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あー、なんとなく理解したかも

 その日は結局工房側の都合がつかないということで、工房見学は翌日にまわされることになった。

 宿に戻った私はのんびり今後のことを考えていた。


 明日は工房を見せてもらうとして、その後はどうしようかなあ。

 昨日見られなかった下着とか見てこようかな。

 リグルーで必要な枚数は買ってあるけどあんまり履き心地よくないし、見た目も微妙だし。


「ロウ君は明日からどうする? ついてきてもいいけど自由にしてもいいよ」

「うーん、そうだな。せっかくだし一人で街を歩いてみるかな」


 おお、ロウ君がついに一人立ちだ!

 大丈夫かな?

 まあリグルーで一緒に過ごしてるときそんな変な行動してなかったし大丈夫か。


「わかった! じゃあこれお小遣いね。

 お金の使い方はこの前教えたからわかるよね?」

「ああ、ありがとうな。多分大丈夫だ」


 ◆ ◆ ◆


 翌日起きるとなんとも言えない気怠さが私の全身を襲っていた。

 うーん、ついにきてしまうのか……。

 ドタバタしてたのですっかり忘れてたけど、この感覚だけは忘れることはない。

 この倦怠感が出てから一週間くらいで()()()がきちゃう。


 しかし困ったな。

 これはこの世界にきてから最大のピンチだ。

 アレを乗り切るには……どうしよう。

 流石に日本で使ってたやつは持ち歩いてなかったしなあ。

 ギムレー商会にいったときについでに女性の店員さんに聞いてみよう。


 ま、日常生活に支障きたすほどの倦怠感じゃないから今日は大丈夫だな。

 ご飯を食べたらギムレーさんのところにいこう。


「ギムレーさん、今日はよろしくおねがいしますね」

「お待ちしていましたよ。では早速行きましょうか」


 工房は店から30分ほど歩いた位置にあった。

 外観はまあ普通だな。普通の石造りの平屋だ。


「おお、会長、よくきなすった。そちらさんが昨日言ってた方で?」

「ええ、マオさんです。今日はお願いしますね」


 工房に入ると、白髪交じりの彫りの深いおじさんが迎えてくれた。


「おう、わしはこの工房を取りまとめておるロダンだ。よろしくの」

「はじめまして、マオと申します。今日はよろしくおねがいしますね」

「あー、そういう堅っ苦しい話し方はやめてくれるかね。苦手なんでの」

「そうですか? それなら、普段どおりしゃべるね」

「そうしてくれな。じゃあ早速案内するでの、ついてこい」


 ロダンさんに連れられて工房内を見て回る。

 どうやら中はいくつかの区画に分かれているらしく、工程ごとにそれぞれの区画で担当しているようだ。


「そもそもマオの嬢ちゃんは魔道具ってのがどういうものか知っとるかい?」

「うーん、改めて聞かれると難しいな。魔法の力が込められた道具?」

「ふむ、まあ一般人の理解はそんなもんだろうの」


 てことは違うってことか。


「魔道具ってのは魔術を道具に刻んで単純な機械仕掛けでは得られない結果を生み出す装置を言うんだの」

「なるほど?」


 私がいったのとどう違うんだろう。


「違いがわからないって顔しとるの。そもそもマオの嬢ちゃんは魔法と魔術の違いを理解しとるかいの?」

「えっ、その二つって違うんですか」


 そんな話しらない!

 仙人は普通に魔法使ってたし、魔術について何も言ってなかったからてっきり単なる別表現なのかと思ってた。


「まるきり違うの。魔法は世界の法則を捻じ曲げる力とでも言えばいいかの。

 生きていればわかると思うがなにもないところから突然水がでたり、かってに火がついたりすることはないだろう?

