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ロウとマオ 〜最強仙術使いと最弱JDの異世界放浪譚〜  作者: にしだ、やと。
第1話 冒険のはじまりは伝説のはじまり? はじまりの街、リグルー
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冒険者っていうのはずいぶん暇なんだな

「いやあ、まさか外の飯があんなにうまかったとはな。びっくりだぜ」

「そうだねー、やっぱ平和だと料理技術が発達するのかな〜」


 マオに連れられてきた宿屋の飯はどれも初めて食べる味で、かなりうまかった。

 山で暮らしていた頃は料理なんて野草をちぎって煮るか、亜獣の肉を焼いて食うくらいで、それほどこだわっていなかった。

 だが街の飯っていうのはかなり凝って作ってるみたいだった。

 肉と葉っぱを一緒に煮込んだり、香りの強い草を使ったりと、色々組み合わせているみたいだ。


 特に面白いのはトルチャとかいう料理だった。

 白くてもちもちとした薄い食べ物で、これだけ食うと別にうまくもなんともないんだが、この上に他の料理を乗っけて、くるっと丸めて食べる。

 そうすると料理の味とトルチャの食感が絶妙に混ざって別々に食べるより格段にうまく感じるんだ。

 あんまりうまいんで何回もおかわりしちまった。


 正直ここにくる前は外の世界なんて面倒しかないと思ってたんだが、人里の料理を食って気が変わった。

 他にもうまい飯があるかもしれないし、どうせマオに連れ回されることになるんだからうまい飯を楽しみにすることにしよう。

 あとせっかくだから料理を覚えてみるのもいいかもな。


 ◆ ◆ ◆


 次の日、朝食をすませると予定通り冒険者組合というところに向かうことになった。

 これから俺たちは冒険者とやらになるらしい。


「なあ、冒険者ってのはなにするやつらなんだ?」

「ロウ君、そんなこともしらないの? ほんとにこの世界の人? ダメだねえ〜」

「いや異世界人のあんたに言われたくないんだが……」

「ふふん、いいよ、この私が説明してあげるから! 冒険者っていうのはね、ときに薬草採取、ときに魔物退治、ときに護衛、ときにお宝探しと、とにかくなんでもやる人たちのことを指すの!」

「それのどのへんが()()者なんだ? なんでも屋とかのほうがしっくりくるんだが……」

「それはほら、あれよ! お決まりってやつ! 細かいことは気にしないの!」

「さいですか」


 今朝からマオはやたらと気分がいいみたいだ。

 そんなに冒険者ってのになりたかったのか?

 というか異世界から来たって言う割になんでそんなこと知ってるんだ?

 俺よりこの世界に詳しい気がするぞ……。


 そうこうしているうちに、目的地についたみたいだ。


「これがこの世界の冒険者組合か〜。他の建物よりも頑丈に作られてる感じがするね。それにおっきい。おっ、見るからに冒険者っぽい人たちが出入りしてる! ワクワクしてきた!」


 たしかに冒険者組合は建物がかなりでかかった。

 泊まってる宿がかるく数件は入りそうな大きさだ。


 それに出入りしている人たち、弱いのからそこそこの強さのまで、いろんなのがいる。

 外の世界の人らがどれくらいの強さなのか、ちょっと興味があるな。

 強いやつがいたら訓練の相手になってもらうのも悪くない。


「よっしじゃあいくよー」


 組合内に入ると、探るような気配をいくつか感じた。

 なるほど、これが冒険者ってやつらか。

 気配の元を辿ってみれば、この場の中にいる中でもそれなりに実力がありそうなやつばかりだった。

 きっとどんなときでも周囲への警戒を怠っていないんだろうな。

 それをしていないやつらは……まあきっと弱いんだろう。


「こんにちはー、冒険者になりにきたんですけどこちらで登録できますか?」

「はい、できますよ」

「私と、あともう一人をお願いします。――ちょっとロウ君こっちきて!」


 冒険者たちの様子を眺めていたら、大声で呼ばれた。

 どうやら手続きをするみたいだ。

 黙ってマオのもとへ向かう。


「ではこれからいくつか質問しますのでお答えください。ではまず――」


 いろいろと質問をされたが、マオが俺の分も含めて全部答えてしまってたから特にすることはなかった。

 マオがいると楽でいいな。


「では最後に認定試験をさせていただきます。試験官を呼んできますので少々お待ちください」


 試験か。そういやよく姉さんが試験してやるぞとかいって襲ってきたっけなあ。

 あれは恐ろしかったな……。

 外の世界を旅してくるとかいって出てったきり帰ってこなかったけど、今頃どこで何してるんだろうな。


「おまたせしました。こちらがマオ様とロウ様の認定試験を担当いたします、ヴォークハルトさんです」

「ヴォークハルトだ。よろしくな」


 ヴォークハルトと名乗った試験官は巨体のヒューマンだった。

 俺より大きいし多分男だ。

 革鎧越しでもわかるほどよく鍛えられた肉体、頬に残る大きな傷跡、並々ならぬ生命力が歴戦の戦士であることを如実に語ってくる。

 この街で見てきた中では一番強いんじゃないか?

