表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/75

サムソンさん、恐るべし

「なっ、なんということだーーッ!!! 我々は夢でも見ているのだろうか!?!? あの常勝無敗のバリイ王者、ミリエラが押されているぞーーッ!! 一体あの挑戦者の男は何者なんだーーっ!?!?」


 競技陣を取り囲む観客達は大いに興奮し、海水浴場は今まさに熱狂の渦に包まれていた。

 それもそのはず、先程10連勝を成し遂げたばかりの女性――実況によればミリエラというらしい――が翻弄されはじめているからだからだ。


 試合が始まった最初の頃はまだ互いに様子見という感じで、競技に一日の長があるミリエラが有利に試合を運んでいたように思えた。

 しかし、いつのまにかミリエラの表情は苦しそうなものになっていき、対するロウは常に余裕を浮かべていた。


「おおっとぉ、挑戦者! またも一点決めました! これは本当に勝ってしまいそうだぁぁ!!! 

 ……解説のサムソンさん、いまの一点は普段のミリエラ選手であれば余裕をもって対処出来たように見えるのですが、どういうことでしょうか?」


 いつの間にか実況だけじゃなくて解説の人まで出てきている。

 ちょっと盛り上がり過ぎじゃない?


「ええ、いまのは挑戦者の狙いが非情に鋭かったですね。

 この競技陣は足元が不安定な砂浜になっています。その形は選手たちが動く度に変わっていくため、地面に着弾した場合の反射後の動きが非情に読みにくいんですね。

 そのため定石としては地面につく前に球を打ち返すか、本当に球が跳ね返った瞬間に蹴り返すなどするのがいいんですが、そのどちらも取りにくい、つまり不安定な跳ね返りをしたあとに対応せざるを得ない軌道で攻め続けているようです。

 そのため打ち合いが長引くほどにミリエラ選手が不利になっていっている、というのが現状ですね」

「なるほど、あの挑戦者の選手が只者ではないということがよくわかりました。しかしそれほど難しい軌道で常に打ち込むというほうがよっぽど難しいように思えますが……」

「そうですね。そこがあの挑戦者のすごいところです。

 私が思うに彼は地形の変化を正確に読み取っているようです。自陣側の地形把握だけでも難しいのに、相手陣側まで把握し、ミリエラ選手の足運びまで計算している。まさに天才的な観察力です。

 そしていうまでもなく、それを支えているのは彼の圧倒的なまでの身体能力ですね。調べによると挑戦者の彼はなんとミスリル級の冒険者だとか。

 ミリエラ選手が苦戦するのも頷けるでしょう」

「なんと! 飛び入り参加の挑戦者が国内でも10人いるかいないかというミスリル級ですか!? これは後世に語り継げるような歴史的な試合になりそうですね!」


 うわー、なんか実況と解説がそれっぽすぎるよ……。

 この競技ってそんなに盛んなのかなあ。

 まあでも、古今東西スポーツっていうのは一般市民にとって娯楽の中の娯楽っていう感じだしね。

 というか解説の人一体何者なの?

 まだ試合が始まってそれほど経っていないと思うのに、そこまでわかっちゃうなんて。サムソンさん、恐るべし。


「さあついに試合も大詰め! 挑戦者が圧倒しているようですが、当然王者ミリエラも黙って負けるつもりはないようだ!! 得点は現在9対7! 挑戦者があと一点とれば勝利となりますが果たして!?」


 バリイは10点先取、2点差以上つけた場合に勝利となるらしい。

 つまり、ミリエラとかいう女性が粘るためにはここから2連取しなければいけないということ。

 まあこれは決まったかなあ。


 ロウくんからゆるやかな初球が打ち込まれる。いわゆるサーブってやつだね。

 最初の球色は赤。手での返球が要求される。

 もちろんこれは難なく返され、壁への反射を絡めた強打がロウ君のもとに返ってくる。

 それからしばらくは徐々に加速していくように打ち合いが続いていく。

 互いに攻め時を伺っているかのようだが――先に仕掛けたのはミリエラだった。


「おおっとぉ! ここでミリエラ選手大きく攻めに出るようだ!! あの構えから繰り出されるのは――必殺の天井反射垂直高速攻撃だぁっ!!!! 垂直に着弾する球はどこに跳ね返るか予測不能ッ!! これは決まったかぁぁっ!?!?」


