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ロウとマオ 〜最強仙術使いと最弱JDの異世界放浪譚〜  作者: にしだ、やと。
第6話 二人の距離と新たなる選択肢
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大事なこと、忘れちゃってたな

「今日はどうしよっかな……」


 マオは絶賛引き篭もり中だった。

 ロウにお前はついてくんなと言われたことがあまりにもショックで、すっかり落ち込んでしまったのだ。

 もちろん、ロウがそんな冷たく突き放すようなことを言ったわけじゃない。

 どちらかといえば自分のことに専念して、頑張ってくれと応援するような気持ちの言葉をかけているのだが……。

 マオが勝手にそういうふうに捉えてしまっただけのことだ。


「ロウ君、楽しそうだったなあ……」


 ロウが異界に行く準備をしたその日の夜のことを思い出す。

 マオに依頼内容や準備中の出来事、探索の予定などを細かく報告するその様子は、口では面倒だ面倒だといいながらも心底楽しんでいるようにしか見えなかった。


「この国のやつは変なのばっかりだ、早くマオも色々会いに行ったほうがいい」

 だとか。


「異界の魔物はそこそこ強いらしいからな、腕がなるぜ」

 だとか。


「一人で何日も過ごすのは久しぶりだからな、なんだか不思議な気分だ」

 だとか。


 私に対する当てつけみたいなことばっか言ってきて、どう反応したらいいか全然わからなかった。


 もしかしたら私といるのは退屈で、ずっと一人になりたかったのかもしれない。

 もしかしたら私はロウ君の足手まといでしかなくて、わがままでずっと無理を言っていたのかも知れない。


 そんなネガティブなことばっかり頭に浮かんできて、魔術の練習だってちっともやる気が起きなくて。

 それに屋敷にこもってるとなんとなく使用人のみんなから軽蔑するような視線を感じる。

 使用人たちにとって主人はロウ君だけで、私は何もしないのに偉そうにしてるどうしようもない女にしか見えないのかも知れない。

 確かに扱いとしては私も使用人だから、あの人達からすれば同じ立場のはずなのになんで何もしてないんだってなるんだろう。


 ああ、駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。


 考えれば考える程どんどん悪い方向に進んでる気がする。


 このままじゃ絶対ダメだ。

 なんとかして気持ちを切り替えなきゃ。

 こういう時は……、よし。


 掃除をしよう。


 そう、気持ちが沈んだ時は掃除だ。

 部屋を綺麗にして、荷物の整理をして、とにかく無心で作業していれば少しは気が楽になるに違いない。

 そうと決まればベッドから飛び出して作戦開始だ。


 ◆ ◆ ◆


「あれ、これって……」


 荷物の整理を始めたところ、すっかり存在を忘れていたあるものがでてきた。

 それは二つのお面。

 それぞれ狸と狐の顔を模した品だ。


 確かこれは、王都の祭りで買ったもの。

 あのときはなんだか無性に楽しくて、ついつい気分が上がるままに買っちゃったんだっけ。

 こんなの役に立つはずないのになあ。


 そうそう、この狸の面が私に似合うとか意味不明なことをロウ君が言い出したんだよね。

 よく考えたら女の子に狸のお面が似合うなんてすごい失礼だよね……。

 だってさあ、狸って見た目はたしかに可愛いけど、イメージ的にはずる賢いって感じだよね。

 あ、っていうかもしかしてロウ君そういう意味で選んだのかな!?

 すっごい失礼しちゃうなあもう!


 でも、それでもあの時はすごい嬉しかった気がするんだよね。

 なんでかなあ、なーんにも興味なさそうだったロウ君が、自分で考えて選んでくれて、似合うって言ってくれて。

 たったそれだけなのにすごく嬉しくって。


 ああ、そっか。そうなんだ。


 きっと私、いつのまにかロウ君と一緒にいたいって思っちゃってたんだ。

 この人とこの世界を楽しみたいって、そう思うようになってたんだ。

 だからあの時、自分で考えて、あの瞬間を一緒に楽しもうとしてくれたのが嬉しかったんだ。


 それなのに今の私はどうだろう。

 出来ないことだらけの現実に挫けちゃって、楽しもうとすらできてない。

 ロウ君はどんどん新しいことに挑戦して、この国を楽しもうとしてる。

 楽しそうに話してくるのは、きっと彼なりの楽しいを共有しようっていう気持ちなのに。


「大事なこと、忘れちゃってたな」


 それは本当に単純なことだ。

 焦ってばっかで、それすら見えてなかった。

 私はきっとただいつものように、楽しんでればいいんだ。

 悩むまでもなかった。


 ロウ君の言う通り、一回くらいの失敗気にしなくてもいいんだ。

 ただ私らしく、ただ弱いままで、ただひたすらに楽しいものを探していく。


 せっかくの異世界、鬱々なんてしてる場合じゃないよね!!



 ◆ ◆ ◆




「とは言ったものの、魔術の練習も一人じゃ限度あるしなあ。うーん」


 気持ちが切り替えられたところで、現実問題として困難な壁が立ちふさがっていることには変わりなかった。

 せめて知り合いがいれば相談できるんだけど。


 本部長……はさすがに私なんか相手にしてくれないだろうし、そもそも立場的に気軽に相談できるような相手じゃないし。

 あ、あのジャンって人はどうだろう?

 ミスリル級でなかなか腕が立ちそうだったし、いい人っぽかったし。

 いや、やっぱだめかな。

 一応私は認知してくれてそうだけど、別に親しくなったわけでもないし。

 そもそも何処の所属かもわかんないから探しようがない。


 こう考えるとこの国に来て全く人脈作れてないことがわかるね!

