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織らなければいいんだ

 そのあとはみんなで相談しながらも使えそうな素材を選びだした。


「この吸湿層ってのは肌にも触れる部分だしネリイ布がいいだろうね」


 ネリイ布は私がいま着ている肌着の素材にもなっているものだそうだ。

 この世界では一番一般的に使われている布みたい。


「防水ならシーサーペントの皮膜が一番だろうね。水着にも使ってるやつだよ」


 といった感じで、吸湿と防水の二つに関してはマリアンナさんがすぐに決めてしまった。

 さすが、裁縫工房の長というだけあって布素材の知識はとても豊富みたいだ。


 一方抗菌と吸水についてはマリアンナさんも他の面々も思い当たる節がないみたいだった。

 抗菌についてはそもそもあまり意味が伝わらなくて、あれこれ説明した結果、要するにほっとくと毒が発生するから、と言ったらそれで納得してもらえた。


「たしかに汚れをほっとくと毒になるなんて話はお医者様もいってるねえ」

「そうですそうです。

 それで、金属が繊維に含まれていると毒の発生を抑えやすいんですよ」

「へえ、マオちゃんは色々知ってるんだねえ」

「あ、それでしたらマイニングワームの繭糸なんていいかもしれないですよ」


 そんな提案をしてくれたのはレーナさんだ。

 マイニングワームは鉱山にすむ芋虫みたいな魔物で、鉱物を主食としている。

 そのおかげか吐き出す糸に金属のような性質があるらしく、衣類にはあまり使われないけど魔道具づくりに重宝されているとか。

 こればかりは本当に効果があるかはわからないけど、きっとあると信じて採用することにした。


「じゃああとは吸水層ですね」

「うーん、これは本当に思い当たらないね。

 片っ端から水を吸わせて調べてみるかい?」

「それもいいですけど、ある程度目星は着けてから調べたいですね。

 素材の一覧と魔物図鑑を見て候補を出してみますね」


 というわけであとは私がひたすら調べることになった。

 私以外はすでに下着づくりの方に着手していたり、素材の手配に走っていたりするので、私がやるしかなかったのだ。

 科学知識があるっていう点でも私以上に適任者はいないしね。


 日がすっかり落ちきるまで調べてようやく見つかったのが、トゥレントズベーリという魔物の体毛だ。

 この魔物は全身が木で出来ているのに何故かその上から毛が生えていて、しかも四足歩行するという意味不明な生き物だ。

 本体である木の部分が非情にしなやかで丈夫なので木材として優秀だそうだが、その反面体毛は非情に短く、やや硬いので布にするには適さない。

 そのため体毛は廃棄処分されている。


 ではどうしてそんな魔物の体毛を選んだのか。

 それはこの体毛が空気中の水分を効率よく吸収するためにあるのではないかと予想したからだ。


 日本にいた頃に、インテリアとしてエアープランツという植物が紹介されているのを雑誌でみたことがあった。

 エアープランツは土が要らない植物で、水分を表皮にある細かい毛からとりこむという変わった植物だ。

 トゥレントズベーリもエアープランツと似たような進化を遂げたトゥレントの一種なんじゃないか、というのが私の予想だ。


「マオさん、トゥレントズベーリの体毛は織るには短すぎるので処分してますよ」

「うーん、そうですよねえ……」


 織るには短すぎる、かあ。

 なにか地球の技術で使えそうなものあったかな。

 毛……短くて織れない……布にする……。

 うーん……。

 いや、待てよ?

 織れないんじゃなくて()()()()なら……?