 あの構えは試合中に幾度も見せたミリエラの得意技だ。

 上空にも展開された見えない壁に回転を加えた球を打ち付け、勢いよく垂直落下させる。

 回転と砂の凹凸によりその反射方向は予測不能になり、落下前に打ち返そうにも落下速度と回転によりまともに打ち返すことができない。

 まさに必殺技だ。

 ロウもなんども打ち返すのに失敗しており、これは決まったかのように見えた。


 しかし、不意にロウの姿がぶれ、必殺の球は気づけば――ミリエラ側の陣に静かに転がっていた。

 一瞬の出来事に、誰もが理解に及ばず、会場内を沈黙が包み込んだ。


 そして、やや呆然とした後事態を把握した審判が大きく笛を鳴らした。


「き、決まったぁぁっぁぁぁ!!! 激戦を制したのは突如として現れた謎の挑戦者ッ!! あのミリエラ選手の必殺技を見事に破り、勝利を手にしたァッ!!」


 その笛の音にまず実況が意識を取り戻し、そしてその実況の大きな声で会場もまた我に返り、盛大な歓声をあげた。

 競技陣内では何事もなかったように立つロウと、事態を飲み込めず呆然と座り込むミリエラの二人がとても対照的に見えた。


「ま、さすがに何度も使われたらいやでも見切れるようになるよな」

「そんな馬鹿な……。あたしの【不安定な(アンステイブル)運命(フェイト)】を破るなんて、ありえない……あたしにだってどう跳ね返るのか予測できないのに。一体なにをしたっていうんだい?」

「確かに()()()跳ね返る時は予想しにくいな。

 だけどあんたのその技は()()()()()んだよ。

 何度か見てしまえば打ち返すのはそう難しいことじゃない」

「正確すぎる……?」

「ああ、あんたは必ず空に打ち上げるだろ。

 そのときに真下に落下するように回転を調整している。

 なら話は簡単だ。

 その回転を予想して空中で打ち返せばいい。()()()跳ね返る前にな」

「なるほど……ってそんな馬鹿な話があってたまるかってんだ!

 天井は人が跳んで届くような距離に無いんだよ!?

 それともあんたは空でも飛べるっていうのかい?」

「そうだけど」

「はあ……呆れてものも言えないよ。

 いやよくわかったよ。

 あんたがあんだけ自信たっぷりだったのには納得がいった。

 それにこんなに心踊った試合はひさびさだよ。ありがとうね」

「ああ、こっちこそなかなか面白かったよ。

 こういう遊びもたまには悪くないもんだな」

「遊び、ねぇ。

 確かにあんたくらいにもなるとこの競技もただの遊びにしかならないんだろうね。

 いや本当に参った。あたしも慢心せずにもっと努力することにするよ」


 二人は試合を通じてなにやら通じ合ったようだ。

 いまはもう仲良く試合後の握手をしている。


 ちなみに二人が話している間中、実況と解説が延々と最後の瞬間について議論しあっていた。

 うん、彼らもなかなかおもしろいね。


 ◆ ◆ ◆


「さてと、海水浴も満喫したしそろそろ街の方に戻る?」

「ちょっとまってくれマオ、その前に俺は腹が減ったから飯が食いたい」

「腹減ったって……まだ日は高いよ?」

「さっき軽く運動したからな。

 あのバリイとかいうの、あれでも結構体力使うんだ」


 いや体力使うだろうっていうのは運動量見てれば分かるけどさ……。

 まあいっか。

 せっかく海にきたんだし、海の家にでもよって私もなにかおやつたべようかな。


「おゥらっしゃィ! 適当にあいてる席に座ってくれェ」


 海の家に入ると、どこかで聞いたことのあるような妙な訛りのある声が調理場の方から聞こえてきた。

 声の主は何やら調理中みたいで、扉につけられた鈴で私達が入ったのに気づいたみたいだ。

 昼食時はもう過ぎているので店内は客もまばらで、海水浴に疲れた客が軽く何かをつまんだりしながら休憩しているようだった。


 それにしてもさっきの声、何処かで聞いたことあるんだよな。

 うーん、この世界には知り合いはそんなに多くないし、初めてきた街にいそうな人なんて思いつかないけど。

 まあもしかしたら日本のどこかであった誰かと声が似てたのかもしれないな。

 とりあえず注文するもの決めよう。


「うーん、私はそんなにおなかすいてないし氷菓子くらいにしておこうかな。

 ロウ君は?」

「ケスティーチャだな」

「了解! すみませーん、店員さん、注文おねがいしまーす」


 ロウ君が選んだのは簡単に言ってしまえばトルチャ版のハンバーガーだな。

 厚めに焼いた生地に肉やら野菜やらチーズやらを挟むやつ。


「あいよォ、何にするんだァ?」

「えっとこれとこれを……」

「はいはィ、少し待っててくれなァ」


 品書きから指差しで注文していく。

 そして、全部注文が終わり、店員が去っていこうとしたときにふと顔を見上げて気がついた。


 黄金色の髪、鋭い眼光、色白の透き通るような肌。

 顔立ちは整っているのになぜか醸し出される野性味溢れる雰囲気。

 すっかり忘れていたはずだけど、そんな独特な雰囲気を持っている人物なんて一人しか思い当たらない。


「ちょっ、なんでこんなところにあなたがいるの!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