わかる? つまり私の気が変わったってこと
うん、きめた。こんな退屈な国はもう出よう。
多少は陰謀渦巻く世界じゃないと面白くないよ!!
王女様との会談を終えたその日、私は決意した。
いやだってね、もう王女様優秀すぎるんだもん。
自分が誘拐されたことを利用して国内の闇を掃除するってなにそれ?
しかもたったの数日で。
そりゃ私達みたいな素人の出る幕ないよね。
この国が平和なのもすごく納得いった。
あの王女様もそうだし、王様もすごい敏腕っぽいし。
まあ国内の観光スポットを巡るっていうのもあると思うけどさ、なんていうか萎えちゃったんだよね。
双竜の谷とか水の都とか、七彩の入江とか、名前だけで行きたくなるような場所の噂も聞いたけど、もうやめだ。
私はこの国をでるぞ!!
「というわけで、アスクエムブラに行こうと思います」
「は? なんだいきなり」
夕飯を美味しそうに食べているロウ君に宣言した。
ちなみに私は食べるのはそこそこに、美味しいお酒を飲んで憂さ晴らしをしていたところだ。
「いやね、なんていうかこの国にはそんなにもう楽しそうなことがないかなっておもったんだよ」
「昨日までと言ってることが逆になってないか?」
「ロウ君……時の流れというのは残酷なんだよ。諸行無常。ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず、だよ。
わかる? つまり私の気が変わったってこと」
「酔ってるのか? 酒を飲むと気分が高揚するってのは知ってるぞ」
「ロウ君! 今はそういう話をしてるんじゃありません!」
まったく、これだからロウ君はダメなんだよなあ。
私の話をちゃんとわかってない。
私が行きたくないって言ったら行きたくないし、行きたいって言ったら行きたいんだよ。
「今日はいつにもましてめんどくさいな。
もうちょっと大人しく飯を食わせてくれよ」
「お酒は楽しくおしゃべりしながらのむものですー。あと酔ってないですー。とにかく私はきめたんですー」
「わかったわかった。そういうことにしといてやるよ。
それで、どこに行くって?」
「だから、アスクエムブラ! えっとー、海の向こうにある島国かなー。冒険者の国っていわれてるとこ! 楽しそうでしょ? でしょ?」
「へえ、ってことは海の上をいくのか。マオって海の上歩けるのか?」
「はぁ? 人が海の上歩けるわけ無いでしょ。あ、ロウ君酔ってる?」
「いや酔ってるのはマオの方だろ……」
酔ってません。
「とにかく、次はここから南西にいったところにある港町に行きます!
そしてそこから船に乗ってアスクエムブラを目指します!」
◆ ◆ ◆
「うぅー、頭が痛い。ロウ君、治して……」
「だから飲み過ぎなんだよ」
翌朝、私は二日酔いにやられていた。
どうも昨日は飲みすぎたみたいだった。
話していたことはしっかり覚えているけど、さすがにだいぶ酔ってたみたい。
ロウ君に頼むと、私の背中に手を当ててきた。
ダメ元で頼んだけど本当に治せるらしい。
なんだか身体が温かくなった気がする。
「よし、これで大丈夫だろ」
そう言ってロウ君が手を離すと、確かに気分がすっかりよくなっている。
これが仙術の力か……。やっぱり万能すぎる。
「今日はどうするんだ? すぐに昨日行ってた港町に向かうのか?」
「いや、今日はまずギムレーさんのところに行くつもりだよ。
多分ギムレーさんのところなら港町行きの商隊を出してると思うから、それに乗せてもらおうと思うんだ」
「わかった。ついていこう」
早速、身支度や朝食を済ませるとギムレー商会に向かった。
入り口でレーナさんに声をかけ、ギムレーさんに取り次いでもらう。
「ちょうどよいところにきてくださいました、マオさん。先日ご提案頂いた新商品の開発などなどについて、ようやく査定が終わりましたのでお渡ししますよ」
「そういえばそんなのもありましたね。ありがたく受け取らせていただきます」
ギムレーさんはそういうと小袋を取り出し、渡してきた。
おお、結構重いな。どれくらい入ってるんだろう。
「少ないですが、金貨500枚になります。念の為確認してください」
「少ないなんてとんでもない、思ったより貰えてびっくりしてます」
袋の中身を机の上に出して、確認していく。
うん、角金貨で50枚たしかにある。
角金貨は金貨10枚分だから確かに金貨500枚だ。
「いえいえ、我々はそれ以上に儲けさせて頂いてますからね」
「さすがです。それで今日きた用件なんですけど」
「そうでしたね。なにか頼みたいことがあるとか」
「ええ、実はこれから冒険者の国、アスクエムブラに行こうと思うんです。それで、海路を取ろうかと思ったんですが」
「なるほど、港町ニエールズに行くための足がほしい、ということですね?」
「その通りです。もしギムレーさんのところで商隊が出ているのであれば乗せていただければなと思って。もちろんお礼に護衛はさせていただきますよ」
「ええ、当然ニエールズには定期的に商隊を出していますよ。
ええと確か……次は三日後に王都を出発する予定です。
他ならぬマオさんの頼みであれば断る理由はありません。
護衛としても大変頼もしいですしね」
ということで話は円滑にすすみ、三日後に王都を出ることになった。
ギムレーさんは今回の商隊には出ないらしい。
というかギムレーさん自身が出向くのは重要な商談だけらしいので、この前出会ったのは本当に偶然が重なったみたいだ。
これは主人公補正だ! ということにしておこう。
◆ ◆ ◆
馬車での移動はとても快適だった。
よく物語だと馬車は揺れが激しくて酔う、なんてことになるけど、この世界の馬車はとても進歩していて、ほとんど揺れることがなかった。
車の構造とかはよくわからないけど、きっとサスペンションだのなんだのがきちんと取り付けられているんだろう。
馬車は全部で10台と、かなり大規模な商隊だった。
私達以外にも護衛として冒険者が4組雇われているらしい。
すごい人数だな、と思ったけど安全が金で買えるならそうするのかな。
護衛人数が少ないと以前リグルーと王都の間で襲われたときみたいなことになりかねないし、よほどのことがなければこれくらいつける方針にしているんだろう。
馬車の旅の間は魔物が時々襲ってくるくらいで、それも気づいたときにはロウ君が倒してしまっているので本当に平和なものだった。
おかげで他の護衛の冒険者たちが、休憩のたびに謝罪と感謝を言いに挨拶しに来てくれた。
話を聞いたところ、普通は魔物が現れたら一度馬車を止めて安全第一で倒すし、その倒す役目も順番でやるみたいだ。
ロウ君の場合は移動中の馬車から勝手に飛び出して近くにいる魔物が接近する前に高速で処理してしまうから、馬車が全く止まらない。
商隊の人たちもこんな快適な移動は初めてだと絶賛していた。
「いやほんとにミスリル級ってのは格が違うって思い知らされたよ。慢心せずにもっと腕を磨いていかないとな」
というのは護衛の冒険者の談だ。
彼も自分がもうすぐ金級になれそうということらしく、かなり腕前には自信があったらしいが、ロウ君の動きをみて自身がまだまだ未熟であると感じたらしい。
そういう風に思えるなら彼はきっと大成するだろうな、となんとなく思った。
ロウ君も褒められるのはまんざらでもないらしく、ちょっと調子に乗っていた。
なのでたまに蹴っといた。
……つま先がすごく痛かった。