「そうだ!! 織らなければいいんだ!!」

「はあ? 織らなきゃ布にならないじゃないか」

「違いますよ! マリアンナさん! 織らずに布を作るんです!」


 そう、不織布だ。

 不織布の作り方は言葉にしてみると意外と単純だ。

 まず、原料となる繊維を水と混ぜ合わせて、和紙を作るときみたいに漉く。

 それを乾かせばシート状の繊維ができるので、あとはそれらを重ね合わせて熱で溶かして結合するなり、高圧の水流で絡み合わせるなりすれば不織布の完成。


 これを図にも起こしながら説明するとレーナさんがまたも目を輝かせていた。

 これまで布に出来なかった短い繊維も布にできるんだから儲かるよね。


 不織布作りは新たに専用の機械を開発する必要がありそうなので、早速魔道具工房のロダンさんに相談して、試作品を作ってもらうことになった。

 ちなみに地球でも工業的に生産されるようになったのって1900年代に入ってからのことだし、不織布って結構現代知識チートポイント高いと思うんだよね。


 ま、それはいいとして。


 開発はこれで全て軌道に乗り始めたのであとは専門家たちに任せるだけだ。

 うん、完成が楽しみだな。


 ◆ ◆ ◆


 次の日。

 朝食を食べていたらギムレー商会から伝言が届いた。

 なんでも魔術学校のほうに話が着いたので、今日来てほしいとのこと。

 工房での作業は一日の終りに確認に行けばいいだけだから、ちょうどいいね。


「僕が今日から君に魔術の何たるかを教えることになった2級魔術師、レインだ」

「マオです。よろしくおねがいしますね」


 案内された魔術学校の一室で待っていたのはレインと名乗る若い男の子だった。

 ギムレーさんには、「とっても優秀な魔術師の先生ですので期待していてくださいね」なんて言われていたんだけど、目の前にいるのはなんというか……子ども?

 ほんとにこの人なのかな?


「君、いまとても失礼なことを考えてないか?」

「えっ、いや別にそんなことないですよ。ただ思ったより若いなあって」

「ふん! どうせ君もチビだとかガキだとか思ってるんだろう!

 その顔してるやつはいっつもそういうんだ。

 第一君にだけはチビだとか言われたくないね」


 そんなこと一言も言ってないんだけど、なんだこの人……。

 しかもいま遠回しに私のほうがチビだって言ったよね絶対。

 あなた私と身長ほとんど変わらないじゃないの。全く。


「まあいいさ、僕は優秀で寛大だからね。

 それよりもさっさと講義を始めようじゃないか」


 いや、あなたが先に突っかかってきた気がするんだけど……。


「さて、僕は君に魔術の基礎を教えるよう言われてるわけだけど、まずは君がどれくらい魔術について知ってるのか聞くところから始めようか。

 君、魔術とは一体なんだい?」


 魔術とは何か、か。

 たしか……。


「人には使えない魔法を精霊に代わりに使ってもらうための術式、でしょうか」


 こんな感じの理解だったと思う。


「なるほどね、魔法と魔術の区別はきちんと理解しているみたいだ。

 それに説明も単純明快、要点をしっかり抑えている。

 君はどうやら小さい割には頭の出来はいいみたいだな」


 小さい割にとか、いる?

 馬鹿にしたいのか褒めたいのかどっちなんだ。


「よろしい。本来魔術学校では魔術の成り立ちについての歴史なんかも教えているんだが……今回は時間もないことだし省略しよう。


 ところで君は魔術について学んでどうしたいんだ?」

「どうしたい、ですか。うーん、単に魔術の仕組みが気になっただけ、かな?

 もちろん使えるようになるなら是非使えるようになりたいですけど」

「へえ、単なる興味本位! いや、知的好奇心といったほうがいいか?

 なかなか君は学者に向いているんじゃないかな?

 旅人だと聞いているが、定住してしっかり歴史から学んでみたらどうだ?」

「うーん、それはまた今度考えてみます。

 それより魔術について早く教えてくださいよ!」

「それもそうだな。


 ……そもそも魔術というのは魔法を人が使うために生み出された術式だ。

 それは君もよく理解しているな。

 そしてそれゆえに、その実行過程というのはとても単純なんだ。


 よくよく考えてみてくれよ。

 魔法が複雑過ぎて人の手に負えないから再開発したのに、どうして魔術が複雑にならなきゃいけない?

 そんなものが無能な人々の間に根付くわけがないだろう。


 というわけで、魔術の実行過程は極めて単純だ。

 <詠唱>、すなわち発動したい魔法に対応した言葉を唱える。

 ただそれだけだ」


 おお、詠唱。すごくそれっぽい。

 それに考え方がとても合理的だな。

 わざわざ自分で魔力を練り上げたりしなくていいってことだもんね。

 あれ、でもそれだと呪文さえ覚えれば誰でも同じように魔術が使えるってことなのかな?

 んんん? それじゃ魔術師の間で差別化が起きないような?


「ふん、そんな単純でいいのかって顔をしているな。だが安心しろ。

 単純だが容易ではない。

 そもそも魔法ほどではないにしろ魔術にだって才能は求められるからな。


 だがなぜ容易ではないのか、そもそも魔術の才能とは何かという質問に答える前に、君は魔法とは一体なんなのかきちんと理解する必要がある。

 まずはそこから教えよう」


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