報酬は地位と名誉と金だ
組合本部に入ると、中は冒険者組合とは思えないくらい静かで落ち着いた雰囲気だった。
今まで訪れた組合といえばどれも中に酒場が併設されていたし、冒険者の数も多かったりで、四六時中ガヤガヤとした騒がしさがあった。
しかしこの本部には人が少なく、酒場もない。
併設されているのはオフィスビルに入っているような落ち着いた雰囲気のあるカフェみたいだ。
優雅にお茶をしながら歓談している様子が見える。
思わぬ上流階級感にやや面食らったものの、騒がしいよりはよいかもと思い直して正面の受付に向かった。
「ここに立ち寄るように門のところで言われてきたんですが」
私が声を掛けると受付のお姉さんは手元の作業を中断して、私達二人のことを観察するようにじっと見つめてきた。
おお、できる女性って感じがするな、このお姉さん。
ちょっとドキドキしちゃう。
「失礼ですが組合員証の提示をお願いします。
……いえ、後ろの方だけで構いません」
私が組合員証を出そうとしたら止められてしまった。
どうやら私ではなくロウ君が言われたんだろうと察せられてしまったらしい。
さすが本部で受付嬢をやるだけのことはある。
「はい、ありがとうございます。確認してまいりますので少々お待ち下さい」
ロウ君が組合員証を渡すと、それが本物であることを確かめてから何処かへ行ってしまった。
門からここまで最速で来たつもりだけど、すでに何かしらの方法で連絡が来ていたりするのかな?
メールも電話もない世界だけど、ひょっとしたら遠隔通信の手段が魔道具でなにか実現されているのかも知れないな。
「お待たせしました。本部長がお待ちですのでロウ様、こちらへお越しください」
10分ほど待っていると受付のお姉さんが帰ってきた。
どうやらとても偉い人と会うことになるらしい。
ミスリル級って本当にすごいんだなあ。
あ、というかこれって私もついていって平気なのかな?
「あの、それって私もついていっても大丈夫ですか?」
歩き出そうとしたところに声を掛けると、受付のお姉さんは振り返ってやや不機嫌そうな顔をしていた。
「失礼ですがあなたはロウ様とはどういったご関係でしょうか?」
関係かあ。
別に恋人でも夫婦でもないし雇い主ってわけでもないし。
まあ無難に旅仲間ってところだよね。
「……一緒に旅をしている仲間ですかね」
「つまり小隊の一員であると。ロウ様、間違いないですか?」
お姉さん的には私はただの怪しい小娘らしい。
一緒に来てる時点で分かると思うんだけど、結構厳しいのかなあ。
「ん、まあそうなるんじゃないかな。
よくわからんが話を聞かなきゃいけないってんならマオを同行させてくれ。
俺だけだと判断できないこともあるかも知れないからな」
「……小隊の一員であれば同席する権利はあります。
お二人ともついてきてください」
お姉さんは不服そうだけど、たぶん規則でもちゃんと権利が認められてるんだろう。
ロウ君が私を仲間だと認めた時点でこのお姉さんに拒否権は無いみたいだ。
よかったよかった。
◆ ◆ ◆
「失礼します。本日到着したミスリル級冒険者とその一行をお連れしました」
建物の二階にある一室に到着した。
どうやらここが組合本部の応接室みたいだ。
広々としていて、家具も立派だし観葉植物が置いてあったりと、客をもてなそうという感じがひしひしと伝わってくる。
外から見られないようにするためか窓は取り付けられていないけれど、魔道具の照明がとても明るいので閉塞感も一切感じられない。
これだけいい部屋で応対するっていうことは、やはりミスリル級冒険者というのはこの国では大事な人材なんだろう。
「ようこそ、ロウ殿。それとお連れの方。私が冒険者組合本部長だ。
まずは改めてこの国に来てくれたことに感謝の意を述べたい」
私達の向かいに座っている男性が本部長らしい。
本部長って言うことは冒険者組合で一番偉いのかな?
それにしては会うまでが早すぎる気がするけど、意外と暇なのかな。
「さて、では早速今日こちらに来ていただいた理由を話したいのだが、その前にロウ殿はこの国についてどの程度の知識をお持ちかな?」
「あー、すまん。俺はそういうのよく知らないんだ。
この国が冒険者の国って呼ばれてることと、あと異界……だっけか? ってのがあるくらいしか。
だいたいそういうことはこっちのマオに任せてるからな」
うんうん、そういう風に私を引っ張り出してくれるのはすごい嬉しいよ。
形式的に挨拶はされたけど本部長さん私のこと一切見ようとしないからね。
完全に無視しようとしてるからね。
「ふむ……。ではほとんど何も知らないということで一から説明しよう」
あっ、このおじさん私のことチラッと見てくれたと思ったらやっぱり無視してきた!
ここ普通なら私に声かけるところなのに、ちょっとひどくない!?
