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ロウとマオ 〜最強仙術使いと最弱JDの異世界放浪譚〜  作者: にしだ、やと。
第5話 大波乱の始まり!? 冒険者の国アスクエムブラ
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ストップ安もいいとこだね

 翌朝マオがロウと一緒に冒険者組合本部に顔を出すと、なにか昨日とは違う印象を受けた。

 それは、昨日この場所に感じた静かさや落ち着いた雰囲気が消えてしまったことによるものだ。

 前日に比べて、明らかに人が増えている。

 戦闘に関しては確かに素人で殺気などには鈍感なマオだったが、周囲の、とりわけ人の様子を観察する能力に関しては人並みならぬものがある。

 その違いに、気づかないはずがなかった。


 あ、これ昨日の酒場で聞いた話の通りだな。

 みんな雑談しているだけのように見せてるけど、入り口への注意を全く絶やしてない。

 間違いなく、探してる。

 ロウ君のことを。


 とはいえ、結局気づいたところでこればっかりはどうしようもない。

 用事がなかったならこの場を立ち去ればいいだけの話になるけど、今日は用事があるし諦めよう。


 とりあえず、受付に言って屋敷を借りることにした旨を伝える。

 この場で手続きが済ませられればもしかしたら彼らに気づかれずに済むかもしれないけど……どうやらダメらしい。

 昨日と同じように応接室に通されることになってしまった。

 組合本部でも応接室に通されるような人は珍しいらしく、やはりというかなんというか、思いっきり注目を集めている。


 ああ、これできっと戻ってきたら待ち構えられてるんだろうな。

 ま、全部断ってしまえばいい話なんだけど……どうにも面倒なことに巻き込まれそうな予感しかしないんだよなあ。

 それもあんまりワクワクしない感じの面倒臭さ。

 よし、ここは全部ロウ君に頑張ってもらおう。


 ◆ ◆ ◆


「よお、兄さん。ちょっと時間いいかい?」


 屋敷の借用手続きを終えた私達が組合を出ようとすると、そこで待ち構えていた男に声をかけられた。

 この男……頭が狼そのものだ……。

 これが噂にきく獣人ってやつなのか!

 顔は獣のそれなのに首から下はヒューマンにちかい。

 もちろん全体的に毛がふさふさでやっぱり獣感はあるんだけど、普通に二足歩行してるし、見た感じ手先は物が握りやすいようにしっかり発達している。

 それに、尻尾! 尻尾が生えてる!

 ちょっとこの人は雰囲気からして近寄りがたいけど、もし可愛い感じの獣人がいたらもふもふさせてもらいたいな……。


「うん? なんだあんたは?」

「俺はディック。『黒の戦車団』の幹部さ」


 彼はやけにキリッとした態度でそう言い放った。

 黒の戦車団……昨日酒場で聞いた『戦車』ってやつかな?

 なーんか言い方が偉そうなんだよなあ。

 言外にもちろん知ってるよな? ってつきそうな口ぶりだし。


「黒の戦車団? 幹部? なんだそれは」

「おいおいおい……まさか俺たちのことを知らないなんていうつもりじゃねえだろうなあ?」


 おー、わかりやすく一気に不機嫌になったなあ。

 こりゃいつ殴りかからってきてもおかしくないけど……周りの人達は止めてくれるのかな。


 そう思って周囲の様子を探ってみたけど、遠巻きにこちらの出方を見守っているような視線を複数感じるくらいで、口を出してきそうな気配はない。

 うーん、ここ組合本部なんだし危なそうだったら誰か仲裁に来てくれてもいいと思うんだけど。


 いやでもわんさか殺到してこないだけマシ、と考えておこうかな。

 大学のサークル勧誘とかほんとやばかったからなあ……。

 どさくさに紛れて体触ってこようとする不届き者もいたりするしさ。

 こっちは興味ないのにいっぱいビラ押し付けてくるし。

 ほんと節操ないよねえ。

 おっと、それは今は関係ない話だ。

 日本での思い出にふけってる場合じゃない。


「悪いな。この国には来たばかりなもんでな」

「そうかいそうかい、てことはやっぱり兄さんが例の新しくやってきたミスリル級ってんで間違いねえようだな」

「ああ、確かに俺はミスリル級だな」

「そりゃよかったぜ。なあ兄さんよ、あんたまだブリゲイドに入ってないんだろ?

 ならうちに入らねえか? うちほどの大手に入れる機会なんてそうそうないぜ」


 おお、自分で大手っていっちゃうんだ。

 っていうかこんなすぐに勧誘に来てるのに機会がないなんてよく言うね。


「いや俺はどっかに入るつもりは……」

「なーに、わかってるわかってる。そこの連れの女が気がかりだってんだろ?

 小さいが確かによくみればなかなか悪くない体してるもんなぁ。

 だがよ、うちに入りゃもっといい女を紹介できるぜぇ?

 うちくらい有名になるとよ、そりゃもう女の方から声をかけてくるもんよ!

 おかげで夜ぐっすり寝れた試しがねえもんな。

 な、悪くない話だろ?」


 うわー、うわー、うわー。

 こんな露骨に下衆いのかあ。

 やだなあ。ロウ君追い払ってくれないかなあ。


「いやだからマオはそういうんじゃ……」

「ああ、もちろん金だって心配要らねえぜ?

