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ロウとマオ 〜最強仙術使いと最弱JDの異世界放浪譚〜  作者: にしだ、やと。
第6話 二人の距離と新たなる選択肢
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別に盗みに入ったってわけじゃない

「あーっ! 甲斐性なしのお兄さん! もしかして私のことを娶ってくれる気になったのー!? やっぱり私の魅力に気づいちゃったかなー? 早く養ってー!」


 管理事務所に戻ると、やはりというか、なんというか。

 あのエルフの女がことさら騒がしく絡んできた。

 本当にこいつがここの職員なのか?

 ただの子どもの間違いな気がしてきたが……。


「ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「んー? なにかななにかなー?」

「冊子にこの異界でとれる魔物の素材について何も書いてなかったんだが……」

「魔物の素材? んー?? どゆことー??」


 俺の質問の意味がよくわかってないのか、エルフの女は頭を捻っている。

 結構重要な問題だと思うんだが、似たような質問をされたことがないのか?

 やっぱただ遊びに来てる子どもってだけで職員はサボってるんじゃ……。


「あ! そゆことね!」


 なにかわかったみたいだ。


「ぷぷぷ、そゆことかー。そっかそっかー。お兄さん見かけによらず初心者さんなんだねー。ぷぷぷ」


 なんだこいつ……急に態度が偉そうになったぞ。

 っていうかその笑い方めちゃくちゃ腹立つな。


「どうしよっかなー? 教えてほしいー? ねえねえ、教えてほしいー? 養ってくれたら考えてあげてもいいんだけどなー」


 よし、帰るか。

 本部にいけば教えてもらえるだろ。


「あー! 待って待って! ごめんなさいごめんなさい調子に乗りました退屈すぎて構ってほしかったんです! 教えるから私のこと無視しないでー!!」


 事務所を出ようとした瞬間、ものすごい勢いで泣きついてきた。

 顔をぐっちゃぐちゃにして、必死さがすごい。

 一体どんだけここの仕事は暇なのか……。


「わかったから離れてくれあと人の服で鼻水を拭くな」

「ほんとぉ? 私のこと無視しない? 養ってくれる?」

「無視しないし養わない。いいから教えてくれ」

「えへへーでは教えましょう!」


 そいつが言うには、ミスリル級の魔物ともなると全身が素材になり得るので、丸ごと持ち帰ってほしいらしい。

 しかしそうすると一匹倒すごとに運び出すなんていう面倒なことになって探索が進まない。

 そこで登場するのがトレイラーと呼ばれる搬出用の転送装置。

 こいつを使うと契約している解体所に魔物を直接送ることができるらしい。

 トレイラーを使うには解体所と契約する必要があるし、組合本部から紹介状をもらわないといけないから上級冒険者だけに許された特権だそうだ。


「じゃ、また遊びに来てねー!」


 一通りの説明を終えると久々の仕事に満足したのか、エルフの女はすっかり落ち着いてくれたから、面倒なこともそれ以上なく事務所を出ることが出来た。

 別に遊びに来てるつもりはないんだが、彼女にとっては仕事も遊びみたいなもんなんだろう。


 よし、ちょっと時間がかかってしまったが今日中に準備は終わらせたい。

 まずは本部に行って紹介状とやらをもらうところからだな。




「ああ、解体所との契約をご希望されるんですね。

 ロウさんはミスリル級ですので無条件で契約可能です。

 現在余裕がある解体所ですと……これと、これ、あとこのあたりですかね。

 どちらにするかご希望はありますか?」

「いや、違いもわからないし任せるよ」

「では、一番余力がありそうなこちらの『ジャンカー解体所』にしておきますね」


 本部ではあっさりと紹介状をもらえた。

 これなら最初に教えてくれたっていいと思うんだが、その辺は案外適当なのかもな。


 ◆ ◆ ◆


「ここみたいだな」


 目の前のやけに年季の入った建物。

 その入り口に掲げられた看板には『ジャンカー解体所』と書いてある。


「ん……どういうことだ?」


 軽く中の様子を探ってみたら、何故か人の気配がしない。

 物音もしていないし……休みなのか?


「ま、とりあえず中に入ってみるか」


 人の気配がしない割には、扉に鍵はかかっていないようで、入ることが出来た。

 室内の様子は……特に変わった様子はない。

 別に誰かが争った形跡もないし、廃棄された場所という感じもしない。

 強いて言うなら……()()だな。


 そう、綺麗だ。

 解体所って言えば生物を解体する場所だから、清潔に保とうとしても限度がある。使っていれば血で汚れるし、薬品だって使うからそういう匂いが染み付く。

 しかしここは、少なくとも、毎日解体している場所には見えない。


 ふと、接近してくる存在を捉えた。

 まっすぐここに向かってくる。

 なんだ、ただ休憩か何かで外に出ていただけなのか?


 そう思って入り口の方を向いた時、ちょうど入ってくる人物と目が合った。

 そいつは俺の姿を確認すると、一瞬呆けたような顔をしたあと、はっとして、こう叫んだ。


「おい貴様! なにもんだ!? オレのいねー間に侵入するとはいい度胸じゃねえか!」


 部屋中に響き渡る大音声。

 一体そんな大声がその体の何処からでているのか、不思議でならないがとにかくそいつが勘違いをして、勝手に怒っているということはよくわかった。

 どこから取り出したのか解体用の刃物をその手に、こちらに襲いかかってこようとしている。

 何者かと聞いてる割にこちらの言葉を待たずに攻撃してくるのか。


「あー、落ち着け、俺は別に盗みに入ったってわけじゃない」

「ウソつけ!! 泥棒はいつもそういうんだ!! 観念しろ!!」


 完全に聞く耳持たないなこいつ……。

 さっきの事務所のエルフといい、こいつといい、この国の店にはまともに話のできる人はいないのか……?


