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私達はやっぱり二人でやっていきたいので

「よもや斯様ななことがあるとはの」


 ロウ君の奥義が炸裂してノーリを倒した瞬間。

 サーシャさんは驚きを隠せない様子で呟いた。


 きっと本当に負けるとは思っていなかったんだろうな。

 それくらい彼の強さに自身があったんだろうし、実際かなり危ない戦いだったと思う。


 もし私があの時彼の魔法を奪うことができなかったら……、ううん、それでもきっとロウ君なら最後には勝っていた気がする。

 ただほんの少しだけ、勝つ時間を早めることができただけだ。

 私がそんな大したことできるわけないし、自惚れるところじゃない。


 さて、しかし勝っちゃって本当に良かったのかな。

 サーシャさん怒ったりしないかな?


「よい……実に良いぞ!! ロウ、それにマオよ!!」

「へ?」

「まさかアジンだけでなくノーリすら退けてみせるとはの。

 はっきり言って予想外なことよ。

 なにせお主らには特に期待なんぞしてなかったからのう」


 あれ? そうなの?

 私達に興味があるから呼んだんだしそれなりに期待はしていたんじゃ……?


「喜べ、二人共我の配下に加わることを認めようぞ」

「え、あのいや……」


 謹んでお断り申し上げたいです。


「どうした?

 あんまり嬉しくて言葉も無いか。

 無理もないのう。王である我がそなたらのような下々の者に興味を抱いておるのだからな」

「あの、そういうんじゃないですけど」


 うーん、すごく断りづらい。

 ここは……こういうときにバッサリ断ってくれるのは君だ! ロウ君!


「悪いが断らせてもらう。俺たちは誰の下につくつもりもないからな」


 ナイス! さすが空気を読まない男!

 対するサーシャさんは……愉快そうな顔から一点、目を細めるようにしてきた。


「ほう……我の誘いを断るか。

 確かに、強者というのもはそうでなくてはな」


 あれ?

 思ったよりも機嫌を損ねてない。


「我は強きものを好ましく思う。

 だがそれ以上に、強きものを屈服させ、我の支配下に置くことをこの上ない喜びと感じる」

「へえ、それでどうするっていうんだ? あんたも俺とやりあおうってのか?」

「抜かせ。

 王は剣を持たぬ。王は盾を持たぬ。

 ただ民の上に君臨するのみ。

 故に貴様らに命ずる。


 ――『()()』」


 その言葉を発した瞬間、ロウ君が跪いた。

 なんだかすごい大げさな物言いだなあと思って呆けていた私は、目の前で起こっていることが理解できなかった。


 あのロウ君が、言葉一つで言いなりになった?

 さっきまで喧嘩売ってたのに?


「ふふん、やはり我の言葉の前に屈服せぬ者はおらぬ……か?」


 跪いたロウ君を満足そうに見やったサーシャさんはそのまま私の方にも視線をちらりと向け、その瞬間疑問符を浮かべた。


「お主……なぜ立っておる?

 我の前でなぜ跪かない?」

「え、いや、あの……さすがにそこまで他所のブリゲイドの長を偉いとは思えないっていうか……むしろなんでロウ君は跪いてるの?」


 うーん、状況的にはサーシャさんが私達に何かをして、その結果操られたロウ君が跪いたってとこだよね。

 私に効いてないのはちょっと謎だけど。

 それでサーシャさんがしたのは……『跪け』って言葉を発したくらい?


「ノーリの魔法を破壊するどころか、我の『言霊縛り』にさえ抗うとは……。

 お主、一体何者なのだ?」


 言霊縛り。

 それが彼女の魔法なのか。

 文字通りの意味なら、言葉で相手を支配する能力。

 強すぎない!?


 あ、でも私に効かないってことは、もしかしたらなんとかなるかも。


「ロウ君! いつまでも跪いてないで元に戻って!!」

「すまん、なんか分からんがこうしてなきゃいけない気がするんだ」


 叩いたり蹴ったり試してみたけど、治りそうもない。

 うーん、どうしたもんかな。


「無駄なことよ。

 お主に我の支配が届かぬのは納得いかぬが、そやつの肉体は我が掌握した。

 我が自ら言霊を解除せぬ限り決して動かぬよ」


 あ、そうだ。

 さっきノーリの魔法を破壊したときみたいに、上からもっと強く支配の魔法をかけてみればいいのかな?

