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最初から上位の魔術を使えるんですか?

 レイン先生による講義が続いている。


「まず、魔法とは魔法則に従って魔素や魔力を物理法則に従うものに変換することを指す。

 魔法則というのは魔法世界を支配する法則だな。

 物理法則は我々が直接見たり感じたりするこの世界を支配する法則のことだ」


 まあ、概ね言葉通りの意味だね。

 物理法則っていう概念がきちんとあることにちょっと驚いたけど。


「魔法は複雑な過程を経て発現するが……これは正直あまり重要ではない。

 もちろん過程が複雑すぎるのも人の手に負えない原因の一つではあるがな。

 魔術を学ぶ上では理解する必要はない」


「魔法を使う上で最も重要であり、人が魔法を扱えないと言われる理由はなにか。それは権限だ」

「権限?」

「そうだ。鍵と言い換えてもいいかもしれない。

 例えば鍵のしまった宝物庫があるとするだろう。

 鍵を持っているならばその宝物庫の中身は自由に確認できるし、取り出して使ってもいい。しかし鍵がなければ何があるのかもわからないし、ましてや使うことなんて不可能だ。


 これと同じことが魔法世界と我々との間で成り立っている。

 魔法世界ではありとあらゆる要素に鍵がかけられていると考えればいい。

 対応する鍵をもっていなければそもそも見ることすらかなわない。

 それが権限だ」

「鍵……」

「ありとあらゆる要素、つまり()()()()()()()に対しても権限が必要になる。

 そして物質の状態を変化させるなら物質への変更権限が必要になる。

 あとはこれの繰り返しだ」


 うーん、これコンピュータを操作するのと似てるかもな。

 コンピュータ内に保存されてるデータを読み込んだり、実行したり、書き込んだりするのにも権限がいる。

 魔法を実行するのはコンピュータプログラムを実行するのと同じだ。

 その結果他のデータを書き換えたりするなら、書き換え先のデータへの書き込み権限もいるとか。

 多分そんな感じ?


「ってことは人が魔法を使えないって言われてるのは、その権限がさっぱり無いからってことですね?」

「そうだ。権限がどれほどあるか、それこそが魔法の才能といえる。

 権限は種族差、そして個体差があるが……残念ながら人、とりわけヒューマンはその才能に乏しい」


 逆に言えば権限さえあれば誰にだって魔法は使えるってことになるのかあ。

 私はどうだろう。

 異世界人だから全然無い気がするけど……。


「しかし人の中で唯一高い魔法適正を示す種族がいる。

 それは妖魔族だ。彼らはそもそも生命体として非情に曖昧で――」


 妖魔族は魔法が使えるのか。

 ってことはもしかしてあの公務員みたいな妖魔ーーヴァララローグも使える?

 そういえば不思議な炎の壁とか出してたし、自在に操ってた気もするし。


 っていうか気がついたら魔法の話じゃなくて種族ごとの特性についての講義に変わってるし、止まる気配ないし。

 まあ興味深くはあるからこのまま聞いておこうか。


 ◆ ◆ ◆


「――というわけで人というのは言語という魔法則に接続する権限を持った種の総称なのではないかというのが最新の学説なんだ――っと、すっかり脱線してしまったな。今日の講義はここまでとしよう。

 明日は魔術の詠唱について教えるから、しっかりと復習しておくように」


 やっとおわったあ〜〜。

 この長さとだるさは大学の講義を思い出すなあ。

 面白いんだけど、だんだん難しくなってきてついていけなくなるんだよね。

 しかも今日の講義は教科書も板書もなにもない、声だけの講義だから後半は全然頭に入ってこなかったよ。

 帰りに工房の様子だけみたら宿に戻ってのんびりしようっと。


「あ、マオさん。開発はどちらもとても順調ですよ。

 ロダンさんが早速試作品を組み立てたみたいなので見てもらえますか?」

「おお、早いですね。見に行きましょう」


 ロダンさんの試作品は控えめに言って素晴らしい出来だった。

 何点か改善要望は出したものの、半日もすればそれらも直せるということだったので早ければ二日後には下着の試作品ができそうだった。

 下着のほうの進捗はどうなのかな。


「マリアンナさんが新しい下着の名前を決めてほしいと言ってましたよ」


 そういえば名前決めてなかったな。

 とはいっても考えるまでもなく地球と同じ名前つければいいと思うけど。


「じゃあ胸当てのほうはブラジャーで、下はパンティにしましょう」

「ブラージャとパンチィですか?」

「惜しいです、ブラジャーと、パンティ。裁縫工房に戻ったら綴り書きますよ」

「あ、じゃあお願いしますね」


 この世界の文字とアルファベットは対応関係がとてもわかり易いので、文字にするくらい朝飯前だ。

 この調子で地球産のものをどんどん輸入したいな。

 目指せ日本より快適な異世界生活!


