……え? 私?
目の前のおじさん、グラードさんは自分自身のことを冒険者組合の創始者であり、現在まで総長を務めているといった。
どうやらとんでもない大物が出てきてしまったみたいだ。
というか、総長なんて役職があるなんて知らなかった。
本部長が一番偉いものだとばかり。
その上、創始者でもあるときた。
つまり、グラードさんは何百年も生きてるってことだよね。
いや、まあ仙人のおじいさんとかと会ってるおかげで百年単位で生きる人種が有り得ないとは全く思わないんだけど、冒険者組合にもそういう種類の人がいて、しかも創始者がまさにその人だなんて露程も思わなかった。
「驚くのも無理はあるまい。
儂の存在を知るものは本当にごく一部、それこそ冒険者であれば一位の男くらいだからな」
「ええと、あの、はい。
正直言われてもあまり信じられないというか……」
これは率直な感想だ。
彼がものすごい大物なのはまあ分かる。
けど突然私が創始者ですとかいわれてはいそうですかなんて答えられるわけがない。
「それでも構わない。
儂の話を聞けば嫌でも信じたくなるだろうからな」
そこまで言うのならきっと本当なんだろう。
じゃあどうしてグラードさんが私達に招待状なんで出してきたのかって話になるけど。
「それで、その、ロウ君にどういった用事なんでしょうか?」
「儂が呼んだのはそちらの男ではない。
お主、マオを呼んだのだ」
「……え? 私?」
うん、意味がわからない。
最近活躍を始めたロウ君に注目して呼んだとかなら百歩譲ってまだ分かる。
第一位の人にしか知られていないという実情を考えればそれでも明らかにおかしいけど、少なくとも私よりは呼ばれる理由はあるはずだ。
それなのに、どうして私なんだろう。
私なんてこの国に来て何もしてないし、こんな大物の目にとまるなんてこと有り得ない。
強いて言うならこの前サーシャさんのところでやりあったくらいだけど……でもそしたら時系列があわない。
二つの招待状は同時に来たんだ。
屋敷に篭ってる私なんかが呼ばれる道理は万が一、億が一にも有り得ない。
「ふむ。
まずは見てほしい物がある。
それから話をしよう」
そう言ってグラードさんは机に戻ると、引き出しから箱を取り出した。
その箱は綺麗な桐らしき木で作られており、しっかりと鍵がかけられている。
扱いを見る限り、とても重要なものが納められているのだろう。
箱を持ってきて、私達の目の前に置く。
そうして鍵を解除すると、私に箱を開けるように促す。
箱の中からは魔力の流れも特に感じられない。
少なくとも中に入っているものは魔法の道具ではないだろう。
開けた瞬間に物理的な仕掛けが働いて危害を加えられる、というのも考えられなくはないけど、状況的に考えてそれもないと予想。
念の為、隣のロウ君に目配せをする。
いざというときに守ってもらうためだ。
通じたかどうかはわからないけど、まあなんとかしてくれるでしょう。
決心して、ゆっくりと蓋を開いていく。
蓋を開けるに連れて煙がもくもくと出てくる……なんて演出は決してなく、光も一切漏れてこず、ただその箱は静かに開いた。
中に納められていたのは、手のひらほどの大きさのある板切れだ。
それを見た私は思わず息を呑んでしまった。
どうして、こんなところにこれがあるの?
ありえない。
おかしい。
いや、でももしかしたら?
それとも私の勘違い?
様々な考えが一気に去来するが、しかし結局真相はわからない。
ただ紛れもなく、それがここに存在するという事実だけが確かだった。
「その様子を見るに、どうやら当たりのようだな。
お主はこれが何なのか知っているのだな?」
「……はい。
確かに私はこれがなんなのかよく知っていますし、使い方もわかります。
とはいえこれが使える状態にあるかどうかまでは判断できないですけど」
「ほほう。
使い方もわかるというからにはこれはやはり道具なのだな」
やはりと言うあたり、これが少なくとも単なる板切れではなく、きちんと用途のあるものだということは予想していたんだろう。
これだけ厳重に保管しているんだからそういう予想をしてなきゃ有り得ないといえば有り得ないけれど。
しかしそんなことより気になるのは、どうしてここにこれがあるのかということだ。
「あの、これは一体どこで?」
「これは最近見つかった異界にて入手した代物だ。
見つかったのは今からおよそ3ヶ月ほど前だっただろうか。
その異界はこれまでとは明らかに異なる性質を多く持っていたのでな、無用な情報拡散を防ぐためにすぐに侵入禁止区域として認定したのだ。
それゆえ本格的な調査はまだ進んでいない」
異界で、これが見つかった?
今まで私が調べた内容や、ロウ君から聞いた話から推察する限りじゃ、そんなことは有り得ないと思う。
確かに異界の中では不思議な事が起こるみたいだし、突然誰も知らない魔法の道具が生み出されることもあるとは聞く。
けど、それはあくまでこの世界でも理解できる範疇の話だ。
こんな人工物が――私達の世界で生み出されたものが異界で手に入るわけがない。
もしそれが本当なら、異界と私達の世界がつながってることになる?
いや、でもそしたら誰かしら地球人が見つかってるはず。
調査が進んでないから見つかってない?
こんなオーパーツが見つかってる時点で、少なくとも痕跡くらいは見つかってないとおかしい。
なら異界と私達の世界は繋がっているわけじゃないけど……それでも何故かこれが見つかったということになる。
そんなこと、本当にありえるのかな?
何か嘘をつかれているんじゃないかと、疑いの目をグラードさんに向ける。
けれど彼のその目を見る限り、今までの言葉に嘘偽りが含まれているようには決して思えない。
私が勝手にありえないと思ってるだけで、全てが真実なのだ。
「この板切れは儂の知識をもってしても、理解することができなかった。
それだけではない。
この世界で最も知恵ある者、真理に最も近き者ですら理解できず、ただ何かしらの機構が埋め込まれた道具なのではないかと予想することしかできなかった。
魔力を一切感じず、なおかつこれだけ小さいにもかかわらず妙に精巧に作られているこれは一体なんなのか?
新たに見つかった謎多き異界で見つかった謎多き物体。
これを解明すればきっと異界の謎にまた一歩近づくことができるだろうと、儂は考えている。
分解してみてはどうかという案もなかったわけではない。
しかしこれが何なのかわからない以上、下手に手を出して取り返しがつかなくなってしまってはせっかく手にした貴重な手がかりを失ってしまうことになる。
それゆえこれまで儂が厳重に保管してきたのだが、お主が現れたことで話が大きく変わった。
これについて詳しく聞かせてはくれまいか?」
だとしても、どうして私を呼ぶ話になったんだろう。
それを聞かないと、恐ろしくて答えられない。
「一つ、質問に答えて頂いたらそれについて説明します」
「ふむ、いいだろう。
何でも問うといい」
「どうして私なんですか?
私なんてこの国に来てから特に何もしてないし、これのことを知っていそうな要素なんて一つもなかったはずです」
「確かに普通に考えればお主に声を掛ける道理なんてないだろうな」
「だったらどうして――」
「それについてはボクが答えようか」
突如として私の言葉を遮ったその声のした方へ振り向くと、そこに立っていたのはここに居るはずがない人だった。




