その2☆乙女は終の鳥の声を聞き、泣き泣き眠る。
乙女が涙に濡れている。考えると、いや考えなくてもそうだろう、無理のない事だ………。哀れな。
☆★☆★☆☆
掛け布団代わりのゴワゴワした布を手繰り寄せると潜り込み、ひたすら私は泣いている。シーツもガサガサ、ふんわり柔軟剤なんて無いよね、うん知ってる、洗濯機も無いし、そもそも電気が無い、そんな事はどうでもいいの!
私はごちゃまぜに、この姿をしていた時のアレコレを次々に思い出していく。それを止めたいのに、頭の中でそれが勝手に動いていく。
テストの時にこれだけ思い出せれば、それよりも………クンクン、なんか臭う様な?ハッ私今…………キヤァァァ!自分の、コレって自分の?そうなの?
う、うえ、お風呂に入りたい、お風呂に………は、足音?誰か近づいてきてない?足音が二人聞こえる、ひとつは軽いから、子供?どうしよう。
少し重い、コツン?杖、お年寄りかな?私は泣きながらでも、誰かが部屋に入ってきた気配を感知をし、気配を読んでいる事に驚く。
「…………エエぃ!泣くな!お前の身体だろ、保存しておいてやったんだから、ありがたく思え!」
「あーあ、泣いたらアカンやん、しゃあないなぁ、やっぱりぃ、嘘ぱち予言なんてせずに、綺麗さっぱり消しときゃよかったか」
「そやけど、依頼主に置いとけって言われたやん、大変やったんやで、聞いてるか?手間暇かけたんやで、あんたを置いとくのに先ずは予言のでっち上げ、そうでないと魂無き身体は『バラして魔法薬』になるんやで」
「うん、頼まれたしね。あ、これはナイショやった、エヘヘ、でも腐らへんでよかったー。魂抜けてるのって、悪いモノが入らない様に、あれこれと二人して術かけても痛みやすいんだ、アハハハ」
フグ!言葉がわかる。そして腐る、バラして薬?なんで笑うの?おばあちゃんと女の子の声が聞こえてくる。ま、マママールウゥゥ!呼ばないでぇ!前の時の名前よぉぉ!違うの!私は『のぞみ』なんだからーいやぁぁぁん!う、うう、一応ここどこ?って聞いておこ。私は中から外に聞く。
「しくしくしくしく………、ここどこなの?おばあちゃん」
「どこって、神殿や、そやな、あんたが死んでしもてから、そっちの単位で三百年後の世界やな、テルマールの月が一度破裂して復活したさかいに、覚えてるか?で、なんや?その可愛らしい娘っ子の喋り方は」
「う、女の子だもん」
私はとりあえず帰る方法を聞こうと涙を拭うと答えた。姿を見られたくないから潜ったままで、だけどあれこれ思い出したのと、名前を言った事で涙が溢れてきた。。
「はあい?テンノノゾミ?けったいな名前やけど、あっちの世界の女の名前やな………ホントに女に転生しとったんかいな!起きてこっちを見んさい!」
「……………、ふぐ………ふえーん、もしかして、メイアンとノエルだったりする?スンスン」
私はかつて旅した二人組の名前を出してみる。それくらいしか知っている名前が無い、なんてわびしい…………。
ボッタクリの彼女達だったけど、え、と、俺…………いやぁぁぁん!俺なんてイヤ!あ、でも今の身体オッサン………うわぁぁん!どうしよう、俺なんて絶対に言わない、ここは………、二人に聞いてみる価値はあるよね。
メイとエルは、大昔の私には優しく?というより人間扱いしてくれてたの。助けて貰ったし、彼女達なら何とかしてくれるかもしれない、と知り合いのよしみで心を決めると、私はもぞもぞと身体を起こした。
頭から布を被って座る。ギシギシときしむ音。硬!このベット石?なんかアチコチ身体が固まっているみたいで痛い。
