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とても恐ろしい術ですわ

「さすがにこの辺りはあまり治安が良くないようですわね。

 よくわかりましたので今日は帰ることにしましょう」

「ま、それがいいだろうな」


 意外なことにアーシアはきちんときた道を覚えていたみたいで、迷うことなくもとの商店街がある通りまで戻ることが出来た。

 道がわからないと言われたら俺が誘導すればいいだけだから元々帰れなくなるなんて心配する必要はなかったけどな。


「ロウさん、今日は守ってくださってありがとうございました」

「まあ、あの場面で放っておくって選択はないだろ」

「それでもこういうことはきっちりしておきたいものですわ」

「そういうものか」

「そういうものですわ。もしまた襲われたら守ってもらえるかしら?」

「それは別に構わないが……またがあるのか?」


 俺としてはアーシアにこれ以上付き合うつもりはないんだが。

 まあでも後2,3日は特にすることもないだろうしなあ。


「まだもう何日かは暇ですしもちろんお付き合いしてくださいますよね?」

「そういう話になるのか……」


 別に付き合っても構わないが、がっつり修行をしたい気もする。

 一日や二日程度で何かが変わるとは思っていないが、少しでも取っ掛かりがつかめるならそうしたい。


「何か明日予定があるんですか?」

「うーん、明日は修行をしたいんだよな」

「修行? どんなことをするんですの?」

「どんなことって、まあ普通に体動かしたりするだけだよ」

「でも、ロウさんって剣で戦うわけではないですわよね?

 剣の稽古は見たことあるのですけど、拳闘士っていうのは見たことないですわ。

 是非見学させてもらいたいのですけれど」

「まあ見るのは別に構わないけどな。

 明日の朝一番に正門にきてくれ。街の外でやってるからな」

「わかりましたわ」


 ◆ ◆ ◆


 翌朝、正門までいくとすでにアーシアが待っていた。

 遅く着いたつもりはなかったが、一体この女はどんだけ早く起きてるんだ?


「ずいぶん早いな」

「いまきたところですわ。それに朝一番と言ってましたわよね?」

「それもそうだな」


 アーシアと合流したので、昨日、一昨日と使っていた場所まで移動する。

 一人じゃないから少し時間はかかったが、そんなに問題はない。


「それで、どんなことをするんですの?」

「まずは型だな」

「あ、それは剣の稽古と同じですのね!」

「どんな武芸でも型は基本の訓練になるだろうな。

 もちろん内容はそれぞれ違うだろうけど、型っていうのはその流派を作ってきた先人たちが考え抜いてきた理をなぞることだからな」

「理、ですの?」

「あぁ、例えばまずこの動きなんかは――」


 そう言って型を一つ一つ実演して、説明していく。

 どんな場面を想定しているのか、これを突き詰めると更にどんな変化を生み出せるのか。

 素人に説明したところでわかりっこないんだが、ただ見ているだけでも退屈だろうと思い続けていく。

 それに改めて言葉にすることで自分にとっても理解が深まるので今後につながるだろうとの思いもあった。


「ふふふっ、ロウさんって武芸のことになると結構饒舌になりますのね」


 しばらく演じていると、唐突にアーシアが笑いだした。

 饒舌? そうなんだろうか。


「あ、気になさらないでくださいね。

 ロウさんの意外な一面を見れて嬉しかっただけですので。

 どうぞ続けてくださいな」


 一通り説明したところで、今度は普段どおりもっと早く、最初から最後まで型をなぞっていく。

 さすがにゆっくりやっただけだと終わった気がしないからな。

 そのあとは静の修行だ。

 こっちは……どうしたもんか。


「アーシア、いまからする修行は本当に退屈だと思うがそれでも見るか?

 暇だったら帰ってもいいからな」

「そうですの? でもせっかくですし見ていきますわ。

 それに一人で帰ってまた良からぬ者に襲われては敵いませんし」

「そうか。たぶん途中で声かけられても反応しないから覚悟しとけよ」


 結局、アーシアは俺の長時間に渡る静の修行を黙って見学し続けていた。

 正直、途中で声をかけられるのは覚悟していたんだが、本当に一言も喋らなかったのは驚きだ。マオなら絶対途中で殴ってくる。これは間違いない。

 この後はもう少し実戦を想定した訓練をしようかとも思っていたが、さすがにこれ以上アーシアに付き合わせるのは気が進まなかったから、街に帰って昼食を取ることにした。


「結局の所、先程ロウさんがぼーっとしていたのはどういう訓練だったんですの?」


 適当な店に入り、大盛りの昼定食を食べているとふと思い出したかのようにアーシアが尋ねてきた。

 別にぼーっとしていたわけではないんだが、そう見えても仕方ないか。

 食べる手を止めずに、簡単に仙術について説明していく。

 どうやら仙術自体知らなかったみたいで、なかなか興味深そうにしていた。


「その生体感知というのはとても恐ろしい術ですわね」

「そうか?」

「だってそうですわよね?

