一人で戦ってるわけじゃないんだ
俺がノーリの正体を暴いたのがきっかけになったのか、奴はいよいよ本気を出してきたようだ。
単純な力だけでなく、妖魔としての能力も活かした戦い方。
砂を生み出し砂を操り、翻弄する。
それだけでも厄介なのに今までどおり本人は力任せな一撃をどんどん繰り出してくる。
正直なところ、俺はこの国に来ても自分より強いやつはいないし、それどころか並び立つようなやつだって一人もいないんだろうなってずっと思っていた。
けど、世界は思ったよりも広かったみたいだ。
本当に一握りみたいだが、俺の修行の相手にちょうどいい奴がいる。
山に篭っていただけじゃ知ることができなかった世界を教えてくれるやつがいる。
ああ、本当に外に出てよかったよ。
久々に楽しめそうだ。
◆ ◆ ◆
「ロウ君……笑ってる……?」
私が心配しながら見つめている目の前で、戦いはどんどん激しくなっていった。
それに従って、ロウ君の様子もいつもよりもなんだか楽しそうな雰囲気に変わっていっている。
ノーリも攻撃パターンが変わって、砂を操る攻撃も絡めるようになってきてる。
おかげで随分ロウ君は苦戦を強いられてるようにしか見えないのに、なんであんなに楽しそうなんだろう。
ノーリの真っ直ぐなパンチをロウ君が避けたと思ったら、避けた先で砂の塊が襲いかかる。それもなんとか避けても今度はまたノーリ本体が襲いかかってくる。
避けるだけじゃ追いつけずに時々苦しげに受けたり、いなしたりしてるけど、ロウ君からはなかなか攻撃する機会が作れてない。
本当に、防戦一方って感じだ。
こんなロウ君見るの初めてだな。
でも、だからこんなに楽しそうなのかも。
自分が全力で戦えて、それでなんとか勝てそうなくらいの強さの相手。
今まではそんな人、いなかったもんね。
ああ、せめて私にもなにか手伝えればな。
さっきみたいに石を飛ばすのはもう通用しないだろうし。
何かノーリの不意をつけるようなことができればいいんだけど。
そんなことを考えながら攻防を眺めていると、不意に魔力の高まりを感じた。
なにか大規模な攻撃がくる……!!
そう直感し、慌てて防御を最大まで展開する。
直後、巨大な砂嵐が室内に巻き起こり、ロウ君はもちろんのこと、私まで飲み込もうとしてきた。
点での攻撃じゃ埒が明かないって判断したノーリが、きっと面で攻めることにしたんだ。
轟音が包み込み、視界が砂で埋め尽くされる。
けれど土の精霊で防御したのが良かったんだろう。
私の願い通り、砂の嵐は私だけを避けるように発生し、私は一切のダメージを受けることなく、その嵐をやり過ごすことができた。
危なかった……。
精霊術をきちんと身につけてなかったら本当に死ぬところだった。
それに、いくらロウ君でもこんな攻撃から私を守ることなんでできなそう。
やがて嵐がおさまると、そこには変わらず戦い続ける二人の男の姿があった。
どうやらあの嵐をもってしてもロウ君をなんとかすることはできなかったみたいだ。
やっぱり頑丈だなあ。
さて、そんなことよりここで少しだけ気になったことがある。
もしもこれがうまくいったら……ロウ君の助けになるかもしれない。
ちょっと試してみよう。
◆ ◆ ◆
突然砂嵐が起こったのには焦ったが、なんとか【金剛】の発動が間に合って耐えることができた。
いくら俺でもあんな激しい、しかも奴の支配下の砂嵐の中で無事でいられるとは思えないからな。
一応気になってマオのほうのことも調べてみたが、どうやら無事みたいだ。
精霊術ってのはああいうのには強いんだろうな。
丸っきり攻撃を受け付けていなかったのは感心したよ。
砂嵐は耐えきったがまだ奴に攻撃が一発も入れられていない。
やっぱり手数が多いってのはそれだけで厄介なもんだ。
避けるのはもうだいぶ慣れてきたが、攻撃まで加えるってなると一手たりない。
せめて砂の攻撃の方でもなんとかできればいいんだが。
そんなことを考えながら連続して襲ってくる砂の鞭をかわそうとすると、不意にその動きが鈍くなった。
おかげで難なく躱せたが、なにか様子がおかしい。
奴の顔をみても、そのことに驚いた様子が見て取れる。
一体何が起こった?
それでも続く奴からの連撃をいなしつつ、わざと隙きを作るようにこちらからも攻撃を入れてみる。
やはりその隙きを狙うかのように砂の剣が襲いかかってきて――しかしその一閃は俺に当たる直前で軌道を大きく曲げ、空を切った。
やっぱり何かが起きている。
こんなことは普通じゃありえない。
誰かが奴の力に干渉している?
そしてそれをやりそうなのはこの場で俺以外には唯一人……。
そういうことか。
これならいける。
次第に頻度が減っていく砂による攻撃を観察し、その機会を狙う。
一撃でいい。
一撃入れられれば、俺の勝ちだ。
焦ったように速度を上げてくる奴の一撃一撃を確かに躱しながら、決定的な瞬間を狙う。
狙うのはただ一瞬。
奴が砂を操ろうと魔力をねったその瞬間だ。
やがて連撃が一切当たらないことに業を煮やした奴は、またしても砂嵐でも起こそうとしているのか、それとも何か別の切り札があるのか、その膨大な魔力を更に膨らませてきた。
ここだ。
俺はあいつのことをただ信じて、防御を捨て一瞬の隙きに全てを賭ける。
奴の魔力がはじけようとしている。
全てがゆっくりと流れていくような感覚の中、俺は奴に肉薄し、その手を添える。
使い慣れた一撃必殺の奥義。
それを放つ構えだ。
今までのこの技じゃ妖魔には決定的な一撃を与えることができなかった。
だからこそ、俺はこの奥義に更に手を加える。
落ち着いて呼吸をし、拳に込める仙術の気の力に、さらに魔力を混ぜていく。
混ぜ込むほどに不安定になり弾け飛びそうになるそれを押さえつけ、あらゆる力をこの拳に凝縮していく。
あと少し、あともう少し。
時間にしてみればほんの数秒にも満たない僅かな時間だが、体感時間はそれよりもずっと長い。
俺が打ち込むのが先か、奴の切り札が飛び出すのが先か。
やがて、その時は来る。
すべての力を制御しきり、打ち込むべき正しい地点を見定めようとした瞬間。
奴の魔力が放出された。
そう、ほんの一瞬だが、俺は速度で負けた。
何処からか生み出された砂が巨大な竜へとその姿を変えていきながら、その強靭そうな大顎で俺を呑み込もうとした。
――ただそれだけだった。
確かにその魔法は完成していたが――同時にまた、破壊されていた。
「悪いな、俺は一人で戦ってるわけじゃないんだ」
そうして完全に隙きだらけになっている奴の肉体に、全てを注いだこの一撃をお見舞いする。
奥義――【真・螺旋寸勁】
物理的な肉体を超え、物理と魔法の繋がりそのものを破壊する一撃。
ノーリはその一撃を受け、砂となり崩れていった。




