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この一瞬だけ欺ければ問題ない

 殴り合っていると、奴の鼻っ面に石が直撃した。

 突然の出来事に少し驚いたような素振りを見せ、飛んできた方向を睨んでいる。

 俺も気になって顔だけ振り向いて確認すると、どうやらマオが精霊術に成功したみたいだ。

 俺の言ったとおりにやってくれたことに安心して、頷きだけしてよくやったという意思を伝えてみる。


 これならもうマオのことまで気に回す必要もないだろう。

 ここからが本番の始まりだ。


 しばらく殴り合った感じわかったことがいくつかある。

 まず、こいつの腕力は異常だ。

 俺が限界まで防御力を高めて、なんとか無傷で抑えられる程度。

 ()()()()()()()()()()ってわけじゃない。

 ()()()()()()()()()()ってことだ。


 それと、一発一発はでかいくせに速度もかなり出せる。

 隙きが少なく、距離をとっても一瞬で詰められる。

 力があるだけじゃなく、そいつを活かしきれるしなやかさも兼ね備えてるってことだ。


 しかし防御力は意外と大したことはない。

 なぜかはわからないが、こいつは防御にあまり意識を向けていない。

 当てられれば相応に傷を負わせられるし、骨を砕くのもたやすいだろう。


 とはいえ、腕一本砕いた程度で止まるような奴とも思えない。

 だから俺がこいつを殺さずに無力化するなら……四肢を全て砕くのが一番だ。


 方針は決まった。

 あとは四発当てるだけだ。


 マオの方に向かっていきそうだったので、体勢を崩す目的も兼ねて一発足払いをかけてやる。

 こちらから意識が外れていたのもあってそれはうまく当たり、多少体勢を崩すことができたが……そのまま片手で地面から飛び上がり空中で何度か回転した後着地。

 すぐに姿勢を整えられてしまった。


 あの巨体であの動きはやはり恐ろしいな。

 まるで体重を一切感じてないみたいだ。


 さてどうやって四発入れるか。

 襲いかかってくる巨体を捌きながら考える。


 一撃一撃は重いし攻撃の間隔も短いから大変ではあるが、攻撃そのものは素直なんだよな。

 それに、さっきの足払いが決まったことを考えると足元は特に注意を向けていないと予想できる。

 そこに勝機がありそうだ。


 ならばいっその事――。


 大ぶりの攻撃を誘うため、少し距離を離す。

 今までの傾向からいって俺が距離を取ろうとすれば、その距離を詰めつつ加速の勢いを載せた大振りな一撃を繰り出してくるはずだ。

 そこを狙う。


 果たして、俺の誘いに乗ってくれた奴は一足で彼我の距離を埋める強烈な加速をみせてきた。


 よし、ここだ。


 冷静にギリギリまで引きつけ、殴りかかってくる直前、あの技を発動する。


【残影】――()()()


 単純な移動に使うのではなく、防御の構えを取った残像を残して、さらに飛びかかってくる巨体の下にできた隙間に滑り込む。

 敵が巨体で、しかも飛び上がるほどの加速をしているからこそできる芸当だ。


 どうせすぐにバレるだろうが、この一瞬だけ欺ければ問題ない。

 俺の影に殴りかかっているのを横目に、がら空きの足を狙い撃つ。

 屈んだ姿勢で少しやりづらいが、問題ない。

 どんな姿勢でも奥義を使えるよう俺は鍛えてきた。


 奥義――【雷鳴破碎ライメイハサイ】。


 奴の軸足である左脚を完全に砕く、最大火力をお見舞いしてやった。

 確かな手応えを感じる。

 衝撃は俺の狙ったとおりの位置に走り、確実に奴の脚を砕いたはずだ。


 しかしここで油断することは決して無い。

 すぐさま体勢を立て直すため、一度距離を取る。


 どうだ……?


 思わずつぶやきそうになった言葉を飲み込み、俺は目の前の男の()()姿をじっと観察した。


 そう、脚を砕かれたはずのその男は、それでも尚()()()立ち上がっていた。


 今何かをしたのか?

 と聞かんばかりのとぼけたような表情。

 俺の方を振り返り見るその男は、どうやら紛れもない化物みたいだ。


 まさか、今の一撃すら効かないなんてな。

 手応えはあった。

 だけどなぜか効いていない。


 こいつは……つい最近似たような経験をしたばかりだな。

 それにもっと前にも、同じように奥義を喰らってピンピンしてたやつがいた。


 そうだ、こいつらはきっと同じだ。

 確かに入った一撃は、だが同時に何処かに抜けていく。

 いや、そもそも全て勘違いなんじゃないのか。


 頭のどっかでずっと引っかかっていたものが、徐々に確かな形になっていく。


 ――妖魔の男、ヴァララローグ。

 あいつと戦った時は、単に不死身の化物なのかくらいにしか思わなかった。


 ――謎の女、ライラ。

 あいつと戦った時は、何かがおかしいと違和感に気づき始めた。


 ――目の前の男、ノーリ。

 こいつと戦っている今、単に肉体が頑丈なだけじゃこんなことはありえないと理解した。


 今にして思えば手がかりは、いくつもあったように思える。


 はじめの手がかりは王都でアーシアを誘拐犯から救った時。

 あの時襲ってきた魔術は初めて見るはずのものだったのに、なんとなく知ってるような感覚を俺は感知していた。

 その時は違和感がある程度でこれが魔術ってやつなのかと思っただけだったが。


 屋敷でマオの修行を見ていた時。

 魔力の操作をしていると聞いたとき、当たり前のように俺は魔力を感知することができていた。

 そして、その操作を試しにやった時……やはりその操作した感覚に違和感と、既視感を覚えていた。


 そしてライラと戦った時。

 あいつは俺に対してこういった。

()()()制御は悪くないようだ」

 その時はよく鍛えてる程度の意味かと思って気にもとめてなかったが、ここまで来てようやく理解した。


 三人の強敵に俺が勝てない理由。

 あいつらに共通していて、俺の攻撃じゃ決して届かない理由。


 分かってしまえば単純な話だ。

 あいつらは妖魔で、この世界にほんとうの意味で実体が存在しない、ただそれだけのことだ。


 俺が魔力を最初から知っているような気がしていたのは、ヴァララローグと戦った時、既に無意識下で感じ取っていたせいだ。

 奴らは純粋な魔力の塊で……現実世界に干渉するために肉体らしきものを形作っているに過ぎない。


「なあ、あんた妖魔なんだろ」


 わかったことを、問いかける。

 答えてくれるともしれないが、なんとなく聞いておきたかった。

 すると答えは以外なところからやってきた。


「ほお、打ち合いの中でそやつの本質に気づくか。

 これは傑作よの。

 いかにも、そなたの指摘する通り、ノーリはつまらんやつだが、確かに妖魔よ。

 力と砂の妖魔。それがそやつの正体であるよ」


 力と砂の妖魔……それで馬鹿げた膂力を持ってるのか。

 そういや出てくるときに砂の中から出てきたし、砂の妖魔ってのはそういうことでもあるんだろう。


 正体がわかった。

 俺の攻撃が通らない理由もわかった。


 ならどうするか。


 簡単だ。


 今までの攻撃が通らないなら、通る攻撃を編み出せばいい。


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