昨日ここに来いって呼ばれたんだが
さて、今日は組合に顔を出さないとな。
この国に来てから一人で行動するのは初めてだが、少しずつ慣れていかないといけない。
これからはこういう機会が増えてくるだろうし、そもそも一人で人の社会を歩くってのもこの旅の目的の一つだからな。
修行と思って気を引き締めていくか。
山にこもってたころの俺なら正直あまり自信はなかったが……、外に出てからもうだいぶ時間が経つ。
積極的に人と関わってきたというわけではないが、人に慣れるにはまあ十分な期間だったな。
マオを見ていたおかげで話し方とかも気をつけることもなんとなく分かってきたし、そんな大失敗とかはしないだろう。
全く、マオには感謝してもしきれないな。
昨日はなんだか落ち込んでいたみたいだが、俺が成長してるところを見せればあいつのことだ、きっと負けず嫌いでも発揮してもうちょっと元気になるだろ。
ぼんやりとそんなことを考えながら歩いていると、組合本部についていた。
ここからが本番だ。
そういや面倒なのに絡まれたのもここだったな。
最近は見てないからすっかり忘れてたが、また絡まれなきゃいいんだが。
「あー、昨日ここに来いって呼ばれたんだが」
「はい? えっと……組合員証をお見せください」
なんだか怪しむような目だったから、言われたとおり組合員証を出す。
言い方まずかったか?
まあこれ見せれば大丈夫だろ。
「……ミスリル級冒険者のロウさんですね。少々お待ちください……。
……指名依頼が一件届いているようですね。
他には特に連絡事項はないようです。
こちらを受注する、ということでよろしいですか?」
「ああ、そうだ」
「かしこまりました。では内容の説明をしますのでこちらへどうぞ」
内容の説明は奥の個室でするみたいだ。
こういうときは素直についていけばいいんだよな。
「では依頼内容の説明にうつります。
今回の依頼主は組合本部。
依頼概要は『指定異界での試料回収』となります。
具体的な回収対象ですが……特に指定はないようですね。
『今回は実力を測るための依頼なので、安全第一で可能な限り深部まで潜り、気になったものがあれば回収してほしい』とあります。
ああなるほど、ロウさんはこれが初めての依頼になるんですね。
報酬額は金貨1枚。
期限は受領から15日以内となっております。
依頼難易度はミスリルの低級ですね」
なるほど、わからんな。
とりあえずこの地図にある場所にいって適当になんか拾ってくればいいのか?
実力を測るって言ってるし魔物もとりあえず倒しておくべきか?
報酬額も高いのか安いのかわからんが……こいつはあとでマオに聞いとけばいいか。
とにかく何を回収すればいいのかの目安とかがないと困る。
こういうときマオならどうしてるかな。
少しばかり首を傾げて悩む。
いつもはマオに全部任せてたからこんなこと考えるのも初めてだ。
やっぱ人の話を聞くのは面倒だ。
かといってここで面倒臭がって依頼が進められないってのも困るが。
あー、そういやマオはよく誰にでもすぐ質問してたな。
分かんないなら分かる人に聞いた人が早いとか言ってたけど……、こういうことなのか。
よし、ちょっと真似してみるか。
「なあ、気になったものとか言われても正直よくわからないんだが……。
こういうのって普通はどういうものを持ってくるんだ?」
「そうですね、試料という言葉がさすものは非情に幅広いです。
その異界に生息する魔物や亜獣の素材、土壌、水、鉱物、極稀に発生する魔法の道具など……。
とにかくその異界に存在するもの全てが対象となり得ます。
特に未踏領域であればどんな些細な情報でも価値は高いですね。
逆に既に調査が進んでいる範囲では簡単に手に入るものほど価値は低くなります。
例えば今回の場合でしたらかなり深部まで調査が進んでいますので、先程あげた中でしたら土壌や水、鉱物なんかは評価されないでしょう。
依頼の意図からすれば、生息している魔物を討伐して回収すればどこまで進めたのかわかりますので十分かと思います。
もちろん未踏領域に到達できた場合や、未確認の何かを発見できた場合はその限りではないですね」
この人の話はさっきからやたら長いな……。
まあでも、なんとなく理解できた。
どうやら俺の腕試しが目的みたいだから、適当に進んで片っ端から魔物を倒していけばいいみたいだ。
「ちなみに調査が完了している領域や発見済みの鉱物・植物などの情報は異界入り口を管理している事務所にて無償で提供していますので、そちらを入手してから異界に潜ることを推奨します」
そういうことなら難しいこともなさそうだ。
なんか見つけたら情報と照らし合わせて、載ってなかったら拾っていく。
そんな感じでいいだろ。
ああ、なんかそういうことこの前マオがやってたな。
一人で全部やるってのはなかなか面倒だが……まあ仕方ない。
「その他に特に質問がなければ受領ということで手続きを進めておきますがよろしいですか?」
他に聞いておくべきことはなんかあったか?
