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黒薔薇令嬢は今宵手折られる  作者: とらじ。
15/20

黒薔薇令嬢はその名にかけて誓う



第二王子ロレンツォは、その場から動かず立っていた。彼自身、男爵に加担した罪人であるが衛兵たちは王家の身分の者を拘束すべきか躊躇していた。レオンフェルトの命をまつばかりだ。


「アルトリア…何故…

何故、そいつには愛称でよばせるのだ…」


男爵とその娘の姿が完全にホールから見えなくなり、しばらく静寂が辺りを包む。


それを破ったのはそんなロレンツォの心の声だった。


自分には、何年経とうと呼ぶことが出来なかったアルトリアの愛称。レオンフェルトに対しての悔しさと、呼ぶ事を許さなかったアルトリアへの怒りがこみ上げてくる。


レオンフェルトはロレンツォがアルトリアに思いを寄せている事を知っていたので、彼女を彼の前に出す事を躊躇った。が、アルトリアはロレンツォときちんと話をすべきだと思いレオンフェルトに頷いてみせた。


「ロレンツォ殿下…」

お久しぶりでございます、とレオンフェルトの後ろから前に一歩アルトリアは進み出た。


「ア、アルトリア!


そいつはお前を…結婚を駒としてしか考えていない男だぞ。」

「この婚約を受け入れる際に全て聞き及んでおります。」


第二王子の必死な反論を、アルトリアは冷静に受け止め答える。


まただ、とロレンツォはさらに怒りを覚える。何故、自分にはこのような表の顔しか向けないのだと。入り口でレオンフェルトに向けていた自然な笑みをロレンツォにはみせないのか。






「では、この噂は聞いたか?



王弟レオンフェルトには、十年前から恋慕う女性がいると言う噂は。」

まだ、あるぞ。とロレンツォは続ける。少しでもアルトリアが自分に興味を持てば良いと期待しながら。

「…!…そ、それも、存じています。」

ー嘘だった。アルトリアはそんな話は知らない。

レオンフェルトに秘めた思いを寄せる相手がいるーとは貴族の噂で聞いたことがあった。が、どれも十年前など言う具体的な言葉はなく信憑性にかけていた。

初めて少しだけ、アルトリアの心が揺れる。


ロレンツォはアルトリアの瞳がほんの少し揺れたことに気づき、にやり、と口元を歪ませた。

男爵と手を組む前の方が、アルトリアを手に入れられる可能性はあったかもしれない。今は全てがロレンツォにとってマイナスの方向へ働き、彼女は自分ではない男の隣に寄り添っている。


だが、まだもし、可能性があるとしたら…


「憐れな女だな、アルトリア。


俺なら、お前を!

お前だけを愛して妻にしてやれるぞ!アルトリア!


さあ今、俺の手を取れ!」


ロレンツォは、手をアルトリアに差し出す。

さあ!、と。

それは、まるで子供に対して飴をやるからこっちへ来いと誘っているかのような態度だった。








アルトリアは、その手を一瞥することもなかった。

背筋を伸ばして、ひたすらに真っ直ぐな視線をロレンツォに向けた。



「…殿下」


そして言葉を、彼女自身に言い聞かせるように発する。


「私は例えこの婚約が契約の上に成り立つものであるとしても、レオンフェルト様が望む限りお側におります。


そして、レオンフェルト様が他の方を望まれるのであれば私はこの立場を退きましょう。





ペンドルトン・フィス・アルトリアの名にかけてー」

ホールに凛とした声が響いた。

誰もがその美しさに、ハッとなる。




「何故、何故そこまで、その男に!」

「…レオンフェルト様は、本当の私…侯爵令嬢でない私に、微笑みかけてくださったのです。だから、私は…」



「…アルトリア。」

レオンフェルトの顔を頭に思い浮かべたのだろうか、アルトリアはロレンツォが一度も見たことがないような表情をみせた。

恥ずかしそうに、だが、とても幸せそうな。








ーああ、そうか。

と、その顔を見てロレンツォは悟る。









「手折られぬ黒薔薇」ー


そう呼ばれていた彼女は、ずっと手折られる事を望んでいたのか。

皆に賞賛されながらも折られずにただ朽ちていく花ではなく、

誰か一人に必要され、愛される事を。

そしてその誰かとは自分ではなく、今アルトリアの隣に立つあの男。


レオンフェルトだったのだとー






「…衛兵、第二王子を拘束しろ。」

「ハッ。」

二人の様子を見ていたレオンフェルトは、ロレンツォが諦めの表情を浮かべたのを見て間に入った。男爵達のように牢に入れろ、と命じなかったのは供述をしたことへと叔父としての恩赦だろう。

ロレンツォはもう何も言わなかったが、ホールを去る最後までアルトリアを見つめ続けていた。











「余興は、ここまでだ。

皆、祝いの席を楽しんでくれ。」

パンパンッーとレオンフェルトが手を叩き、静まったホールに音を取り戻す。

初めは固まっていた貴族らも、気を利かせた演奏家たちの音楽で次第に解れホールは普段通りの舞踏会へと戻っていく。

内心皆、先程の出来事に冷や汗が出ていたが、そこは貴族の得意技。作り笑いと膨大に抱えた噂話で「普段通り」の場を皆で装っていた。





「リア、一旦控え室にもどる?」

舞踏会の直前にも念のため、と薬を含んでいたアルトリアを気遣いレオンフェルトは提案する。だが、アルトリアは、首を横に振った。

「少し場の熱に当てられてしまって…テラスに出たいのですが…」

レオンフェルトはアルトリアを座らせたかったが、アルトリアが下からダメでしょうか?と聞いてきた為、そんな願いを無下にする事はアルトリア命の彼には出来なかった。






残り、3話の予定です!(予定は未定)

よろしくお願いします!


**R15表現が本編に盛り込まれるか、微妙な雰囲気ですが念のため規制させていただきます。**

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