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ロウとマオ 〜最強仙術使いと最弱JDの異世界放浪譚〜  作者: にしだ、やと。
第5話 大波乱の始まり!? 冒険者の国アスクエムブラ
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六王会議

 冒険者の国の夜は明るい。

 太陽が沈み、月がほのかに照らすだけのはずの闇も、街中に点在する酒場から漏れ出す光が駆逐してしまうからだ。

 冒険者たちはその日の成果を称え合い、明日への英気を養うために酒を飲み、騒ぐ。

 男たちは自らの武勇をこぞって自慢しあい、あるいは冒険で興奮しきった自らを鎮めるために女を誘い、あるいは気に食わない誰かを酒の勢いで殴り倒す。

 混沌としている、と言われればそうなのかも知れない。

 他国に比べれば治安が悪い、とも言えるのかも知れない。

 しかし、これこそが日常であり、これこそがこの国における平和のあり方だった。


 そんな喧騒が届かない場所に集う六つの影があった。

 国の中枢である冒険者組合本部。

 その地下に、常人には知らされていない秘密の部屋がある。


 月明かりも届かず、部屋を照らすのはほんの僅かに灯る魔道具の光のみ。

 決して部屋全体を照らすことなく、そして中にいる人物の顔も照らすことのない、最小限の灯り。

 部屋の中に見えたのは大きな円卓とそれを囲む六つの人影。


 彼らこそがこの国を支配する、6人の冒険者の王たちなのだろう。

 集まった彼らは和やかに会話をするという様子でもなく、互いに牽制し合うような、あるいは無関心を貫くような、決して穏便に会議が進むことはなさそうな雰囲気を醸し出している。


「それで? 今日はどないな用件で集合かけてきよったんです?」


 影の中の一人が黙っていることに耐えかねたのか、口を開いた。

 声の高さから言って女性なのだろう。

 暗くて顔はよく見えないが、なんとなく早く用事を済ませたいような気持ちが滲み出ていた。


「予定よりも開催が早いよね。なにか緊急の案件でもでたのかな?」


 続けて口を開いたのは穏やかそうな声をした男だった。

 彼はそれほど急いではいないようだが、それでも緊急に集められたことに疑問を感じているらしいのは間違いなさそうだ。


「二つだ。貴殿らを呼んだのは早々に知らせるべき事項が二つ出たからだ」


 それに対して答えたのは、静かだけれども部屋全体に響き渡るような、低く、厳かな声だった。

 きっと彼こそがこの場においてもっとも発言力があるのだろう。

 たとえ姿が見えなくても、その声だけで常人を震え上がらせるような存在感がそこにはあった。


「二つ、ですか。一つについてはすでに耳に入っている事項かも知れませんね」


 そんな誰もが声を出せなくなりそうな雰囲気を平然と破ったのは、対照的に極めて柔らかく温かな女性の声だった。

 その声を聞いているだけで誰もが母の胎内にいたときのような安心感を覚える、不思議な魅力を持った声。

 しかしそんな優しい声を聞いても、どうやらこの場にいる者は誰一人として、決して気を緩めることはなさそうだ。


「耳の早い者であればそうだろうな。

 だが公平性を期すためにここで公式に伝えておく。

 新たなミスリル級冒険者が国内に入った。性別は男。

 正確な実力は不明だが、記録によれば王国にあるリグルーという街で登録時にミスリル認定されているそうだ。

 パルテ、ブリゲイドには未所属。

 伝達事項の一つ目は以上だ」


 どうやら、ロウの話らしい。

 この話題の反応はすでに知っていたというもの、関心がなさそうにするもの、目をギラつかせるものの三者に分かれたようだ。


「そいつぁいい話じゃないか」


 最も食いついていたのがこれまで一言も喋らなかった男だ。

 彼の反応からして、きっと新たな戦力を自身の率いるブリゲイドに加えたいのだろう。


「どんな人なんだろうね。いい人だったら是非仲良くしたいものだな」


「はん、てめぇのとこなんざ今までどおり仲良しごっこしてりゃいいのさ。

 どんな奴かはしらんがどうせ田舎でもてはやされて調子に乗ってる新人だろぉ?

