぞ、ゾンビなのぉぉ?でも緑のズルズルじゃないけど、ええええ!」
「ゾンビじゃあらへん、ちょっと細胞が傷んどるだけや、ほんまならそんなに長い間、空の身体は、持たへんのやけどな、術を施して香油を塗り込めても、乾いて砂になってしまうんや」
「ふえ!う、うう、な、なんで私はあったのぉ?砂になってたら、よ、呼び戻される事もなかったよね、ね」
「いや、それはある、こちらに来る転生者は元々、何かでそっちに行った者ばっかりやし、そのうちに呼び戻されるのは必須なんや。あんたの身体が持ち堪えたのは、マールの二親の血筋の良さと、魔王の血の影響とみた」
私らな、色々調べたんやで、とどうでもいい事を話してくるアン。この身体の出処なんてどうでもいいの!と泣き泣き話すと、
「ああ?出処のおかげで、そうなっても対処方法はあるんやで、聞きたくないのか?龍の紋のおかげで、そのままずーと生きていたいんか?」
「ふぐふぐ、え?対処方法?あ、あるの?傷んじゃってるの治るのぉ?ひ!こ、このまま?いやぁぁぁ!」
泣き止まな話せえへんよ、と言われたので、とりあえず涙を拭いて深呼吸をした。ウンウンと頷いて確認したあと、私の前に置いてあった木の椅子に座るアン。
「ええか、これは誰にも言ったらアカンで、詳しい事はこの先わかっていくから、今は話さないけど『マール』の父親は、ユニコーンの王様や、で母親は『清らのブランカ』エルの姉さんやな」
「…………?はひ、清らの一族って、え、と結婚しない巫女様の一族でしょ?力が落ちる前に『分身』自分で産んじゃう、そうじゃなかったっけ?」
「そうや、でもな中には堕ちる者もいるんやで、まぁ元々『人間』から非合法な手段で創り出された一族や、私等魔法使いとおんなじやな、でブランカはある日人化していた金の髪の男と恋仲になったんや、男と契ると『男の子』が産まれるんやと」
ち、契るとって、あんなことやこんなこと?は、恥ずかし………、ブラックな過去だからあんまり思い出したくないからか、こうして起きている時は探り出さないと出てこないけど…………。うーん、そんな事は、覚えてないかな?出てこない。てか、孤児だったわよ、何処かの神殿で育ったもの、あー!虐められたわよ!変な髪の色してるって………
私は肩迄の長さのそれに目をやる。薄い水色、この世界、ここの大陸に住む人間の髪の色は、原色しかない中で、中途半端なこれは嫌がらせの一つだったもの。
「で、でもでもユニコーンってお馬さんよね………あのその………え?ど、どうやって?確か異種族は結ばれないんじゃ無かったかな」
「ほ!何や赤うなって、ふふん、そうや、人化してても無理や、でどうやるか、それは『真実の愛の口づけ』どちらかの種族になればいいんや、で父親は人間になる事を選んだ。なぜなら彼女が巫女さんやったからな」
「は、母親が選ぶ事は出来ないの?」
「普通の人間や、私等魔法使いならできるけどな、巫女は新しい『御霊』を作ることはでけへん、自分のを次に渡すんやから、父親は結ばれた時に、そのすべてを喰われ器になる、母親は月が満ちたらそれに自分の御霊を入れて産むんやと、自分の全てと引き換えるんやな、新しい命を創るんや、まさに真実の愛の結晶がその身体と魂やな」
がーん、何か凄いこと聞いちゃった………、怖!カマキリだったかな、オス食べちゃうの、だ!だめよ!泣いちゃ、だってさっき言ったじゃない、真実の愛の結晶って!いい方向に考えるの、でないと二人が可哀想じゃない!じゃない。
「ふ………、今聞いたことは後で考えるとして、それがどう関係あるの?えと、お腐れからの卒業に………」
「………ところで聞くが、好きな男の子とかいたか?手をつないだからの先はやったことあるか?結婚は、そっちじゃまだやんな、それなりにこっちに来たもんに、聞いてるから知っとるで」
「は?何を?」
何かとんでもない事を真剣に聞いていたアン、つないだ先?ほえ?それってあんなこととか、こんなこととか………は?
「無いようやな、その様子を見ると、中身がまっさらピンやったらええんや、なんせ『精霊界』に行くんやが、真実の愛に基づいての、正式な婚姻やったらええけど、そっちじゃまだそんな年でもないやろ?ああ身体は大丈夫やで!魔王の血は清らな黒やし、汚れではない」
「ほえ、清らな黒?け汚れ、大丈夫っ?………あ、そうか、はみ出してたから、そういうのが無かったよーな気が………、はうぅ!恥ずかし!何言わすのよ!アン!え、エルはわかるけど、アンはどうなのよ」
絶対に顔が赤くなってる、もう!何を聞いてくるのよ!恥ずかしいったら………、そうよ!私は好きな男の子作る前にこっちに来たんだから、もう!もう………。
「あー?私?ふふふーん、やっと大人になったばかり、もちろん誰ともお付き合いはなーい!ぴちぴちなんやで」
「え?おばあちゃんにしか見えないけど、どういう事?」
「ん?覚えてないんか?魔法使いも純血と混血があってな、学び舎で勉強するのが混血、人間との混ざりなんや。習わんかったか?」
ん?あー、前ね………えと、出てけーってなったから、そういえばそんな事読んだ様な…………、てか、二人にも前に、そんな事教えてもらってないよね。
「うーん、覚えてない、あれ?聞いてないよね、思い出したけど精霊界って、風の国の事?風船で渡っていけてたような?今はムリなの?」
ぽん!と出てきた記憶が私に質問をさせた。アンがしかめっ面で答えてくれる。
「あー、そうか、航路が開いてたからな、今ほど難しくなかったんやった、あれから色々あってな、今は封鎖されとるんや、だから特別な道で行かなあかんのや、まぁ、外に出てみれば分かる」
…………、大きく変わってないと思った。着てる服も、この建物も記憶の底にあるのと、対して変わらないから。少しだけ時が過ぎてるだけだと、
でも何かが大きく変わっている様、私は不安でドキドキとしていた。そしてまくり上げている腕に目をやる、そこには『龍の紋』これって何!そして魔王の血の影響?それも何!
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何がどう変わっているのか、天野 のぞみは胸に手を当てじっと考えた。しかし外に出なければお腐れからの卒業はない!そして『龍の紋』とは何か!魔王の血とは、トイレ問題が終われば次が来た!
彼女はこれからどうなる。