私達のこれからのこと、かな?
「まず、調査して分かった事実を報告しますね」
私たちは再びグラードさんの執務室にやってきていた。
目的はもちろん、異界調査について報告するためだ。
まずは調査結果として、事実だけを伝えていく。
異界内部が私の世界を再現したものであることや、再現されていなかった電力供給について。
電力については私の世界で普及している動力で、こちらの世界における魔力と似たような扱いをされているとだけとりあえず説明しておいた。
回収できたものについても一通り説明し、それぞれどのような用途のものなのかも伝えていく。
「ふむ、やはりお主に依頼して正解だったな。
そのようなことは我々では判断できまい」
まあ、そうだろうね。
でもここまではそこまで重要じゃない。
事実がわかったところで、結局どうしてこんなものが生まれたのかわからなきゃ意味ないからだ。
「グラードさん、あの異界は3ヶ月くらい前に生まれた……確かそう言ってましたよね?」
「ああ、そうだ。
正確な日時も資料を探せば出てくるだろうが、必要か?」
「いえ、おおよその時期が分かれば大丈夫です。
これで確かめたかったことは全部確かめられました」
「ほう?」
「これから話すことは全て私の考察です。
信じるか信じないかはお任せしますけど……少なくともこれからの調査の手がかりにはなるんじゃないかと」
「聞かせてもらおうか」
それから私は語った。
異界とは一体なんなのか。
どうしてあの異界には私の世界が再現されていたのか。
「結論から言ってしまえば、異界というのはこの世界が見ている『夢』なんじゃないかと思います」
夢というものはその人が持つ記憶や深層意識が複雑に絡み合い生み出されるなんて言う話を聞いたことがある。
じゃあ世界の夢ってどういうことだよって話になると思うけど、この世界では、世界そのものが神だと言われている。
そしてそれは真実だ。
何故真実と言い切れるのかは、正直なところうまく説明ができない。
魔力を感じ取れるようになった時に見えたもの。
魔法世界で感じ取った何かの意味を考えているうちに自然とその答えにたどり着いていたからだ。
この世界そのものである神は、この世界に生きる全ての存在から等しく情報を受け取り続けている。
それらは神の記憶となり、また人々の思いは神の深層意識として降り積もっていく。
神は眠ることはないが、そうして積み重なっていった記憶や深層意識が絡まり合い、ある程度の強度を持つようになるとこの世界の内側に新たなる世界を生み出す。
それが異界だ。
夢の世界と現実の世界が繋がりを持たないように、単なる情報の産物でしか無い異界は現実世界と交わることはない。
だからこそ、異界の入り口はあんなにも不自然なのだ。
私がよく知っている街が異界の中に再現されたのは、私のせいだ。
私という異分子がこの世界に入り込んでしまった時、神の記憶領域に私が持っている情報が流れ込んでしまった。
おそらく、未知なるものだったせいで刺激が強かったんだろう。
神の深層意識が強く揺さぶられ、結果的に私の情報ばかりに依存する世界が産み落とされてしまった。
だからあの異界はあれほどまでに私の知るとおりの光景しかなかったのだし、私があまり知らないビルの中はうまく再現されていなかったんだろう。
異界で手に入れた機械類も、中身はめちゃくちゃだった。
私が知らない内部構造を、この世界で再現できるはずがないのだ。
それに異界が生まれた3ヶ月前という時期も私がこの世界に来た時期と重なるし、これで因果関係がないと考えるほうが無理がある。
「なるほどな。
確かにその理屈であれば様々な事象に説明がつく。
いい考察だ」
「……ありがとうございます」
「あまりうれしそうではないな?」
それはまあ、そうだろう。
異界を調べることで世界渡りの手がかりがつかめるかと思っていたのに、結果的に異界には何の手がかりもないことが分かってしまったのだから。
異界は、あくまでこの世界の中でのみ完結している現象だ。
私という異世界人が紛れ込んでしまったから今回イレギュラーが起きたのであって、異界そのものに異世界との繋がりは何一つ無い。
「まあいい。
お主のおかげで儂の長年の夢もようやく叶いそうな見込みが見えてきた。
何か礼をせねばな」
「それならボクから提案。あの屋敷をマオたちにあげちゃったら?
