王弟殿下は初恋を実らせる
更新遅くなり、申し訳ありません!
十年前のあの日ー
グランニ王国王弟レオンフェルトは甥にあたるグランニ・エル・ロレンツォの婚約者に選ばれた少女に会うべくペンドルトン侯爵邸に足を運んでいた。
遅れて兄夫婦とその息子たちが到着する予定だ。レオンフェルトは一人だけ早く着きすぎてしまった為、庭園を散策させてもらうことにした。メインを差し置い
て先に世話になるのもおかしいと思ったのだ。
侯爵邸の庭はリディーティア夫人がデザインしたらしい。レンガの小道を行けば可愛らしい置物が所々に置かれているのが目にとまる。ピンクや黄色で統一された花が咲き誇り、女性らしい雰囲気の庭園となっていた。そんなメルヘンチックな庭園に男一人で歩いていても違和感の無い男、それがレオンフェルトという男であった。
だから、そこにいた幼い少女も知らない男性が歩いてきても恐怖を感じなかったのだろう。
レオンフェルトも、自分の歩く道の先に女の子がうずくまっているのが見えた。
なぜか手で頭を隠しており、顔は隠れていて見えなかったが着ているドレスのとても上質の様子から見て貴族の子だと見てとれた。
ペンドルトン侯爵家には三人の子供がいるが二人は男の子。レオンフェルトは、おそらくこの子があの宰相が溺愛してやまない娘なのだろうと思った。
だが、だとしたら今彼女がこんな場所にいてはまずいのではないだろうか。
これから兄夫婦であるグランニ国王と王子たちが会いにくる目的は、何を隠そうこの女の子なのだから。
レオンフェルトが足音をさせながら近づいても、少女は顔を上げなかった。
「大丈夫かい?もしかして、具合でも…」
「み、見ないでくださいっ!」
具合でもわるいのか?と思い切って声をかけてみると、見ないで、と拒絶を露わにされた。
少女は更に頭を抱えこもうとする。
顔を見られたくないのだろうか。
それとも、今日のドレスが気に入らない?
彼女が着るクリーム色のドレスはシフェン生地で、子供にしては大人っぽい雰囲気であった。
「そんな顔を隠さないで。
おかしなところなんて何処もないよ。」
レオンフェルトは、ほら、とそっと少女の固く閉ざした腕に優しく触れる。
「…みが変なの…。」
「ん?」
「髪がね、変なの。
ティア母さまも、父さまも赤いのにね…
リアの髪だけ真っ黒なの。」
そう答えながら顔を上げたリアという少女の顔を見て、レオンフェルトは固まった。
この子は何を言っているのだろう…
何処も変なところはない…
むしろ、完璧すぎた…
幼いながら可愛いではなく、美しさを備えた容貌。
リアが嫌だという黒髪は艶やかでその髪だけでも虜になりそうだ。先ほどドレスが歳相応でないな、と思った理由が顔を見てわかった気がする。彼女の母親は娘の輝かせ方を、よく理解しているらしい。
そして、涙を端に滲ませたアメジストに輝く瞳ー
「これから、こんやくしゃ、という人に会うの。
母さまも父さまも私の事を可愛いリアと言ってくださるけれど…それは家族だからだってわかってるわ。
だから、怖いの…そのこんやくしゃさまにどう思われるか…この庭に咲く花のように、リアの髪はキレイじゃないから。」
リアは喉の詰まりが取れたかのように話し出した。
きっと、家族以外の誰かに聞いてほしかったのだろう。レオンフェルトは、優しく目を細め、リアの顔にそっと手を触れる。
この美しい少女の笑った顔が見たいと思った。
どうしたら、その顔に笑みが灯るのだろう。
「この庭の花も確かに綺麗だ。
でもリア、君の髪はどんな花よりも美しいよ。」
慰めたいと言う思いもあったが、ほとんど本心からの言葉がレオンフェルトの口から溢れた。
「ほ、ほんとうに?」
ああ、何故こんなに胸が高鳴るのだろう。
この少女の目が輝きを取り戻すのを見て。
笑顔をずっと見ていたいとそう思う。
「ほんとうだよ。
ほら、私を信じて。」
その日レオンフェルトは胸に痛みを感じたと言う少し不明瞭な理由で、顔合わせを急遽キャンセルした。
この時はまだ、その痛みを恋をして生まれる感情だとは知らなかった。この男は今までそんな痛みを伴う感情を、感じたことがなかったのだ。
だが、数日後に兄夫婦からアルトリアが正式にロレンツォの婚約者に決まったと聞いたとき、レオンフェルトは理解した。
ロレンツォにはリアを渡したくないと強く願ってしまった自分がいたのだ。
フェルドールへ行くことが決まるまでの数年はアルトリアを避け続けた。時間が問題を解決してくれるかもしれない。と、心の何処かで期待していたが、かえって恋心を拗らせただけであった。覗くなと言われると覗きたくなる心理に似て、会わなければ会わないほどレオンフェルトはアルトリアの顔を見られる日を切望した。
フェルドールへ行く前の日に行われた舞踏会は王家主催でありレオンフェルトが主役であるため、簡単に席を外すことは出来なかった。
遠くからでも参加した貴族たちの中で一際輝くアルトリアはすぐにわかった。
その時、彼女もレオンフェルトを見ていたように感じたのは気のせいだったか。
フェルドールへ行った後も、この舞踏会の日のことをレオンフェルトは日々の糧とすることになるのだが…
留守を任せていたヨハンに「ロレンツォ様の婚約者殿の事をよくお尋ねになりますよね。」と手紙の返信を貰ったのはグランニを発ってすぐのことである。ヨハンもヨハンで、忠実にペンドルトン侯爵に娘のことを尋ねるものだから侯爵に疑いの目で見られ、すぐに白状することになる。
それから数日後。
侯爵にバレました、というヨハンの報告と共に筆頭侯爵家の印が押された封書が一緒にレオンフェルトの元に届く。
恐る恐るあければ、そこには
「レオンフェルト殿下、
フェルドールへ赴かれても我が国の王弟であること
に変わりはなく。」
と記されていた。
一見、フェルドールへ行かれてもあなた様はグランニ王国の大切な方と言っているようにみえるが、ことの流れからして…これは忠告であるとレオンフェルトはふんだ。
ー王弟としての立場を忘れるな、と言うことか。
ベルナルドは元々第二王子と娘アルトリアの婚約を望んではいなかった。そんな彼に一線を越えさせたのは宰相としての立場だろう。これから先、権力争いの場に娘を巻き込みたくなかったのかもしれない。下手に今王弟に首を突っ込まれて娘の未来がはちゃめちゃにされては大変だ。ましてや、歳の離れた中年男になどー
だが、戻ってみれば状況は一変していた。
大事な娘を託した男が数年後、謀反者になっていた。
レオンフェルトにとっては、ある意味で事態は好転していたと言えよう。
レオンフェルトは以前の侯爵の言葉を逆手にとる。
ーこの時点で第ニ王子に対抗できる権力があり、
尚且つアルトリアを幸せにできるのは「王弟」の私だけだと。
今、レオンフェルトの十年の秘めた願い、
ただ彼女を自分のものにしたいという願いが叶おうとしていた。
本当はあの日からずっといつも笑顔でいてほしいと思っていたが、自分はまた泣き顔を見てしまったな、と苦笑しつつ。
また、リアが笑顔になるにはどうしたらよいかー腕の中の愛しい人を見つめながら彼は思案した。
お読みくださりありがとうございました!
明日、最終話をアップさせていただきます!
(今度こそ本当なはず←)
よろしくお願いいたします٩(^‿^)۶




