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ロウとマオ 〜最強仙術使いと最弱JDの異世界放浪譚〜  作者: にしだ、やと。
第0話 出会いと旅立ちのクル山脈
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どうみてもこの世界のものじゃない

 カップめんはあっという間になくなってしまった。

 スープごと、きれいさっぱり。

 残念なことにロウは食べられなかったようだ。

 そんな悲しそうな目をしないでおくれ。もう一個あるから。


 なんてことを思っていると、こんなことを言われた。


「味や製法を研究したいからもしもう一個もってるならそれもくれんかの? もちろん礼はたっぷりするからの」


 あ、はい。差し上げます。

 流石にこれからお世話になろうっていう人たちの頼みを無碍にできないしね。

 うん、ロウ君、諦めてね。


 どうやら彼らは千年以上生きていてだいぶ暇を持て余しているらしく、新しいなにかを見つけるとこぞって研究しているのだそうだ。

 とはいってもカップめんは結構高度な技術がいろいろと使われているとも聞くし、味なんかは再現できてもカップめんそのものは再現できないだろうな。


「さて、お嬢ちゃんが異世界人であることは疑いようもないじゃろう。このような食べ物はこの世界にはないじゃろうしな」


 お、よかった。信じてもらえた。


「それにお嬢ちゃんの服や持っている荷物……どうみてもこの世界のものじゃないからの、最初からわかっておったよ」


 わかってたんかい!!

 え、じゃあもしかしてカップめん出す必要なかった?

 私のカレー味は一体なんのために失われたと?


「いやあ、なんか面白いもんが出てきたらいいとは思っておったが、まさかあれほどまでにうまい馳走がでてくるとはの。言ってみるもんじゃ」


 ほっほっほと楽しそうに笑う仙人たち。

 こいつらひょっとして私をからかって遊んでいるのか?

 暇を持て余してるとか言ってたしあながち間違いじゃなさそう。

 なんだかそう思ったらどっと疲れが出てきた。


 まあいいや。

 とにかく信じてもらうっていう最初の目的は達成できたんだし、良しとしよう。

 それに相手の印象も良さそうだしね。うんうん、何事も前向きに考えていこう。


「かっぷめんもうまかったことじゃし、お嬢ちゃん――マオといったかの。なんでも聞きたいことを聞くがよい。わしらがわかることならすべて答えるぞ」

「ありがとうございます。では早速ですがまず――」


 そうしていくつもの問答を繰り返して、この場所のこと、彼らのこと、そしてこの世界のことを教えてもらった。


 まず、この場所はクル山脈という、大陸の北東部、その最果てにある人々がだれも寄り付かない地だそうだ。

 あまりにも山が深く、また住んでいる生物が非情に凶暴で、しかも山を抜けたところで何もないことから、近寄ったとしてもせいぜい麓にある深い森までらしい。


 そんな大自然の地に、彼らは彼らの祖が起こした仙術という技能の修業の場としての価値を見出し、住み着いた。

 ここに住むのは仙術を修める仙術使いだけで、数は多くないもののそれぞれがそれぞれの領地となる山に一人で住んでいるとのこと。


 彼らの中でも特に仙術を極めた人間を仙人と呼んでいて、ここに集まった八人は仙人の中でももっとも位が高い。

 ただし彼らいわく、正直誰が一番強いとかはよく把握してないし、このくらいの歳になると些細なことはどうでも良くなってくるから、あまり八仙という集まりも当てにはならないそうだ。


 ただ、少なくとも私が最初に出会った男――ロウは修行中の身であり、仙人とは名乗れないらしい。

 私からすればあの襲撃者を一瞬で屠った腕前をみれば十分にすごいとしか言えないのだが、彼らの中ではまだまだらしく、例えば生体感知という技能一つとっても、ロウがせいぜい2000メートル程度――これも十分すごすぎると思うけど――の範囲しか感知できないのに対して、仙人たちは山脈全体を感知しきれるほどだとか。

 あまりにも恐ろしいのでそれ以上は聞かないことにした。


 ちなみに私達がこの寺院――彼らは単に集会所とよんでいる――に来たあと、彼らがすぐに集まってきたのも生体感知によるものと言っていた。

 なんでも誰かがここに入ったら八仙が集まることになっているそうだ。

 移動自体はは仙術固有の転移術を使えば一瞬らしい。

 じゃあそれ使えば空飛ぶ必要なかったじゃん! と思ったけどその転移術では自分ひとりを運ぶのがやっとのこと。現実はそううまくいかないものだね。


 仙術についても少し教えてもらった。

 面白いものを探してこの世界にやってきた私としては、そういう前の世界ではありえなかったものについては少しでも多く知って、習得できそうなものなら身につけていきたいしね。


