手紙を送られてくるような心当たりなんてないんだけどなあ
初めての精霊術に成功した私は浮かれて、次々と色々な精霊術を試していった。
はじめに試したのは水の下級精霊の召喚だったから、次に他の元素精霊の下級精霊の召喚を。
何度か試して制御に慣れてきたら中級精霊、上級精霊などと進んでいき、気づけばかなり自由自在に精霊術を使えるようになってきた。
とはいえまだ精霊石を使っての召喚だから、次は精霊石なしでも召喚できるようにならないといけないけど。
精霊石は使い切りというわけではないけど、一度召喚するとしばらくは使えなくなるっていう欠点があるみたい。
元々宿っていた精霊の残滓が抜けきって、新しい精霊が宿るのに時間が掛かるからだそうだ。
このへんはなんかゲームの再使用待機時間みたいでちょっとおもしろいかもって思ったけど、実際のところ何度も使えないのは不便だから早くなんとかしたい。
それから、元素精霊以外の精霊も召喚できるようになりたいな。
元素精霊以外だと対応する精霊石が少ない……というかよく分かっておらず市場に流通していないから、なんとか探し出すか精霊石なしでも召喚が使えるようにならなければならない。
ちなみに他にどんな精霊がいるのかとライラに聞いてみたところ、分かりやすいところだと剣の精霊とか鎧の精霊なんて言う武具精霊、はたまたお金の精霊だとか愛の精霊まで、とにかく概念として成立していれば大抵のものに精霊は存在すると言っていた。
お金の精霊はちょっとどうかと思うけど……、まあ面白そうだし早く色々試せるようになりたいな。
「召喚するだけで満足せずにきちんと戦闘に活かせるようにならなきゃだめだよ〜」
すっかり舞い上がって召喚の練習をしていたら、ライラに釘をさされてしまった。
そうだった、私は身を護るための手段が欲しいから精霊術を学んでいたわけで、遊ぶためにやっているわけじゃないんだった。
とはいっても戦闘訓練ってどうすればいいのかわからないな。
とりあえずそれぞれの精霊でできることを調べて、臨機応変に対応できる状態にしたほうがいいかな?
慣れてきたらロウ君との模擬戦をやってみるのもいいかも!
ぼろぼろに負けそうだけど。
ざっと調べたところ、それぞれの属性の精霊はその属性のものを生み出したり、既に存在する物を操作したりできるみたい。
力の強さは当然下級が一番弱くて、上級が一番強い。
ただし魔力消費が上級は多くなっちゃうから、あまり長時間使っていられないのが欠点かな。
普段は下級か中級で守っておいて、ここぞというときに上級を召喚するのがよさそう。
属性ごとの特徴で言えば火は防御には向いていない、水は攻防のバランスが取れていて、風は補助がしやすい、土は防御と足止めが得意って感じかな?
なんだかゲームっぽいなあ。
「この術の特徴は術者の想像した方向性で精霊が進化することにあるのよ」
あ、そうなんですか。
ってことは私が各属性の特徴をそういう風に心の何処かで思い描いていたから、そのとおりになったってことなんだ。
うーん、奥が深い。
できることも私がイメージした方向性に偏るし、行動パターンも大体私がイメージした感じになると……。
まあでも、ある意味扱いやすいかな?
言い換えればイメージ通りの性能になるってことだから、できること、出来ないことが直感的に判断できる。
それって不慣れな武器を無理やり扱おうとするより、よっぽどやりやすいよね。
◆ ◆ ◆
検証と訓練が楽しくて時間が過ぎていくのがとても早い。
気がつけばもうこの国に来てから二ヶ月も経っていた。
この調子ならもうそろそろ私の冒険者としての評価をあげるために異界に挑戦しても良いかなーと思っていたのだけど、事情がある日変わった。
それは、屋敷に届いた二通の手紙によるものだ。
宛名も送り主も書いておらず、ただいつの間にか扉に挟まっていたのだそうだ。
「手紙?
