少しくらいのんびりしたっていいと思うんだけどな
それからしばらくは魔力を操作する方法を身につけることになった。
魔力を感じ取るのは準備の準備。
ここからが本当の第一段階ってわけだ。
とはいっても。
「ぐぬぬ、全然動かないよ……」
魔力は感じ取れている。
いまも目の前の魔石からじんわりと漏れ出ている魔力が私の感覚……魔力を感じる感覚だから魔覚? を刺激している。
光が見えるとか、触れた感覚があるとか、そういうのではなくて、例えるなら温かい空気が流れてきているような感じ?
いや、これも微妙に違うかな……。
とにかくそこにあるのが分かるし、徐々にどれくらいの濃さなのかとかもぼんやりと分かりはじめてきた。
ただ、それを実際に動かそうってなると……。
さっぱりうまくいかない。
ライラになにかコツは無いのか聞いてみても、
「呼吸の仕方を聞かれて答えられる人がいる?」
なんて返されちゃって、まったく参考にならない。
これは長期戦を覚悟しなくちゃかなあ。
◆ ◆ ◆
数日後、一向に進まない修行を続けているとロウ君が帰ってきた。
予定よりも少し早い気がするけど、うまくいったのかな?
「おかえりー。異界探索はどうだったの?」
「ああ、マオか。随分元気になったみたいだな。
俺の方は……そうだな、しいていうなら地図にない場所を見つけたくらいだな。
それ以外は魔物も大したことなかったしあっさりしたもんだったよ」
「へー、地図にない場所を……ってええ!?」
地図にない場所って、それつまり隠しエリアの発見ってことだよね。
それってすごい功績になるんじゃ?
「そんなに驚くことなのか?
まあ確かにあそこはなかなか見つからなそうになっていたが」
「それなら尚更だよ……。
単純に到達出来てない場所にたどり着いた、とかだったらまだしも、意図的に隠された場所があるっていう情報は異界の調査目的を考えるとかなりの功績になるはずだよ」
「ふーん、そういうもんなのか」
「その感じだと……ひょっとしてまだ報告してないの?」
「ああ、予定よりも早く帰ってきたしな。
とりあえず荷物をおいて一休みでもしようと思ったところだ」
「いやいやいやいや、すぐにでも報告いって!
緊急度高いから!
はー、これだからロウ君はダメなんだよ……」
全く、のんきにもほどがあるでしょ。
確かに何か差し迫って危険があるわけじゃないけど、こういう情報は早ければ早いほど嬉しいもんだ。
それに、評価の事も考えたら素早く深部に到達したっていう事実が伝わるようにまずは報告を済ませて置きたい。
「あーあー、わかったわかった。いけばいいんだろ。
ったく、少しくらいのんびりしたっていいと思うんだけどな」
ぶつぶつ言いながらもちゃんと報告に行ってくれるみたいだ。
よかったよかった。
さて、私は修行の続きしようかな。
あ、しまった。
ロウ君にライラのこと伝えるの忘れてたや。
ま、帰ってからでいっか。
◆ ◆ ◆
屋敷に帰ってそうそう、マオに小言を言われるとは思わなかった。
でもあれだな、異界に行く前は落ち込んでたみたいだけど今じゃすっかり元通りって感じでよかった。
あの様子なら修行もうまくいってるのか、それともいい師匠でも見つけられたかだろうな。
そういや屋敷の中に知らないやつの気配があったし、そいつが師匠か。
まあ帰ったら教えてくれるだろ。
とりあえず解体所に行くか。
解体所と契約した場合は異界に行く前と帰ってきた後、必ず解体所に報告しないといけないらしい。
もう待機する必要がないってことを伝えるためと、組合に報告するための討伐証明書をもらうためだ。
ああ、あとはトレイラーを預けとく必要もあるんだった。
トレイラーは貴重品だから異界に行く時以外は持ち出しちゃいけないのと、壊れた場所がないかの点検も毎回するとかなんとか。
この国は細かい決まりが多くて面倒なんだが、これを破ったほうが面倒なことになるって言われたから仕方ない。
「おお、ロウじゃないか!