 ◆ ◆ ◆


 翌日、レイン先生の魔術講座二日目。


「では今日は魔術の詠唱について教えるぞ。

 詠唱によって具体的に何が起こっているのかというのは、実際問題として理解する必要はない。

 しかし君は仕組みが知りたいと、昨日そういっていたな。

 というわけで実践よりもまず理論を教える」


 おお、それは願ってもない。

 実践の方は理論さえわかれば練習すればできそうだしね。

 ま、才能があるかはとても怪しいけど。


「詠唱が担っている役割は次の通りだ」


 レイン先生はここにきて初めて板書をし始めた。

 あ、この世界にもちゃんと黒板はあるようです。


 ・実行体への接続

 ・実行内容の送信

 ・必要魔力の送信

 ・実行する時点の決定

 ・実行体との接続解除


「さて問題だ。この中で最も重要な過程はどれかな?」


 最も重要な過程か。

 普通に考えたら使ってもらう魔法を決めるところだから二つ目の「実行内容の送信」だと思うけど……。

 あの先生のことだ。そんな簡単な問題はだすかな?


 ううーん、よく考えろよー私。

 魔術は精霊に魔法を肩代わりしてもらう術式でしょ。

 で、魔法は権限がないと使えない。

 ん? ってことは使ってもらう魔法を実行する権限がない精霊に接続したらダメってこと?

 そうすると……そもそも精霊に接続ってなに?

 あれ? ということは?


「一つ目の実行体への接続、ですか?」

「ほう、なぜそう思った?」

「えっと、魔法って権限がないと使えないんですよね?

 ということは使ってほしい魔法を使える精霊とかに接続しないとですよね。

 それに精霊自体に接続する権限も必要なんじゃないですか?」


 昨日レイン先生はこう言ってた。

『魔法ほどではないにしろ魔術にも才能が必要』。

 そして魔法の才能っていうのは権限そのものだ。

 つまり、魔術にだって権限がいる、ってこと。


「君はやはり小さい割には随分よく切れる頭を持っているようだ。

 百点満点を上げられる回答だよ」


 この人まじで褒めるの下手すぎない?


「魔術の行使には適切な実行体、すなわち精霊への接続が不可欠だ。

 自分の身の丈に合わない大精霊なんぞに接続しようとして魔術が不発に終わる、なんてのは初心者にありがちな失敗だな。

 それにより上位の存在ほど、吸われる魔力量も多くなる」


 なるほど、それはわかりやすいな。

 レベル1の召喚士がレベル9の召喚魔法を使えないとか、レベル1の召喚魔法に比べてレベル9の召喚魔法のほうが消費魔力が高いとか、そういうことだ。


「じゃあもしかして才能があれば最初から上位の魔術を使えるんですか?」

「そりゃ使えるさ。だけど魔術学校じゃそういうやり方はしていない。

 実践を考えれば下位魔術を完璧にするほうが重要だからね」

「その心は?」

「いいか、下位魔術だろうと上位魔術だろうと関係ない。

 どんな魔術だって込める魔力量や思い描いた現象次第で人一人殺すのに十分な威力を出せるんだ。

 それなら簡単な下位魔術を極めたほうが効率がいいと思わないか?」


 そっか、この世界の魔術はゲームで言うところの固定ダメージじゃないんだ。

 術者次第で「いまのはメ○ゾーマではない……メ○だ」なんてことになるんだ。


「それに上位魔術は詠唱に時間もかかるしな。

 上位魔術だけで生きていけるほど魔術師の世界は甘くないんだよ」


 ◆ ◆ ◆


 その後も詳しく詠唱について教えてもらったけど、概ね字面の通りだった。

 ちょっとおもしろかったのは実行内容の送信についてだけかな。

 どうも実際に詠唱で唱える言葉では簡単な内容しか送信しないみたいで、具体的な内容は頭に思い描いたものを送るみたいだ。

 『水よでろ!』なんて唱えたときに、どれくらいの量で、どんな状態で出すか、なんていういわば()()に当たる部分は頭に思い描くだけでいいらしい。


 更に翌日。ついに呪文について教えてもらった。


「呪文は標準言語ではなく、魔法言語によって構成されている。

 詳しい文法はあとで説明するとして、まずは一つ例を書くぞ」


 ===

 axe => fie gra spie Ifrit.

 gen grafie cvet storm.

 ym ash.

 blwp storm t var==A.

