それで、一体どんな術を教えてもらえるんですか?
ローラさん改めライラ・リルラ・ルール―・レ……レ……長すぎるっ!! とにかくなんとかかんとかさんはその後、早速新しい術を教えてくれるのかと思いきやこんな事を言いだした。
「さて、ちょいと今の宿を引き払ってくるかのお」
「えっ、急にどうしたんですか?」
流れ的には完全に今から修行が始まって、ライラさんもしばらくはこの国に滞在することになると思うんだけど、なんで宿を引き払っちゃうんだろう。
え? 修行はここじゃできないからついてこい、的な?
「なーにを考えとるんか知らんが、その顔に書いてある事とは違うのは間違いなさそうじゃな。安心せえよ、別にこの国をでるって意味ではないのじゃ」
そんなに分かりやすい顔してたかな……。
けどそしたら尚更なんでだろう。
「なんでって決まってるやろ? うちも今日からここに住むんや」
「えーーーーーーーっ!!」
予想の斜め上を行き過ぎてて思わず叫んじゃった。
いや別に部屋は余ってるから全然いいんだけどさ、ライラさんってこんなにフットワーク軽い感じなんだ……。
うーん、いい意味で自由な生き方してるのかなあ。
よっぽどいいところの出なのかとばかりずっと思っていたけど。
「元々そろそろ国に帰ろうかと思ってたんやけどな、なんやマオはんが面白そうなこと持ってきれくれそうやさかい、せっかくなら一緒に住んでまえって話や」
「は、はあ。まあ部屋は余ってるから全然大丈夫ですけど……」
「余ってなければマオちゃんと一緒に寝るつもりだったから平気よ!」
えっ、それはちょっと……。
「そいじゃちょっと行ってくるね! すぐ戻ってくるから〜」
私の反応も気にせず、あっという間に屋敷を飛び出していってしまった。
うーん、まあいいか。
とりあえずメイドさんたちに伝えておこう。
部屋の外に出ると先程給仕をしてくれたメイドさんがちょうど近くで掃除をしていたので、声をかけてライラさんのことを伝えてみた。
すると彼女はとてもいい笑顔で、「それはとても素晴らしいことですね」と喜んでくれた。
どういうことか聞いたところ、屋敷が広い割にお世話をする相手が少なすぎて暇を持て余していたのだそうだ。
そもそもこの国の使用人たちにとって、成果を上げる冒険者たちに仕えるというのは大変名誉なことで、私達が新しい勢力として名をあげるのに期待しているらしい。
だから屋敷の住人が増えるイコール戦力が増えて活躍が増える、という認識なんだそうだ。
ライラさんは別に戦力じゃないからちょっと申し訳ない気持ちもあったけど、私が活躍できるようになれば結果的に戦力が増えてることになるし、と考えてそれ以上なにか言うのはやめておくことにした。
あと話してる感じやっぱり私のことを邪険にしてるとかは特になさそうだね。
うん、メイドさんみんなとってもいい子ばっかりだよ。
早く可愛いメイド服用意してあげよっと!
そうこうしているうちにライラさんがいつの間にか戻ってきていた。
まだ1時間経ってない気がするんだけど、そんなに近くに宿とってたのかな?
「さて、それでは早速はじめようか」
場所は変わっていまは庭に二人で出てきている。
ここなら十分広いし、他人に見られる心配もないからね。
「それで、一体どんな術を教えてもらえるんですか?」
ずっと聞きたくて聞くタイミングを失っていたことだ。
さっきは新しく生み出した術、って言ってた。
にわかに信じがたいことだけど……彼女から溢れ出る自身満々な雰囲気からして、嘘やハッタリじゃないんだろう。
「私が君に教える術、それはそうだな……強いて名付けるなら『精霊術』といったところか」
「精霊術? 精霊ってあの精霊ですか?」
「そうだ」
精霊術……言葉通りの意味なら精霊と契約したりして、その力を直接借りるような……そんな感じの術かな?
この世界の魔術の仕組みとなんとなく似てそうだけど、何が違うんだろう。
「精霊というのはこの世界の何処にでも存在しておる。じゃが彼らは自意識というものをもっておらん。それを逆に利用したのが魔術なのじゃが……」
ん? ん? なんか難しい話が始まったぞ?
