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黒薔薇令嬢は今宵手折られる  作者: とらじ。
14/20

王弟レオンフェルトと二通の手紙

昨日は更新が間に合わずすみません(_ _)

最終回に向けて、よろしくお願いします!




「まあ、伯爵夫人ごきげんよう。」

「あら、ステキなイヤリング。どこでお買い求めになりまして?」

「聞きまして?辺境伯のあの事件…」



そんな、挨拶や噂がホールに飛び交う。



豪華なシャンデリアに料理、宮廷演奏家の奏でる美しい音楽。グランニ王国王弟の婚約発表と祝いの席だということで全て抜かりはない。そこに集まった貴族らも各自負けじと持ち得る財を用い、煌びやかに着飾っていた。


皆、第二王子の婚約破棄の発表があった時は貴族間の均衡が崩れるかと心配したが、ペンドルトン侯爵家の令嬢を無事レオンフェルトが手に入れたと知り安堵していた。もし自分以外の貴族がペンドルトン侯爵家の権力を手にしていたら、と考えると今でも皆鳥肌が立つ。婚約破棄の騒ぎがそれほど大きなものにはならなかっのもその侯爵家の力を恐れてだ。皆が牽制しあい、平衡を保ち、今日にいたる。



ワイングラスを片手にいつもは作り笑いをうかべる彼らの今日の朗らかな顔も、あながち嘘ではないと言えよう。



「グランニ・エル・レオンフェルト殿下 ならびに ペンドルトン・フィス・アルトリア嬢の御入場〜」


ホールによく通る声でコールマンがその名前を告げると、皆の目は一斉に入り口にそそがれた。

愛しくて堪らないという感情がだだ漏れの王弟殿下と、それに安心して身を委ねる侯爵令嬢アルトリア。


レオンフェルトとアルトリアは未だ心を通わせていなかったが、側からは二人がまるで元から恋人であったかのように見えた。

レオンフェルトは正装の軍服、肩から上質なビロードのマントをかけてなびかせる。

一方、黒薔薇アルトリアは髪をハーフアップにまとめ、先日バロン商工会にて仕立てたエメラルドグリーンのドレスを優雅に纏っていた。

その二人をみた人々は、皆ほうっ…と感嘆とため息をついた。

そんなアルトリア自身もレオンフェルトの出で立ちに胸を高揚させ、片やレオンフェルトもアルトリアが自分の色を纏っているのをみて言葉が出なかったのだが。


一歩一歩、ヒールを履くアルトリアに合わせゆっくりと足を進めるレオンフェルト。手は彼女を引く手と腰にしっかり当てられている。そんな微笑ましい二人に皆が道を開け頭を下げて礼をした。


二人もそれに柔らかな目で答える。

誰もが、この二人の幸せな未来とまたこの国の安泰を確信した。






いや、誰もがというのは、語弊があったかもしれない。


このホールで皆が二人を祝福する中、あおい顔をして見る男が一人いたー


「おや、ダイス男爵。

顔色が優れないようですが…ご気分でも?」


驚きのあまり礼も取らず立ちすくみ道を塞ぐ男にレオンフェルトは言葉を投げかけた。

「こ、これは…王弟殿下…いや…私は。」

男の目はレオンフェルトの横に幸せそうに立っているアルトリアに注がれていた。

その不躾な視線にレオンフェルトは思わず舌打ちをしそうになったが、すっとアルトリアを自分の後ろに隠す。


「私の婚約者に何か?


まさか、私の隣に、アルトリア嬢がいるはずがないと?そう驚かれているのかな?」


アルトリアがここにいるのがそんなにおかしいことなのか?返答を詰まらせたダイス男爵にレオンフェルトは更に質問を重ねる。


アルトリアが国定公園で、薔薇の棘により倒れかなり危うい状態であったのは事実であった。

が、レオンフェルトとベルナルドはその事実を隠した。


そう、こうして、ダイス男爵を炙り出すために。


「お父様、どうなさったの?」

ただ苦い顔をして返しを思案する男爵のそばに、金髪を揺らし派手なドレスを纏う娘マリアンヌと彼女に連れ添う第二王子が姿を現した。

マリアンヌはレオンフェルトの姿をみて顔を赤らめ殿下!と声を上げたが、後ろにいるアルトリアをみて目を鋭くさせた。

「まあ!あなた、毒に倒れたのではなくて?