 10 -> A.

 af dic axee.

 exec magia.

 ===


 う、なんじゃこりゃ。

 こんな言語覚えないと魔術は使えないのか……。

 補足のためメタな説明をすると、いま本分で書かれているのは私が脳内で無理やりアルファベットに置換したものであって、実際は複雑な文様がつらつらと書かれているよ。


「呪文の多くはこういった構成をしている。まず一文目は――」


 長々とした説明を聞いた結果わかったのは、さっきの呪文が次のような意味をもっているということだ。


 ===

 1.実行体への接続

 axe => fie gra spie Ifrit.

(火の大精霊 イフリートに接続する)


 2.行使内容の宣言

 gen grafie cvet storm.

 ym ash.

 blwp storm t var==A.

(炎を生み出し、嵐となせ。

 敵を灰にせよ。

 変数Aの時だけ吹き荒れよ。)


 3.変数の入力

 10 -> A.

(10を変数Aに代入する。)


 4.終了時処理の宣言

 af dic axee.

(終了後、接続を解除する)


 5.実行宣言

 exec magia.

(魔法を実行する。)

 ===


 この1〜5の役割を持った文を、必要に応じて削ったり変えたりするそうだ。

 なんとなくわかった気もするけど、これを空で唱えるのはちょっと大変そうだな。

 まず単語を覚えないといけないし。

 講義が終わったあとも勉強できるように魔法言語の本を買うことにしよう。


 ◆ ◆ ◆


 そのまた翌日、どんどん難しくなっていく魔術講座をなんとかやっつけた私は、工房を訪れていた。

 下着の試作品がついに出来たということだ。


「どうだい? 試作品だから色は一種類しか用意してないけど、結構よく出来たと思うんだがね」

「マリアンナさん! 素敵です! 早速着けてみてもいいですか?」

「ああもちろんだよ。みんな試着第一号はマオちゃんにやってもらうんだってまってたんだからね」


 早速一度全裸になって、試作品の下着を着用する。

 ほんの数日前は恥ずかしがっていたマオも、すっかり舞い上がっているおかげかなんの躊躇いもないようだ。


 うん、違和感とかは特にないな。

 それにサイズもぴったりだ。すごい。

 ブラのサイズ調整とか結構たいへんな気がするんだけど、これがプロの技術ってやつか!


「完璧です! ブラジャーのほうは胸の大きさによって調整がいると思いますけど、その辺りも大丈夫ですか?」

「ああ、そのへんは抜かりないよ」


 それならあとは全て任せれば市場に色とりどりの下着が並ぶ日もそう遠くないだろう。

 ああ楽しみ。


「それと……あっちのほうももしかして出来てますか?」

「当然だよ。こっちもなかなかいい出来だとは思うけど、実際に使ってみないとわからないね」

「とりあえずいま着けてみます!

 ……ちょっと重いきもするけど、こんなもんかな?

 うん、歩いてみても変に擦れて痛いなんてこともないし、よさそう!」


 お母さん、やったよ……。

 異世界にきて訪れた最大の危機をついに乗り切れそうだよ……。

 日本にいたときに好奇心のおもむくままに色々勉強しておいてほんとよかった。

 新製品の開発でたっぷり稼げそうだし、王都にきてよかったなあ。


 そういえばロウ君は何してるんだろうな。

 宿で会っても私が喋ってばっかでロウ君がなにしてるのかとか聞いてなかったな。

 こっちも落ち着くし今夜あたり聞いてみよっと。


――第2話 了



〜次回予告〜


マオが新製品の開発や魔術の勉強に奔走している頃。

ロウは先日のヴァララローグ戦で見つけた課題を克服しようと修行をしていた。

休憩のために街の屋台でご飯を食べていると怪しい女に声をかけられるロウ。

そのまましばらく女の面倒をみることになってしまったロウはうんざりしながらも、人と交流することを覚え始める。


ロウ「俺はなんでいつも子供の面倒を見ているんだろう……」


次回、第3話「王都の少女とロウの休日」


お楽しみに!


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