精霊術について聞きたかったのに、魔術についての講釈が始まってしまった。
しかも教本にも全く載ってなかった、かなり本格的……というか根本的な理論についての話だ。
世界の成り立ち? 物理世界と魔法世界? 高位存在による下位存在への干渉?
ライラさんは興がのってきたのか、どんどん専門的な話を続けていく。
もう少し理路整然と話してくれれば少しはついていけそうなんだけど……なんていうか自己満足的な感じで一方的に語ってるから単語を拾うので精一杯だ。
とりあえずわかったのは、ライラさんが物凄い博識だということと、熱中すると周りが見えなくなるタイプだということだ。
うん、とりあえずこの辺で止めてほしい。
「……というわけでそういった精霊の性質を今度は別の観点から利用できないかと考えて、編み出したのが精霊術じゃ。
……ちと喉が渇いたのう。水でも飲むかの」
そう言って何もないところから杯を取り出し、そのまま中空から水を注いでごくごくと美味しそうに飲み始めた。
色々と突っ込みたいけど話を聞いてるだけでもう疲れたからやめておこう。
なんかすごい不思議な人だと思ってたけど……私の想像していた以上にぶっ飛んでるな。
多分魔法なんだろうけど……。
「そ、それで結局精霊術はどんなことをするんですか?」
「む、そうじゃな」
そう、結局精霊術がどんなものなのか、ここまで一切触れてないのだ。
体感で1時間は喋っていた気がするんだけど、さっきの話は必要だったのかな。
「精霊術は現象に精霊という存在を付与し、物理世界に呼び寄せる。そして、術者の精神と接続することで擬似人格を与え、使役するのだ」
それってつまり、一種の召喚術みたいなものってことかな?
断片的に理解したさっきの話と統合してみると、多分こういうことだ。
精霊は肉体を持ってないし、そもそも自意識が無いからこの世界では何も出来ない。
だから肉体代わりになる媒体を用意してそこに降霊、その上で精霊と自分をつないで意識を共有することで自我を発生させるって感じ?
現代風に言えば、魔術がコンピュータにプログラムを書き込んで実行するイメージ、精霊術はロボットにAIを与えて自律行動させようっていうイメージだな。
うーん、でもそれってちょっと危なそうだけどどうなんだろう。
聞いてみるか。
「なんとなく想像はできたんですけど、それって危なくないんですか?
人格を与えた結果従ってくれなくて、術者を攻撃しちゃったりとか」
「その点は抜かり無い。
それこそがこの術が君にしか使えない最大の理由なのだよ」
「と、いうと?」
「ふむ、これについては他の誰にも言うべきではないから気をつけたまえよ。
いいか、マオ君はこの世界で最も高位の権限をもっていると推測できる。
つまり魔法世界において君に従えないものは理論上存在しないのだよ」
……え?
なんですかそのトンデモ設定。
チートとかぶっ飛ばしてGM権限でも与えられちゃったってことですか?
えええ?
「ああ、そうはいっても別に世界最強になれるとは思わないことだな。
物理世界に偏った存在に対する干渉は限度がある。
できなくはないが、自分の肉体が耐えられないはずだ。
そもそもやり方がわからないだろうがね」
「……ちょっと理解が追いつかないです」
なんとなくライラさんが嘘をついてるわけじゃないってことだけは分かる。
この人、いつも喋り方がふわふわしてる割に大事なことを喋る時はすごくしっかりと喋るのだ。
だからきっと私がチートな存在になっちゃってるのは間違いないんだろうけど。
うーん、とことん落ち込んだ後に一気に持ち上げてくるんだなあ。
現実ってほんと何があるのかわかんないや。
「今はそこまで気にする必要はない。
大事なことは、精霊術によって君が傷つけられるなんてことはない、ということだ」
「そう……ですね。実感わかないですけど、とにかく今はその精霊術を身につけることに専念したいと思います」
うん、そうだな。
とりあえず目の前のことからだ。
そうと決まれば早速教えてもらおう!
「よし、ではまず君の魔力の不足をなんとかするとこからだな」
あっ、そういえばそうだった。




