次の段階に進めそう
それから一月が経った。
私は相変わらず魔力を動かそうと四苦八苦しているし、ロウ君は時々依頼を受けて異界に潜っているみたいだ。
時々屋敷まで人が来て、ロウ君を勧誘に来ることもあったんだけどみんな当然門前払いで終わってる。
中には勧誘じゃなくて決闘の申し込みってのもあったけど、そういうのはきちんと相手をしてお帰り頂いている感じ。
正直どうやってここに住んでることを知ったのかは疑問なんだけど……、まあ隠れ住んでるわけでもないから出入りしているところとかを誰かに見られたのかな。
とにかく、比較的穏やかな日々が続いていると言った感じかな。
これで修行の方も順調に行ってれば文句なしだったけど、そこは私に才能があんまりないことだし地道に頑張るしか無いよね。
そんなある日のこと、いつものように私が魔石の前で集中しているとロウ君が声をかけてきた。
「ずっと気になってたんだが、結局マオはどういう修行をしているんだ?」
言われてみれば確かにロウ君に修行について特に何も教えてなかったなあ。
時々彼も庭に来て修行をしているみたいなんだけど、お互い自分のことに集中してるから喋ったりしないし。
「ん、これはね。身体の外にある魔力を操作できるようになるための訓練をしてるんだよ。
魔力を感じ取るのはもうできるようになったから、あとはそれを動かせるようになればいいんだけど、全然うまくいかなくってね。
ライラもできるのが当たり前みたいな感じでやり方を教えてくれないし、仕方なく毎日私なりに考えて色々試してるんだけど」
「魔力を操作?
あー、それを動かしたいのか」
あ、そっか。
ロウ君も魔力を感知できるのか。
ちょっとやってみるか、なんてことを言い出してロウ君が何かを念じ始めた、ように見えた。
なにか動作をするわけじゃないから実際に何をしているのかはわからないけど、とにかく魔力を動かそうとしているみたい。
「いくらロウ君でもそんなすぐにできるはずないと思うなー。
……って、えぇっ!?」
「お、動いたな」
魔力の様子を見ていると、ロウ君が何かをし始めた直後、それまでとは異なる動きを見せ始めた。
私が散々苦労してついぞ動かすことができなかったことを、たった一度の挑戦で、こんなにもあっけなく成功させちゃうなんて。
やはりこの人は天才なのだろうな。
「ふーん、感覚は仙術に似てるな。
だけどなんか動かしたときの感じがちょっと違うんだよなあ」
何やら気になることがあるらしく、ぶつぶつと言っているけどそんなことはどうでもいい。
今は私にとってチャンスだと思った。
ロウ君はライラと違って、当たり前のように動かしたわけじゃなく、似たような操作を元に明確に自分でなにか工夫をして動かしたようにみえる。
つまり、どういう風に動かしたのか、自分で理解してるってことだ。
それならそのコツみたいなものを聞けば……私も身につけられるかも知れない。
「ロウ君! いま動かしたときってどんな風にやったの?」
「ん? どんな風にって言ってもな……。
魔力っぽいのがあるのはわかったから仙術で気の流れを操るときみたいにやった感じだな」
「その感じをもうちょい具体的に!」
「具体的に?
そうだなあ、強いて言うならそいつを自分の一部だと思いこむ感じか?」
おお?
なんか物凄い大事そうなワードが出てきたぞ!
「自分の一部だと思いこむ?
それって、うーん、魔力がそこにあったら、その魔力は自分の身体と繋がってると考えるってこと?」
「まあそうなるか?
簡単なのは一回自分の中に取り込んじまうことだな。
それで自分の気と混ぜて、そうすりゃ掌握しやすくなるからあとはこう、ぐぐっと」
「ぐぐっと」
なるほどなあ。
まずは自分の魔力と混ぜ合わせて見るところから始めたほうがいいのか。
確かにそんなアプローチは未だにやってないな。
そもそも自分の魔力が少なすぎて使うっていう発想ができなかった。
本当にちょっとだけなら大丈夫かな?
「よし、ちょっともう一回試してみよっと」
まずは体内の魔力を確認して……っと。
おお、流れてる流れてる。
めちゃくちゃ少ないけどちゃんと感じ取れるぞ。
それで、これを動かせばいいのかな?
外に放出したいから、うーん、手の先から出すのがイメージしやすいな。
流れを意識して、手の先の弁を開けるイメージで……押し出すって言うより出ていってもいいよって考えるイメージかな?
うん、操作してるときの感覚がわからないからそのほうが想像しやすい。
そうだな、自分の中に流れてる血液と同じ風に考えてみよう。
指先にちょっとだけ傷がついて、血がにじみ出てくるときのような……。
おぉっ!?
ほんとにちょっとずつ漏れ出してきたぞ!!
よし、この漏れてるのをしっかり自分のものという認識を忘れないで……霧散しないようにお祈りする、と。
いいぞいいぞ、繋がってる感覚がある。
そっか、こういう感覚なのか。
それでこれを魔石の魔力にゆっくり流し込んで、混ぜ込んで……。
うわー、どんどん私の魔力が薄くなって見失いそうになる!