手紙を送られてくるような心当たりなんてないんだけどなあ」
ロウ君への指名依頼の場合は大抵組合から使いの人がやってくるか、定期的にこちらから最寄りの組合に出向いて確認して受けるようにしている。
だからこの手紙がその線であるということはまずないだろう。
他にこの国での知り合いといえばロウ君が契約しているという解体所くらいかと思って聞いてみたら、あいつは手紙を書くような奴じゃないとロウ君にバッサリ否定された。
そうなると本格的にわからないけど……、あ、もしかしたら王都から届いたのかな?
ギムレー商会とか、アルネシア王女様とかならありえるかも。
うーん、でもそしたら流石に送り主とか書いてあるか。
なんてことを想像しながら、まずは一通目の手紙の封を開けてみることにする。
ちなみに今日はロウ君も休みの日なので開封に立ち会ってもらった。
ロウ君宛だったら勝手に開けるのは申し訳ないからね。
一通目に書いてあったのはこんなことだった。
「ミスリル級冒険者 ロウ殿、並びにその一行
貴殿らのこの国における活躍めざましく、称賛に値する。
我が主も貴殿らに大変興味を示しており、当館にて歓待したいとのこと。
またもしも希望するのであれば、貴殿らを付け狙う不埒な輩からの庇護を約束する、ともおっしゃられている。
貴殿らがこの招待に応じ、我が主を喜ばせてくれることを切に願っている。
愚者の行路 配下筆頭 アジン」
ええっとつまり……、このアジンっていう人のご主人様がロウ君に興味を持ったから、招待してやる、拒否することは許さん……って意味の手紙だよね、これ。
庇護とかなんとかあるのは配下になれって意味かなあ。
この一文は希望するならってあるから断れそうだけど。
うーん、っていうか『愚者の航路』ってなんだ。
何かのチーム名?
チームって言うと……ああ、ブリゲイドかな。
隣でロウ君がよく分かってなかったからわかりやすく解説してあげる。
すごく面倒臭そうな顔してるけど、名前が売れてきたらこういう付き合いも生まれてくるんだよ。
主にあなたが頑張り過ぎなせいだからね。
さて、まあこれは行かなきゃ何されるかわからないし、素直に招待に応じることにしよう。
『愚者の航路』ってのがわからないけど、酒場か組合あたりで聞き込みすればきっとわかるでしょ。
よし、とりあえずこれはそういうことにして、もう一通の方だ。
どれどれ……?
「組合本部にて待つ。
同封する札を受付にて提示せよ」
んんん?
なんだこりゃ。
内容短すぎるし誰宛かもかいてないし差出人も不明だし。
まあ私にこんなの届くわけないからロウ君宛なんだろうけど……。
二文目の札っていうのはこれか。
封筒にもう一枚小さな紙片が入ってる。
その札にはおっきく紋章が描かれてるけど……この意匠は龍かな?
飛んでいる龍が四角っぽいなにかを呑み込もうとしてる、そんな絵柄だ。
偉い人の家紋なのだろうか。
さっぱりわからないけど、少なくとも組合本部に強い影響力を持っている人物から届いた、という認識で間違いなさそうだ。
これもこの国で生きていきたいなら無視はできないだろうな。
ロウ君だけで行かせるべきか、心配だから私もついていくか。
手紙には一人で来いなんて書いてないし、多分私もついていって大丈夫だよね?
誰かはわからないけど、これだけ偉そうな命令の手紙を書く人なんだ、そのくらい許容してもらわないと困る。
よし、とりあえず今日中に『愚者の航路』について調べて、なるべく早いうちにこの二つの招待状の主の元へ向かうことにしよう。
なんだか急に物語っぽくなってきた。
いろいろ不安もあるけど、どきどきわくわくだ。
――第7話 了
〜次回予告〜
ロウとマオの元に届いた二通の招待状。
その招待の主の一人はなんと国内序列第二位というブリゲイドの長だった。
粗相のないように対応する二人だが、その会談中に現れる急襲者。
そしてさらなる災難が二人の身を襲い――。
マオ「精霊術師マオちゃん、初の実戦です!」
次回、第8話「序列二位の力、二人の力」
お楽しみに!