 ミスリル級は団の中でも当然一番の高待遇だからよ、必要なもんなら経費で落ちるし宿代だってかからねえし、腕利きの職人だって揃えてるから欲しいもんは思うがままよ。

 正直そこらで兄さんのこと狙ってるやつらのとこなんざろくに構成員の数も揃えられない弱小ばっかだからな。

 この国で上目指すんならうちに入る以外の選択肢なんてありえねえってわけよ!」

「あー」


 うわあ、ついにロウ君返事も面倒になって言葉を考えるのやめちゃったよ。

 この狼顔の男がろくにこっちの話も聞かずにまくしたてるもんだから、印象は最悪。ストップ安もいいとこだね。


「な? っつうわけで早速うちの拠点に行こうや」

「あー、もう話は終わったのか……。なら俺はもう帰らせてもらうぞ」

「そうそう……って今なんつった?」

「いやだから、あんたの話し相手になるつもりはないって言ったんだよ」


 いいぞ、言ったれ!


「おいおい……まさかこの俺の……国内第6位ブリゲイド、『黒の戦車団』の誘いを断るって……? 自分の実力すらわかってない田舎者のくせに……? 少し調子に乗りすぎなんじゃあねえのか……? あぁん?」


 へえ、6位なんだ。

 すごいのかすごくないのかよくわからない順位だな……。

 あ、でも6番目なら本部長さんがいってたこの国を支配する冒険者の一人がいるのかな?

 あの貢献度の仕組みって団単位なのかなあ。


「いいぜ、表にでな。決闘してやる。

 俺が勝てばお前にはうちに入ってもらう。

 ついでに連れの女も入れてやるよ。

 もちろん女にはたっぷりご奉仕してもらうことになるがな」

「はぁ、わかったよ。それであんたが諦めてくれるなら相手くらいしてやる。

 俺が勝ったら大人しく帰ってくれよ」


 あ、なんかいつのまにか決闘する流れになってる。

 しかもロウ君負けたら私が身売りする話になってるし、なにこれ。

 えー、見ず知らずの男に抱かれるのは絶対やだよ。

 この国衛生観念あやしそうだし。


 男に従って、私達は組合前の広場に出てきた。

 当然のように一部始終を遠目から眺めていた人たちは観客として周りを囲っている。

 衆人環視での決闘だ。

 この結果に文句をつけられる者はだれもいないだろう。

 ましてあれだけ大見得を切ったディックとかいう男なら尚更だ。


「えー、互いに相手を死に追いやるような攻撃は控えること。

 先に相手を降参させるか、戦闘続行不能にした方を勝者とします。

 では、はじめ!」


 何処からともなく現れた審判の一声で、決闘は始まった。

 開始位置は互いに十分な距離をとっている。

 そして、ロウ君の武器は素手。

 対するディックの武器は長剣と短剣の二刀。

 どちらも遠距離攻撃する武器は持っておらず、いかにして間合いに入るかが鍵となる。


 先程まで頭に血が上っていたように見えたディックも、いざ決闘が始まれば瞬時に冷静さを取り戻し、相手の動きを観察している。

 彼もやはりミスリル級冒険者を名乗るだけのことはある。

 どんなに相手を侮るような発言をしたって、一度剣を握れば油断などしない。

 そうでなければ、この国で冒険者として成功することなどできないのだ。


(くそ、奴の武器はなんだ? 少なくとも剣はもっていないようだが……なにか暗器でも仕込んでいやがるのか? それとも拳闘士なのか? いや、魔術を使うって可能性もある……。それにあの様子……なんで奴は構えてないんだ? くそ、わけがわかんねえ)


 しかしたとえ油断がなかったとしても、相手が悪すぎた。

 いくら観察したところで、ロウから情報を引き出すことは不可能。

 時間が経つほどに逆にこちらの情報が読み取られていく、そういう流派なのだ。


(ええい、なにを焦ってるんだ。どうせ田舎の雑魚だ。いつもどおり最速で斬り抜けりゃいい。それでいいはずだ)


 ディックにできることは、これまで鍛えてきた自分の力を信じてただ一直線に駆け抜けることだけだった。

 獣族、とりわけ戦闘に秀でた狼の部族であるウォルフガルズの血脈がディックに常人を遥かに凌ぐ身体能力を授けてくれている。

 だからそれを信じ、ディックは加速した。


 一陣の風が駆け抜けていった。

 銀に光る剣が閃き、その軌跡を中空に浮かび上がらせる。

 その猛烈な速度に誰もが目を見張り、彼の勝利を確信した。


 ――ああ、あの速度で斬りつけられちゃ避けようがないな、と。


 どさり、と重そうな何かが地面に落ちる音が響く。


 ああ、負けちまった。


 崩れ落ちた男は、素直に自分の敗北を認めた。

 あれだけの技量、あれだけの強さをその身で実感して尚、負けを認めないような男ならこの場に最初から来ることは出来なかっただろう。


 だからこそ、悔しさを感じる。

 だからこそ、次こそは勝ちたいと思う。

 だからこそ、どんな手を使ってでもあの力を求めたくなる。


 そして、男は薄れていく意識の中で、声を聞いた。


「そこまで! 勝者は……えーと、名前なんて言うの?

 あ、君しってるの? ……ふむふむ、どうもありがとう。


 ではあらためて、こほん。

 ――勝者、ロウ!!」


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