 遠くからでも誰なのかとかわかってしまうのでしょう?」

「まあそうなるな。でもあんまり遠くだと普通は判別しにくいぞ。なんせ同じ種族の生き物ならある程度は形が似てくるからな」


 同じ種族の生き物が似た形の反応をもっているからこそ、この術で魔物の種類を特定して探し出す、なんてこともできるわけだが。

 街の中で特定の誰かを探し出すなんてことには不向きだ。


「まああんたみたいに分かりやすいと何処にいたって見つけられそうだけどな」

「わたくしは分かりやすいんですの?」

「ああ、かなり個性的な波動の形をしてる。

 これなら遠くからでも見つけられそうだ」

「そうしましたらわたくしが迷子になったり攫われたりしても安心ですわね」

「まあそうだな。

 でもだからといってわざわざ行方不明になんてならなくてもいいからな。

 いくら分かりやすいからって、こんだけ人の多い街の中で探すのはなかなか疲れるんだ」

「ふふふ、そうですわね。気をつけますわ。


 ……それにしても本当にちょっと怖いですわね。

 いくら私が好みの容姿をしているからといって、その術で乙女の秘密を探るようなことはしないでくださいね?」


 アーシアはそう言って悪戯めいた笑みを浮かべた。

 冗談だというのはわかるが、俺がそんなことをするはずないだろう。

 いや、ここは冗談で返してやるのがいいかもな。


「そうだな、アーシアは綺麗だしな。つい帰った後も何処で何をしてるのか追ってしまいそうだ」

「えっ、それは、えっ、あのっ」


 アーシアにしては珍しくうろたえている。

 ちょっと面白いな。


「もちろん冗談だ。面倒だし、アーシアにそんなに興味はないからな」

「……そこは嘘でも本当っで言っておくところですわよ。それに興味がないなんて失礼すぎます」


 どうやらアーシアの癪に障ってしまったみたいだ。

 先程までの様子から一転、目を半目にしてじとーっという感じにこちらを見つめ、口調もどことなく怖い。

 冗談っていうのは難しいな。つい調子に乗って言ってしまったが、素直に反省しておこう。まだ俺には人としゃべるのは早い。


 不機嫌になってしまったアーシアをどうしようか悩んだが、甘味をご馳走すると提案すればみるみる機嫌が治ってくれた。

 意外と人っていうのは単純なのかもしれない。

 俺でも人としゃべるの、できるかも。


「すまん、ちょっと便所にいってくる。甘味は好きなの選んで頼んでおいてくれ」

「いってらっしゃいですわ。一番たかいの頼んでおきますの!」


 定食を食べ終わったところで、便所に立つ。

 別に高いのでも構わないが、やっぱりこの女なかなか強かだよなあ。

 そんなことを思いながら店の奥にある個室に入り、用を足しているとアーシアが移動する気配を感知した。


 どうしたのかと思い、アーシアの近くの気配も確認する。

 何人かが一緒に行動している風に感じるが、周りに気配が多すぎて正確な事が把握できない。

 誰かに声をかけられて外に出たのだろうか。

 賊の類がこんな白昼堂々誘拐をするとも思えないし、知り合いだろうか?

 どちらにせよ追ってみないとわからない。

 それに店の誰かに伝言を残している可能性もあるからな。

 また面倒なことにならなければいいが。


「なあ姉ちゃん、俺の連れがどこにいったか何か聞いてないか?

 あそこの席で一緒に飯を食っていたんだが」


 便所を出て、席に戻る途中にいた店員の女に声をかけた。


「あの綺麗な女性のお連れ様ですね。先程兵士らしき方が何人かいらっしゃって、何やら話をしたあと出ていかれましたよ。伝言は特に言付かっていませんが、何やら差し迫った様子でしたね」


 店員に礼をいって、とりあえず店を出ることにする。

 もう食べ終わったしここにいても仕方ないしな。


 さて、どうするか。

 素直に信じるならアーシアの身内に何かがあって、慌てて飛び出していったということになると思うが、どうにも引っかかる。

 アーシアが自発的についていっているんだからやってきた兵士とかいうのは顔見知りなのは間違いなさそうだ。


 ただあのアーシアが俺に黙って出ていくというのはちょっと変だ。

 昨日襲われていたときもずっと冷静に状況を見ていたし、今日だって俺の静の修行をずっと黙って見ていられるくらい辛抱強い。

 それに話しぶりからして、マオ並に頭が冴えてるというのが俺の率直な印象だ。

 伝言すら忘れるほど慌てるなんてことはアーシアらしくない。


 別にアーシアとこのまま別れてそれっきりでも俺としてはそこまで困るわけではないが、一緒にいて悪い気はしない相手だった。

 きっと何事もなければ明日も明後日も一緒に過ごしたんだろうなと思う。


 こういうとき、やっぱりマオがいてくれればとは思う。

 自分でもわかってるけど、俺はあまり物事を決めるのが得意じゃない。

 仙術の道に進んだのだって自分で決めたというよりは、あそこで育てられたから当たり前だと思っただけだし、この旅を始めたのだって爺さんたちに決められたからだ。

 前の街から王都にくるのだって、すべてマオが決めたとおりに動いてきた。


 ま、でも今回くらいは自分で決めるべきだよな。

 いつもいつも人任せじゃこの旅にでた意味もなくなっちまう。


 そうだなあ。

 一応様子を探ってみて、何もなければそれでいい。

 何かあったら助ける、それで行こう。


 昨日、アーシアのことも守るって言っちまったことだしな。


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