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ロウとマオ 〜最強仙術使いと最弱JDの異世界放浪譚〜  作者: にしだ、やと。
第0話 出会いと旅立ちのクル山脈
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クル山脈の最も若き仙術使い

 散々抗議したけれど、仙人たちは聞く耳をもたなかった。それどころか、


「マオちゃん一人じゃそもそもこの山脈を出ることは不可能じゃろう。案内兼護衛は必要じゃよ」


 と正論を言われてしまった。


 それにしたって街に出るまでで十分じゃないか、とも言ってみたら、


「そこのロウはまだ外の世界に出たことがなくての、ある程度この山で修行が済んだら見聞を広めるために外に放り出すのが習わしなんじゃが……ちょうどいい機会がなかなかなくての。それで今回の件じゃ。まさに渡りに船といったところじゃな」


 と彼がついてくる理由をあげてきた。


 彼も納得がいかないのか、いやでも別にずっと一緒である必要はないだろ、と抗議しており、それに対しては


「ロウよ、お前さんの才能が人並み外れているのは十分わかっておる。じゃがそれはあくまで技術のみ。外の世界に出ればいろんな人と会わなければならぬ。ろくに人と話したこともないお前さんが一人でやっていけるわけないじゃろう。社会とは腕っぷしだけではままならぬものよ」


 と言われ、反論できない。さらには、


「それにマオちゃんもじゃ。先の問答を踏まえるとおそらくマオちゃんは人とやり合う才がある。しかしそれはあくまで口先の上だけじゃ。この世界の命の価値はとても低い。自らの命を守れぬものはあっという間に死んでしまう。マオちゃんのことを理解し、守ってくれる者が必要じゃろう」


