黒薔薇令嬢は己の変化に困惑する
異世界日間13位、ブクマ200件ありがとうございます_:(´ཀ`」 嬉しすぎます…励…
今回は補足文が多く、レオンフェルトが中々…
出せず…すみません…
「お、王弟殿下!?」
と、廊下にアルトリアの声が響いた。
高天井作りの廊下は思っていた以上に声が響き、アルトリアは慌てて周りを見渡す。
ーグランニ・エル・レオンフェルトは、
現国王 グランニ・エル・レオナルドの弟である。
兄であるレオナルド王とは真逆の優しい性格として知られているが、兄弟仲はよく、 王を弟として家臣として支えていた。
三年前に隣国の第ニ王女がレオナルドの正妃として輿入れした際、入れ替わりに外交官として出向いた。結婚は未だしておらず、その風貌か、常に未婚女性の憧れの的となっていた。
だが、女性関係の噂は立たない為、裏では仕事バカだの叶わぬ恋をしているだの憶測で好き放題に言われているのも事実であった。
アルトリアは筆頭侯爵家に属する高位の人物であるが、王弟であるレオンフェルトに正式に謁見したことは無かった。
五歳の時にロレンツォと婚約を結んだ時、国王夫妻とは顔を合わせたがレオンフェルトは体調不良を理由に欠席をしていた。その後も数回王家と侯爵家が一緒になる機会はあったのだが、レオンフェルトはそのどれにも出席をしていない。
唯一は三年前、レオンフェルトが隣国であるフェルドール氷国に行く際開かれた舞踏会で、遠くから顔を見かけた事があるだけだ。
あの日も国内全ての貴族が招待されており、人数の都合一対一での挨拶の場は設けられてらいなかった。
広いホールの端から王家の高段の席までは距離がある為、アルトリアにはその金の髪とエメラルド色の瞳の色だけしか認識することが出来なかったが、アルトリアはようやく顔を拝見することが出来たレオンフェルトに少しばかり興奮していた。
だから、思わずその姿を数分注視してしまった時にレオンフェルトと目があった気がしたのはその日の思い出として記憶に残っている。
また、その時レオンフェルトが舞踏会を早々に退席したことも、だ。
アルトリアは一度父親にレオンフェルトの体調について尋ねたことがあった。理由は、何か重い病気なのだろうか、と考えたからだ。
が、「まあ、あのお方も色々あるのだ…」と困った顔で返答を濁されアルトリアはそれ以降その話題に触れるのをやめた。
「おっ、王弟殿下!
数々のご無礼を、お許しください…!」
そんな訳で、レオンフェルトの今までの体調不良による欠席やら退席を主な理由とし二人がきちんと顔を合わすのは今日が初めてなのであった。
であるからして、アルトリアの動揺は尋常ではない。
これが自分より下位のものであれば、ある程度の対応はできたかもしれないが、相手は筆頭侯爵令嬢のアルトリアからしても高位。
アルトリアは今の「お姫様抱っこ」状態の自分に対し先の涙がすぐに引っ込み、代わりに冷汗がでくるのを感じた。
そして、
「この…あのっ…
お、おろしていただけませんでしょうか!?
この程度でしたら侍女を呼んで家まで帰れます。
わざわざ、王弟殿下のお手を煩わすことは…」
と言葉しどろもどろではあるが懇願した。
すぐにレオンフェルトの首に回していた腕を外し胸から距離を置こうとするが、少し勢い付いてバランスを崩してしまう。
ぐらつきレオンフェルトの腕から抜け落ちそうになる。
「あっ…!」
「…よっと。」
落ちる!と思ったが、細身のアルトリアをレオンフェルトは何事もなかったかのように軽々と抱き抱えなおした。
アルトリアは咄嗟に自衛本能がでたのか、先程よりも逆にレオンフェルトに密着し抱きつく形となってしまう。
レオンフェルトの首に腕を回し更にいたたまれなくなったアルトリアの顔は、少し俯き加減だ。
アルトリアがその時顔を上げていたら、アルトリアとの密着加減に目を見開き、動揺するレオンフェルトの面白い赤面顔が見れていたことだっただろう。
「アルトリア嬢。
私と貴殿はまだ正式に会ったことはありませんでしたが、貴方は私の甥ロレンツォの婚約者であるのですからもはや家族も同然です。
だから、かしこまらないでください。
それに、困った女性に声を掛けるのも、
男としては当然の事です。」
俯くアルトリアの頭の上に、
レオンフェルトが優しく言葉をかける。
アルトリアは、レオンフェルトはアルトリアのことをロレンツォの婚約者としてしっかり認識していることに驚いた。
だが、それと同時に「婚約者」という言葉を聞き、自分の今の立場を思い出す。
ー先程、自分はロレンツォと婚約を破棄したのではなかったか…?と。
「…王弟殿下!あの…私は、もう…あの…」
「…?
