海だー!!
「ついたー! 海だー!!」
10日間の旅路を終えて、ついに港町ニエールズに到着した。
さすがにずっと馬車に乗っていたからちょっとお尻がいたかったけど、肌に触れる潮風と美しい海をみてそんな疲れもすっかり吹き飛んでしまった。
「これが海か。こいつはでかいな」
ロウ君もはじめての海に感動しているみたいだね。
うんうん、やっぱりここにきて正解だったな。
「とりあえず宿探そっか。それで荷物置いたら海行こう!」
「ああ。ただ先に昼飯を食いたいかな」
「それもそうだねー。じゃあ宿とってご飯食べてそれから海で!」
とりあえず冒険者組合に寄ろうかな。
ミスリル級冒険者にはしばらく滞在する街に対して、報告の義務がある。
これは緊急時に所在が把握できないと困るからだそうだ。
この街にはそれほど長く滞在するつもりはないけど、宿の情報を聞くのに組合に行くのが一番効率がいいし、それに王都を出てからどこにいるかわからないってのも良くないしね。
組合で情報収集した結果、この街でも1,2を争う高級宿に泊まることにした。
やっぱり宿自体は高いところにしたほうが安心感があるし、なによりもトイレの質が違うからね!
とはいえ贅沢をするつもりもないので、部屋はその宿の中では真ん中くらいのところにしておこう。
◆ ◆ ◆
「んん〜〜、おいしい!!」
港町に来たということで昼食は新鮮な魚介類をふんだんに使った食事が楽しめる店に来ていた。
ここは宿の人のおすすめだ。
なんと意外にも生食の文化があるらしく、刺し身の盛り合わせやカルパッチョ的な料理を早速頼んだ。
魚の種類自体は地球とはだいぶ違うけど、それぞれ脂がたっぷり乗っていたり、甘みがあったり、淡白だけど歯ごたえがあったりと、舌を飽きさせない。
調味料が三種類用意されていて、塩、酢、あと謎ソース。
これで醤油とわさびがあれば完璧だったのになあと思ったけど、シンプルに塩とか酢で食べるのも悪くないね!
あと謎ソース。これ、名前を聞いたらニゲニゲって言ってたんだけど、詳細が全くわからない。
試しに単体で舐めてみたら、甘辛しょっぱいのかな?
とにかく初めて口にする味だった。
正直うまく味を表現できないんだけど、刺し身につけてみたらこれがすごく合ってるんだよね。びっくりした。めちゃくちゃ美味しい。
あー、なんかお刺身食べたら日本のお寿司も食べたくなってきたな。
さすがにこの世界にお米はないのかな?
地球と似たような料理や素材はそれなりに見るけど、独特なものもそれと同じくらいあるから望みはうすいかなあ。
ちなみにロウ君はさっきからうまいうまい言いながら一心不乱に食べ続けてる。
前々から思ってたけど多分この人すごい食いしん坊なんだよね。
しかも味にうるさい。
大体街の中歩いてると二言目にはご飯の話題振ってくるからなあ。
まあ私も美味しいご飯食べたいから別にいいんだけどね。
◆ ◆ ◆
「海だー!!」
ご飯も食べ終えた私達は砂浜に来ていた。
時期的にも海水浴の季節で、結構な人数が思い思いに楽しんでいる。
「へえ、こんなところで遊ぶのか。何が面白いんだ?」
「ロウ君……そんなこともわからないなんて今まで本当に可哀想な人生を送ってきたんだね。大丈夫、私と一緒に旅している限りはいろんな遊びを知れるから、今からでも遅くないよ! 人生を楽しいものにしよう!!」
「いやだから結局何が面白いんだ?」
「そりゃもう遊ぶのが面白いんだよ!
そんなのいちいち言わなくてもわかるでしょ!」
とりあえず水着に着替えるべく、更衣室に向かう。
この砂浜はきちんと海水浴場として運営されているみたいで、そういった設備がしっかり作られているみたいだ。
海の家もあるし、この砂浜だけ見れば日本の海水浴場と対して変わらないなあ。
「うーん、しかし水着いまいちだなあ……」
どうにもこの世界の文化は実際的な面ではだいぶ発達しているんだけど、見栄えというのをあまり意識していないというなんともちぐはぐな感じがするんだよね。
まあ、もしかしたらこの国だけかもしれないけど。
私が着た水着を説明するとスクエアカットのスク水ってところかな。
上下はセパレート。基本的にピッチリとしていて体のラインがよく見える。
下がスパッツタイプで膝上くらいまであるからユニセックスなデザインとも言えるかなあ。
綺麗な人がきればかなりサマになるデザインだけど、それってつまり普通の人が着てもパッとしないってことだからね。
まあ、いまいちとはいってもまだ許容できるラインかな、これは。
ビキニタイプがあればそれが良かったんだけどな、さすがにこの世界でそれを求めるのは無理な話か。
「ロウ君、なんかいつもと変わらないね」
同じく男性用更衣室から出てきたロウ君はといえば、上裸でいた期間が長すぎて印象がいつもと全く変わらなかった。
あ、この世界でも男性の水着は下だけみたいだった。
「マオ! こいつはなかなか動きやすくていいぞ!