お前やるじゃないか! あの傷の少ない死体、並の腕前じゃないと見た!
短期間の割に数も多いし、いやー、ますますこれからが楽しみだぜ!!」
ジャンカー解体所にやってくるとククが飛ぶようにやってきて、嬉しそうに騒いでいる。
どうやら俺が送り込んだ魔物の状態がよかったみたいだ。
騒がしいのは好きじゃないが、ここまで嬉しそうにしているのを見ていると悪い気はしてこない。
「おっと、討伐証明書だよな。
ちょっと取ってくるから待っててくれ」
俺が言う前にククはやってきた理由に気がついてくれた。
うん、こいつはいいな。
いちいち説明しなくてもやるべき仕事をすぐにやってくれるってのはとても楽だ。
「待たせたな、こいつが証明書だ。
それにしても気になったんだが……あのハティフローズンは一体何だ?
やけに大きいし角が生えていたし。
異常個体でも出たのかと思って一応特記事項として詳細は追加しておいたんだが」
「ああ、あいつか」
ククが言ってるのは俺が第5層で倒した亜種のことだな。
こいつから見てもやっぱり変だったってことは、他で見たことがないんだろう。
「あれは新しい階層を発見してそこで見つけたんだよ。
普通のよりはなかなか強くなってたな」
「へえ、そいつはすごいじゃないか!
こりゃ思った以上の上客と契約できちまったみたいだな。
ますます今後が楽しみだぜ!!」
やっぱ新しい階層を見つけたってせいぜいこのくらいの反応だよな。
マオはやけに驚いてたけど、そんな珍しいってほどのことじゃないだろ。
ま、ここまで出てきたから組合にもちゃんと顔は出すことにするけどな。
用事も終わったので適当にその場を切り上げて、組合本部に向かう。
たった数回一人で行動しただけだが、この行き来もなんだかもうすっかり慣れたもんだ。
「あー、依頼を終わらせてきたんだが。えっと、この」
「はい、お疲れ様でした。組合員証と魔物の討伐証明書があればそちらも合わせて提示してください」
「ああ、これだ」
ふう、組合の受付ってのはまだ慣れないな。
あいつらにこにこ笑ってるくせに何も感情が読めないし、うまいこと説明しないとちゃんとやってくれなそうだし。
ククみたいに何も言わなくても仕事してほしいもんだ。
「確かに確認しました。
精査はもう少しかかりますが、何か他に追加報告などありますか?」
追加報告?
新しい場所見つけたってのを言えばいいのか?
「あー、追加報告っていうのかよくわからんが、地図にない場所を発見したぞ。
『季節巡りの森』は全部で4階層までしかないって話だったが、5層目を見つけた」
「っ!? 本当ですかっ!?
……っと、失礼しました。詳細を聞きたいのでこちらへお願いします」
うん? こいつはやけに驚くんだな。マオみたいだ。
ってことはククの反応が鈍かっただけでこういう反応のほうが普通ってことなのか?
わからんな。
とりあえず聞かれるままに見つけた場所、状況、見つけるに至った経緯、5階層の様子などなどを話した。
特に発見した時に俺が考えたことを伝えると、妙に真剣な顔で手元の用紙に書き連ねていた。
面倒そうだったから魔物を一匹だけ倒して帰ることにしたってことを伝えたら、正しい判断だけど少し残念、と言われてしまったのがちょっと心にきたな。
そういえば俺が適当な嘘を言ってるとは思わないのかと聞いてみたところ、現に討伐証明書に未確認の個体の報告が載っているから、少なくとも再調査のために冒険者を派遣する価値はあると言っていた。
これはククのおかげだな、あとで礼でも言っておくか。
思ったよりも長いこと時間がかかってしまったが、依頼は無事完了ということできちんと報酬をもらうことが出来た。
具体的な評価については教えてもらえなかったが、進行速度や魔物討伐の査定値、未踏領域の発見など全て合わせればかなり良くなりそうだとは言ってくれた。
一人で最初から最後まで仕事をして金を貰ったのはそういえばこれが初めてだな。
うん、前にマオが言ってたことがなんとなくわかったきがする。
初めての収入ってのはいい気分だ。