 よし、そうと決まれば。


「ロウ君、『私の言うことを聞いて』」

「マオ……そんなのいつだって聞いてるだろ。

 ただ今は聞きたくても聞けないんだ」


 駄目か。

 それっぽく魔力を乗せるイメージで喋ってみたけど、魔法を真似るのってうまくいかないなあ。

 さっきノーリの時うまくいったのは土の精霊と繋がってたからなのかな。


 あと魔法を破る方法って言ったら……。


「あ」

「どうしたマオ、なんか思いついたのか?」

「思いついたには思いついたんだけどね」

「ならそれ試してくれ」

「いや、ちょっと抵抗があるっていうか、なんていうか……」


 そう、古今東西魔法でかけられた呪いっていうのは()()()()で解くことができると言われている。

 もちろんこの世界の魔法に通用するとは限らないけど、思いついちゃったんだよなあ。

 どうしよ。


「安心しろ、どんなことしても馬鹿にしないし嫌いにならないから」

「うーん、そう? じゃあちょっと目を瞑ってね……」


 覚悟を決めよう。

 このままロウ君取られるよりはマシだ、うん。


 そうして目を瞑ったロウ君の正面に回り込み、屈んで顔の高さを合わせる。


 すー、はー、と深呼吸して、ドキドキする心臓の高鳴りを抑える。


 大丈夫これは呪いを解くだけ大丈夫これは魔法を解くだけ大丈夫深い意味はない大丈夫大丈夫大丈夫。

 よし。


 そうして私もそっと目を閉じて、戦いで少しだけ汚れてしまっている頬に手を当てて……。




 ゆっくりと唇と唇を触れさせた。




 1秒にも満たない接触を終え、さっと飛び退いて真っ赤になりそうな顔を見られないようにそむける。


 そう、私が思いついた魔法の呪いを解く方法っていうのは口づけだ。

 これでどうにもならなかったらもう無理!

 穴があったら入りたい!


 うまくいったのかどうなのか、知りたいけど恥ずかしさでロウ君の方を向くことができない。

 立ち上がれるようになったなら何か喋って欲しいんだけど……。


「なんと……なんと面白いではないか!!」


 一向に喋らないロウ君の代わりに気まずい沈黙を破ったのは、意外にも元凶となったサーシャさんだった。

 何が面白いっていうんだこちとら恥ずかしながらファーストキスだったんだぞ。


「まさか斯様な方法で我の言霊縛りを破るとはのう……。

 驚きも呆れも通り越して素直に讃えとうなるわ」


 ってことはロウ君もう動けるの?

 じゃあなんで動かないの?


 さすがに恥ずかしさも薄れてきたから、振り返ってその様子を見てみる。


「おーい、ロウ君? 生きてる?」


 彼は……何故か硬直していた。

 目はあいてるんだけど、焦点がどこにもあってない。

 口を半開きにして、阿呆みたいな顔してる。

 いまなら私でも倒せる気がするくらい、間抜けな様子だ。


 試しに頬をビンタしてみる。

 えい。


 その一撃は空振りすることもなく、パシッっという音を綺麗に響かせた。


「あ、」

「目覚めた?」

「ああ、うん、なんだ、何してたんだっけ? 飯の時間か?」


 ロウ君が壊れてしまった……。

 魔法が解けた衝撃がそんなに深刻なダメージになったのかな……。

 早く帰って休ませてあげなきゃ。


 一応立ち上がることはできるみたいで、本当に魔法が解けてることにほっと安心する。


「ふふふ、本当に気に入ったぞ、二人共。

 改めて聞くが我の配下にならぬか?」


 まだそんなことを聞くのか。

 今度は私から、はっきり断ってやる。


「ええ、すみませんけど私達はやっぱり二人でやっていきたいので」

「そうか、ならばよい。

 我も王である。民の一番の願いを無下にするほど狭量ではない。

 それに面白いものも見せてもろうた。

 今日の所は身を引こう」


 よかった、諦めてくれるみたい。

 いろいろあったけど、なんだかんだでこの人は悪い人じゃなさそうだな。

 自分のやってることにきっと誇りをもってるんだろう。

 今後も程々に良い付き合いができればいいけど。


「しかしくれぐれも忘れるでないぞ。

 我は必ずいつかお主らを手に入れる。

 そして我を存分に愉しませてくれよ」


 そうしてその場を辞する私達に向けて、またすぐに会うことになるだろうよと意味深な言葉を放ったサーシャさんとは、本当にすぐに出会うことになったのだけど……まあそれは別の話だ。


 ともかく、愚者の行路への訪問はなんとか無事に終えることができた。


 次は差出人不明の招待状だけど、ロウ君がこの様子で大丈夫かなあ……。

 なんだかすっごい嫌な予感がする。

――第8話 了


〜次回予告〜


二つ目の招待状を持って訪れた冒険者組合本部。

そこで待っていたのは、想像以上の大物で。

明かされる真実と、告げられた言葉。

その先で、マオは何を知るのか。


マオ「これって……嘘……どうしてここに?」


次回、第9話「世界渡りと異界、そして私のこれから」


お楽しみに!


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