 と完全に退路を絶たれてしまった。これでは諦めて従うしかない。


 それによくよく考えてみれば決して悪い話じゃなかった。

 確かにまだ私はこの世界水準でどれくらい強いのかわからない。

 というか何も訓練していないのだから弱いに決まっている。

 もしかしたらチート能力があるかもしれないけど、それは確かめてみないとわからないし。

 だから少なくともある程度実力がつくまではそれなりに強い人に護衛してもらうほうがよさそうだ。


 特にこの男、ロウはかなりの実力者だと思う。

 そんな彼となんの交渉もすることなく、なんの対価も払うことなく護衛契約を結べるのなら、それはむしろかなりいい話だろう。


 さっき言っていた彼をくれてやるとかなんとかいう話はきっと言葉の綾に違いない。

 決して男女のあれこれではないだろう。

 そう思いたい。

 だって私そういうのまだあんまり興味持てないし。


 ちらりと彼のほうを見てみると、悩んでいるのかまたうんうんと唸っている。


「悩んでおってももう決まったことじゃからな。観念せい」


 そんな様子を見かねて、仙人は容赦なく彼に告げた。

 それを聞いて覚悟が決まったのか、彼はため息を一つついて、


「はあ、わかったよ。修行の一環ってことでついてくことにするよ。だけどやるからにはきっちりとやらせてもらう。護衛として、マオに傷一つつけないことをここに誓おう」


 と言った。

 その言葉はとても勇ましくて彼の真摯さを感じさせて、今まで聞いたどの口説き文句よりも――マオはかなりモテるのだ――マオの胸に響いた。


 わずかに紅潮してくる頬に慌てて、思わず後ろを向いてしまった。

 さすがにこんな姿をこの男には見られたくない。

 こんな女性を女性とも思っていないような朴念仁には、乙女の恥じらう姿など見せるわけにはいかないのだ。


 深呼吸をして、気持ちを切り替えて再び振り向く。


「うん、私も護衛は必要みたいだし、せっかくのご厚意、甘えさせてもらうことにするよ。よろしくね」


 そう言って手を差し出す。

 その様子をみて、わかっていないのか首をかしげるロウ。


「えっと、これは?」


 そうか、握手の習慣ってこの世界にはないのかな。

 いや、言葉自体は今思い浮かんだからあるっぽいけど……単にこの男が人の習慣に無頓着なだけか。


「これは握手っていうの。お互いに手を握りあって、武器を持っていないことを示して、好意を示すの」

「ふうん、外の人っていうのはそんなことをするんだな」


 と首を傾げながらも、私が差し出した手を握ってくれた。


「でもなんかいいかもな、これ。これからよろしくな、マオ」


 そう言った彼の表情は、笑っているようだった。


 ◆ ◆ ◆


 それから私は仙人たちに餞別としてこの世界でもあまり目立たない衣服と、少しばかりの保存食、そして当座の資金をもらって集会所を出た。


 まだ太陽は高く昇っており、時刻はおそらく昼すぎたくらいだろう。


 そうそう、時刻といえばこれも不思議なものなのだけど、元の世界と変わらないらしい。

 一日は24時間で一時間は60分。

 数字だって当たり前のように十進法が使われている。

 さすがに曜日は週の概念は少し違っていて、6日で一週間、一月は必ず5週間ちょうどで一年は12ヶ月あるので360日、という感じだそうだ。


 曜日は五つの精霊と一柱の神がそれぞれ守護しているとされていて、火、水、風、土、光、神の順らしい。

 この辺りは宗教観に関わってくるものだし妥当なところだろう。


「じゃ、とりあえずまずは俺の家に寄って装備とってくるから」


 世界の違いによる時間の概念や曜日制度の違いなどに思いを馳せていると、さも当然のように私を抱え上げながら彼は言った。


「ちょっ、えっ、この姿勢ってもしかして」


 私の言葉など聞きもせず、彼はにっこりと笑うとなんの断りもいれることなく、飛んだ。


 ああ、もうどうにでもなれ――。


 ◆ ◆ ◆


 すべてを諦めて考えるのをやめたおかげか、彼の家にはあっという間に着いた。


「装備整えてくるからいまのうちにもらった服に着替えといてくれ」


 それだけ言うと彼はさっさと家の中に入っていってしまった。


 着替えといてって、ここ野外なんですけど……。

 まあ彼しかいないしもう諦めるか。

 うん、彼のことは頑丈な盾かなにかだと思うことにしておこう。

 そうだ、彼は物だ。ロボットだ。

 うん、ちょっと感情に乏しいし、それくらいの距離感で扱うことにしよう。


 もらった服の肌触りはそれなりに上質なものだった。

 繊維は亜麻っぽい素材で出来ている気がしていて、触り心地がいい。

 デザインも無難な感じだし、これならこの世界の文明にも期待できそう。


 着替え終わると、ちょうど彼が家から出てきた。


 装備を整えてくると言っていたから服をちゃんと来てくるのかと思ったら、上半身裸のままだった。思わず嘆息する。


「ねえ、なんで上半身裸なの?」

「そりゃ持ってないし、邪魔だからだ」

「さよですか」


 なんの迷いもなくそう答えられたら、もう諦めざるを得ないだろう。

 幸い下半身は丸出しじゃない。

 きちんとズボンをはいている。

 それだけで良しとしよう。


「それで、装備は整ったの?」

「ああ、ばっちりだ」


 見ると、先程まではつけていなかった手甲をつけている。

 どうやらあれが主武装らしい。

 仙術では自分の肉体を武器にするらしいから、防具を兼ね備えた武器、といったところかな。


 それに足元にもその手甲に似た見た目の靴、というか足袋らしきものが装着されている。

 同じ素材でできているのだろう。


「ふうん、なら行きましょうか」

「わかった」

「ここから麓までどれくらいかかるの? 日暮れまでには野営できる場所にたどり着きたいけど」

「なあに、麓まではひとっ飛びだよ」

「え、それってもしかして……」


 薄々気づいていたけれど嫌な予感がする。


「もちろん、【天歩(テンポ)】で向かう」

「ですよねー」


 もう何度目になるかわからない諦観を覚えて、大人しく彼に抱えあげられる。

 すっかりこの体勢もなれたものだ。


 こうして見るとなかなかかっこいいかもしれないな。

 なんてことを思いながら、飛び上がるのを待つ。


 すると飛び上がる直前、彼が言った。


「そういえばまだきちんと名乗ってなかったよな。もう知ってると思うけど、ロウだ。クル山脈の最も若き仙術使い、ロウ。これからよろしく頼む」


 抱え上げた私を見つめながら言うその顔は、とても真っ直ぐで、頼もしくみえた。


「ええ、改めてよろしくね」


 こうしてロウとマオ、二人の旅が始まった。


 世界を知らない青年ロウと異世界からやってきた少女マオ。


 二人がこの世界で何を見、何を感じ、何をするのか。


 それはまだ、誰も知らない物語。


〜次回予告〜


クル山脈を出て最寄りの街に向かったロウとマオ。

さっそく向かった冒険者組合で待ち受けていたのはお約束のあれこれで!?


マオ「ってあれ? 私主人公だよね!? なんか思ってたのと違うんですけどー!!」



次回、第1話「冒険のはじまりは伝説のはじまり? はじまりの街、リグルー」


お楽しみに!

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