よくもまあ、王弟殿下の横に堂々と…

まさか、自作自演でしたの?」

毒という単語に周りの貴族の空気が不穏なものとなり、皆聞く耳を鋭くした。


マリアンヌは、自分の言葉が自分の首を絞めていることに全く気づいていない。

彼女が言葉を連ねるたびに、父親であるダイス男爵は怒りと焦りを混ぜた目を娘に向け、逆にレオンフェルトはしてやったりと口元をあげた。



「マリアンヌ嬢、その話はどちらから?」


アルトリアに起きた事件は被害者側と目撃人からは口外されていない。であるからして、それを知っているものは事件を起こした本人のみということになる。


「父から伺いましたの。でも、その様子から見ると嘘だったようですわね。殿下もその女にはお気をつけ下さいませ。」


マリアンヌは、レオンフェルトに声をかけられたことに高揚し更に失言を続ける。



「おかしいですね。


…アルトリア嬢はたしかに五日前、国定公園にて何者かの差し金により薔薇の棘に毒を盛られました。

だが、このことは一部のもののみが知るところのはず、何故、何の関係も無いはずの男爵がご存知なのですか。







ああ、そう言うことか。」

レオンフェルトは芝居がかった口ぶりでひとり分かった、分かったと頷く。


「貴方が、それを指示した。だから、知っていたんだな?」


「で、殿下。


それは、こじつけもいい所でしょう!」


レオンフェルトにはっきりと詰め寄られたところで、男爵はようやく証拠はないはずだ、と声を上げた。

男爵はそう言ったところでは妙に頭の回る男であったので、彼のいう通り今の時点で証拠は出ていなかった。




だが、レオンフェルトは余裕ある表情を崩すことはない。

「2名の証言者が名乗りを上げていますよ…

ダイス男爵、貴方が共犯者であるとね。



一人は、アルトリア嬢に薔薇を渡した実行犯。

ダメですよ、よく知らない男に金を握らせて…」


国定公園でアルトリアに薔薇を握らせた男は、あの後ヨハンの手により逮捕されていた。

彼はレオンフェルト自らによる取り調べへの精神的苦痛と、ヨハンが見せた拷問道具により口を割と早い段階で割った。髭面の男に、酒場で金と薔薇を渡されたと。


「…犯罪者と酔っ払いの戯言を信じるとは殿下も…」

「忘れたのか、男爵。


私は証言者は「二人」いると言ったはずだ。」


レオンフェルトの話を聞いていた男爵はまだ逃げ道があると心のどこかで過信していたが、その一言でそれが断たれたことを知る。


「また、何処の輩の話でしょう?」

「いや…もう一人は、あなたもよく知っているだろう。




私の甥の、グランニ・エル・ロレンツォだ。」


その名前を聞いた男爵は、まさか…と呟きこれでもかと見開いた目を自分の娘マリアンヌの隣に立つ男に向けた。

ロレンツォはそんな男爵の様子には気づいていない。彼の目はただ、一心に自分の叔父の後ろに佇む少女に注がれていた。





あの夜、マリアンヌからダイス男爵の行き過ぎた行為をしったロレンツォは自分の愚かさを恥じた。そして、翌日の朝早く、王弟レオンフェルトへ話がしたいと遣いを出した。意外ににあっさりとレオンフェルトは自室にロレンツォを迎え入れ、彼の自白を黙って聞いていた。彼はすでにロレンツォの動きを分かっていたのかもしれない。

ダイス男爵の今までの行いと舞踏会での陰謀をロレンツォから聞いたレオンフェルトは、すぐに二通の速達を書いた。

一つはペンドルトン侯爵宛に、もう一つは隣国フェルドールに向けて。


「ロレンツォ様が?お父様を?

ちょっと、どういうこと?

私はこの国の王妃になれるはずではなくて?」

「お前は黙っていろ!マリアンヌ!」


未だ理解しない情けない娘に、親の男爵の怒りも遂に頂点に達した。さすがのマリアンヌも始めてみる父の姿に恐れをなしたようで口をつぐむ。


「あの…あの毒は、簡単には抜けない…。

この国には解毒剤はない。そう聞いた。



なのに、何故?」

「ああ、あれには苦労しましたよ。

初めは何の毒かすら分からなかった。





だが、貴方自身が教えてくれたんですよ。」

「私が…?」

男爵は全く身に覚えはないと言う顔をした。

そんな失態をするはずがないと。


「えぇ。




ーどんな花にも毒があると、ね。」



その一言をロレンツォから聞いたレオンフェルトはある答えに行き着き、フェルドールで世話になった将軍 ヴィグトル に手紙を出す。フェルドールには植物学の権威がおり、レオンフェルトの読み通りそれが花の毒であれはその男なら解毒できると。また、ザナドゥの兵の情報も付け加える。グランニ王国に入るためにはフェルドールの山を越えるだろうと。


そして、レオンフェルトの考えは正しかった。


三日前、つまりアルトリアが倒れて二日目の夜。その解毒剤が無事早馬でとどけられた。返事の荷物には共に植物から出来た回復剤も送付されておりそれを口にしたアルトリアはこうして舞踏会に出れるまでに体調を戻した。

二日寝込んだ為完璧な健康体に戻った訳ではないが、婚約者として侯爵令嬢としてここに立たなければというアルトリアの強い意志と、レオンフェルトの支える手を信じ彼女はこの場にいた。


「ザ…ザナドゥの兵は?!

わたしにはまだ味が!」

「ああ、あなたの味方だと言っている方々でしたら、フェルドールの軍に恐れをなして自国に引き上げたそうですよ。」

「…」



もはや、男爵に残された手はなかった。

男爵は何も言い返さず、己の策略が全て失敗に終わったことを悟った。


「衛兵、この者たちを捉えて牢に入れよ…。」

王弟レオンフェルトは、冷たい声色で命令を告げた。はっ、とレオンフェルトのそばに控えていた兵たちは俊敏に動き男爵と娘マリアンヌの手を拘束する。


「ちょっと、触らないで頂戴!

私は、王子の婚約者で、未来の王妃なのよ!

罰を受けるのは、私をいじめたあの女の方じゃない!殿下までたぶらかして!」


「衛兵!」

アルトリアにマリアンヌの暴言の矛先が向いた瞬間、周りにいた皆は空気が氷点下に達したのを感じた。


「…目障りだ。




早く連れて行き、その女を二度とリアの前に見せるな。」


「御意。」



マリアンヌはまだ何か叫んでいたが、衛兵はこれ以上レオンフェルトの怒りを買うまいと命令通り速やかにその場を立ち去った。








お読み下さり、ありがとうございました!

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