どうされました?」
アルトリアは一瞬、正式に告知されていないことを今この場で告げていいものかと思い悩み口にするのをためらった。
が、この事でレオンフェルトとの無関係性を誇示すれば彼の腕から逃げ出せる可能性があるのは確かだ。
この時のアルトリアは、ロレンツォとの婚約破棄を告げた後にレオンフェルトがどんな行動をとるのかを全く想定できていなかった。
「ロレンツォとの婚約」という枷が外れた、
自由の身のアルトリアにー
「私、実は…
ロレンツォ殿下との婚約の話は破談となりました…。
ですので、
私は…王弟殿下とは…」
「…えっ…。
それってどういう…」
「アハハハッ!」
レオンフェルトがアルトリアからの思わぬ返答に追求しようと口を開きかけたその時、廊下の奥から男女の陽気な笑い声が聞こえてきた。
ハッ!とレオンフェルトとアルトリアが声のした方を見るとメインホールから1組の男女がワイングラスを片手に肩を組みながら歩いてきた。足元のふらつきからみて、悪酔いをしているのだろう。
二人はまだアルトリアらには気づいていないようだ。
「アルトリア嬢。
今日の舞踏会用に、私の控え部屋が近くに用意してあります。
一度そちらに運ばせていただいても…?
怪我の手当てが先決ですが、
このままこの場にいては悪目立ちしますから。
まだ、未婚の貴方が私といるのをみられては変な噂になりかねませんし…
…。
ん?まて。
いや…ありか?
私は全然ありだ…
むしろ…
噂になれば、
あの親バカ宰相も諦めてリアを私に…」
「王弟殿下?」
急にレオンフェルトが小声になったので、アルトリアは不安になって声を掛けた。
酔ってはいるようだが、貴族と思われる男女のカップルはこちらの方角に確実に進んできている。
「…!んんっ、失礼!
では、アルトリア嬢、しっかり私につかまっていて くださいね。」
「…はいっ!」
ひとまず、酔っ払いとはいえ人にこの様子を見られるわけにはいかないのでアルトリアは承諾の返答をした。
それを聞いたレオンフェルトは、
よろしい。では、行きますよ、とアルトリアに優しいエメラルドの瞳を向ける。
その瞳とアルトリアの瞳がぶつかった時、アルトリアの心臓の鼓動は急に速くなった。
どうして、こんなにこの方の言葉や瞳に自分の心が揺れるのだろう、
とアルトリアの心には新たな疑問が生まれる。
今までのアルトリアはロレンツォの婚約者として、筆頭侯爵令嬢として手本であろうとしてきた。
動揺した顔など、親ですらみたことがなかっただろう。
だが、このレオンフェルトに出会ってからはどうだ。
(私…
どうしたのかしら…?)
アルトリアは自分でも困惑し続けていた。
そんなアルトリアをよそに、レオンフェルトは今度は拒絶せずにアルトリアが自分の体に身を任せてくれているのを感じて、彼女に満面の笑みを浮かべてみせる。
ーその顔をみたアルトリアの鼓動が、
また、スピードをあげたことも知らずに。
お読み下さりありがとうございました!
*告知になりますが、@to_ra_jiをとらじ。のなろう垢として開設しました!イラスト等黒薔薇関連UPしております!お暇がありましたら…(*´ω`*)