その1☆乙女の御霊は異世界転移をした!
天野 のぞみが終末の夢を見ている。人生の終わりの時に………
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人間死ぬ時は、走馬灯が見えるってホント。まさかの前世も出てくるのかな、魂の記憶なのかな…………。ふありと最後にそんな事をおもった。
お前は裏切り者
人間なのに魔物を守る
練習なのに、友達斬った
清らの力は………嘘だろう
何か狡い事をしたんだろ
はやしたてる声がする。最初の授業でどうしても出来なかった、斬れなかった、用意された魔物の子供を、それは薬草を食べされされ無抵抗だった。悲しげにしていた。
どういうわけか、学び舎で与えられた『剣』、至って普通のそれを持ち握り、邪気に対すると『清ら』とやらを放つ私に、妬ましいのかクラスメート達は、あからさまな嫌がらせをしてきた。
なので、剣術の練習だというのに、殺気を放ってきたクラスメートのそれを、そうとは知らずに受けて立った時、思いもかけず怪我をさせてしまった。周りの全てがそれを咎めた。
「どういう事だ、よりもよってクラスメートを怪我をさすとは、処罰を受けてもらうから、部屋で謹慎です」
はあ、何回説明したらわかってくれるのかな、この剣で斬るってのは『剣』が決めている、それに従ったらそうなる。無抵抗のモノ、敵意を、邪を向けてこないものは斬れない。なのでそれを向けられたら人でも斬ってしまうと私は反論をしたが、聞いてはくれなかった。
「それをなぜに宿せる、一族の名も持たぬ者が、国人と認めるわけにはいかない」
卒業を待たずに放校となった。頼れる身内もいない天涯孤独、たちまち人の暮らしの中からはじき出された。
途方に暮れてた記憶、違う世界の記憶がでてくる。
「…………あー、なんか落ちてるし」
「ほんまや、よう食べられんとおるなぁ」
「ん?これ………ボロボロだけど、なんか私らの匂いがするけど?違うよね、まあいい、力が有りそうだから拾っとこ」
行き倒れになっていた時に出会った二人組、生まれてこの方、初めて笑って話せる人達に出会った。癒やして助けてもらった、共に旅をしようと手を差し出された。
「全く、国人達って酷いわよね、ちょっとぐらいふっかけても大丈夫って、アハハハ」
彼女達は、もしかして泥棒なのか?と思っていたが、少しばかり斜めに世界を見ているだけだった。なのではみ出し者の私と波長があった。
三人で賞金稼ぎの旅をしていた、楽しかった。面白かった、そしてお偉い人達の目に止まった。一つの記憶が閉じる。
くるくると変わる。変わる。城の中にいる、目の前に誰かいる。その人と戦う事になっている。
その人の手に現れる双竜の剣。威厳がある、覇気も、戦うべく手に握る剣に力を込めた。リアルなファンタジーの世界、でもそれは一部を除いて、面白くも何とも無い記憶が閉じる。
ぐるぐる、くるくる進む、切れ切れに出てくるビジョン。景色も光景もキラキラ回って変わる。
黒い世界、何も見えない、たゆたゆと漂っている。心地よい生温さ、その中で一粒の鈍色の光がチロチロとあった、それにそろりと手を出すと、ニュルリと長細くなり腕に絡みついてきた。慌てて振りほどこうとするけど出来ない………。
気持ち悪!何これ。え!怖!目をさまさなきゃ!
くるくると変わる。見ている世界が変わる。音も何もかもが変わる。
♡♡ぴぴぴぴ、ピピピピ♡♡
「……………ハッ!怖!何あの最後…………、もう、またやな夢見ちゃった!ゲームのしすぎかなぁ。最近よく見るんだけど、ざまぁの人生最悪だけなんて、やーな夢」
私は、ぴぴピピうるさい携帯アラームを止めると、しばらくボーとして、慌ててフアフアなパジャマの袖を捲くる。夢の中の事を思い出したからだ。
「なんか気持ち悪いのが………、良かったー!何もない!あーあ、最近また見始めたのよね、それもあるキャラの最悪人生を体感、ふう、モネ、もふもふで癒やしてぇー」
ベットの上で背伸びをした。モネを抱きしめる。フアフア、ウクウーン、かわいいー、幸せー。そのまま天井に目をやる。
白いクロス、壁にはに林檎の花が散らしている壁紙、リフォームする時これにしてーって頼んだ私のこだわり。
「のぞみは小さい時から、かわいい物が好きだものねぇ、無地の方が飽きが来なくて、ママはおすすめだけど」
予算オーバーするのに、と言われたけど絶対に譲れなかったソレ、窓には探し回って買った薄い緑のカーテン、窓際の白い机、白いフレームの背の低いベット、フローリングには、丸いラグが敷いてある。
「うふふふ、夢がかなったー。生きてて良かった!私の部屋は『アンの部屋』、小学校の時に読んでこれ!て決めてたのよね。あー、幸せ、かわいい!」
フリルのついたベビーピンクのカバーが、かけられた枕を抱えて、ゴロゴロと布団の上で転がった。ファファのマットレス、軽い羽毛布団が身体にまとわりつく。目を閉じた、フカフカな世界の中に。それも夢。
