あ、これが魔力なんだ
「魔力が足りないのって、どうにかできるもんなんですか?」
「多少伸びることはあっても、マオちゃんくらい少ないと絶望的ね」
「えっ、じゃあ……」
「安心して、この私にこの世界で不可能なことはないわ」
一体どんだけ自信があるんだ。
最初出会った時はすごい希薄でか弱そうだけどちょっと謎めいた背景がありそうな女性だなあって思ってたのに、さっきの友達宣言あたりからぐいぐいきているような。
もしかしてこっちがこの人の素、なのかな?
「そうだわ、あとマオちゃんに一つ言っておきたいことがあるの」
「なんです?」
「そのやけにかしこまった口調やめてくれない?
私達もう友達なんだから!」
そういってライラさんはガシッと私の手を掴んできた。
そう言われてハッとした。
なんだ、結局彼女も単に仲良くしたかっただけなんだ。
ミステリアスだからとか、変な口調だからとか、実はすごい人っぽいとか、色々理由つけてちょっと距離を置いてしまってたけど、彼女が友達って言ってくれてるんだ。
友達らしく振る舞ってあげるのが真の礼儀ってもんじゃないか。
うん、ちょっと口調がおかしいのとかは個性の範疇としてもう気にしないでおこう。
「わかった、こんな感じでいいかな? ライラ」
「にゃ!」
……前言撤回。
にゃ! なんて返事は個性の範疇として認められません!
「さて、では魔力不足の解消をするとしますかな」
「何かいい方法があるの?」
「ふふふ、じゃあここでマオに問題だよ。
魔術が使えない人でも魔術を使う方法ってなーんだ?」
「? 使えないのに使う方法?」
んんん?
なぞなぞなのかな?
使えない人でも使う方法って、使った時点で使えるってことになるけど。
そういうことじゃないのかな。
うーん、何か魔術を使う方法……。
魔術は精霊に頼んで魔法を使ってもらうための術で……。
魔術を使うには詠唱する必要がある、と。
あれ、なんか魔術って別のやり方があったような……。
確かあれは魔術について教えてもらった時……。
「あっ!」
そうだ、思い出した。
私が魔術について興味をもつようになったきっかけ。
王都の工房で魔道具について教えてもらったときの会話。
あの時私はこう解釈したはずだ。
「魔道具が魔術そのもの……」
「だいせいかーい!」
ライラが両手で大きな丸をつくってる。
でも魔道具と魔力不足の解消って何の関係が?
「では第二問! 魔道具はどういう風にうごいてるでしょーかっ!」
どういう風に動いてるって、そんなの簡単じゃないか。
「そりゃ魔法陣で術式を決定して、それを精霊石につなぐじゃないですか。あとは魔石から魔力を供給すれば……あっ!!」
「その通りっ!!」
そうか!
体の中に魔力がないなら、外から持ってくればいいんだ!
ゲームでも何でもそうだし、この世界に来てからもみんな魔術を使う時は当たり前のように体内の魔力を使うから全然考えもしなかったよ。
そうだよね、そもそも魔道具で魔石の魔力が使えてる時点で、魔術に使う魔力の質に違いなんてあるはずないんだ。
「というわけで、マオにはまず魔石の魔力を操作できるようになってもらうよ」
「魔石の魔力を操作……」
「まー、これが普通の人には出来ないから誰も魔石の魔力で魔術を使おうとしないんだけどねー。
マオなら練習すればできるはずだよー。
とりあえず魔石はここに100個ほど用意したからー、やってみようかー」
そういってライラはどさどさと虚空から魔石を取り出して庭に小山をつくっている。
さっき水を飲んでたときもそうだけど、あれどうやってるんだろう……。
物語でよく出てくる空間魔法的なやつなのかな?
いいなあ、あれあったら旅楽そう……。
っと、いけないいけない。
今は魔力操作の方だ。
「うーん、そうはいってもどうすればいいんだろう。
自分で魔術の練習をしたときに魔石を割って出てくる魔力を感じようとしたんだけど、あんまりわからなくって」
「そのときはどういう風に感じ取ろうとしましたか?」
「どうって、こう、光ってる魔石を触ったり触らなかったりして、その違いを探る感じ?
