ふっふっふ……それは考えがあるよ!
問題が浮き彫りになったところで、話は以上だと言われて退室することになった。
この国の制度上、私はロウ君と一緒に冒険ができない。
つまりこのままだとこの国に来た理由がなくなる。
何かしら抜け道を探すか、私自身の等級を上げないとだけど……短期間で金まであげるなんて実力もないのにそんな無茶なことできるわけないよなあ。
これからについてぼんやりと考えながら廊下を歩いていると、前方に見覚えのある後ろ姿を発見した。
あのやたらと長い灰色の髪は……もしかして。
「ローラさん!」
駆け寄りながら声を掛ける。
後ろ姿から漂うあのやたらと希薄な雰囲気は、間違いなく船で出会ったローラのものだ。
そして、割と大きな声で話しかけたのに一声で反応してくれないのもなんだか彼女らしく感じる。
「あの!」
「うん? もしや私に声をかけていたのかね? このルナマリアに?」
「ルナマリア? えっと……ローラさん……ですよね?」
あれ? 雰囲気も顔つきも間違いなくあの時出会った人なのに……。
そっくりさん?
それとも……。
「ローラじゃと?
ほほう、さてはお主、このわしとどこかであったことがあるんじゃな?
まて、思い出そう」
おや? やっぱりローラさんで会ってそうだ。
なにか事情があって名前を使い分けてるとか、そういうことなのかなあ。
それにしても一度会ったくらいじゃ私のことなんて覚えてくれないか。
思い出そうとしてくれているのか、こめかみに指を当てて首を捻っている仕草がなんだか可愛らしい。
「おぉ! 君は多分最近乗った船で出会った親切な少女かな!
その面白そうな気配、うんうん、覚えがあるよ!
……ところで名前はなんだったかな?」
「マオですよ。思い出してもらえてよかったー。
ところでローラさんはここに何をしに来たの?
冒険者ではなかったような」
「うん? まあ野暮用というやつだね。
ま、今のところは君たちには関係ないだろうさ」
これはあんまり詮索しないほうがいいかな?
まあ本部にくるような用事だし、部外秘とかあるんだろう。
どうにも今のところっていう言い回しに引っかかりを覚えるけど。
気になることは多かったけど、話してくれそうもないしとりあえず忘れることにした。
それよりもせっかく会ったので本部を出るまでの間、他愛もない雑談にふけることにした。
「では、ここらへんで別れるとしようか。
また縁があればきっと会うこともあるだろうよ」
組合本部を出るとローラさんはあっという間に何処かに去っていってしまった。
一緒に食事でもと思って軽く誘ってみたけど、やんわりと断られてしまった。
曰く、そういうのは縁があれば自然とその機会が訪れるとかなんとか。
私は運命とかそういうの非科学的だから信じないタイプだけど、ローラさんは違うみたい。
見かけによらず結構乙女なところもあるのかな。なんてね。ふふふ。
「よし、用事も終わったしとりあえず宿を探しにいこっか。その後はよさそうな酒場を探してご飯にしよう」
◆ ◆ ◆
「おー、やっぱり冒険者の国ってだけあって、酒場も冒険者だらけだ」
適当な宿を見繕って荷物を置いてきた私達は、そこそこ賑わっている酒場にやってきた。
選定基準は往来の多い通りに面していること、可愛い店員が働いていること、相場よりも少しだけ値段が高いけど客が楽しそうに飲み食いしている姿が確認できること、の三つだ。
これらを満たしていれば食事の美味しさという点で外すことは無いだろうし、人の目があるから変な事件に巻き込まれることも少ない。
可愛い店員がいればその子目当ての常連客もいるだろう。
そして相場よりも高いのに通えるってことはそれなりの腕前を持っていることが予想できる。
彼らはきっと飲んでいるうちにどんどん機嫌が良くなって、口が緩くなってくれると思う。
それに女の子にアピールするために声もいつもより大声になっちゃうんじゃないかな。
というような考えで酒場に入ってみたけど、なかなかどうしてこれがうまくいったみたい。
がやがやと騒がしい店内は明るい雰囲気で、食事をするのに悪くない。
席を埋めているのは大半が冒険者風の装備をした男たち、それもパッと見ただけでも質のよさそうなものを持ち歩いている人ばかりだ。
これなら情報収集も捗りそうだ。
「さて、それで今後についてなんだけど」
「おう、これ食いながらでもいいか?」
あ、うん、食べたいよね。おいしそうだもんね。
どうぞどうぞ。
この国の料理は肉料理がすごく多いみたい。
相場も肉がすごく安くて野菜が高いから、きっと肉が異界でいっぱい産出されるんだろうな。
「えっと、まず屋敷を借りるかどうかだけど……色々考えた結果借りることにしようと思う」
「そうか。俺は構わないが、でも確か一年はここにいなきゃいけないんだろ?
