黒薔薇令嬢は芽生え始めた感情に気付く
相変わらずのストーリー展開のろまですが…
よろしくお願いします。
それから数日、アルトリアは侯爵家の敷地から出ることなく生活していた。
もともと必要以上な社交はしていなかったアルトリアにとっては今までと何の変わりもなかったが。
アルトリアとロレンツォの婚約破棄と、レオンフェルトとの新たな婚約は王の名の元に受理された。
婚約の正式な公表は後日開かれる、王家主催の舞踏会でされることとなっている。
アルトリアは家にこもっていたため皆の噂を直接聞く事はなかったが、父ベルナルドからその一部を訊ね聞いた。それは、「王弟殿下がついに拗らせた初恋を実らせる!」「秘めた遠距離恋愛、三年の時を経てついに!」だのかなり貴族達がおもしろおかしく盛った内容ではあった。
好意的に受け入れてもらえるのであればよい、とアルトリアは自分の判断が間違っていなかった事に安堵する。下手な噂が立ち家族が中傷に巻きこまれてほしくはなかったから。
既にあの日の舞踏会でペンドルトン侯爵家を蔑ろにする発言をする第二王子の暴挙を見聞いていた貴族らは、「第二王子側には味方すまい。」と心で決めていた。
王家に匹敵する力をもつペンドルトン侯爵家ー
レオンフェルトとベルナルドの読み通り貴族達は簡単に圧力に屈した。
一部、年頃の娘を持つ貴族の親達は優良物件であった王弟の婚約に顔をしかめたが、逆にその娘達から「黒薔薇令嬢のアルトリア様でしたら仕方ありませんわ!」と力説されて最後には説得されてしまっていた。
周りの反応が良いからと言って、自分はただ待っているだけで良いのかとアルトリアは心配になる。
午後のティータイムを一緒に過ごしていた母リディーティアにアルトリアは尋ねてみた。何かすべきことはないのかと。
侍女達が庭に用意したお茶を囲んで、リディーティアは暖かな日差しをうけながら微笑む。
「リアちゃん!
あなたは今まで通り家にいて、こうしてお母さまと一緒に過ごしてくれればいいのよ。
まあ、悲しいかな嬉しいかな…
それも殿下が迎えにこられるまでの話になるでしょうけれど…
まあ、とにかく、難しいことはあの男共に全部任せておけば大丈夫!
一見二人ともヘタレだけど、いざとなったらものすごーく頼りになるから!
頼りになるといえば…
そうね…
あの人も昔は…」
と、リディーティアはティーカップを片手に、夫との惚気話を語り出してしまった。
相変わらずマイペースでハイテンションなの母親に、アルトリアはクスリとする。
リディーティアの話はいつかの現夫ベルナルドから貰った手紙の話になっていた。
アルトリアは手紙と聞いて、今朝レオンフェルトから届いたの手紙の内容を想う。
ー少し諸々の処理に追われていますが、
落ち着いたら直ぐにお迎えにあがります。
それまで貴方を待たせてしまうことを、
お許しください 貴方のレオンフェルトー
まるで、アルトリアをどこぞの国の姫にでもなった気分にさせる文章だ。だが一見気取っているように見えるこの文章をあのレオンフェルトが書いたと考えてると全く違和感がない 。
許すも何も…
むしろ待つことしか出来ない自分の方が許しを乞うべきだ、とアルトリアは思う。
今のアルトリアに出来る事は何か。
それは、レオンフェルトを信じて迎えを待つことに他
ならなかった。
手紙の約束は、それから三日後に果たされることとなった。
変わらず家で母と過ごしていたアルトリアであったがその日はリディーティアは外出していた。
その為、アルトリアはまた本を手に自分の部屋でゆっくり過ごしていた。
「リアお嬢様。」と侍女の声がしてアルトリアは本にしおりを挟み本をサイドテーブルに置く。
今アルトリアが読んでいる本はとある国の騎士と姫君の恋愛小説である。
アルトリアは普段は純文学や歴史物のジャンルを好む少女であった。
ーでは何故そんなアルトリアが恋愛物を?