地図は貰ったし、そこでやるべきこともそんな難しくない。
あとは持ってくものを用意すりゃよさそうだ。
異界に潜るのにどんくらい時間がかかるのか分からんが、15日も余裕あるならまあ大丈夫だろ。
「いや、たぶんなさそうだ」
「では、ご武運を」
組合本部を出てしばらく歩いていると、誰かがつけてくる気配を感じた。
距離のとり方と人数的にこっちに手を出してくるってわけでもなさそうだが……。
ま、別にいいか。
手を出してくるなら相手してやればいいし、何もしてこないならほっとけばいい。
そんなことより準備だな。
異界ってのは一体何を持ってけばいいんだ?
とりあえず解体用の小刀と、一応照明はいるのか?
泊りがけなら野営道具も必要か。
あとは保存食と水だな。
あー、これは先に目的地の情報を調べる必要があるな。
どんくらい必要なのか分からん。
たしか管理事務所ってとこにいけばそういうの教えてもらえるとか言ってたな。
よし、行ってみるか。
「おー、異界内部の情報ね。いいよいいよー、この冊子にまとまってるからー、じゃんじゃん持ってってー! ついでにお兄さんかっこいいから私のことも連れ出してー!」
地図に従って管理事務所にいくと、やけに陽気なエルフが絡んできた。
少し言ってることが意味不明だが、きちんと仕事はしてくれたし無視しておく。
冊子だけもらってさっさと出ていこうとすると「無視するなー! 甲斐性なしー!」とか騒ぎ立ててきたが、ああいうのは反応したほうが面倒だというのはなんとなく察しがつく。
他に誰もいないあたり、きっと退屈なんだろう。
そっとしておいてやろう。
さて、冊子によるとこの異界は『季節巡りの森』と呼ばれているらしい。
発見されている階層は全部で四つ。
各階層ごとに季節が変わったかのように様相が変わることからこの名がついたとか。
最短距離で進めば各階層は大体3-4時間ほどで踏破できるとある。
……とここまで読んだところで、脇に落書きのようなものが書いてあるのが目に入ってきた。
この辺の説明までは見やすい字体と丁寧な口調で書いてあったのに、それだけ雑というか、やけに浮いている。
なんだこれ?
奇怪な生物……らしきものが諸手をあげて、血しぶきを上げながら何やら台詞を言っている。
『実際に歩く時は魔物が出たりするし色々あるから、倍くらいは調査時間をみといたほうがいいよ!』
奇怪な生物はこの際置いておくとして、この台詞のほうはあとから書き足したんだろう。
なんとなく、さっきの暇そうなエルフが暇すぎて落書きしたんじゃないかなと思ってしまった。
といっても、書いてある内容は知っておいたほうがよさそうなものだ。
本当かどうかはわからないがこれを元に必要なものを準備するのがいいだろう。
「えーっと、じゃあ一階層あたり8時間かかるとして……、一日の活動時間ってどれくらいだ?
朝の6時くらいから動き始めて日が暮れるのが……何時だ?」
そのあたりも書いてないかと思って冊子をめくってみると、やっぱり奇怪な血しぶきをあげた怪物が教えてくれた。
この異界はすぐ暗くなるらしい。
時間としてはだいたい16時くらいには暗くなりだすから、その頃には安全地点を探し始めたほうがいいとか。
「ってことは一日10時間か……。
ちょっと中途半端だが一日一階層進めると考えて長くても往復で8日か」
よし、それがわかればあとは準備するだけだな。
食料は現地でも調達できるのがありそうだし、なるべく減らしていくことにするかな。
最悪呑まず食わずでも10日くらいは生きてけるしな。
あー、でも8日もかかるなら素材の保存とかも考えないとか?
ってか大物とかとったらどうすんだ?
この前マオと潜った洞窟は必要最小限の部位だけ剥ぎ取ってたが……今回は素材を持って帰るのが目的だしな。
なるべく多く持って帰ったほうがいいだろ。
冊子の方にも……素材の剥ぎ取りとかは特に書いてない。
しいていうなら食肉にできるかどうかが記してあるだけだ。
どういうことだ?
あの時マオが見てたやつには素材について書いてある風だったが……。
だめだ、わからん。
こりゃ聞いたほうがいいな。
あのエルフのところに戻ったらうるさそうだが……。
背に腹は変えられないよな。