コロコロ変わる、見ている世界が細切れに。
「見つけた、コッチに戻れ」
何?私は駅の階段をのぼっていた。後ろから耳の中に入る声、首に何かが絡みつく。そのままソレが力を込めた。
ふありと後ろに落ちた。わからなくなった。
――――ピッ ピッ ピッ…………
ザーザーと耳鳴りがするその中に聞こえる嫌な音。何だったの?首に手をやりたかったけど動けない。でも痛くて全てが冷たい。夢じゃない。声と音が歪んで聞こえる。
帰りたい、モネがまっている………うっすらと目をあける、見える真っ白な天井、息が苦しくて寒くて、お母さんとお父さんの声が聞こえる。
「気がついた?看護婦さん!目をさましました、ママよ、のぞみ、ねえ、ママここにいるわよ………」
ママは手を握ってるの。泣いてるの声はわかる、でも触られているのかな、何も感じない。私どうしたのかな、駅の階段のぼってて、後ろから引っ張られた………、落ちたの?痛いし寒い、寒い、寒い…………小刻みに身体が震える。
あ………、この感覚知ってる。一回味わった事がある。………死んじゃうの?私…………そうか、死んじゃうんだ……………。
ああ、人間死ぬ時は、走馬灯が見えるってホント。まさかの前世も出てくるのかな、おかしいのも見てたよ、魂の記憶なのかな。
優しいパパとママと友達とモネと、違う、違う私のイヤな事も色々に、ゴチャゴチャと楽しい事も忘れていた事もポロポロ出てた。
………いっちゃだめって言われてるけど、ムリだ、どろりと眠りたくなって来たから。なのでママ、パパごめんなさいと謝った。
眠りに落ちる、何かが手を差し出してきた。おいで、と囁くような声、息をするのがとっても苦しかった私は、その手を掴んだ。するりと抜けて行く、さらりと軽くなる。
落ちる、落ちる下に下にと引き込まれていく。
カラカラ、枯れ葉の様に回りながら、落ちていく落ちていく………オチテイッテ…………ズン、と重さを感じた。
…………ここどこ?なんか、かたい、かたーい、何もかもが、堅い固い硬い、おもーい重いオモイ…………敷布団も何もかも、私はギシギシ軋むように目を覚ました。アレレレ?死んだような感覚があったのだけど、寒くない。
「ん?ここ………、え!何?これ!うそ!」
うそお!自分の『声』に驚いた!おおおおおおー!
オッサン?パパ?オッサンみたいな…………え、ちょっと待て待て?違う、じゃない!ここここ、これは………
うそうそ嘘おぉん、いややぁぁあ、夢!ゆめなの!ぎゅっと目を閉じ言い聞かせる。どういうこと?どういうことなの?この声って、あの嫌な夢の中………。
イヤイヤ違う、絶対に違う!名前、なまえよ!
天野 のぞみ、十七才、かわいいものが大好きで、パパとママとチワワのモネ、友達沢山いる!
マール、それだけ一族の名は無い、産まれた日が不明だから、年なんかわからん、天涯孤独、はみ出し者。
違!えええええー!記憶が一つ、二つ、三つ………ポツリポツリの後、激流が…………来た!え、えええ?確か刺し違えて、イヤイヤまてまて、ちょっとまて…………寝返りをすると、身体のサイズが大きくなっているのか感覚がおかしい。
うそぉぉん、どうしよう、どうしよう………ママ、私は泣きそうになりながら、目を閉じたままでとりあえず右手で左手をさわさわしてみる。
う、デカイ!ガサガサだよ…………記憶が蘇る触り心地…………、手の甲に引きつった傷跡。えと、私の世界じゃドラゴン?みたいなの、ソレが蘇る。うそぉぉぉ、さらにかたく目を閉じて首に、げ!太!太い!鎖骨!硬そうで太!
そんなバカな事はナイの!と緊張しながら、胸に手を運んで、サワサワサワ………嘘ぉ!ないー!ある筈の胸がない!どうして?なぜ?
平面?かった!板!これでも大きい方だったのよ!着ている服の下に手をやるのは怖かった。ドキドキとする…………まさか、マサカ…………。
迷いながらそれでも気になるし、う、恥ずかし…………でもマサカ………否定しつつも興味があったのと、怖いもの見たさもあって、決定的証拠を確かめに、恐る恐る下腹部へ。え、ええええええええー!
「うきゃぁァァァ!あ、あ、あ、あるぅぅう!嘘!イヤ!触っちゃったぁー、ま、ママ!ママぁ、うわァァァン、どうしょう、ママぁぁぁ!」
いやぁァァ!声が、パパ?オッサン、おっさんよぉぉ!ママ、ママ、パパ、パパ!おうちに帰りたいぃぃいー!助けてぇぇ、ママ…………私はパニックになり、わんわん大声で泣いた。
聞こえるのは大人の男の泣き声。確かに私の今の泣き声。
「うわぁァぁぁん!ママァァァ、おうちに帰るぅぅ!」
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令和に花開いていた麗しの女子高生が、異世界へと戻ったのか、戻されたのか…………それは神のみぞ知る事。
彼女はこれからどうなる!