光ってるのを握ったらなんとなーく温かい感じはしたんだけど、それが魔力なのかもいまいちわからなくて」
「温かい、と感じたのは間違いなく魔石発光に伴う熱の発生でしょうね。
魔力とは関係ありません」
発光による発熱……そういうのもあるのか。
「そもそも魔力を物理世界の存在である肉体で感じ取ろうとしているのが誤りです。
感覚を魔法世界側に寄せてください」
「いやそんなこと急に言われたって……」
魔法世界って一体なんなの!
そもそもこの世界で生まれたわけじゃないからそういうの感覚的に理解できないんだけど。
せめて一度でもその魔法世界とやらに行くとか、繋がってみるとか、そういう経験ができればまだやりようがあるんだけどなあ。
とりあえず試しにと砕いた魔石の前でいろいろと試してみる。
手を掲げたり魔術を使ったときみたいに強く念じてみたり、某奇妙な冒険漫画で見るような特異なポーズをしてみたり、座禅を組んで精神統一してみたり。
もちろん、何をしたところで何も感じ取れなかったけどね。
やっぱり私って実技は苦手なんだなあ。
頭であれこれ考えるのはそこそこ得意と思ってるんだけど、いざ体を動かして何かをするってなるとうまくいかないんだよね。
イメージはすごい細かく頭の中で描いているのに、全くそのとおりに動けなかったり。
何でも卒なくこなす幼馴染には、「真央は考えすぎなんだよ」ってよく言われてたっけな。奴は感覚派だったから、「考えるな、感じろ」ってしょっちゅう言ってたけど。
考えないでどうやって感じたものを意識すればいいんだって思っちゃうよね。
「少しお手伝いしますね」
うだうだと考え事をしていると、ライラがそんな事を言いだした。
一体何をするんだろう。
おもむろに近づいてきたライラは右手をすっと上げて、そのままその手を私の顔に――ってこれアイアンクローだっ!?
「少し痛むかも知れませんが我慢してくださいね」
「えっいやいやいやえっ」
突然の出来事に若干パニックになり、襲いかかってきそうな痛みに耐えるためギュッと目を閉じる。
するとその瞬間、身体をなにか温かいものが包み込むような感覚が広がってきた。
想像していた痛みは全く無くて、むしろとても心地よい。
その感覚に身を任せていると、閉じているはずの視界の中に不思議な光が差し込んできた。
七色に輝く光が弾けるように消え、そしてまた新たに生まれてくる。
穏やかな風が吹いて、ゆっくりと何かが流れていく。
この風景、最近どこかで見たような気がするんだけど。
うまく思い出せないけど、何故かここはすごく懐かしくて、温かくて、安心できる。
もっとここにいたい、もっと見ていたい、近づいて触れてみたい。
そんな欲求が高まってくるけど、何故かこの場所の私には光に伸ばすための手すらなくて。
ただただ感じ取ることだけしかできなかった。
……。
…………。
………………。
「それがあなたが本当にいる世界、魔法世界です」
心地よい感覚に浸っていると、突然世界が暗転し、静かだけどはっきりとした声が耳に届いてきた。
先程まで頭を掴んでいた手が離れていくのを感じ取り、ゆっくりと目を開けるとライラが変わらずそこに立っていた。
どうやら夢のようなものを見せられていたみたいだ。
突然のことで理解するのに少し手間取ったけど、周りを見て、先程までいた屋敷の庭にいることを確認すると少し残念な気持ちもあったけどなんだか安心した。
そして安心して意識がしっかりしてくると、先程のライラの言葉が気になってきた。
「魔法世界……。わたしが本当にいる世界?」
それについてはライラは深く説明するつもりはないらしい。
ただゆっくりと頷くだけだった。
彼女に会ってから謎が増えていくばかりだけど……なんとなく、いずれ時がくれば全て教えてくれる気がする。
それよりももう一つ、気になることが出てきたからそっちを確認しよう。
先程砕いた魔石、そこから流れてくる奇妙な感覚。
ライラにアイアンクローされるまで全然感じ取れなかったそれに気づいた時、先程まで見ていた世界が脳裏に浮かんできた。
「あ、これが魔力なんだ」
その光景の意味は見せられても全く理解できなかったけど、考えることをやめてただ感じたものをその通りに感じたとき、確かに理解することが出来た。
ようやく私は、新しい術を学ぶ第一段階に進むことができそうだ。