 ちょっと楽しみになってきたな。


「こっちにきな、訓練場に案内する」


 訓練場は結構広く、そこかしこで冒険者らしき人たちが木剣をふったり、模擬戦をしていた。

 俺たちがそこを歩いていると、視線が集まってきているのがわかった。

 なんだろう。見られるのはそんなに好きじゃないんだが。


「なあマオ、めっちゃ見られてるんだがあんたなんかしたのか?」

「え? そんなの私達が気になるからに決まってるじゃない! こういうのは冒険者達にとって娯楽の一つなんだよ。新人の実力がどれくらいかみてやろうっていうことね」

「はあ、冒険者っていうのはずいぶん暇なんだな」


 正直姉さんみたいに問答無用で襲いかかってきてくれたほうが楽なんだが。

 まあ気にするだけ無駄か。


 隣のマオは注目されるのが嬉しいのか、不気味な笑いをしている。

 こいつもこいつでなんなんだ。


「よし、ここでいいな。じゃあ一人ずつ見てやるから壁際に置いてある武器から好きなやつを選べ。先にどっちからくる?」

「俺から行こう。武器はいらない」


 そう言って前に出る。

 マオは楽しげに武器を漁っている。


「ほう、拳闘士か? 珍しいな。服すら着ていないのが少し気になっていたが、動きやすさを徹底的に重視している、といったところか?」

「まあそんなもんだな。服は邪魔だ」

「はっはっは、面白い。でもこちらは遠慮なく武器を使わせてもらうぞ。なあに、怪我しないように手加減してやるから全力でかかってこい」

「じゃ、遠慮なくいかせてもらうよ」


 ヴォークハルトの武器はただの木剣だ。

 右手に木剣を持ち、正眼に構えている。

 こちらがどう出ようとすぐに対応できるようにしているのだろう。

 剣術は正直まったくかじっていないのであまり詳しくないが、大抵の構えは見ればその理がわかる。

 理を突き詰めたものが構えになるからだ。


「どうした? 構えないのか?」


 俺がヴォークハルトを観察していると、そんな事を言ってきた。

 俺が使う仙人拳法にももちろん構えはある。

 だがこの構えは相手に一切の情報を与えない。

 構えていることを相手に悟らせない。


「いいや? もうすでに構えている」

「なに?」

「第一の構え、【(ゼン)】。構えないことで全ての攻撃に派生し、ありとあらゆる状況に対応する。基本にして究極の構えだ」

「はっ、何を馬鹿な。だがおもしれえ。本当にそうならそれを証明してみなっ!」


 その言葉を合図に、俺はヴォークハルトめがけて飛び出す。

 彼我の距離は10メートル。

 軽く蹴り出せば一瞬で詰められる距離だ。

 そして飛び込む勢いを乗せ、拳を軽く振るう。

 まずは様子見。狙うのは剣をもった右手だ。




 ヴォークハルトがそれに反応できたのは奇跡だったと言わざるを得ない。

 目の前の男が大言壮語を吐いたのについ面白くなって、挑発をした。

 それが合図になったのだろうというのはわかる。

 だが、その瞬間男が消えた。

 なんの予備動作もなく、忽然と視界から消え、そして頭の中に警鐘が鳴り響いた。

 それは長年に渡る実戦経験が為せる技。

 ほぼ無意識レベルで身体が動き、わずかに剣をずらしたところで右腕にとてつもない衝撃が走った。


 カランカラン、と木剣が転がる音が響く。


 一瞬の出来事に周りの冒険者は理解が追いつかず、言葉を失っていた。


 ただヴォークハルトだけが、右腕に残る強烈な痺れに冷や汗をダラダラと流していた。


 そして僅かな沈黙を打ち破るかのように、

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」

 冒険者たちの歓声が響き渡った。


「お、お見事だ。まさかこの俺が敗れるとはな……。試してやるつもりだったが、どうやら俺にはその役目を果たせそうもないみたいだ」


 あ、あれ? 様子見のつもりで殴ったんだが……。


 まさか外の人ってめちゃくちゃ弱いのか!?


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