ご機嫌麗しく恐悦至極にございます
フィーナさんの話の裏を取るためにその日の夜は酒場に行って確かめてみたけど、おおよそ全て本当のことみたいだった。
ただちょっと気になったのは『審判の光』っていうブリゲイドについてはそこまで方針が不明って言うわけでもないとか、むしろあそこほど分かりやすい団体は無いよだなんて話が聞けたことなんだけど……まあこれは今はあまり関係ないしとりあえず放置かな。
とにかく、招待を受けた以上絶対に行かなきゃいけないっていうことは間違いなさそうだった。
拠点の場所も教えてもらえたし、明日行くことにしよう。
そういえばその拠点は見れば一発で分かるから絶対迷わないとも行ってたけど、どういうことだろう。
◆ ◆ ◆
そして翌日。
聞いていた場所まで朝からやってきたわけだけど……。
ここがそうだよね、間違いないよね。
うん、噂通り見ればひと目で分かるつくりだ。
なんていうか、持ち主の趣味の良さがはっきりと現れた素敵な建物だ。
豪華さも派手さも全て通り越して、とにかく装飾がうるさい。
この館だけ異界から紛れ込んできちゃったんじゃないの? って言われてもおかしくないくらい、周囲から浮いてる。
隣でロウ君も大笑いしてるし、逆にここが本当に序列第二位の拠点なのか心配になってくるくらいだよ。
ああでも、これだけ魔改造してるってことは組合から借りてるってわけじゃなくて、持ち家ってことなんだよね。
そう考えたら、まあすごいお金持ちってことで納得できるのかな……。
ええい、とにかく気をしっかり持って突入するぞ。
相手は大物だからな、気を引き締めねば。
「ようこそいらっしゃいました。
私は当館の使用人代表兼、『愚者の行路』配下筆頭のアジンと申します。
お嬢様が中でお待ちです。どうぞこちらへ」
館に入ろうと思って門を叩くと、少しも待たないうちに男がやってきた。
執事のような格好をしたその男は私達の素性を特に確認することもなく、館の中に案内すると言い、門の中へ招いてくれた。
私達のことは全てお見通しってことか。
今日来るなんて伝えてないにもかかわらずこの対応の速さ。
そして顔を見ただけで何者か把握していること。
きっと昨日私が調べていたのもお見通しなんだろうな。
それでいて不快感をあらわにすることもなく、余裕のある態度。
これが序列二位に立つってことなのか。
館の中は外見ほど華美ではなくて、ほんとうの意味で趣味の良い置物が所々に飾られているくらいだった。
ひょっとしたら内装は外装を発注した人とは別の人が発注したんじゃないかな、なんてどうでもいいことを考えながら長い廊下を歩いていく。
「こちらの部屋にてお嬢様はお待ちになっています。
どうぞくれぐれも粗相の無きようよろしくおねがいします」
ついに女帝様とご対面か。
部屋に入る前にロウ君に釘を差しておこう。
「いい? 基本的に私が喋るからなるべく余計なことはしゃべらないようにね」
「ああ、それくらいわかってるよ」
よし、それではいざ参りましょう!
「よくぞ参ったのう。我が名はサーシャ、王であるぞ」
扉の向こうで待っていたのは、自らを王と名乗る美女だった。
サラサラとした金色の長い髪、真っ赤に燃える瞳、それらがよく映える豪奢な赤いドレス。
そして大きく開いた胸元に……これまた大きなお胸様。
10人に聞けば10人が美女と答えるその美しさと妖艶さは、きっとこの世の男の視線を全て独り占めにしてしまうだろう。
そしてその居住まいもまた、王と名乗るにふさわしいものだ。
豪華な椅子に脚を組んで堂々と座っており、部屋もどこぞの王宮の謁見の間と言わんばかりの構造をしているから、ごくごく当たり前のように私達を見下ろすような視線になっている。
思わず跪いてしまいそうになってしまう。
おっといけない。
ちゃんと挨拶しないと!
えーっと、こういう時の言葉遣いは……。
「サーシャ様、お招きに預かり光栄です。
私の名前はマオ、こっちのぼーっとしているのがロウと申します。
サーシャ様におかれましてはご機嫌麗しく恐悦至極にございます」
こ、これでいいのかな!?