「すでに知っておられる通り、この国は冒険者の国と呼ばれている。
その由来は、この国こそが冒険者という職業を誕生させたからだ。
もう何百年も前の話になる。とある人物が世界中を飛び回っていた際、不思議な穴を見つけたそうだ。その穴はまるで空間を切り取ったかのように浮かんでいて、中には全く未知の世界が広がっていたそうな。
彼はその穴の先にある世界のことを異界と呼ぶことにした。
そして、異界に興味を持って調べていくうちにいくつかの事がわかったそうだ。
それは、異界の入り口が現れるのは世界中でただこの島だけということ。
それは、異界の中とこの世界とでは物質的な繋がりがないこと。
それは、異界にはそれぞれ何かしら主題があり、それに従って地形や生態系が決まっていること。
それは、なぜそんなものがあるのか全くわからないということ。
彼は異界の存在にますます興味をいだき、全ての謎を解明することを決めた。
その一方で、一人で調査するには限界があることを早々に悟ったのだ。
そこで作り出されたのが、冒険者組合と冒険者という仕組みだ。
ここまでお話すればもうわかっただろう。
そう、冒険者とは本来、異界の謎を解明することこそが仕事なのだ。
今では世界中に制度が広がり、各国間の調整などの歴史的経緯もあり他の仕事が増えているのも事実ではある。
しかし、この国では冒険者といえば異界の謎を解き明かす者たちのことを指す。
特にミスリル級ともなれば尚更だ。
無論、一から十まで仕事を強制するということはない。
ないのだが、いくつかの指名依頼は頼むことになるだろう。
それに、組合が発行する依頼を達成すれば貢献度というものが付与される。
この国では上位の冒険者が国政に参加することが出来る。
その上位の冒険者を決めるための仕組みが、貢献度だ。
参加できるのは全部で6名。
彼らは文字通りこの国の支配者と言っても良いだろう。
もしかしたらすでに気がついているかも知れないが、この国は6つの支配区画に分かれている。
中央に位置するこの組合本部は中立だが、それ以外は各冒険者が長として治めているのだ。
依頼を達成すればするほど冒険者は金を稼げるし、貢献度が貯まる。
貢献度が貯まればやがてこの国を支配するほどの立場に昇り詰めることができる。
冒険者となったからにはその腕一つでどこまで昇り詰められるか、試してみたいとは思わないか?
そしてその過程で、我々の使命の手伝ってくれることを願う」
なるほどなあ。
異界の謎、冒険者の本来の目的、国を支配する六人の長。
この国、というか組合は冒険者たちに夢を与えて、代わりに調査のための手足を得る、という感じか。
なかなかワクワクする話だったんじゃないかな、これは!
「おいマオ、おっさんの話が長すぎて正直よく分からなかったから分かりやすく教えてくれ」
「ええ……。
早い話が、『調査を手伝ってくれ。報酬は地位と名誉と金だ』ってことだよ!」
うん、我ながらすごく簡潔にまとめられたぞ。
これには堅物っぽい本部長さんも若干苦笑している。
ロウ君もわかってくれたみたいだ。
「さて、ミスリル級冒険者には以上の説明をした上で、こちらからわずかばかりの援助を提案している。
それは、拠点の提供だ。
こちらとしては、長期間の滞在をしてほしい。
その代わり、安心して過ごせるよう快適な住居を用意しようという話だ。
無論、いくつかの条件はある。
一つは一年以上国に滞在すること。
一つはいくつかの使命依頼を必ずこなしてもらうこと。
一つは提供した住居を破壊しないこと。
あくまで貸出という形になるから、勝手に改造などしてほしくないという話だな。
提供する屋敷はそれなりの大きさになるから、必要とあらば使用人の斡旋もしよう」
ほうほう、拠点まで提供してくれるのか。
長期間宿屋に泊まるっていうのもお金がかかって大変だと思ってたしこれは渡りに船かも。
もちろんこの国に一年以上滞在するならって話だけど、これはちょっと持ち帰って考えたいところだな。
「えっと、その屋敷の話は後日改めて提供を受けるか返事してもいいですか?」
「すまないが、屋敷の提供についてはミスリル級冒険者であるロウ殿に話している。同席は認めておるが発言を認めたわけではない」
うっ、なかなか厳しいな……。
ロウ君だけだとこういう話すすめられないから私がいるのに、どうしたもんかなあ。
「おっさん、マオの発言を認めてやってくれ。どうも俺はそういう話は苦手でな。基本的に任せてるんだよ」
ナイスフォロー!
「なるほど、それならば致し方ない。
本来この国ではミスリル級冒険者の小隊には制限をつけている。
それゆえ君のような弱者にはそもそもこの場に同席する権利すらないのだが、外から来たということで今日のところは許しておこう」
「制限? そんな話は聞いたことがないですが」
「そうだろうな。この国だけの特別な措置だ。
先程も話したとおり、ミスリル級冒険者には特に異界の調査に力を貸してほしいと考えている。
そして、調査対象となる異界の難易度がミスリル級にふさわしいだけの難易度となるわけだ。
そうなると必然、同行者にも最低限そこで自衛できるだけの実力が求められる。具体的には金級はほしいところだな。
一応聞いておくが、君はどの程度の実力なのだ?」
くっ、これはもはやどうしようもない流れだ……。
嘘をついてもすぐバレるだろうし、黙っていても仕方ない。
おずおずと組合員証を取り出して本部長に見えるようにする。
「……石級、か。やれやれ……よくまあ今まで一緒に旅をしていたものだ」
思いっきり溜め息をつかれてしまった。
やっぱりミスリルと石って釣り合わないよね……。
わかっていたことだけどさ。
でもなあ、そういうノリで一緒に旅していたわけでもないしなあ。
「私達組合の職員はまだ冒険者に対して直接的な悪口などは言ったりしないから問題ないだろうが……この国の冒険者どもはそうはいかんぞ。
問題が起きる前にはっきりと言っておこう。
この国では、等級に差がありすぎる小隊は寄生行為として侮蔑の対象になっている。
……それぞれ身の丈に合った仲間を見つけることを推奨する」