それはいいのか?」
「それなんだけどね、異界探索って私の予想だと結構時間がかかると思うんだよね。この国で成り上がるつもりは特に無いけど、せっかくだから腰を据えてじっくり進めていくのもよいかなって思って」
「ふうん、まあいいけどな」
「あとはこれは私の問題だけど……少し鍛えてみようかと思うんだ。
本部長さんにもいわれたけど、この国でロウ君と一緒に活動するのは難しいよね。もちろん諦めるつもりもないけど。
それに今までずっと頼りっぱなしだったし、少しくらいは自衛できるようになりたいなって思って」
これは今の私の偽らざる本心だ。
今までは相手も弱くて(私よりはよっぽど強いけど!)ロウ君に余裕があったから問題なかったけど。
今後も同じように旅を続けられるとも限らない。
「うーん、マオがそうしたいって言うなら止めないけどよ。
マオを守るのが俺の役目なんだし別に気にしなくていいんじゃないか?
それに鍛えるって言ったって何を武器にするんだ?」
「ふっふっふ……それは考えがあるよ!
私はね、たしかに武器を扱うのは致命的に才能がないんだと思う……。
けど、この世界にはそんな才能なんてなくても戦う手段があるのだよ!」
そう、リグルーの街でやらかした大失態はもう二度と演じたりしないよ。
剣を持てないのに持とうとするからダメなんだ。
「へえ、そいつは気になるな。
言っとくが仙術を覚えようって言うんなら無理だぞ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。
そんな習得するのに何十年も掛かりそうな術なんて覚える気ありません!
私が覚えるのは魔術!
そう、このときのために私は王都で学び、そして旅の途中も暇さえあれば教本を読んでいたのです!」
「魔術か。うん、いいんじゃないか?
あれはなかなか厄介な術だからな。
使えるようになれば戦闘に参加できるだろ」
お、ロウ君も賛成みたい。
よし、拠点を確保したら一つがっつり特訓してみよう。
「――なあ、知ってるか? 今日新しいミスリルがやってきたらしいぞ」
「なに、本当か? 一体誰に聞いたんだ?」
「ああ、うちの副団長がな……」
方針も決まったところで、少し食事に集中しようと思い、ロウ君によってすでに半分以上なくなっていた目の前の料理に手を付けていると、どこかの席の話し声が耳に入ってきた。
自分たちの話題がすでに噂になっていることを知り、思わず聞き耳を立てる。
「へえ、本部の職員に聞いたのか。それでどんなやつだったんだ?」
「聞いたところじゃ二人組の男女の小隊で国に入ってきたらしいんだが、ミスリルは男のほうだけらしい」
「ってことは女のほうは金あたりか……国外からきたなら銀ってのもあるのか?」
「いやそれがな……どうも女の方は相当弱そうだったって話だ。
その職員は女の方の等級は確認してないらしいが……見るまでもないくらいだったとか」
「おいおい、寄生かよ」
「ま、体でも売って媚売ってるんじゃないかって話だよ」
うわあ、本当に私って扱いひどいんだな……。
体売ってるビッチってことになっちゃってるよ。
確かに目的のために多少無茶をすることはあるけどそこまで落ちぶれちゃいないよ私だって。
私、こうみえて身持ち固いんですよ。
ユニコーンにだって懐かれますよ?
「で、女の方はどうでもいいとして、ミスリル級の男のほうはどうなんだ?」
「ん、どうって?」
「だからよ、どれくらいの実力なのかって話だよ。
外の国での噂とか少しくらいは入ってこないのか?」
「うーん、それがな、どうもあまり聞いたことのない名前らしいんだよ」
「ってことは最近ミスリルになったやつなのか?」
「ああ、そうなんじゃないかって言われてる。
どの道この国じゃ小隊に入ってないんだ。
大手はどこも黙ってないだろうよ」
「だろうなあ。早ければ明日にでも『戦車』あたりは手を出すんじゃないか?」
「ははっ、確かにあそこならそうしそうだ。
7位に落ちないよう必死だもんな」
おや、これはちょっと厄介なことになりそうな話を聞いてしまったな。
大手の勧誘……たぶんこれって団の話だよね。
そうするとさっき言ってた『戦車』ってのは団の名前かな……。
「おいおい、あんまり大声で大手を貶すようなこというなよ。
どこで誰が聞いてるかもわからないんだからな」
「平気だって。みんな酒のんで騒いでるからさ。
それにここは『戦車』は出禁だからな」
「それもそうか。そういや話は変わるけどよ――」
へえ、『戦車』ってのはあんまり評判が良くないのかな?
もうちょっとそのあたりの話を聞きたかったけど、彼らが下品な話題に移ってしまったからもうだめそうだ。
よし。
もう何杯かお酒を飲みながら他によさそうな話題がないか聞き耳を立てておくことにしよう。