いつものほどじゃないが、こっちは水に入っても変に重くならないのがいいな!」
どうやらロウ君も海水浴をすっかり楽しんでるようだ。
海に入ってはしゃぎまわっている。
ん? っていうかあれ本当に水入ってるか!? 水の上立ってない!?
それって水に入ったって言えるの?
ま、いいか。
そんなことより私も遊ぼうっと。
二人だとあんまりできること無いけど、海水浴なんてそんなもんだしね。
「あ、ねえねえ、ロウ君!
あっちでなにかやってるみたいだよ!
行ってみない?」
波打ち際で散々楽しんだ後、なにかほかに面白そうなことがないか辺りを見回していたら人だかりができている一角があった。
これはきっとプチイベント発生だと私のセンサーが言っている。
「すみませーん、これなにやってるんですか?」
盛り上がっているところに割り込んていって、近くのお兄さんに話を聞く。
「ん? ああバリイだよ。さっきからすごい奴がいてさ、いま9連勝中なんだ」
「へえ! それはすごいですね!」
バリイ? なんだろう。
もうちょっと前に出てみるか……。
なんとか観客をかき分けて前に出ると、男性と女性が向かい合って球をぶつけ合っている。
球は手で打ち返しても、足で蹴り返してもいいのかな?
あ、でも球の色が赤と青で時々変わってる。
なにか意味があるんだろうか。
赤い球を男が手で強打した。これはかなり弾速が早いな。
おお、女性の方はすごく冷静に移動して対処してる。
打ち返した球がコートからだいぶ外れるコースだけど……うわ!
空中で反射した!
うわー、これ魔道具かな? 見えない壁が張られてるんだ!
あ、反射したと思ったら色が変わったな。
まあでもあのコースならまた強打しやすい位置に入れそうだけど……。
あれ? と思ったら男性がすごい苦しそうな姿勢で無理やり蹴り返してる。
どういうことだろ。
その後もしばらくやり取りが続いたけど、終始女性が余裕を見せているのに対して男性はなんとか食いついている、という感じだった。
そしてずっと見ていてようやくわかった。
どうやら色によって使っていい部位が手なのか足なのか決められているみたい。
そして、その色は壁に反射したタイミングで切り替わると。
女性の方は壁の反射をうまく利用して相手が対処しにくいコースをずっと狙っていて、男はそれに翻弄されていた。
結局、程なくして女性の圧勝で試合は終了した。
ちなみに得点は打ち返せないか、二回以上地面についたらダメ、というよくあるルールみたいだった。
「おおおお、ついに10連勝か! 誰も彼女を止められる人はいないのかぁ!?」
会場も大盛り上がりで、よくわからないけど勝手に実況してる人もいる。
ああいう人、どこにでもいるよね。
「なるほどー、これはなかなか面白そうな球技だけど……私にはできそうもないなあ。ロウ君はどう? 余裕で勝てちゃう?」
「ん? あれくらいなら勝てるんじゃないか?」
「え、ほんと?」
ロウ君も隣で興味深そうに見ていたから冗談で言ってみたのだが、どうやら本気で勝てると思ってるらしかった。
いくらロウ君がチート染みたスペックを持っていても、さすがに経験者、それも相当の実力者相手に勝てるとは思えないんだけど……。
「そこのお兄さん、誰があたしに勝てるって?」
コートに立っていた女性は次の挑戦者を探していたらしく、耳ざとく私達の会話を拾っていたらしい。
「見たところ確かにそれなりに腕は立ちそうだけど……バリイにその腕が通用するとおもってるのかい? あたしも随分舐められたものだね。
いいよ、競技陣まであがってきな。相手してあげるよ」
「ほらロウ君! 呼ばれてるよ!」
「え、まじか。面倒だな……」
この期に及んで面倒ってそりゃないよ。
ほらあの人めっちゃ睨んでる。
「おおっとぉ! ここでなんと観客の一人が俺なら勝てると名乗りを上げたようだ!! 連勝記録をついに破る者が現れるかぁ!?!?」
実況者もかなり煽ってきてる。
完全に逃げられない雰囲気だね。
「ほら、もうここまで言われて逃げたら仙術使いもたいしたことないって話になっちゃうからさ。負けてもいいから出ようよ。いや、出て。これ命令ね」
「はぁ……。そこまで言われて出ないほど恥知らずじゃないけどな。
いいよわかったよ、出ればいいんだろ」
渋々といった感じでロウ君が前に出る。
女性の方はにやりと笑うと、お互い楽しもうと言いながら、握手を求めていた。
なるほど、スポーツマンって感じだね。
「ま、期待されてることだしさくっと勝たせてもらうよ」
「いい意気だね。でもその勢いがいつまでもつか楽しみだよ」