 曰く、仙術は魔法とは異なる理をもって現象を引き起こす術である。

 曰く、自然に満ちるエネルギーを利用し、超常の結果をもたらす術である。

 曰く、修行は何十年、何百年という単位で研鑽を重ねるもので、また適正がなければ初歩の初歩すら身につけることは出来ない。


 ということらしい。

 ちなみに私には才能のさの字もないと言われた。残念。


 最後にこの世界について。

 まず、この世界の名前はビフロウス。

 世界の大半を占める温暖な気候の大陸であるガルド大陸と、その南に位置する厳しい気候のヘイムル大陸。

 小さな島々はもちろんあるものの、大まかにはその二つで全てらしい。


 クル山脈があるのはもちろんガルド大陸だ。

 ガルド大陸には大国が二つと、いくつかの小国がある。

 一つは東半分を領地とするエーシル王国。クル山脈はこのエーシル王国の領土内にある。

 そしてもう一つが大陸の西半分を領地とするヴァニル帝国。


 王政と帝政の二つの国が覇を競っているという非情にわかりやすい構図なのかと思いきや、そうでもなかった。

 どうやら地形的にこの二つの国が直接ぶつかることが出来ないらしい。

 詳しいことはあまり興味がないのでよく知らないと言われてしまったけど、とにかくここ数百年は平和が続いているそうだ。


 この世界の大まかな地図を見せてもらったところ、たしかに二つの国は衝突できそうもなかった。

 ガルド大陸はコの字を横にして開口部分を下に向けた形をしており、ちょうど角に当たる部分に山脈があり、国境になっているらしい。

 山脈と山脈の間――すなわちコの字で言うところの縦の棒の部分にはいくつかの小国がひしめきあっていて、とてもじゃないがここを突っ切って戦端をひらけるようには思えない。


 それに砦をつくるのにちょうどいい山脈があるのだから、きっとそこまでを領土とすれば満足、ということなのだろう。


 小国は全部で7つある。


 ドワーフ族の国、ドヴェルグ。

 エルフ族の里、アールヴァル。

 獣族の国、フィルギャ。

 学問の国、ディース。

 宗教国、ノルニル。

 勝負の国、ハミンギヤ。

 そして冒険者の国、アスクエムブラ。


 勝負の国とか何を勝負するのか全く想像もつかないが、とにかく特色の濃い小国群がある、ということだ。

 どれも聞いただけで行きたくなってしまった。

 ファンタジーに定番のドワーフにエルフに獣、そして冒険者。

 面白いことが待っているに違いない。いつか訪れるのが楽しみになってきた。


 そうそう、この世界では人といったら私達のような人間だけのことを指すわけではないそうだ。

 これも異世界ならではといったところで、全部で5つの種族があるとか。


  数が多く何にも秀でないが数多の可能性を秘める種族、ヒューマン族。

  森に住み精霊とともに生きる長命な種族、エルフ族。

  優れた運動能力と様々な動物に似た特徴を持つ種族、獣族。

  山に住み高い鍛冶・工芸技術を持つ屈強な種族、ドワーフ族。

  自然とともに何にもとらわれず自由に悠久を生きる種族、妖魔族。


 私達はもちろんヒューマンだ。

 そういえばロウも最初にヒューマンの女か、なんて言ってたっけ。

 あいつ私の裸見たんだよなあ。

 思い出したらなんだかムカついてきた。

 あとで一発殴らせてもらおう。


 ちなみにこの世界では獣といったら獣族を指して、単なる動物のことは亜獣というそうだ。

 獣族のなりそこないだから亜獣。

 わかりやすいけどうっかり獣って言わないように注意しないと。


 それぞれの種族間で差別とかは特にないらしく、多少はライバル視しているとかはあるようだが、概ね関係は良好。

 同じ人という生き物として手を取り合っているらしい。


 それというのも、この世界の言葉が驚くべきことに完全に統一されているからだそうだ。

 もちろん地方ごと、種族ごとに固有の言い回しや文字などはあることにはあるのだが、それらはあくまで第二言語という扱いで、普段は標準言語と呼ばれるいままさに私達が使っている言葉を使っているとか。


 あとは神や精霊の存在。

 これは間違いなく存在するらしい。

 偶像としての存在ではなく、実在存在として。

 とくに精霊は人々の生活に密着していて、宗教といえばもっぱら精霊信仰のことを指すとか。


 そして、神はこの世界では唯一柱、ビフロウス様だけとも言っていた。

 世界そのものが神様なんだということだ。

 このへんは偶像崇拝に近いんじゃないか? と尋ねてみたところ違うらしい。

 魔法がある世界なんだからそういうのもあるのかな、と思ってとりあえず流しておいたけど、もし本当だとしたら――いや、この予想はぶっ飛んでいるかな。忘れよう。


 その他にもいろいろと教えてもらったので、あとで時間があるときに情報を整理しよう。


 ふう、話し込んでいたらだいぶ時間が経っちゃったな。

 これからどうしようか。

 まずは当初の計画通りこの山脈を出て人里に降りるところからかなあ。


 聞いたことを咀嚼しながらそんな事を考えていると、仙人に尋ねられた。


「マオちゃんはこれからどうするつもりなのかの? この山脈で生きていくなら余っておる山ひとつくれてやるが……その様子じゃとどうやらその必要はなさそうじゃな」


 無論、こんな僻地の山を一つもらっても生きていける気がしないので断る。


「そうですね、まずは山を降りて、人里を目指そうかと。それで、世界をまわろうかなって思ってます」


 元々面白いことを求めてこの世界にきたのだ。

 そしてこの世界中に面白いものがある。

 ならば選択肢は一つしかない。

 世界一周の旅だ。


 面白いものを見てまわって、気に入った国があったらそこで暮らすのも悪くない。

 それに、冒険者稼業というのも魅力的だ。

 うん、というか街に出たらまず冒険者になろう。

 生活費も稼がないといけないしね。


「そうか、なら決まりじゃの」


 うん? 何が決まりなんだろう。


「かっぷめんのお礼がまだ決まってなかったじゃろ。そのお礼じゃ。そこで暇そうにしておるロウをマオちゃんにくれてやろう。あとついでに当座の資金も少しばかりの」


 うん?

 いまなんて?

 私にくれる?

 何を?

 誰を?

 え?

 それってつまり……。


「はああああああっ!?」

「えええええええっ!?」


 二人の叫び声が空に響き渡った。


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