 オレ様の配下に加えてやるのが奴にとってもいい話だろうさ」


「相変わらず戦車はんは自信たっぷりやなぁ。

 ま、うちは今回は様子見させてもらいますからお好きにどーぞ。

 新人にかまってる暇があったら金貨数えてるほうが有意義ですわ」


「私もしばらくは観察させていただくことにいたしましょう。

 もしも彼が困っているようなことがあれば手を差し伸べることにいたします」


 どうやら彼らはロウに対するそれぞれの姿勢をここで宣言することで互いに無用な争いを産まないようにしているようだ。

 穏やかな男は友好的な接触を、戦車と呼ばれた強気な男は積極的に勧誘することを、訛りのあるせっかちそうな女性は様子見を、優しげな女性は観察を、それぞれ宣言した。


 残っているのは二人。

 いまだ一言も発していない者と、この場を仕切っている長たる男だ。


「某は言うまでもなく何も手は出さぬ」


 男は当然のようにそう宣言した。

 これは他の参加者もわかっていたようで、ことさら反応する者はいなかった。

 絶対的強者たる自信か、彼は一切勧誘活動はしてないようだ。


 残ったのは相変わらず無言を貫いている者だが。


「それで、女帝様はどうするつもりなのかな?」


 穏やかそうな男が最後の一人に問いかける。


 すると彼女は短く溜め息をついて、


「我をそのような愚民どもの戯れに巻き込むでないわ。

 たかが新人程度のこと、我が興味を示すとでも思うたか?

 この場に来てやっておるだけでも感謝せい」


 と言い放った。

 その声に一切の躊躇いはなく、自分自身に対する絶対的な自信と王者としての貫禄が感じられる。

 この場にいる6人全てが冒険者の王たる人物であるにもかかわらず、それでも自身の優位性を疑わないその姿勢は、まさに女帝と呼ばれるにふさわしいものであった。


「ははは、それは失敬失敬。一応全員が言わないと会議が進まないからね。そう怒らないでほしいかな」


 穏やかな男もこれでなかなか食えない男だ。

 低姿勢でありながら、決して相手のペースに呑まれない。

 一見この中で一番力がなさそうにも感じるが、やはり6人に選ばれるだけのことはあるということか。


「まあ女帝はんの態度はいつものことやし放っておきましょ。

 そいで、二つ目っちゅうのはなんですのん?」


「そうですね、私も二つ目については予想がつきません」


 ロウの話題はどうやらそれで終わり、二つ目の話題に関心が移ったようだ。


「二つ目は、これも本日この国にやってきた者の話だ。

 その者の素性は一切不明。

 ただ一つ、絶対に手出しをするなと、そう伝えられた。

 見ても見ないふりをしろ、触れるな、関わるな。知ろうとするな。

 以上だ」


 この言葉には、流石の面々も困惑した。

 素性が一切不明なのに、手出しをするな?

 相手がわからないのに、一体どうやって手を出せばいい。

 どうやって関わればいい。

 どうやって関わってしまったことに気づけばいい。


「それは……やはり()からの指示でしょうか」


 優しげな女性が、少しでも情報を引き出そうと聞く。

 彼ら6人よりもさらに上に立つ者。

 その者が時折こうして不可解な指示をしてくることはあった。

 しかし、その存在もまた触れてはいけないものとして長たる彼以外は一切知らされていなかった。


「そうだ。これは命令ではなく、忠告だそうだ」


「はっ! 誰なのかもわからねぇのに無茶なこと言ってくれるぜぇ! 気にするだけ無駄だろ!」


「今回ばかりは彼に同意せざるを得ないかなあ。相手が誰かもわからないんじゃ注意しようがないよ」


「せやなあ。ま、知らん顔みたら一応気ぃつけときますわ」


「そうですね……。私は上がってくる報告に注視するとしましょう。同士が危険な目に遭うのは避けたいですから」


 このことに対する反応は皆それぞれだったが、相手がわからない以上、少し注意するくらいしかできないだろう、というのは共通の見解のようだ。


 しかしただ一人、違う反応をした人物がいた。


「面白そうよのお。一つ尋ねるが、お主でもその者には手出しできぬのか?」


 女帝だった。

 それまで退屈そうに無関心を貫いていた彼女が、暗闇でも分かるほどの笑みを浮かべて自ら話題に参加してきた。


「某程度では寝込みを襲っても敵うまいよと言われている。故に某も関わることを禁じられている」


「ほほほ、それはそれは、随分おかしな話よの。

 では、()()()()()()()()()()どうするつもりかの?」


 その言葉には男も感情を殺しきれなかったのか、あるいは隠すつもりもないのか。

 湧き上がる感情を一切殺すことなく、ただ一言、笑いながらこう返した。


「無論、某の限界を試すまで」


 その返答に女帝は満足したようだ。


「ならば我も禁止されておらぬがゆえ、その者を手に入れてみせようぞ」



 ――かくして、6人の王たちはそれぞれの欲望を満たすため、静かに動き始めるのであった。


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