「…………うん、そう。わかってるやん、アンどう思う、間違ってへんの?術式はあっちやん」
「……………そやなあ、エル、どういう事やねん、マールの記憶も覚えてるとは?やはり血かな?、それよりも酷いことするな、あいもかわらず国人達は、魂かっぱらっうって。よーやるわ、後しばらくすりゃ寿命が来て、自然にこっちに帰るのにさ」
すっかり年をとったアン、そして何故か子供に戻っているエルは、私をまじまじと眺めて話をしてきた。
私も少しばかり落ち…………つくわけない、どうにかして帰ろうと思っていたのに、なんかとんでもない事聞いたような。
「た、魂かっぱらってって、ど、どうゆー事なの?え!あの時落ちたのって………、殺人事件なの?わ、私は、帰りたいの、死んじゃったのはわかっているけど、なんで?どうして?私悪い事したのかな?諦めちゃったからぁぁぁ………ママごめんなさい、エッエッエ、うわぁぁん!帰りたいよぉぉ」
頑張れば良かったのかな、でもでもでも『死んだな』感じの記憶があったんだもん、コレはダメダなって、わかっちゃったんだもん。痛いし苦しいし、気分が酷く悪くて、どこもここも壊れてるのが、わかっちゃったんだもん。
なんで?覚えてたの?知らなきゃ頑張ったのにぃぃ。泣き止んでいたけど、私の中であれこれ混ざったものが、大きく膨らむと弾けてまたまた涙が出てくる。
「あー、コレコレ泣きなさんな………もちっと若けりゃ泣く姿も良いけど、年を考えなさいマール」
「アン………そんな事言ったって、エグエグ、私十七だもん、誰よ、置いておくように言ったの、いくら元の身体でもいやぁぁぁん、なんで『転生』じゃないのぉ?それか『転送』とか、中身だけ?なんでぇぇ?」
「うん、それは………マールのその身体と、中身もだな、実はすっごいレアアイテムやねん、な、アン」
「そうそう、エルのホラ予言が無けりゃ、奴等がバラして『魔法薬』の原材料になっちまってたんだよ!魔王の力が落ちた途端、あー!どうかと思うわ!全く………、それにマールの記憶が有るなら元に戻りな!」
「ヤダ!おっさんじゃん。男だよ、う、ううぐ………アンとエルも目が覚めたら爺さんになっていたら、どうなのよ、え。この身体アイテム?原材料って?な、なに?」
「わたしゃ祭りの日に、そっちに行くんだが、そちらでも『スッポンの生き血』やらあるやろう?それと同じ使い方、魔物や精霊、そして私らみたいな者は、流石にヒトを使うのは、今では公にはなってはないがね、うーん、爺さんか、この年でも一応『女』だからね………それはアカンな、エルはどう?」
「えー、考えた事あらへん、清らの一族の私に、そんな事はないもん」
ほら、やっぱりムリじゃん。そして原材料って、この身体バラして、なんでそうなるの。グロい。私はぺちぺちとほっぺたを叩いた。微かに痛い、痛イいたい。
ふぐ………やっぱりなんでどうして?夢じゃ無いんだ。現実………。
現実。げ、現実………今現実…………ケロロロ、ケーロロロロ、大きな窓の外から時告げ鳥の声が聞こえてきた。始は早く、中は賑やかに、終はゆっくりとしたリズムのそれ。
私の中にあった全ての記憶が集まる、ケロケロけろけろけろろロロ!ケケケケケ!と頭の中で響いた鳴き声。身体が震える。ガバッとゴワゴワ織物を被って、石みたいなベッドの上にうずくまった。
「うわぁぁん!バラして薬になるなんてイヤァ!………エッエッエ………寝る!ねる!みんな出てってー!おうちに帰るぅぅ!」
☆★☆★☆☆
天野 のぞみは再び中に潜った、何も考えられない、そうしようとは思わない、帰りたいの一念しか無い。
彼女はこれからどうなる。