まずいまずい、えっとこれを私の中に引き込みたいから……どういう風に操作すればいいんだろう。
うーん……。
あ、そうだ。
これ呼び水だと思えばいいんだ。
私の魔力が呼び水で、この繋がってる感じのところがポンプの内部。で、魔石が水源だとすれば……。
きたっ!!
なんか私の方に流れ込んでくるっ!!
これならなんとかなりそう!
あとはぐぐっと……ぐぐぐぐぐ。
できた。
こういう感じになるのか。
今や魔石から漏れ出す魔力は私の一部も同然で、動かそうと意識するときちんと意識した方向に動いてくれる。
自由自在って言うほどには当然至ってないけど……、とにかく動かすときの感覚はつかめた。
第一段階クリアーだ!!
「やったよロウ君! ロウ君のおかげで次の段階に進めそう!!
ありがとう!!」
「そうか、それはよかったな」
反応が薄いけどまあいいや、とにかくこれでようやく精霊術の使い方を教えてもらえる。
早速ライラに報告だ。
「ようやく、うまく、いったの、ですね、それでは。
明日、からは、精霊術を、教えましょう」
◆ ◆ ◆
「この前も話した通り、精霊術を使うには降霊と接続をする必要があるよ。
だからまずは媒体を準備する必要があるね」
「それって何か特別な道具が必要なの?」
「いいや、全然そんなことないよ。
もちろん呼び出す概念によっては準備が大変なものもあるだろうけど。
マオは精霊っていったらぱっとどんなものが思いつくかな?」
やっぱりゲームに出てきそうなのがぱっと浮かんでくるかな。
「火とか水、風や土なんかの精霊かな?」
「なるほど、元素精霊ってやつだね。
確かに身近なものに宿る精霊だから親しみやすさもあるね。
それに魔術でもよく利用されているし」
おぉ、元素精霊。
エレメンタルスピリッツってやつだね!!
「彼らなら媒体の準備もしやすいしまずは彼らを呼び出してみようか」
「おー、どうすればいいの?」
「簡単さ、その精霊が示す概念を再現すればいい」
「つまり……火の精霊なら火を起こせってこと?」
「そういうこと」
それなら、水の精霊にしてみようかな。
桶を用意して、水を汲んでくればよさそうだし。
というわけで汲んできました。
「よし、じゃああとは呼び出して接続するだけだ。
詠唱する時と同じように直接呼び出してもいいけど、今回はもっと簡単にこれを使おうか」
これは……宝石?
あ、違うか。
この世界じゃこれは精霊石って呼んでるんだった。
「これは水の精霊石。魔道具でも使われてるように、これには精霊が宿るから、その精霊を用意した媒体に誘導すればそれで完了さ」
「おお、なるほど。それで誘導はどうすれば?」
「ここでマオに身に着けてもらった魔力操作が必要になる。
水に魔石から取り出した魔力を流し込んで、魔力の糸で精霊石とつなぐ。
あとは引っ張り出すように操作すれば、うまくいくはずだ」
水に魔力を流し込むなんてできるのかな?
まあいいや、それっぽい感じに動かしてみよう。
まず魔石から出てくる魔力を全部まとめて水のところにもっていって、と。そこから更に細く伸ばす感じで、パイプのイメージだね。それで精霊石につなぐ、と。
よし、これでいいかな。
あとは引きずり出す感じで……。
おぉぉぉっ!?
驚いたことに、魔力を操作した直後、桶に入っていた水が塊ごと水球になって、ふわふわと浮かび始めた。
これは一体何が起きてるんだろう。
「うまくいったみたいだね。
こんな感じで精霊を媒体に降ろすことができれば、浮かび上がったり媒体が大きくなったり、とにかく何らかの反応を示すんだ。
ここまで来たら後は簡単、魔術でやったときのようにあの精霊に語りかけて、自分と意識を共有しようとするだけさ」
「それって呪文とかいらないの?」
「どうかな。僕が考えたのはあくまで理論だけで、実際にどういうやり方をするのが一番いいかまではしらないんだよ。
マオがやりやすいようにやればいいさ」
ええ、それってもしかして実験なしで私にやらせてるってことだよね。
なんか不安になってきたけど……ここまできたらやるしかないか。
うーん、接続すればいいんだから、魔術の第一文を使って良さそうだけど。
なんとなく、それは違う、って感じてる。
どうしよう、考えたとおりにしてみるか、感じるままにしてみるか。
……。
少し悩んだ末に、決めた。
(水の精霊さん、私と友達になろう!!)
考えるな、感じろ。
その言葉を信じたくなって、ただ思い浮かんだ言葉を日本語で念じた。
すると、水球がふるふると震えはじめ、次第に形を変え、ついには可愛らしい魚のような姿に変化してしまった。
大きさはそれほど大きくなく、手のひらくらいのサイズだし、あまり強そうには見えないけど……この世ならざる存在感を醸し出している。
――よろしくね、マオ!
不意に、そんな言葉が頭の中に浮かんでくる。
どうやら精霊術は成功したみたいだった。