それは、母リディーティアの影響にままならない。
リディーティアは実の娘と王弟殿下の少し複雑な現状が今巷を騒がせている恋愛小説に似ている!と一人盛り上がっていたのだ。
実は、今日の外出も新たな本を求めての目的のものであったのだが、それはアルトリアの知るところではない。
「何かありまして?」
「お嬢様。
実は、今 …レオンフェルト王弟殿下がお嬢様を訪ねて客間にいらっしゃっておいでです。」
思わぬ名前を告げられてアルトリアは思わず声をあげた。
「王弟殿下が…!
すっ、すぐに向かいます!」
殿下をおまたせするわけにはいかない、とアルトリアはすぐに席を立ち、客間へ向かった。
「あっ…リア様っ!」
と侍女が何かに気付きアルトリアを呼び止めたが、アルトリアの心は既に完全にレオンフェルトに向いておりその声は届いていなかった。
ふぅ…と一度、レオンフェルトがいる客間の閉じた扉の前で深呼吸をする。
少し小走りをしたからだろうか、いつもより動悸が激しい。
「失礼いたします、殿下。」
アルトリアが直接ノックして声をかけると、扉の向こうからガチャガチャと何故かカップがぶつかる音がした。何かあったのだろうか。
ーカチャリ
「アルトリア嬢。
前触れもなしに突然伺い、申し訳ない。」
アルトリアが扉を開けるとレオンフェルトは腰掛けていたソファアから慌てて立ちあがり第一声を発した。
「いえ、そんな…殿下自らご足労いただきまして…」とリアもすぐに答えたが、二人が顔を上げて目を合わせた瞬間レオンフェルトが
「…リア?」
と驚いた顔をした。
「…?」
そしてアルトリアの顔をじっーとくいいるように見つめていたかと思うと、つぎの瞬間には顔を赤らめて手で口を塞いだ。そして一人で何かぶつぶつ呟いている。
ー自分の顔に何かついているのだろうか?
「お、お嬢様っ… !」
と、アルトリアの後ろから先程レオンフェルトの来訪を告げに来た侍女が小声でアルトリアに何かを伝えようと呼びかけた。
それにようやく気づいたアルトリアは侍女を振り返る。見ると彼女は手を顔に持っていき、指で丸を作っていた。それは、まるで眼鏡のような形で…
「…!
も、申し訳ありませんっ!殿下!」
「…んんっ、
いや、眼鏡をかけている貴方も可愛らしい。
私のリアコレクションに新しい一枚が…うんうん。
眼鏡のリア、と。」
そう、来訪を告げられ前まで読書をしていたアルトリアは眼鏡をかけたままでレオンフェルトの前へと出てしまっていたのであった。
さて、今度はアルトリアが、赤面する番である。
アルトリアは慌てて眼鏡を外し、ドレスの後ろに隠した。顔も手を後ろにやると同時に下を向き、その声は萎縮する。
「…貴族の若い娘が、本の虫など…
で、 殿下はお嫌でしょうか…?」
「…!
私が、どんな理由であれリアを嫌いになることなど!
アルトリア嬢、顔を上げてください。
本を好む女性は教養がある証拠。
未来の王弟夫人としては大歓迎ですよ。」
「殿下…。」
「それに、先程の姿。
そう、貴方の美しい黒髪と黒の眼鏡はよく似合っていました。
新しい貴方の一面を見れて、
ー私は嬉しい。」
アルトリアはその言葉に顔をあげた。
ー『君の黒髪はとても美しいよ』ー
と、昔聞いたある言葉が頭に反響した。
どうして、レオンフェルトはアルトリアが喜ぶ言葉を知っているのだろうー
どうして何度も、
アルトリアが欲しい言葉をくれるのだろうー
温かい気持ち、嬉しい気持ち、でもどこか切ない。
色々な感情がアルトリアの心のうちを占めていた。
そう言えば、母から借りた本。
あの恋愛小説に同じような場面があったな、とアルトリアは思った。
第4章にてヒロインが騎士に対して恋心を自覚したシーンより。
『私は、どうしてしまったのだろう。
自分で自分が分からない。
あの方の声を聞くと私の心は騒めき、
その一言で世界は輝く。
だが、嬉しいという感情と同時に胸の痛みは増ばかりだ。
ああ…この痛み。
これは、きっと一方的にあの方を愛してしまった私への罰なのだ。』
ありがとうございました!
明日もよろしくお願いします!
次話はお出かけ編です(*´ω`*)