ちょっとへりくだりすぎてる気もするけど、下手なこと言いたくないし、ああもうわかんない!
「ふん、無理に畏まらんでもよいわ。
我はそれほど狭量ではないのでな。
むしろつまらん世辞を聞くほうが興が冷めるわ」
「そうですか、では普通に喋りますね」
ああ、よかった。
こんな喋り方続けてたらまともに話せる気がしなかったんだよ。
「しかしそなたのその姿勢だけは評価しようぞ。
それで、ロウとマオといったか。
この国に来てから随分活躍しておるようだのう。
話を聞いたところによればもう一人おると聞いておったのだが、その者は今日は来ておらんのか?」
もうひとり?
あ、ライラのことかな。
ライラは今は一緒に住んではいるけど、一緒に活動してる仲間かって言ったら微妙なところだしな。
まあでも、他所から見れば仲間に見えちゃうかな?
あんまり外に出てないとは思うんだけど。
「活躍しているのはこっちのロウ君だけですね。
私は基本的に後方支援が中心なので。
もう一人は……多分ライラさんのことですよね。
彼女は私達と一緒に暮らしてはいますが、特に一緒に活動しているというわけではないんですよ。
私の、せ……、魔術の師匠ですね」
危ない危ない、精霊術っていうところだった。
迂闊に誰も知らない術の名前なんて出しちゃいけないよね。
「ほほう、魔術の師匠、とな。
つまりそのライラという者はかなりの実力者なのだな?」
「えーと、はい、多分そうです」
あれ、サーシャさんはロウ君よりライラに興味を示してる?
単に話の流れでそっちにいっちゃってるだけかな。
あんまりライラのこと聞かれてもわからないし、サーシャさんが今日呼び出した理由もよくわからないからなるべく話を脱線させたくないんだけど。
「ところでサーシャ様はどうして私達を……特にこのロウ君だと思うんですけど、招いてくれたんでしょうか?
確かにロウ君は運よくそれなりの功績を残せてはいると思いますけど、序列二位であるサーシャ様が気にかけるほどなのかと」
「ふん、そんなことか」
気になっていたことを聞いたら、少しだけ機嫌が悪そうな反応が返ってきた。
「確かどこぞの異界の未踏領域を単独で発見したのだろう?
それに数多の勧誘をことごとく断り、挑んできた他のミスリル級をすべて退けているというではないか。
相手が有象無象とはいえ、それを無傷で為し果せておるのなら今後のために直接そのひととなりと実力を測りたいと思うのは王として当然の勤めであろうよ?」
「なるほど……おっしゃるとおりです」
つまり最近台頭してきたくせに何処にも所属していないロウ君を放っておいていいのか、取り込むべきなのか見定めるために呼んだって解釈かな。
うーん、それにしてはなんかこう、本気っぽさが感じられないんだよなあ。
そうそう、王都で会った本物の王様のあの視線。
あれと比べると全然恐ろしさがないんだよね。
単純にサーシャさんが自称王っていうだけの器の小さな人なのか、それとも実は何か別の目的が……?
「まあよいわ。
そなたらの関係性を察するに、放っておいても脅威にならなそうということは誰でもわかる。
ところで先程話しておったライラとやら……その者とそこのロウとかいう男、どちらが強いのかの?」
「え、それは」
「俺よりもあのライラってやつのほうが強い。
あと100年修行しても傷一つつけられるか分からん」
言いにくいことを聞かれてどうしようかと思ったら、ロウ君がはっきりと告げた。
きっと何か思うところがあるんだろうな。
っていうか100年修行しても傷一つつけられないってそんなにライラって強いの?
敵じゃなくて友達になれてよかった……。
「ほう……それは興味深いのう。
一度見てみたいものであるな」
「はあ……」
よくわかんないな。
結局強い人のことが知りたいだけなのかな。
とにかく、ここまで話している感じ、興味を示して入るけど脅威とは思ってないみたいだし、サーシャさんと敵対関係になることはなさそうっぽい。
そんなことを考えて安心していたら、不意にその場の空気が変わるのを感じた。
「だがその前に、まずはロウとやらの実力を見させてもらうかの」




