そう思うんならきっと本当にそうなんだろうな
「――とまあ、そういう感じのことがあったんだ」
「なんかロウ君……すごく主人公してるね……」
アーシア誘拐事件から三日が経った。
今は夜、宿の部屋で休んでいたらマオに何をしていたのか聞かれたので、マオと別行動していた間にしていたことを覚えてる限りで話していた。
「主人公?」
「ロウ君って物語とか読まない? 読まなそうだね。
お話の世界で、中心人物になる人のことだよ。
街の中で可愛い女の子とあって、事件に巻き込まれて、見事に救い出すなんてまさに主人公だよ!! 私がその役もらいたかったよ!!」
「はあ、そうなのか」
相変わらずマオはマオだな。この騒がしい感じ。
アーシアもはしゃぐときはあるが、やっぱり質が違うんだよな。
マオはまじでただうるさいんだけど、アーシアは無邪気さの中にも上品さというか、気品のようなものが感じられて。
人に接する態度もそうなんだよな。
マオは他人とか偉そうな人に対してはかなり丁寧に対応してるようだけど、動きや言葉の一つ一つが計算めいてて、作り物っぽい。
それに比べればアーシアは正真正銘の本物、体の芯まで染み付いた完璧な態度なんだよなあ。
「でもそのアーシアって子は一体どういう出自なんだろうね。話を聞く限りじゃかなり高貴な身分な気がするけど。
これでお約束的な展開なら実はこの国の王女様でした! なんてなるんだけど、いくらなんでも現実でそんなことはないよねえ」
「どうだろうな。結局そのへんは最後まで話してくれなかったし、知られたくないなら無理に知ろうとしちゃだめだろ」
「ロウ君ってそういうところ結構律儀なんだね。
ただの面倒くさがりやさんだとおもってたよ! 見直した!」
面倒なのはまあ否定できないが、まあわざわざ言わなくてもいいだろ。
それにしてもアーシアが一体本当は誰なのか、か。
案外本当に王女様なんて線はあるかもしれないけどな。あの感じだと。
「明日からはどうするつもりなんだ?」
「うーん、私もだいたい用事は済ませたからなあ。
祭りは明後日からだし、明日は適当に過ごそうかな」
◆ ◆ ◆
二日後、祭がはじまったが、マオが体調が悪いと言っていたのでその日は見送ることにした。
俺が身体を診るといったけど、月のものだから治せない、と言われて断られた。
よくわからんが女は月に一度どうしても体調が悪くなるらしい。
病気とかではなくてわかってることだから気にしなくていい、と言われたのでそうしたが、女ってのは大変なんだなあと思った。
それにマオの目的である王女の挨拶というのは、祭の最終日だから無理に初日から見て回る必要はない。
俺も一人で見て回りたいほど祭に興味があるわけじゃなかったから、大人しくマオに従うことにしたというわけだ。
そしてさらに二日後、三日間ある祭の最終日。
マオも体調がだいぶ良くなったらしく、二人で祭に繰り出した。
「うわー、やっぱり王都の祭ってだけあってすごい活気だね!」
「人多すぎだろ……どこからこんなに出てきたんだよ」
マオはすっかり盛り上がっているが、俺はすでにだいぶ疲れていた。
何しろ人が多すぎる。
生体感知を完全に制御できるようになってなかったら、一瞬で人に酔っていたところだ。
そう考えるとあの事件は少しありがたかったかも知れないな。
「うわー、このお面みて! 変な顔! ロウ君に似合いそうっ」
なんだこれは……。うーん、狐か?
どのへんが俺に似合うんだ……?
とりあえず促されるままに被ってみる。
お、このお面意外と視界を邪魔しないな。
見た目はどうかしらないがなかなかいい作りだ。
そう思っていたらマオが俺の顔を見て、指を指して大笑いしてきたのでちょっとむかついた。
それならばとお返しにマオにピッタリのお面を選んでやる。
「マオはこっちのやつが似合うと思うぞ」
「え、どれ? ……ってなんで狸なの!! 意味わからないんだけど!」
文句をいいながらも、素直に狸の面をつけるマオ。
マオの体格でそのお面は……存在感ありすぎて面白いな。
「どう? どう?」
「おお、よく似合ってるぞ。うん、これはぴったりだ。まさにマオって感じだ」
「そ、そうかな? そう言われたら悪い気はしないな〜」
いやそこで嬉しそうにするのはおかしいだろ……。
「じゃ、せっかくだし二つ買っとこっか! お祭り記念!」
「いや俺はいらないんだが」
「いいからいいから! ロウ君も似合ってるから!」
結局押し切られる形で狐と狸の面を買ってしまった。
荷物になる未来しか見えないんだが、マオが機嫌よさそうだしいいとするか。
かと思ったらもう別の屋台に行ってるし。
やっぱマオの相手は疲れるな。
「それにしてもロウ君……なんか少し変わったね」
串焼きを食べながら休憩していたら、思い出したかのようにマオがつぶやいた。
「ん? そうか?」
「うーん、なんだろ。
さっきのお面屋さんでも私の冗談に付き合ってくれて私のためにお面選んでくれたりしたし。
いつもだったらあんまり喋らないで私の言葉に相槌うつくらいだったけど、今日は結構喋ってくれるし」
「どうだろうな。自分じゃよくわからないな」
「やっぱり私以外の女の子と一緒に過ごしたのがいい刺激になったのかな?