今は貸し出してるだけでしょ。
これからのことを考えたらこの国に自由に使える拠点があるのはいいと思うんだけど」
これから?
「ふむ、悪くない提案だな。
お主はそれで構わないか?」
うーん、屋敷一つまるごと貰えるって言うなら悪い話じゃないかな。
この国に永住すると決めたわけじゃないけど、要らなくなったら売り出せばいいし……。
「まあ、今のところ特に何も思いつかないので構わないです。
ところでライラ、これからって何で?」
「やだなあ、世界渡りについてボクと一緒に研究するんじゃないか。
研究拠点は必要だよ」
「私的には異界の謎を解き明かせば一緒に世界渡りについても手がかりが得られるんじゃないかと思ってたんだけど、そうならなかったからなあ。
ちょっと悩んじゃうな」
「何を悩んでるの?」
「私達のこれからのこと、かな?」
たぶん今私は、人生の重大な選択肢を提示されているのだと思う。
一つ目はこの国でこれからも冒険者として活躍していく道。
世界中から冒険者たちが集まるこの国でなら、波乱万丈な楽しい日々が送れそうな気がする。
けど、この選択肢だとライラとはお別れかなあ。
二つ目は一番最初からの予定通り、ロウ君と一緒に世界中を観光する旅を続けること。
この場合は屋敷はいらなくなるけど、別荘を一つ持ってると思えばいいかな。
三つ目はライラと一緒に世界渡りについて研究していく道。
この場合は……ロウ君とはお別れになるかも知れないなあ。
ロウ君はあんまり興味ないだろうし、一緒にいても特にすることなさそうだし。
そんなことを皆の前で話すと、ロウ君がきょとんとしたような顔でこう言った。
「どれか一つに絞らなくても全部やればいいんじゃないか?」
「へ? 全部?」
「だってこの国は世界中から人が集まってくるんだろ?
なら情報だってこの国が一番集まるんじゃないのか?
マオがよく言ってるじゃないか。情報は人が集まってくる場所に一番集まってくるって。
だから俺たちはこの国で暮らすことにして、適当に依頼を受けながら金を稼ぎつつ、情報集めをしていく。
で、世界渡りってやつの手がかりになりそうな情報が見つかったら、その場所を目指して旅をする。
ライラがいるなら転移が自由に使えるんだから、屋敷にはいつだって帰ってこれるだろ。
全部やれるじゃないか」
この国で冒険者として暮らして、研究の進み具合や情報によって旅にでる。
拠点に戻ってくる必要があればライラに頼めばいい。
確かにそのとおりだ。
まさかロウ君に諭される日が来るなんて、思いもしなかった。
「ま、お悩みはあっという間に解決かな?
ボクとしてもマオと一緒に研究したいからね、手伝えることなら何でも手伝うよ。その方が面白そうだしね」
「ふむ。
儂のほうでも何か気になる情報が入ったらお主らに伝えるとしよう。
冒険者組合の情報網は世界一といっても過言ではないからな」
なんて心強い。
これなら今後の冒険にも期待できるなあ。
「ありがとう、ライラ、グラードさん。
それからロウ君。
これからもよろしくね!」
こうしてロウとマオはこの世界で正式な拠点を手に入れ、新たなる物語を紡ぎ始めることになった。
頼もしい味方と心強い後ろ盾も手に入れ、向かうところ敵なしの二人。
これから先どんな困難が待っていようと、彼らが立ち止まることは決して無いだろう。
私達の冒険はいま、始まったばかりだッ!!
――ロウとマオ 〜最強仙術使いと最弱JDの異世界放浪譚〜 了?
今回を持ちまして当作品の連載を終了とさせていただきます。
ここまでご愛読いただきましてありがとうございました。
活動報告にて今後の予定などについて書いてますのでそちらもご覧いただければありがたいです。




