ちょっといい考えがあるんですけど
次の日、ギムレー商会に行くとレーナさんが張り切った顔で待ち構えていた。
「マオさん、お待ちしてましたよ! さあ行きましょう!」
「あ、おはようございます、レーナさん。どこに行くの?」
「それはもちろん、裁縫工房です!」
というわけで大張り切りのレーナさんに連れられて裁縫工房にやってきた。
カタカタカタという小気味良い音が建物の外まで聞こえてくる。
どうやらきちんと機械式の裁縫が実用化されてるみたいだ。
「マリアンナさーん、昨日話したマオさん、連れてきましたよ!」
工房に入ってレーナさんが奥に呼びかける。
すると少ししてから女性がやってきた。
「レーナちゃんよくきたね! そっちの可愛いのがマオちゃんかい?」
マリアンナさんは恰幅のいい元気そうなおばさ……お姉さんだ。
「ええ、こちらがマオさんです」
「はじめまして、マリアンナさん。よろしくおねがいしますね」
「ああ、あたしがここを取り仕切ってるマリアンナだよ。マオちゃんよろしくね」
挨拶を済ませた私達は早速工房の中に案内された。
工房内部では大勢の裁縫師が機械の前に座り、針を走らせている。
なんとも圧巻の光景だ。
「ここで既製の様式の服を大量生産してるんだよ。
まあ今日はこっちは使わないで奥にいくからね」
そう言って案内されたのは奥にある小部屋だ。
中には色とりどりの布切れや大量のスケッチがそこら中に転がっていた。
「散らかっててすまんねえ。ここは新作を考えるのに使ってる部屋なんでね。
すぐこうなるから片付けたって無駄なのさ」
「なるほど、私は気にしないんで大丈夫です!」
「そうかい、それじゃ早速例の下着を見せてもらおうかね?」
今日は着用せずに持ってきたよ。
細部まで見るのに着けてたら困るだろうしね。
あ、もちろんちゃんと洗濯してあります。
「へえ、こいつが!
確かにこいつはよさそうだねえ。刺繍も繊細だしいい生地だ。
マオちゃんちょっとこれ着けてみてくれるかい?」
「えっここで着替えるんですか!?」
「なあに恥ずかしがってんだい。
ここには女子しかいないんだから気にする必要はないよ」
いくら女性しかいないって言ってもここで全裸になれって……
え、本気? マジですか?
レーナさん助けて!
あ、すごい笑顔だ。
はい、諦めます。
「マオちゃん見かけによらずいい身体してるねえ。こりゃ男がほっとかないよ」
「マオさん……素敵です……」
そんなじっと見つめられると照れちゃうよ……。
恥ずかしいながらもするすると日本の下着を着けていく。
「ほう、その上の肌着は随分着けやすそうだね。それにとても色気があるね」
「この辺で主流になってる下着は一人だとちょっと着けにくいですもんね」
「下の方もこりゃまた扇情的だねえ。こりゃ男どもも大喜びするだろうよ」
いや……うん、多分そうなんでしょうね。
レーナさんもキャーキャー言ってる。
この人も大概だなあ。
「どうです? これでいいですか?」
「ああ、ありがとうね。ちょっとそのまま待っててもらえるかい?
何人か手伝いを連れてくるからさ」
5分ほど待っていると、マリアンナさんが3人の女性を連れてきた。
3人共私の姿を見た瞬間きゃーきゃーと黄色い声をあげた。
「これが新作下着!」「かわいい!これつけてあの人と……」「むしろこの子をお持ち帰りしたいわ!!」
うーん、女子三人集まれば姦しいなんていうけど、まさにそんな感じだな。
この人達で大丈夫なのかな?
「この子らはうちの工房の中でも特に優秀だからね、まあちょっとうるさいけどそこは愛嬌ってもんさね」
「は、はあ。よろしくおねがいしますね」
「じゃ、早速脱いで!」
あ、また脱ぐんだ……。
なんだか調子狂わされるなあ。
いそいそと脱いで下着を渡す。
あ、そうだ。例のあれについても相談しないと。
「そうだ、これとは別でちょっと相談したいことがあるんですけど……」
「ん? なんだい?」
「実はもうすぐ女の子の日なんですけど……」
「うん? それがどうかしたのかい?」
「この辺だとどういう風に処理してるのかなって」
「なんだいマオちゃん、その歳にもなってそんな事も知らないのかい?
……というか今までどうしてたんだい?」
あー、まあそうなるよね。
「いやー、実は今までは故郷で作ってた便利な道具があったんですけど、それが切れちゃって。この辺りのやり方に合わせようかなって」
「ふーん、そんなのがあるんだね。まあよくわからないけど教えたげるよ」
そんな感じで訝しまれながらも教えてもらった。
やっぱりというか、あまり快適そうなやりかたではなかった。
「なるほど、ちょっといい考えがあるんですけど……」
「いい考え? 一体なんだい?」
「ええ、ちょっと紙を借りてもいいですか?」
紙を借りてざっくりと構造を書いていく。
私が書いているのは地球では米国で開発された女性用下着だ。
ショーツにナプキンの機能が組み込まれたものである。
「できた! こんな感じのを作ったらどうかなって思うんですけどどうかな?」
「どれどれ……へえ、こんなので……。
ちょっと信じがたいけど面白そうじゃないかい」
書いたのは吸湿・抗菌・吸水・防水の4層構造だ。
これがクロッチに使われる。
「ええ、これは今作ってもらってる下着の形状じゃないと密着度の関係でうまくいかないんですよ。なので一緒に作ってもらおうかなって」
「なるほどね。レーナちゃんはどう思う? これは売れるかい?」
「そうですね……これがもし本当にできるなら……いけると思います!!」
よしっ!
これで開発がスムーズにいってくれればいいな。
「しかしこの構造で作るとなると素材をどうするかだねえ」
素材か。
たしかに科学技術の発達した地球でも数年かかった代物だ。
この世界で一から作ろうとしたら何年かかるかしれたものじゃないな。
でもこの世界には地球にはない不思議なモノがたくさん存在する。
人の手にあまるなら自然の力に頼ればいいじゃないか。
「レーナさん、商会で扱ってる魔物素材の一覧とかってないですか?
できれば加工前後でどういう風に使われてるのとかもわかるとうれしいです」
「魔物素材のですか? それはもちろんありますけど何に使うんです?」
「それはもちろん、素材探しですよ!!
下着に魔物素材を使っちゃいけないなんて決まりはどこにもないでしょ?」
この世界の産業は魔物素材によってかなり支えられている。
食肉はもちろんのこと、亜獣のそれとくらべて丈夫で特殊な性質をもっていることの多い皮は様々な用途に使われている。
欲しい性質をもった素材がきっとどこかにあると思う。
「魔物素材かい。そりゃまあ肌触りのいい布になる毛ならすでに使ってるよ?
でもそういう毛ってのはあんまり水を吸わなかったりで今回みたいな用途には向かないとおもうんだがねえ」
そりゃそうだよね。
これだけ魔物素材産業が発達してるなら毛くらい使ってるよね。
でも私の考えならまだ探す余地がある。
「逆に言えば布として使えそうもない毛は繊維にしてないんですよね?
その中から使えそうなのを探すんですよ!」
そう、従来の考え方だとそれ単体で肌に触れてもいい布にならないと製品としては使えなかった。
でも今回のように多層構造にするなら、内側の布の肌触りは関係なくなるのだ。