この前アーシアちゃんの話をしてたときもなんだかロウ君楽しそうにしてたから、そうなのかなーって」
それはあるかもしれない。
なんだかんだでアーシアと過ごしている時は結構楽しいと感じていた……というのは今なら分かる。
「ほら、私って自分が思ったとおりにどんどん言っちゃうからさ、ロウ君みたいに受け身な人と一緒だと基本的に私が引っ張ってロウ君がそれに従うって形になりやすいでしょ?
というかこの街にくるまではそうだったよね。
だからずっと私と一緒だとロウ君もそのままでいたと思うんだよね。別にそれが悪いって言うわけじゃないけど。
でもそこでアーシアちゃんみたいに、人をうまくたてられる子と過ごしたことで受け身なだけじゃいられないってのが分かったっていうのかな?
まあそういう感じで、とにかくいい影響を受けたんだと思うよ!」
「マオがそう思うんならきっと本当にそうなんだろうな。
人のことを観察する力については信頼してるからな」
「ほら! 前なら絶対そういうこと思っても言わなかったもん!
うん、私としても一緒に過ごすなら楽しくおしゃべりできる相手のほうがいいからアーシアちゃんには感謝だなぁ。いつか会えないかな?」
アーシアとはあの事件の後、一度も会っていない。
どうやら誘拐を企てたのが誰なのかきちんと調べないといけないみたいで、その関係でしばらく忙しくなるからだそうだ。
そういえばそのうち呼ぶかもとか別れ際に言ってた気がするな。
それなら会えるだろうけど、それまで王都にいるとも限らないし、呼ばれたら呼ばれたときに考えればいいか。
別にずっと待っててくれともいわれてないしな。
「あ、でも私だってその気になれば人をうまくたてられるよ?
ただロウ君相手にやってたらつかれるからやりたくないだけだからね。
その辺、勘違いしないでよね!!」
「さいですか」
こういうところがやっぱりマオなんだよな。
◆ ◆ ◆
「そろそろ王女様でてくるね!
どんな人なんだろうなあ。やっぱり綺麗なのかな」
王宮前の大広場には王都中の人々が集まっているようだった。
とにかく人でごった返していて、身動きがまともにとれない。
マオが早めに場所取りをすることを提案したおかげでそれなりに前の方に位置することが出来ているが、こんだけ人がいると後ろの方の人は王女様なんて見えないんじゃないだろうか。
「あ、出てくるみたい」
鐘が一つ、大きく鳴らされたと思うと門がゆっくりと開かれていく。
騒がしかった大広場は、それに従って徐々に静かになっていく。
いよいよ出てくるというわけだ。
開ききった門からはこれまたゆっくりと、屋根付きの豪奢な馬車が出てくる。
どうやらあの馬車に王女様は乗っているみたいだ。
ん? これって……。
馬車が止まり、美しい衣装をまとった女性が中の階段から馬車の屋根に上って出てくる。
その御姿があらわになるにつれ、会場が興奮していっているのが伝わってくる。
「親愛なる我らが王国の民の皆様、本日はわたくしのために集まっていただいて感謝いたしますわ。
わたくしが第一王女、アルネシア・フォルセティ・エーシルと申しますわ」
悠然とした佇まい、腰ほどまで伸びた金色の美しい髪、透き通るような翠の眼。
顔はとても均整が取れていて、十人に聞けば十人が美しいと答えるような美貌。
まさに王女にふさわしい風格だ。
「うわあ……あれが王女様……すごくきれい。
それになんだか見ていて安心感があるなあ」
隣でマオが惚けたような顔をして感想をつぶやいているが、そんなことはどうでもいい。
だってあれはどう考えても――。
「なあ、マオ」
「ん? なに? 朴念仁のロウ君でも綺麗だとおもっちゃった?」
「いやそうじゃなくてだな……」
一応誰にも聞かれないように、そこからは小声で伝える。
「あれ、アーシアだぞ」
――第3話 了
〜次回予告〜
祭の最後にお披露目された王女はなんとアーシアだった。
図らずも王女の命を救っていたということで、ロウは王宮に招待される。
このまま王都に渦巻く陰謀に挑む展開になるかと期待したマオだったが、そんなことはなく、単純に褒美を貰うだけで終わってしまう。
意気消沈したマオはこんな退屈な国にはいられないと、次の目的地として冒険者の国を目指すことを決めるが……。
マオ「この国、平和すぎませんか!?」
次回、第4話「奔走!港町ニエールズ」
お楽しみに!