 このままじゃ話が進まない。

 とりあえず突撃してきた小さな体を軽くいなし、攻撃を回避する。

 戦闘訓練をしているわけではないのだろう、非情に単調な攻撃だ。

 向きを転換して、こんどは大ぶりで切りかかってきた。

 これは避けるまでもないな。


 斬り込んでくる軌道と速度を正確に予測し、その刃を2本の指でピタリと挟み込み、止めてやる。

 白刃取り。

 仙術ですらない、単なる武芸の技術だ。


「なっ!! 離せ!!」


 そいつは獲物を握ったまま、ジタバタと暴れていた。

 俺が掴んでるのは刃物だけだからその武器から手を離せばとりあえず距離はとれるし身動きもとれるはずなんだが、どうやら焦ってそれすら気がついていないみたいだ。

 はたから見ればだいぶ滑稽な姿だと思う。


「いやあんたが手を離せばそれでいいだろ……」


 とりあえずそのことを教えてやると、若干自分が恥ずかしいことをしてることに気づいたのか、慌てて手を離して飛び退いていった。

 これで少しは話ができるだろうか。


「くそっ、バカにしやがって……!

 オレが小さいからって舐めてやがんだろ!?」

「いや別にバカにしてないし舐めてもいないんだが。

 あんたが勝手に怒って勝手に飛びかかってきただけだろ」

「なっ!!」


 確かにそいつの背丈は小さかったが、それはきっと種族のせいだろうと思っていた。

 褐色の肌に小さな背丈。その小ささには見合わない膂力と豪快そうな性格。髪の色はヒューマンに比べて明らかに鮮やかではっきりとした色合いの赤。

 見るのは初めてだが、ドワーフに間違いないだろう。

 というかこんな()()がヒューマンなわけがない。


「まあ落ち着いてくれよ。

 俺は客としてここにきたんだ。

 ここは解体所なんだろ?」


 そういった瞬間、彼女はきょとんとして、さっきまでの怒ったような雰囲気が霧散していった。


「……客?

 いまお前客って言ったか? 本当に客なのか?

 となりの解体所と間違えてないよな?

 このジャンカー解体所に来た客ってことで間違いないのか?」

「ああ、間違いない。契約しにきたんだ」


「おおおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉおぉぉぉ!!!!!!!」


 瞬間、出会い頭の大声以上の大音量で彼女は叫びだした。

 一体何が何やらさっぱりわからないが、どうやら相当に喜んでいるらしいというのはなんとなく感じ取れた。


 ほんと、この国は変なやつしかいないな。


 ◆ ◆ ◆


「すまない、あまりに嬉しすぎてつい取り乱しちまったよ」

「あ、あぁ、まあ気にするな」


 10分ほどして、ようやく話ができる状態になったみたいだ。


「改めて挨拶しよう。オレはジャンカー解体所5代目当主、クク・ジャンカーだ。気軽にククとよんでくれ」

「ミスリル級冒険者のロウだ。この国には最近来たところでな、本部に紹介されてここにきた」

「そうか……うちを選んでくれて本当に感謝する。

 よし、こまかい話は後だ! 早速契約しようじゃないか!」

「あ、ああ」


 それからククは俺のことを絶対逃さんとばかりに手を掴んで奥の方に連れていき、組合員証を奪い取ったと思ったら何やら書類にものすごい勢いで書き込み始め、血判をとられ、気がついたときには契約が完了していた。

 何をしていたのかさっぱり分からんがとにかくこれでもう大丈夫らしい。

 組合員証を返してもらって一息ついていたら、何やら身の上話をはじめてきた。


 契約が終わったらさっさと帰るつもりだったんだが……。

 この様子じゃダメそうだ。


「実はな、このジャンカー解体所は由緒正しい歴史ある解体所なんだが、先代のころから契約数が減ってきちまってな……。とうとうオレの代に入ってからは新規の契約が完全になくなっちまったんだ。少し前までは先代が契約した冒険者のおかげでなんとかなってたんだが……彼らも引退しちまってな。今じゃ付き合いのある解体所に出向して食いつなぐ毎日だったんだよ。

 あ、だからってオレの技術が悪いわけじゃねーんだぞ?

 腕には自信がある、ただ最近はどうもやれ自動化だのやれ効率化だのってのが流行ってるみたいでなあ。

 そういう今どきの技術を取り入れた解体所に客を持ってかれちまってるのよ。

 ま、確かに聞こえはいいもんな。誰だって新しいもんに惹かれるってのはわからんでもない。

 だけどよ、一子相伝の職人芸がバカにされてるみたいでオレにはそれが耐えられなくてな、意地でも一族の技術でやっていこうって頑張ってたんだが……まあ結果はご覧の有様だよ。

 最近じゃ新しいミスリル級も出てなかったしな。

 新しい客を取りたくてもとれねーんだ。

 で、そんなときにお前がきたってわけだ」


 こいつも話が長いな……。

 要するに潰れそうだったけど俺が契約してくれたおかげでなんとか食ってけそうって話なのか。

 でも別に俺も長居するつもりないしな。


「まあこれからはバンバンうちに魔物送ってくれよな!!

 期待してるぜ!!!」


 ああ、こんな期待してるのに一年しかいるつもりないなんて言えないな。

 うん、黙っとくか。


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