 それが世界の法則。

 しかし魔法はそんなのお構いなしにどこからともなく水を取り出せるし自在に火もつけられる」

「うん、それはなんとなくわかるな」


 まさにいわゆる魔法だね。

 日本人なら誰でも理解できる。

 物理法則を無視した不思議パワーだ。


「ところで魔法っていうのはふつう人には使えないもんでの。どうしてかって聞かれちゃこれがまた複雑なもんでもっと詳しいもんに聞いて欲しいがの」

「でも使える人はいるんですよね?」

「そりゃあ例外ってもんだの。何事にも例外はある。だが大概の人にゃあ使えん。それじゃあ困るってんで昔の偉い人が魔術っつうもんを生み出した」


 仙人様はその例外っていうわけかあ。

 初めて会ったのが仙人様たちだからあの人達基準で考えちゃいそうだったけど、考えを改めておいたほうがいいな。

 あの人達間違いなくこの世界でもあらゆる点で例外っぽい。


「魔術は魔法が使える別の誰かに魔法を代わりに使ってもらうちゅう術だの。

 その誰かっちゅうのは精霊だの。

 精霊にお願いして魔法を使ってもらうための手続き、とでも言い換えられるかの」

「あー、なんとなく理解したかも」

「ほう、マオの嬢ちゃんはなかなか頭が切れるの」


 火をつけようって思ったとする。

 魔法の場合は自分で魔力をこねくり回して複雑な計算式でも解いて実行しないといけない。

 魔術は火をつけて!ってお願いを入力したら偉い人が勝手に火をつけてくれる。

 大体そんなところだろうな。


「そこまで理解すればさっきの魔道具の説明もなんとなくわかるだろうの」

「んー、うん、そうだね。

 魔道具自体には魔法の力がこもってるわけじゃない。

 魔道具が魔術そのものなんだね」

「理解が早いと教えがいがというもんだの」


 そうすると魔術っていうもの自体の原理が気になってくるなあ。

 魔法を実行してくれる精霊を呼び出して、内容を伝えて、実行してもらう。

 儀式でも行うのかな?

 でも魔術使う度に大げさな儀式が必要ってなるとそんなに実用性ないような。


「その顔は魔術について学びたいって顔だの。

 そういうのは魔術学校にいくとええ。

 なあに、会長のコネでどうにかなるだろうの」


 おっ、それはいいかも。

 あとで聞いてみよっと。


「さて、少し長くなってしまったが魔道具づくりについてようやく説明できるの」

「おお、そういえばそうだった」

「魔道具ってえのはいくつかの部品から出来てる。

 筐体、動力、魔法陣、魔法核。この四つだの」


 言葉からなんとなく役割は想像できるな。


「筐体は入れ物だの。用途に合わせて大きさ、形、素材を変える。

 魔術だけに頼らず機械仕掛けをこの筐体に組み込むことも多いの」

「かなり工夫ができそうだね」

「そうだの。素材だけでも金属素材、植物素材、魔物素材と選択肢は無限にあるで、筐体職人は素材への造形の深さも求められとる」


 うはー、そりゃ大変だ。


「動力は魔石を入れる箱だの。

 これは同じ規格で作られるから工夫の余地は特にないがの」


 要はバッテリーだね。

 具体的にどういう作りになってるかも気になるけど、そのへんは後で詳しく話を聞けばいいかな。


「魔法陣は魔術の核となる部分だの。これも専門の職人が担当する。板に魔導体で呪文を刻印したものが魔法陣と呼ばれとる」

「魔導体?」

「魔導体は魔力をよく通す素材だの。生物由来の素材、特に血液なんかがよく使われるかの。逆に金属なんかは魔力を全然通しよらん」

「あ、動力から魔力を引っ張ってきて魔法陣全体に通す必要があるんだね」

「おぉ、よくわかったの」


 つまり魔法陣は電子回路だな。

 電気をよく通す金属で回路を形成するんじゃなくて、魔力をよく通す血液で回路を形成するってわけだ。

 これはなかなか面白いぞ。

 血液を使うってのがちょっと不気味な感じだけどね。


「そして最後の魔法核。これが魔法を実際使ってくれるんだの。

 基本的には精霊石っちゅうもんが魔法核になる。

 これがその精霊石だの」

「おお、これが精霊石」


 ってこれ宝石じゃん!

 どう見てもルビーです。本当にありがとうございました。


「こいつは火の精霊石だの。

 精霊石はどんな精霊が宿るかが種類によって違うらしいの」

「なかなか綺麗だね。精霊石って美術的な価値もある?」

「うん? あんまり聞かん話だの。物好きが収集してるとかあるかもしれんがの。そういうのは会長のほうが詳しかろうて」

「そっか、そうだよね」


 これきちんとカットしたらもっと綺麗になるっての知られてないんだろうな。

 実用性があるばっかりに。

 あとで会長さんに教えてあげるのもありかな。


「話を戻すが魔道具はざっくりこの四つの部品を組み合わせて作っとる。

 工房毎に工夫が出るのは筐体と魔法陣部分だの。

 というわけで早速現場を見ながら解説してやろうかの」


 あっ、これすごい長くなるやつだ。


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