そう聞かれたら、そうだよって答えるしかないかな
「なんだ、来ていたのか」
グラードさんもその人の登場には少し驚いたようだった。
けれどもその言葉には、ここにいることそれ自体よりも、今日このタイミングでやってきたということにのみ驚いている、というニュアンスが含まれているようだった。
「そりゃくるさ。ボクだってそいつには興味があるんだからね」
昔ながらの友人であるかのように、とても親しげに話す二人。
その様子にも驚きを禁じ得ないし、扉が開く様子もなくいつの間にかいたという事実も不思議でならない。
けれどそれ以上に――。
「どうして……ライラが……?」
現れた人物というのが、屋敷で過ごしているはずの私の友人、ライラその人であるという事実が本当に信じられなかった。
「やあマオ、朝食ぶりだね。
ボクがここにいる理由はただ一つ、そしてそれは同時にマオがここに招待された理由でもあるよ。
つまりね、グラードにマオのことを教えたのはボクなんだ」
次々明かされる衝撃的な事実に頭がついていかない。
私を呼んだのが冒険者組合の創始者のグラードさんで、グラードさんはライラと旧知の仲で、ライラは私をグラードさんに紹介した?
ライラはグラードさんと親しく話せるくらいにはすごい人物だったということで……そりゃ確かに精霊術を編み出すとかすごいなって思ったし、よくわかんない魔法たくさん使えるし、ロウ君が手も足も出なかったし、喋り方は謎だし。
あれ?
そう考えたら割と納得できるぞ?
ライラと友だちになってから彼女がどういう人物かなんて気にするのやめちゃってたから今日ここにきて驚いたけど、冷静に考えればこれだけ証拠が揃ってるんだし絶対物語の最後の方に深く関わってくる重要人物じゃん。
灯台下暗しとはこのことか。
よし、少し落ち着いてきた。
だいぶ理解できてきたぞ。
「えーとつまり……ライラは私の正体に気がついて、これの手がかりになるんじゃないかって考えた。そういうことだよね?」
「まあそんなところだね。
正確にはこの板切れから感じるものと、マオから感じるものにとても近いものがあったからなんだけど。
まあそれでも、精霊術を身につけられなかったらここにくることはなかっただろうね」
うん? それはなんでだろう。
私がそれを知ってるかどうかと、精霊術は関係ないよね。
「これで問いの答えになっただろうか?
気になることは他にもあるだろうが、とりあえず話を進めていきたいのだが」
「あ、はい。これがなんなのか、ですよね」
「そうだ」
さて、なんて説明したものか。
言葉がこの世界にないからうまく説明できる自信がないけど……。
「えっとですね、この世界には遠距離で連絡を取る手段ってなにがありますか?」
「書簡に狼煙、あとは費用を考えなければ魔導伝達網があるな」
「魔法の道具にもあるね。遠話の鏡とか」
「ありがとうございます。つまり基本的には遠距離で連絡を取るためには時間がかかるか、とてもお金がかかるかで、手軽にできることではないということですね」
「そうなるな。実際ライラに連絡を取るのは非常に面倒だ」
「その問題を全て解決したのが、この道具です。
この道具を持っていれば、遠距離でも――それこそこの国から王国だろうが帝国だろうが関係なく、一瞬で、超低価格でやり取りすることが可能です。
そうですね……分かりやすい名称をつけるなら携帯型連絡器、ってところですか」
「この小さな板切れでそんなことが……ふむ、興味深いな」
そう、その板切れは「スマートフォン」だったのだ。
気になるのはどこのメーカーのものなのかよくわからないっていうところだけど、この特徴的な大画面や端末下部にあるホームボタンなんかをみれば、それがスマートフォンだってことはすぐに分かる。
「ねえねえ、その携帯型連絡器がどんな仕組みで動くのかとかはすごく気になるんだけどさ、ボクはもっと気になることがあるんだ」
「え? もっと気になること?」
「結局マオは、どこの誰なの?
ボクってこの世界のことは基本的に何でも知ってるんだけどさあ、こんなものが作られている場所なんて存在しないんだよね。
つまりさ……やっぱりマオってこの世界の人間じゃないよね?」
やっぱり、気が付かれていたみたい。
最初に会ったときから、どうも何かに感づいているような雰囲気を出していたんだけど……本当に私が異世界人だって考えてたんだ。
ただ、完全に確証はしてないというか、一応1%くらいの確率で疑っている、みたいな感じなのかな。
これはもう、隠しても意味ないよなあ。
それに別にバレたところでなにか変わるわけでもないだろうし……。
「そう聞かれたら、そうだよって答えるしかないかな。
こっちのロウ君も知ってることだし、ライラになら知られても問題なさそうだしね」
「儂もいるがな」
「あっ、もちろんグラードさんも!
大丈夫、ですよね?」
私が懸念していることは、広く異世界人だと知れ渡ることで起こりうる様々な厄介事だ。
この世界とは全く異なる方向性で進化を続けた文明に関する知識は多くの金銭的価値を持つだろうし、場合によっては異人として迫害を受ける可能性もある。
その点ライラさんやグラードさん程の人物にもなれば、そういったつまらない考えには至らないだろうし、場合によっては私の後ろ盾にもなりうる。
教えることに、特にデメリットはないのだ。
「お主が儂に協力してくれる限りは敵対するようなことはない。
そもそもライラを敵に回すほど儂は愚かではない」
「ははは、どうしてボクが敵に回るのかなあ?」
「そんなもの、その目がよく語っているではないか」
なんだかわからないけどとにかく大丈夫そうだ。
ていうかグラードさんも威圧感かなりすごいのに、彼すらビビるライラってマジで何者なの。
「とにかく、マオが異世界人ってことが確定してよかったよかった。
これでまたしばらくは退屈せずに済みそうだなあ」
「ライラ、それどういうこと?」
「えー、だってマオってどうやってか知らないけど別の世界からこの世界に渡ってきたんでしょ?
世界渡りの体現者がいるって事実があるなら、ボクが世界渡りできない道理はないよね?
他の世界、見に行ってみたいんだあ」
「それってつまり……」
「そ、ボクはマオに協力してもらって、世界を渡る方法を研究するのさ」
世界を渡る方法の研究。
もしそれが上手くいったら、私は地球に、日本に帰れる?
帰ることなんて、もう絶対無理だと思って考えもしなかった。
けど、言われてみればたしかにそうだ。
どんな条件が重なったのか明らかになれば、自由に行き来……はできないにしても、その条件を満たすことができさえすれば帰ることができるってこと。
そうしたら、私はどうするんだろう?
帰ることができるなら私は帰りたいんだろうか?
それともこのワクワクすることがいっぱいの、とても面白い世界で生きたいと思うのだろうか?
まだ考えはまとまらないけど、調べて見る価値はありそうだ。
それに、これってまるでゲームのクエストみたいだと思わない?
大きな目標が新たに見つかって、それに向かって様々な困難を乗り越えていく。
うん、悪くない。
決めた、ライラと一緒に、世界を渡る方法を研究しよう。