 うん、王国が本当に順調すぎたのが悪いんだ。

 この国が厄介すぎるんだ。


 他はもうこの国に入ってから知り合った人なんて……。


 あ、一人いた。


 この国に入ってから、いや、この国に入る前からの知り合い。

 しかもロウ君じゃなくて、私と直接やり取りして、お互い名前も知ってる。


 確かこの国の知り合いに呼ばれたとか言ってたし、彼女なら伝手があるかも知れない。

 それにあのミステリアスな雰囲気、ゲームなら重要キャラな感じだし!

 うん、これはいけそうだ。


「よーし、ローラさんを探しに行くぞ!!」



 で、屋敷を飛び出して見たものの。


 何処から探したものか全く見当がつかない。

 そりゃそうだ、宿泊先すらしらないんだから。

 一応一度本部で出会ってはいるけど……そう何度も本部に用事があるわけないし。


 とりあえず適当に歩いてみようかな。


 そう思って一歩踏み出そうとした瞬間。


「なんじゃ、マオではないか」


 聞いたことのある声が、私の足を止めた。


「その声は……ローラさんっ!?」


 声の向く方向にばっと振り向くと、そこには今まさに探そうとしていたローラその人がぼんやりと立っていた。


「おうおう、大声ださんといてくれや。びっくりするけえのお」

「驚いたのはこっちですよ!

 いまちょうどローラさんを探そうと思ってたところなんです!!」

「なんや、うちを探しとったんかい? 道理でこんなとこに出るわけよの」


 相変わらず口調がころころとかわる、不思議な喋り方をしている。

 それにしても今の台詞はどういう意味だろ?

 いや、そんなことよりとにかく先に用事だ。

 またすぐどっかいかれても困るし。


「そうですそうです、ローラさんに相談があって。

 いま時間ありますか?」

「この私に時間がない瞬間などあるわけないよ。

 マオちゃんとは縁があるみたいだし、喜んで聞かせてもらうよ」


 それじゃあ立ち話もなんだしと、屋敷に招待する。

 近くにいた使用人さんにお茶を入れてもらうよう頼んで、応接室へローラさんを案内。

 お茶を飲みながら、これまでのこと、悩んでいること、頼みたいことを要約しつつ伝えていく。

 ちなみに使用人さんはお茶だけでなく、きちんとお茶請けのお菓子を持ってきてくれた。

 私が頼んでも嫌そうな素振りもないし、むしろどことなく嬉しそうな顔していたから、もしかしたら私が感じていたあの嫌な視線は単なる勘違いだったのかもしれないな。


「なるほどの、魔術の師匠を紹介すればええんじゃな」

「心当たりありますか……?」

「ないわけじゃないにゃ」

「じゃあっ!」


「でもそれを教える前に、マオにゃんには聞いておきたいことがあるにゃ」


 なんだろう。

 定番だと厳しい修行に耐える覚悟はあるか、とか?

 大穴で異世界からやってきたことを指摘されるとか?


「マオにゃんにとってこの国、いにゃ、この世界は面白いかにゃ?」


 え、どういうことだろう。

 この国が面白いか、この世界が面白いか。

 なんでそんなことを聞くのかさっぱりわからない。

 それに聞き方的にまるで私が異世界人だって知ってるみたいな……。


 いや、そんなことはきっと関係ない。

 私のことを揺さぶるための質問なんて、この人がする必要ないんだ。

 たぶんこれはもっと単純な、そう、言葉通りの質問だ。


 それなら。


「……この世界は面白いです。うん、絶対おもしろい。

 だって生まれてこのかた、こんなに心が踊ってばっかりなのは初めてだから!!」


 はっきりと、心の底から感じていることを伝える。


 もしもそんな風に感じていなかったら、きっと今私は日本に帰りたいって思っていたはずだから。

 もしもそんな風に感じていなかったら、きっとこんなところまで旅を続けていなかったはずだから。

 もしもそんな風に感じていなかったら、あの朴念仁でコミュ障の、戦うだけしか脳のないどうしようもないバカと一緒にいたいなんて思うわけがないんだから。


 そして、その言葉を伝えると、ローラさんは初めて笑顔を見せてくれた。


「うん、決めた! 私は君、マオにとっておきを教えてあげよう。

 魔術なんてもう忘れていい。君は君だけの術を覚えるんだ」


「私だけの術……?」


「そう、君にしか使えないだろう、私が生み出した新しい術の体系さ」


「え、それって、え、え!?」


 全く理解が追いつかない。

 ローラさんの雰囲気がいつもと違ってふわふわしてないし、言ってることもちょっとよくわからないし。

 なにそれ、それじゃまるで私が物語の主人公になるみたいじゃん。


「そう、君は君の力で新しい選択肢を手に入れたのさ」


 新しい選択肢。


 全てを諦めるではなく。


 才能のないことに無為な時間を費やすのでもなく。


 私だけに許された第三の選択肢。


「改めて名乗らせてもらおう。

 ライラ・リルラ・ルール―・レミィ・ローラ・ローズ・レイラ・ルナマリア・リズリザ・ラーミリア。

 君の新たな()()の名前さ」




 って名前長っ!!!!!!


――第6話 了


〜次回予告〜


ローラ改めライラによってもたらされた第三の選択肢。

ダメダメだったマオにも希望が見え、早速修行が始まる。

一方ロウはといえば、未踏領域の発見により周囲を驚かせ、一躍時の人となるのだが……。



マオ「私の時代きたーっ!」


次回、第7話「修行の始まりと招待状」


お楽しみに!


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